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爆走機鋼ガンフォーミュラ  作者: 龍神雷
24/27

24th LAP 譲れないもの その2

 GⅡシーズンレース第2戦。

 この第2戦と続く第3戦は北海道ラウンドと言われ、函館から札幌、そして釧路までの約600kmを走破する北海道横断レースとなっている。

 季節的にまだ雪が残る大自然にガンフォーミュラ用に特設された大自然をヴァルアブルビークルが疾走する。

 先頭を走るのは真紅のヴァルアブルビークル“クリムゾンスコルピオ”。GⅡ前年王者ミハエル=イエーガーが駆る機体である。

 その名を示すかのように背部から伸びた蛇腹関節の第三の腕の尖端にあるニードルバンカーで、後方から迫ってきた機体の頭部メインカメラを潰し、正面から突撃してきた機体に対しては両の手に持ったショーテルで左右から挟むように腰を薙で斬る。

 赤く染まるモノアイカメラで周囲に敵機が居ない事を確認すると、再びスピードを上げる。


「このまま先頭を維持し続け、圧倒的な差で勝つ!そう。あの黄金皇帝のように!!」


 ここ数年間で常に上位をキープし、昨シーズン、遂にGⅡ優勝を果たしたミハエルは、ライオットとゴルドカイザーの連覇を止める最有力株として期待されていた。本人も自分とデビュー当時から共に歩み、成長してきたチームの実力ならば、それが可能だと信じて疑っていなかった。

 だがスポンサーはそうは考えていなかった。

 事は昨シーズンの全レースが終了し、優勝が確定した後に起こった。



「いや~、優勝おめでとう。メインスポンサーとして私も鼻が高いよ」


 GIRA主催の祝賀パーティー会場でミハエルのメインスポンサードである大手製薬会社の社長がにこやかに挨拶する。


「ありがとうございます。これで来シーズンはGⅠに挑戦です。世界の舞台でもこの調子で勝ち続けますので、今後とも宜しくお願い致します」

「期待しているよ。だけど今度の相手は絶対王者の黄金皇帝じゃないか。だからこちらとしても少しでも懸念材料は減らしたいのだよ」

「懸念ですか?」

「ああ、勘違いしないでくれたまえ。君のドライバーとしての実力は疑ってはいないんだ。気になっているのは君が所属しているチームのことなんだ」


 彼の所属するチームアウローラは、デビューから7年近くを共に過ごしてきた家族同然のチームだ。

 最初は素人同然の集団だったが、レースの度に成長し、3年前に今のメインスポンサーの製薬会社と契約してからは資本力が増した事もあって、一気にGⅡトップのチームへと成長した。


「君の今のチームでもGⅠでそれなりに良い成績を残せるだろう。だがあくまでそこまで。優勝を狙うには多少力不足ではないかと思うのだよ」


 GⅠクラスは世界規模になり格式も名誉も、そして獲得賞金もGⅡクラスとは桁が違ってくる。

 だが世界を転戦する為、遠征費用は国内よりも掛かるし、下位に沈んでしまえばGⅡ上位より賞金は得られない。

 出資者としてはそのリスクを軽減したいと思うのは当然の事だ。


「なので來シーズンはこちらで用意したチームに移籍して貰いたいのだよ。最高の機体と超一流のスタッフを集めているので不安も不満も感じる事は無いだろう」

「それは……」


 その提案は今のチームを捨てると言う事。家族を捨てると言う事。

 それが顔に表れたのだろう。

 社長は慌てて言葉を続ける。


「ああ。今のチームスタッフも引き取るから安心したまえ」


 その言葉にミハエルは安堵する。


「ただあのメカニックどもはダメだ。あの程度の実力では機体の性能を十分に発揮させられない。特にあのチーフメカニックでは誰も付いてこない」


 だがすぐに硬直する。

 チームアウローラのチーフメカニックであるベルガー=ダモットはミハエルの幼馴染であり、幼い頃から同じ夢を抱いてきた仲だ。

 ベルガーの整備したヴァリアブルビークルにミハエルが乗って世界一になる。

 その夢があったからこそ、ここまで上り詰めてきたのだ。

 それに手が届くと言う手前で潰えようとしている。

 スポンサー。それもメインスポンサーの意向に従わなければ、契約を切られても文句は言えない。

 だが彼にも譲れないものがある。


「申し訳ありませんが、その提案を受け入れることは出来ません。彼らが居たからこそ今の私があるのです」

「折角のGⅠへの挑戦権を捨てると言うのかね?」


 まさか断られるとは思っていなかった社長は驚きの表情を浮かべる。


「彼らと共に上に行かなければ意味がありませんので。なのでもう1年間だけ猶予を頂けませんか?來シーズンもGⅡに参戦し、彼らがGⅠでも通用する技術を持っている事を圧倒的な勝利で証明してみせましょう」

「う~む……」


 社長が考え込むような仕草を取る。

 これはミハエルにとって賭けだった。

 スポンサーの意向に逆らうような事を言ったのだから、その瞬間に激昂されて契約を切られる事を覚悟していた。しかしそれはなく社長は考え込んでいる。

 まずは最初の賭けには勝った。

 後はこの条件が社長にとって利となるかどうか。今、頭の中では目まぐるしく計算していることだろう。


「……ふむ。いいだろう。来シーズンの戦いぶりを見て判断しよう。ただもし結果が残せないようなら…………」

「分かっています。その時はスポンサー契約を切ってもらって構いません」

「いい覚悟だ。1年後を楽しみにしているよ」



 白銀の大地の先頭を走りながら、ミハエルは改めて自分の決意を噛み締める。


「私は勝ち続けなければいけない。自分の為。皆の為。家族の為。そしてベルガーの為に!」


 今年は黄金皇帝の娘など驚異的な新人が現れている。

 だが相手が誰だろうと関係ない。

 王者として絶対的な強さを見せ付ける。

 それが彼の出来る全てだから。

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