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爆走機鋼ガンフォーミュラ  作者: 龍神雷
19/27

19th LAP ライバルである為に

 ビーストモードへと変形したヴァルガリオンは正に疾風となって大地を駆ける。

 あっと言う間に前を走る集団に追い付いてごぼう抜きにし、競技場へと入る手前でシルフィロードを捉える。

 コーナーを地面を滑るようにドリフトカーブを繰り返すが、新品同様となり強靭になった脚部は前回のように悲鳴など上げない。


「くっ!やっぱりそう簡単には抜かせてくれないか!」


 減速を最小限に抑えているとはいえ、シルフィロードの方が加速力が上。

 最高速までスピードが乗る前に、前を塞がれてブロックされてしまうので上手くスピードに乗れず、僅かに追い越せない。

 だがストレートでその差を徐々に詰めつつある。


「勝負は最終コーナー!!」


 ケインの立てた作戦とシミュレーションにより、エネルギー管理は万全。このままゴールまでビーストシステムが継続する事を確認済み。

 その上、前回この最終コーナーで耐え切れなくなった4つの脚も健在。

 シルフィロードに勝つ要素は全て揃っている。


「!!ここだっ!!」


 ここまでほぼ完璧と言って良い程の走りを見せるシルフィロードだったが、最終コーナーを上手く曲がれずに大きく膨らむ。

 空いた内側の先にゴールまで遮るものが何もない景色が映り、颯太は何も考えずにそこへと突っ込む。

 観客席からの怒号のような歓声。1周目は煩わしかったその歓声が、今は逆に心地好く聞こえる。

 このまま走り抜けば、これ以上の大歓声が自分に向けられるだろう。

 そんな考えが頭を過った刹那、一瞬で全身に鳥肌が立つほどのプレッシャーが背後から襲い掛かる。

 油断した訳でも気を抜いた訳でもない。だがシルフィロードを抜き去って、ほんの僅かに視界から消えた事で気が逸れた。

 だから気付くのに遅れた。

 視界の端に緑色のエネルギー粒子が見えた事に。

 腰よりも遥かに下。

 頭部が地面を擦るかのような極端な前傾姿勢でシルフィロードが並び、他段ロケットのようにそこから更に加速。


「くっ!いかせるかっ!!」


 エネルギーの放出で生み出された黄金の鬣を更に大きくさせて追い縋る。

 距離にして僅か1cm。時間にして僅か0.001秒。

 シーズンレース開幕戦。

 そのゴールチェッカーを先に駆け抜けたのは……



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


『優勝はやはりこの人!!ミハエル=イエーガー選手とクリムゾンガーネットォォ!!!10秒遅れで2着は昨年総合7位のカルマン=カイオス選手とジーングリーナー!ああっと!3位を走っていたレンデン選手がマシントラブルか!?ゴール前で完全停止!!』


 勝者に惜しみない歓声が上がると共に、場内に響き渡るアナウンスに観戦席がざわめく。


『なんとなんとなんとぉぉ!!!!レンデン選手のリタイアで、表彰台争いは優勝候補の一人とされた公式デビュー戦の大型新人リオネス選手と、人気外の無名新人ドライバーとの一騎打ちに!!激しいデッドヒートが繰り返される!!』


 どちらが先着してもデビュー戦での表彰台という偉業。観戦席もヒートアップし、怒号のような歓声が響き渡る。

 

『最終コーナーを先に抜けたのは……あ、今情報が入りました。ライオン型のヴァリアブルビークルを駆るのはソウタ=ハヤミ選手!その愛機ヴァルガリオンが僅かな隙を突いて抜け出す!だがリオネス選手とシルフィロードも食らいつく!!今、2機がほぼ同時にゴールを駆け抜ける!!』


 目で見ただけではどちらが先にゴールしたかは分からない。

 しかしゴールに設置されたレーダーがどんな僅かな差でも測定し、瞬時にアナウンサーに着順を教えてくれる。


『接戦を制したのはシルフィロードォォォッッッ!!!リオネス=レオハーツ選手だぁぁぁ!!!!!流石は黄金皇帝の娘!!!超大型新人リオネス選手がシーズンレースデビュー戦で、なんと3位表彰台の座を手に入たぁぁぁぁ!!!!!!!』


 場内に響き渡るアナウンスに負けないとばかりに大歓声が轟く。

 そのほとんどが自分に向けられたものであるにも関わらず、まるで他人事のように耳にしながら、リオネスはコクピットから立ち上がり、愛機であるシルフィロードを仰ぎ見る。


「酷い状態だ。だがここまでしなければ勝てないというのがレースであり、彼なんだ……」


 最後にヴァルガリオンを追い抜く為のスピードを確保するために装甲のほとんどを強制パージし、両腕も肘から先を強引に切り離したため、断線した回路が垂れ下がっている。

 パージされずに残った白銀の装甲は薄汚れて輝きを失い、無茶な軌道を繰り返したせいで全身のフレームもデコボコと歪んでいる。

 メカニックが泣いている姿が目に浮かぶが、3位表彰台の代償と思えば安いものだろう。


「これでようやく私は肩を並べられたのか?」


 振り返った先に人型へと戻ったヴァルガリオンの姿が見える。傷や汚れは見えるが、大きな損傷は見えない。これではどちらが勝者なのか分からない。


「全てを振り絞り、限界を超えて手にした勝利……」


 全てをぶつけて、執念で捥ぎ取って手にした勝利。

 だが自分が勝ったなどまるで実感が無い。

 歓声が自分を讃えているのを他人事のように思えるのも、きっとこの気持ちのせいなのだろう。

 機体から降りると、同じく機体を降りた颯太が歩み寄ってくる。


「おめでとう。ははは、今回も勝てなかったね」

「ああ、そうか。私は君に勝ったのだな……この間と同じで全く勝った気はしないがな」


 差し出された手を握り返しながら、颯太は肩を竦める。


「いやいや、今はリオネスさんが一歩リードですよ。今日は公式レースですからね。勝利の重みが違いますよ」


 獲得ポイントという面では確かにそうかもしれないが、リオネス個人としては今回も勝った気分にはなれないのが実情。


「さぁ、勝者は勝者らしく、観客の声援に応えて差し上げましょうよ」


 そう言うと、颯太は握手をしていたリオネスの手首を掴み、強引に高々と掲げさせる。

 その瞬間、万雷の拍手と今まで以上の大歓声が沸き上がり、大量のカメラのフラッシュが瞬く。

 優勝を決めた訳でもない、ただの開幕戦の3位。

 だがその歓声は今まで観戦してきたどのレースよりも大きく、心の奥底に響く。

 それは勝者だからこそ感じるもの。

 人ではなく自分に対して向けられているからこそ感じるもの。

 それでようやく実感が湧いてきたリオネスは無意識の内に掲げた拳を強く握っていた。



 こうしてGⅡクラスのシーズンレース開幕戦は、初参戦の新人による3位表彰台という偉業と共に幕を下ろすのだった。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「これは中々の見物だな。それにこの機体は……」


 男はワインの入ったグラスを傾けながら、目の前のテレビモニターを見詰め続ける。

 そのモニターには今日の昼に行われたGⅡの開幕戦の様子が映し出され、ヴァルガリオンとシルフィロードが激戦を繰り広げていた。


「10年間。どんなに探しても見つけられなかったのは偽装をしていたからだったという事か。あの男がやりそうなことだな」


 画面には緑の輝きを纏った妖精の翅を羽ばたかせる白銀騎士と黄金の鬣を靡かせる四つ脚の獅子が横に並んで激走する。


「眠れる獅子がようやく目覚めたという所か」


 シルフィロードはなんとか先頭を維持しているが、ヴァルガリオンは徐々に間合いを詰めてきている。

 そしてとうとう最終コーナーで抜かれるシルフィロード。


「だがそれよりもこっちだ。ここ暫くは伸び悩んでいるようだったが、獅子の影響なのか本人によるものなのかは分からないが、どうやらようやく1つの壁を突破したようだな。こればかりは俺の手でもどうしようもなく歯痒い思いをしていたが……」


 そのままヴァルガリオンに追い付けずに終わると思った次の瞬間、シルフィロードの全身から緑色の輝きが爆発し、外部装甲を吹き飛ばすと同時に背中の翅が更に大きく広がり、脚部からもエネルギー光が溢れて、一気に加速する。

 それだけでは追い付けないと瞬時に判断したのか、自らの腕を両肘から切り落として更なる軽量化を図ったのだ。

 だが正直に言って、その程度の重量が減った所で大差は無い。しかし結果的にこれが決め手ともなった。

 上腕を切断した事でそこへと向かうはずだったエネルギーが肘に溜まり、脚部と同様に溢れて爆発。更なる加速力を生んだのだ。


「実力の近い競い合う者の存在は成長の大きな糧となる。このまま競い続ければ早い段階でどちらも俺に匹敵する力を身に付けるかもしれんな。だがどんなに早くても相見えるのはGⅠの舞台に上がる1年先か……」


 颯太によって腕を掲げさせられたリオネスの姿が映っていたモニターをオフにし、グラスに残っていたワインを一気に飲み干して男は立ち上がる。


「ソウタ=ハヤミか。我が娘共々上がって来い。何年経とうと頂点で待っていてやる!強者となり、我が前に立つがいい!!」


 男の名はライオット=レオハーツ。

 6年前からガンフォーミュラの頂点に立ち続けている、現役にして史上最強の黄金の皇帝。

 40歳を超えてもその肉体は瑞々しく衰えを知らず、強靭な筋肉の鎧で覆われ、その双眸はまるで若者のようにギラつき、闘争心に満ち溢れている。

 その絶対的な強さ故に彼は自らと対等に闘える者を求めていた。

 更なる強さを求めていた。


「この玉座を手に入れたいのなら早く上がって来い!」


 最強故に強き者を欲し、隣に並び立つ者がいない故に孤独。

 だからこそ求める。

 己が隣に立ち、最強を脅かし、追い抜く可能性を持つ存在を。

 己を今以上に高めてくれる存在を。


「その時こそ……あの時の雪辱を晴らす時………」


 その心の中には彼が唯一超えられなかった存在が、今尚、鮮明に刻まれているのだった。

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