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爆走機鋼ガンフォーミュラ  作者: 龍神雷
21/27

21th LAP 次戦に向けて

『最初に競技場に入って来たのはやはりこの男!!黄金の皇帝だぁぁぁ!!!!』


 競技場を大歓声が包み込む。

 GⅡ開幕の翌週に行われたGⅠ開幕戦。

 日本開催の最高峰レースであり、ゴールデンウィークの最中ということもあり、場内は観客で溢れ返っている。

 その中を金色のヴァリアブルヴィークル“ゴルドカイザー”がウイニングランのように悠々とゴールへと向かう。

 2位との差は10分以上と、圧倒的な差をつけているのだから当然だ。


「やっぱりGⅠクラスともなると全てにおいて違いますね~」

「というよりゴルドカイザーの強さが桁違い過ぎて、大して参考にならない……」


 圧倒的な力を見せ付けて勝利したゴルドカイザーを、ケインと颯太は観客席から見つめる。

 今後の参考になるかと思って見に来たのだが、ライオットとゴルドカイザーの強さをまざまざと見せ付けられただけのレース展開となった。

 ゴルドカイザーに撃破された機体は10機を越え、各チェックポイントは常にトップ通過。

 6年間、王者に君臨し続けた強さは健在……いや昨年よりも更に強く速くなっているようにも感じる。


「けれどあの人を越えない限りは、ガンフォーミュラの頂点なんて夢のまた夢ですからね~」

「はい、分かっています。確かに圧倒的な強さで隙も弱点も見当たりません。だけど1年後、あそこにいるのは僕です!」


 言葉には魂が宿ると言われている。

 だからこそ颯太は力強く宣言する。

 六連覇の王者と訓練校上がりの新人。技術も経験も今はまだ圧倒的に差があるが、1年後、GⅠクラスに昇格するまでに詰めれば良い話。

 それくらいの意気込みが無ければ、頂点に立つなど夢物語に過ぎない。

 その為にやらなければならない事は山のようにある。


「ケインさん、帰ったらすぐにトレーニングをお願いします!」

「どうやらいい刺激になったようですね~。分かりました。私の持てる知識を総動員して速水さんを鍛えて差し上げます。覚悟してくださいね~」

「望む所です!」


 目標は遥か高み。

 だが颯太に焦りも臆する気持ちもない。あるのは高揚感のみ。


(それに……)


 最終的な目標はライオットとゴルドカイザーを越える事。だがその前の目標として、その娘であるリオネスとシルフィロードを越える事。

 彼女とライバルとして競い合う事でより高みに近付けるという確信が颯太にはあった。

 彼の中に灯った闘争心の炎は彼が走る事を止めない限り、燃え続けることだろう。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



「お疲れ様です、リオネスお嬢様。後程ミーティングを行いますので、まずはシャワーで汗を流して来て下さい」


 修理を終えたシルフィロードの調整を終えたリオネスに、彼女のトレーナーである白髪の老人がタオルを手渡しながら言う。

 彼の名はザウス=ゼンヴィック。

 半世紀前にはF1のトップドライバーであり、引退後もレース関連の仕事に就いていた彼はライオットがガンフォーミュラに参戦すると同時に専属のトレーナーとなり、リオネスがドライバーを目指す時には彼女の専属トレーナーとなった。

 既に80歳を越えているはずだが、背筋はピンと伸び、鍛え抜かれた身体と精悍な顔つきのおかげでライオットと同年代と言われても疑う者はいないかもしれない。

 リオネスは頷いて差し出されたタオルで流れ落ちる汗を拭きながら、併設されたシャワールームへと向かう。

 やや温めのシャワーで全身の火照りを冷ましながら、リオネスは今日の調整作業を振り返る。


(あれがフェアリックフェザーの本来の出力か……)


 シルフィロードの修理と合わせて、フェアリックフェザーもアップデートされた。いや正確に言えば今までのシルフィロードにはその出力を完全に引き出すための機構が未完成だった。

 シルフィロードの基本スペックと彼女の力量であれば、GⅡクラスの前半ならばそれでも十分に戦えるだろうと判断されていたからだ。

 だが現実は、予想以上に他の選手のレベルが高く、ヴァルアブルビークルも仕上がっていてギリギリの戦いを強いられた為に、急いで完成させたのだ。

 バックパックが若干大型化され、背中と腰から生える妖精の羽根が一回り大きくなって最高速度は上昇し、脚部と肩の放射フィンの数も増えて浮遊力が増した。更に上腕にも放射フィンが増設され、加速力も増大。それに併せて全身のフレームもより軽量なものへと変更された。

 本来の出力を手に入れたシルフィロードはこれまで以上の反応速度と速さを手に入れた。


(次のレースまで後2週間……完全に乗りこなせるようになれば、今度こそ彼に…………)


 彼女の頭の中には颯太の存在が大部分を占めていた。

 勝利確実だと言われていた選考レースでは、彼のマシントラブルのおかげで勝ちを拾っただけで、最後は完全に抜け出されてしまった。

 開幕戦では、勝利への執念だけでなんとかギリギリで接線をものにする事が出来たが、スタートの時点であれだけ大きな差があったにも関わらずに追いつかれたという事は、もしスタートラインが同じであったならば接線にすらならなかった事を意味する。

 記録映像を見る限りでは5分近く遅れてスタートしていた。

 レースの状況や展開なども絡んでくるので、一概に比較する事は出来ないが、レースタイムだけで比較したなら5分以上は離されていた事になる。


「ソウタ=ハヤミ。そしてヴァルガリオン。次こそはこの私とシルフィロードが完全に勝利してみせる」


 火照りを冷ますはずのシャワーを浴びながら、彼女の心は冷めるどころか、更なる闘志で熱く燃え滾るのであった。



 それぞれの決意。

 それぞれの想い。

 次のレースに向けての戦いは既には始まっているのだった。

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