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爆走機鋼ガンフォーミュラ  作者: 龍神雷
23/27

23th LAP 譲れないもの

 スタートグリッドについた颯太はヴァルガリオンのコクピットの中で前方にいる白い機体に視線を向ける。


(開幕戦では終盤になるまであの背中を見る事が出来なかった。けれど今回は……)


 開幕戦の成績は運やまぐれと言われている為に人気はまだパッとしないが、総合順位のおかげで今回は3列目のスタートであった。

 1列は10機である為、前には20機しかいないこととなり、前回とは雲泥の差でスタートする事が出来る。

 つまりはリオネスや前年王者のミハエルらの背をすぐに追う事が出来るという事だ。

 だがスタート位置が近いからといって同条件とはいかない。

 機体重量や作戦、積載エネルギー量や周囲の状況によって変わるからだ。


(その為の戦略はケインさんとずっと煮詰め続けてきた)


 開幕戦は最後方スタートで途中での戦闘が少ないだろうと予想し、機体重量を犠牲にしてエネルギータンクを増設して初期積載エネルギー量を増やす事で途中補給の回数を減らしたおかげで上位陣に追い付くことが出来た。

 だが今回は同じ戦略は使えない。

 颯太はケインとの今日までのミーティングを思い返す。



「今回は函館から札幌までの約300kmの長丁場のレースです」


 北海道の地図をモニターに映しながらケインが説明を始める。


「今回は距離が長いだけで難所は殆ど無いコースになっています。ですが~北海道開催の特徴としてチェックポイントの数が多く、7ヶ所も通過する必要がありま~す」


 通常が3、4ヶ所のチェックポイント通過なのを考えると倍近い数である。


「そのため設置チェックポイントも多いです~。やろうと思えば序盤で7ヶ所全てのチェックポイントを回る事も可能ですが~、その場合、長距離と言う事もあってゴールまでエネルギーが足りなくなります~。なので補給タイミングが重要になります~」


 早めにチェックポイントを回れば順位ポイントを稼げるが、チェックポイント以外での補給方法が殆ど無い以上、チェックポイントに立ち寄るタイミングが最重要のレースとなるだろう。


「仕様上、チェックポイント通過時の順位は気にしないで下さい~。距離と通過時間の方に気を付けて下さ~い。ですが通るのが遅いと順位ポイントを稼げませんから、エネルギー残量と相談しながら自分で判断して対応して貰わないといけません~」


 これまでのカーレースならば走行中に適宜無線で指示を出せるのだが、ガンフォーミュラではチェックポイントでの補給タイミングでしかピット側との通信が出来ない仕様となっている。

 その際に大まかな作戦変更や指示は出せるが、刻々と変化するレース状況に対応して作戦を変えたり、補給するタイミングを考えるのはドライバー自身。


「補給は低燃費走行で最低でも2回は必要。タンク容量や重量から考えて、恐らく他の方々は3回補給がメインとなるでしょ~。完走するだけならヴァルガリオンもそれで十分ですが~、その場合――」

「切り札であるビーストシステムが使えないということですよね?」

「ザッツライト~その通り~」


 膨大なエネルギー消費量の改善がみられないビーストシステムを使用する場合、その分のエネルギーが余計に必要となる。

 ヴァルガリオンはワンオフ機であると言っても、設計されたのは第1世代後期。

 基本性能的に第2世代機相手ならば、エンジンを臨界状態にすれば十分に相手できるだろうが、シルフィロードや他の上位陣が乗る第3世代機相手では力不足は否めない。

 その性能差を覆すには圧倒的な性能向上が見込まれるビーストシステムは欠かす事が出来ない。


「ビーストシステムを使用するエネルギーを確保しつつゴールまで走り抜け、且つ勝利する」

「課題は山積ですが~、それを可能にする戦術と戦略を考え~教えるのが~トレーナーである私の仕事です~」

「そしてそれを吸収し、応用し、遂行するのがドライバーである僕の仕事ですね」



 この3週間、2人で作戦を考え、練り上げ、それを元にシミュレートし続けてきた。

 いつもならレース開始直前は過去の事故を思い出し、不安と緊張でナーバスになりかけ、それを気合で打ち消してきたが、今日はなんの気負いもなく、凪いだ海のように心が落ち着いている。

 それはケインと共に考え抜いた作戦に絶対の自信があり、メカニックの面々が今出来る限りの技術でしっかりとヴァルガリオンを仕上げてくれたという安心感が彼の心を占めているから。


(今は一人じゃない。皆が僕の為に力を尽くしてくれた。その信頼と期待は僕のちっぽけな不安なんて吹き飛ばしてくれる)


 レーススタートを示すシグナルが点灯し、アイドリング状態だったエンジンの回転数が上昇していき、周囲を爆音が包む。

 自身とチームの皆の譲れない想いを胸に、颯太の第2戦は始まるのだった。

最近、執筆時間が取れなくて1話辺りの文量が少ないですが、なんとか週1更新は続けていきたいと思っています。

評価して貰えると期待に応えようと文量が増えるかもしれませんので、応援宜しくお願い致します。

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