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爆走機鋼ガンフォーミュラ  作者: 龍神雷
8/27

8th LAP 一騎討ち

「確かチェックポイントはこの辺だったはず……」


 リオネスはモニターの端に映し出されたマップと照らし合わせて周囲を見回す。

 チェックポイントの周囲1kmは、待ち伏せ防止と長丁場のレース中の休憩補給ポイントとしての役割を担っている為に妨害禁止エリアとなっている。

 その為、レース前に提供されたマップデータで円形で記された妨害禁止エリアを目指せば、そこにチェックポイントがあるという訳だ。

 ただチェックポイントは重量級ヴァリアブルビークルと同じくらいの大きさしかないエネルギーゲートである為、森の中のような遠くまで視界の利かないような場所では見つけ辛いのが難点だった。

 しかしエリアの中心と思われる辺りへと進んでいくと、人工的に切り拓いたと思われる場所へ辿り着く。

 枝葉が覆って薄暗かった視界が一気に明るくなり、眩しさに目を細めながらその中央に視線を向けると、そこにチェックポイントのエネルギーゲートがあるのを見つける。

 シルフィロードがゆっくりとゲートを潜り抜ける。


「まさか……あの瞬間に彼に先を越されたと思っていたけれど……」


 チェックポイントのゲートを通過すると、ゲートのセンサーがヴァルアブルビークル内臓のコンピューターと、常に追尾して戦功ポイントをモニタリングして競技場へ映像を送っているドローンの両方が連動し、現在の順位や到達タイム、自身の現有戦功ポイントなどを表示してくれる。

 これらの情報を参照して、その後の戦略を立て直したりするのだが、リオネスはそこに表示された文字を見た瞬間に、まさかという気持ちになる。

 そこに表示されたタイムは1:02:18。

 ここまでの距離を考えても速くも無く遅くも無くという平均的なタイム。いや、途中で妨害を受けていた事を考えれば、早い方だと言えるだろう。

 だが彼女が驚いたのはその順位の方。

 そこに表示された順位は1位。

 ヴァルガリオンにあの速さで先を越された時点で第1チェックポイントでは追い付けないだろうと思っていたのだが、予想に反して追い抜き返していたようだ。


「あの後、何かトラブルでも起きたか?」


 森の中をあれほどの速さで突っ切る事はリオネスでも難しい。

 それを実行していたという事は単なる無謀で無茶な行為か、あるいは彼の操縦技術が自分を上回っているか。

 前者であれば今頃は森の中で大破しているだろう。だが彼女はそれは無いだろうと思っていた。


「私の目が節穴で無ければな……」


 スタート直前に見たヴァルガリオンは古い機体である事はすぐに分かった。継ぎ接ぎも多く、古びた印象が強かったが、しっかりと整備されているように感じられた。

 それを見ただけでドライバーと機体が共に成長して来たという事を理解させられた。

 だからこそ期待した。

 そして追い付いて来る事を想定し、彼女は準備を始めた。

 まずゆっくりとシルフィロードをゲート脇にしゃがませる。

 それから腰部からエネルギーチューブを引き出して、ゲート脇にある補給装置へと繋げる。


「万全の状態で迎え撃ってやろう」


 残り少なかったエネルギーが徐々に回復していく様子を見ながら、リオネスは期待に満ちた笑顔を浮かべるのだった。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



 第1チェックポイントへ向かう道すがら、颯太は自分がどこまで追い上げたかを計算していた。


「確かここに来るまでに3機が既にリタイアしてて、僕が倒したのが1機。森の中でぶつかったあのクモみたいな機体も撃破したか、そうでなくても走行不能にはなっているはずだから……」


 今回の参加出走者は10人なので、颯太が知るだけで既におよそ半分がリタイアしている事になる。

 残りも彼が知らないだけで3機がリタイアしているか、エネルギーを使い果たして完走するのも怪しい状況となっている。

 つまりまともにレースが可能なのはヴァルガリオンとシルフィロードだけという状況になっているのだった。


「5位以上は確定……でもこの順位はさっき獲得した戦功ポイントと同じで漁夫の利で手に入れたもの」


 全く妨害されなかったのだから、よく考えなくてもここまで差が詰まったのは当然と言えば当然だ。


「けど、このまま先に進んだとしても……」


 もしこのまま進んで入賞圏内でゴールしたとしても、それは彼に実力があっという証明にはならない。ただリタイアするような争いをしなかっただけ、運が良かっただけという結果にしかならないだろう。

 運も実力の内という事で、本番のレースならば、それでも問題は無いかもしれない。消極策も戦略の一つなのだから。

 しかし今回のレースはチームに勧誘される為に自己をアピールする為のレースであり、ただ完走すれば良いというものではない。

 他の面々がレースの完走を捨ててまでシルフィロードを徹底マークし、撃破しようとしていたのも、それが最も自分の強さをアピールする事が出来ると全員が理解していたからだ。

 ここに来て、颯太も彼らがどんな想いでこのレースに挑んだのかをようやく理解する。


「となれば、ここで僕がやる事は1つだけだな」


 颯太は自らに言い聞かせるように決意を口にした後、先程冷却させたばかりのエンジンの出力を高める。


「無茶な事は理解してる。けど無理じゃない……ここで無茶しないでどこでやるって言うんだよっ!!」


 ヴァルガリオンが咆哮し、駆け出す。

 先頭を行くシルフィロードを追いかける為に。

 その後、すぐに第1チェックポイントに到着した颯太は、ゲートが見えてきた所で驚きの声を上げる。


「って、え?!間違い…じゃ……無いみたいだな」


 白銀の騎士が駐機姿勢でゲート脇にいるのを発見したからだ。


「エネルギー切れ?それとも機体の不調?」


 だがそのどちらでもない事を彼はすぐに理解する。

 シルフィロードのカーボニックエンジンが獣が威嚇するような独特の低音の唸りを響かせ、頭部のカメラアイが獲物を狙うような強く強固な意志を含ませた視線を近付くヴァルガリオンに向けている。

 臨戦態勢が整っている事がひしひしと伝わってくる。

 そして颯太も剥き出しの闘争心を隠す事無く、ニヤリと笑い、目の前のシルフィロードに視線を送る。


『どうやら間に合ったようだね』


 嬉しさに弾んでしまいそうな声を精一杯抑えながら、リオネスが外部スピーカーを通して声を掛ける。

 映像通信にしなかったのは、自身が慣れない笑みを浮かべて変な顔になっているだろうから、それを誰にも見せられないと思ったからだ。


『わざわざ待っていた……って訳ではないよな』

『補給のロスタイム……いや、もしかすると私は君を待っていたのかもしれない』

『そっか。なら待たせてしまってゴメンね』


 レース前に少しだけ顔を合わせただけのほぼ初対面にも関わらず、それはまるで恋人同士が待ち合わせでもしていたかのような自然な遣り取り。

 だが互いにそんな甘い関係を求めてはいない。


『勝負の前に改めて礼を言わせて貰おう。2度も助けてくれた事に感謝する』

『助けた?ああ、どこかで聞いた事のある声だと思ったら、レース前の……』


 少年とも少女とも聞き取れるキーの高い声と、そのぶっきらぼうに思える言葉遣いに颯太はシルフィロードに乗るドライバーが誰なのかを知る。


『というより2度?』

『まぁ、君にとっては通り過ぎただけだろうから気付かないのも無理はない。だがこうして無傷でこの場に来られたのも、森林地帯で君がキングシュピネイルの奇襲を防いでくれたおかげだ』


 颯太はその言葉と先程の出来事からおおよそを理解する。

 キングシュピネイルという名前に覚えは無いが、名前の感じからして勢い余ってぶつかったあの蜘蛛型の機体の事だろうと理解。その傍に見えた銀色の機体はやはりシルフィロードで間違いが無かったようだ。


『って事は、僕が横槍を入れなければ、手傷を負ってたって事か。惜しい事をしたかな?いや、逆に良かったよ。万全の君を討ち破ってこそ今日のレースには意味があるんだしね』

『本人を前にして勝利宣言とは強気だな』

『そもそも負けるつもりでレースに出る人なんていないよ。僕にだって譲れないものがあるんだし!』


 颯太の言葉にリオネスは笑いを抑えられなくなる。

 このレースの参加者の中にリオネスとシルフィロードに敵う相手は居ないと思っていた。

 キングですら奇襲による一撃で手傷を負わせるのが精一杯というレベルで、対等の勝負が出来る相手などいないと思っていた。

 しかし今、自分に匹敵する強さを持っていそうな相手が目の前にいる。そして勝つとまで宣言してきた。それが嬉しくて堪らない。


『はははっ、いいだろう!黄金の皇帝が一子、リオネス=レオハーツが全身全霊を持って相手してやろう!』


 その名乗りで颯太はようやく、シルフィロードから感じるどこか王者を思わせる風格と異様なプレッシャーの秘密、そして全員があそこまで徹底的にマークしていた理由を理解する。

 だがその正体を知ったからといって怖気付く理由は無いし、尻込みする理由もない。

 頂きに辿り着く為には強い相手を避けては通れない。それが早く訪れただけ。

 例え相手が誰であろうと颯太も自身の夢の為に一歩も引く気は皆無。全てを打ち破って突き進むのみ。


『誰の子供だろうと関係ない!僕の全てでその喉笛を噛み切ってあげるよ!覚悟しな!!』


 颯太の気迫に呼応するようにヴァルガリオンのエンジンの唸りが大きくなっていく。


『君の本気がどこまでのものか見極めさせてもらおう』


 シルフィロードが駐機状態を解除して立ち上がる。

 チェックポイントを通過したヴァルガリオンが、もう無粋な言葉など不要とばかりに静かにその隣に並び立つ。

 木の葉を薙ぐ風とヴァリアブルビークルのカーボニックエンジンの唸りだけが周囲を包み込む、ある種の静寂。

 スタートチェッカーがある訳でも、誰かが合図してくれるわけでもない。

 だが颯太とリオネスの互いの呼吸は奇跡のようにぴったりと同調していた。


『速水颯太!雷鳴の如く駆け抜けろ――』

『リオネス=レオハーツ。風霜に舞い踊れ――』


 それは永遠への始まり。

 そして伝説への第一歩。


『――ヴァルガリオン!!』

『――シルフィロード!!』


 後に永遠にして終生のライバルと称されるようになる2人と2機によって刻まれる伝説の、最初の勝負の火蓋が今、切って落とされた。

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