万梨阿(まりあ)視点
万梨阿視点
私が命を意識し出したのはおそらく5歳の時だと思う。いいえ、違うわね。
5歳の時、おそらく病室で寝かされながら、命に「好き」って言ったのを覚えているだけ。
私が命のことが好きになったのは幼すぎて覚えていない。
物心がついた頃には、もう命のことが好きになっていて、それが普通になっていたんだわ。
同年代の男の子を命しか知らないなんてことはない。
家族で宇宙船に乗船した13歳までは命と一緒に、普通に共学の学校に通っていた。
男友達も多かったと思うけど、友達と命は違うのよね。
私は柊の家の者、陰陽師を生業とする氏家系に連なる者。
江戸時代中期に安倍家から分家した家系で、安倍宗家を警護することを使命とされた家。
安倍家は1500年の間、日本を影から守護してきた陰陽師の家系。元寇も、明治維新も、第二・三次世界大戦も夷敵(いてき
)から日本を守ったのが阿部宗家とその一族。
もっとも、一般の人は安倍家や陰陽師のことは知らないけどね。
安倍宗家が日本民族の存続を願い世界に対応する為に世界企業「日本カンパニー」を設立したのが390年前。
量子コンピューターや熱核融合炉の開発を皮切りに現在では火星圏経済事業の約13パーセント、木星圏では22パーセントのシェアを獲得しているの。
この私達が乗っている宇宙船「暁」も日本カンパニーの所有物。
現在、命の家族と私の家族、土御門家の3家族が曙に乗船しているの。
世界的資産家であり、政治力も大きい安倍宗家の当主が2人(内1人は犬だけどね)も宇宙に出たままって、会社は大丈夫なの?と私でも思うけど、命の父君で日本カンパニーの社長であり、宗家56代当主の清様によると
「今の時代、どこに居ても一緒だよ。」
とのこと。
ま、うちの両親が近くにいれば、大概のことから守れるし、仕事もサポートできると思うし。
清様や母君の篝様のお力を考えると敵対しようとする国や人間が可愛そうになるんだけどね。
その清様が命の力は初代清明様に匹敵すると言うんだから、流石は私の命よね。
何か自慢!
それから、初代安倍清明様に対しては様付けするんだけど、犬の清明には昔から清明なの。
両親や清様達から呼び方で怒られるかなと思うんだけど、5歳の頃から「清明」って自然に呼んでて、怒られたことが無いので、「良いかな。」くらいに思っている。
命も清明呼びだもんね。
話を戻すけど、私が命に「好き」って言っ5五歳の時、命がお見舞いに来てくれた後、病室に居たママから「女の話」があるからって言われた。
その時のママは本当に真剣な顔をしていて怖いぐらいで、昏々(こんこん)と「女の手管初級編」と言うものを教わったのよね。
これはパパにも絶対、言っちゃ駄目って強く忠告されたわ。ママによると
「簡単に好きって言っちゃダメ。男の方から好きにさせて、焦らして、焦らして、頃合いを観てモノにするのよ。」
って、ママの情熱を初めて見たわ。
最初は幼くて分からなかったけど、ママと何度も密談をして準備を整えたのよね。
私は我慢強い女だったわ。
その壮大な計画に10年の歳月を掛けたのだから。
そして、私の15歳の誕生日に、遂に来たの。来たのよ!命から「好きだ。」って告白が。
永かったわ。ママのことは信じていたけど、13歳の時に自分から告白しようという衝動が抑えきれずに、ママから何度も「もう少し、もう少しよ!!」と窘められた。
苦労した甲斐があったと今では思える。
でも、ママとの第二百三回命対策会議で話し合って、もう少し焦らすべしと決定しているのよね。
暁には、他に恋敵になる女の子も乗ってないし、チョットくらい待たせても大丈夫だと結論を出したの。
地球到着くらいに「私も貴方が、ずっと好きだった。」と劇的なシーンを演出する予定。
当日の化粧や衣装も含めてママと十分検討しているの。
でもね、命が私のことを美人だと言ってくれた!
嬉しいよ!嬉しすぎて泣いてしまいそうになったのを必死に堪えて、気持ちを抑えたわ。
本当に暴走しそうになったわね。
丁度、清明がロボットのくせに欠伸の仕草を何度もするものだから、
「ロボットが欠伸するかい!」
と、心の中でツッコミを入れて心を落ち着かせたのよね。
清明もたまには分かっているじゃない。
それはそうと、早く地球に着かないかな。神だろうと悪魔だろうと私の恋の邪魔はさせないのだ‼