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爆走機鋼ガンフォーミュラ  作者: 龍神雷
18/27

18th LAP 挑戦者の資格

「まさかあのトレーニングがここまで生かされるとは思わなかったなぁ」


 ヴァルガリオンは乱立する樹木を速度を落とす事なく避けながら、時々襲い掛かってくる相手をクローアームで薙ぎ斬り、振るわれた剣や槍を触れない程度のギリギリで躱す。

 放たれた銃弾を上半身を少し逸らすだけで避けて、木の上にいる相手をアームガンで撃ち貫く。

 廃墟が樹木に、ゾンビがヴァルアブルビークルに変わっただけで、やっている事はゲームのゾンビサバイバルと変わらない。

 いやゲームの方は近接攻撃が不可能だったので、クローアームが使える今の方がかなり楽だと言っても過言では無い。

 アームガン用のトレーニングだという話ではあったが、半分遊びのようなものだという思いがずっと心の内にあり、若干…いやかなりの不安を抱きつつもケインを信じて続けてきた。

 しかしどうやら開幕戦用のトレーニングであった事を今になってようやく颯太は理解する。

 頭部を的確に狙うのもメインカメラを潰すという事に繋がり、それで走行不能にするまではいかなくても、相手の視界を一瞬でも奪えるという利点が生まれ、その隙に接近なり離脱なり出来るというのは混戦状態ではかなり有用だった。

 それに常に周囲を警戒する癖もついたおかげで、多方向からの襲撃にも対応が可能となっていた。


「なによりも機体がまるで本当の手足のように動いてくれる!」


 颯太個人では維持と応急修理の費用だけで手一杯だった為に、ヴァルガリオンに使用されている素材は購入した時のそのままを使用していた。

 機能にロックを掛け、量産機に偽装していた事もあって、それらに使用されていた材質のほとんどが売却した当時のまま――つまり10年近く前の材質が使用されていた。

 ガンフォーミュラ業界の技術は1年前の技術でさえ時代遅れなんて言われるものが存在するくらいに日進月歩な状況なのだ。

 特にカーボニックエンジンはレース毎にデータが蓄積されて、次々と高性能・高効率のエンジンが開発され、フレームや装甲に使用される材質に関しても軽量かつ高硬度のものがどんどん開発されている。

 そんな中で、ヴァルガリオンがワンオフ機で量産機よりも高いスペックを有していたとはいえ、遥か過去の遺物とも言える材質のまま、これまで勝ち続けて来た颯太の操縦技術は驚嘆に値すると言えるだろう。

 言ってしまえばこれまでは全身に重りを付けて走っていたようなもの。

 今回の改修で全て最新の軽い素材に変わった事で、本来のスペックを軽く越えたと言える。


「これも全て黄玉さん達のおかげだな」


 背後から追ってくるホーミングミサイルをアームガンのエネルギー弾をチャフのようにばら撒いて誘爆させる事でやり過ごし、木の影に隠れて機会を窺っていた暗殺型の機体を木の幹諸共アームクローで切り倒す。

 流れるような一連の動作もただ使用した材質が軽くなったからだけではない。

 操縦レバーとフットペダルの動きを正確かつロス無く伝える高度な動作プログラムと、それを実現させる為の各部の正常稼働。そして颯太の操縦のクセを適確に把握した調整が施された結果、全てが完璧に合致し、性能を引き出していた。

 レース直前まで改修作業を行っていて、満足に調整が出来なかった為に少し不安だったのだが、メカニックの3人が太鼓判を押しただけあって、颯太の操縦を寸分違わず反映してくれる。

 更に障害物が多い場所での1対多のトレーニング効果と数多くのシミュレートから導き出された最適の作戦。そして颯太の技量が合わさり、今のヴァルガリオンは選考レースの時を遥かに超える性能を十全に発揮していた。

 最後尾からのスタートにも関わらず、第2チェックポイントを通過した時点で12位と、順位でトップテン入りを果たそうとしている事からもその強さが理解出来るというもの。


「このチームを選んで正解だったね。オーナーは…まぁ…アレだけど……」


 苦笑しつつ、正面から迫って来た狙撃弾を首を傾けて避ける。

 いくらアームガンが実装されたといっても、流石に遠距離には届かないので、狙撃手は無視。樹木を盾代わりにして高機動を続けていればそうそう当たる事も無いだろう。

 ここまで来れば狙うのは当然、先頭。そして優勝。

 第2チェックポイントでの補充と消費を抑えた戦い方のおかげでエネルギーは十分残っており、樹海を抜ければ後はゴールまで障害物の少ないエリアが続くだけ。

 ビーストシステムで一気に差を詰めるにはもってこいのシチュエーションである。


「さて、チームの皆がここまでお膳立てしてくれたんだ。今度こそあいつに勝ってみせる!!」


 リオネスの期待を裏切らない為。

 勝利を掴む為。

 樹海の出口へと向けてヴァルガリオンは加速を開始した。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



「ようやく来たか。待ちわびたぞ」


 ゴールである競技場前の妨害不可エリアに入った所で5位につけたリオネスは、後方から物凄い速さで猛追してくる金色の輝きを見つけ、まるで待ち焦がれていた恋人が来たかのように喜色の笑みを浮かべる。


「さぁ、こちらも本気を出すとしようか、シルフィロード」


 表情を引き締め直したリオネスがシルフィロードの力を解放する。

 機体の全身から緑色の余剰エネルギーが溢れ、その背に妖精の翅が生み出される。

 背中で爆発したエネルギーがシルフィロードを浮き上がらせ、爆発的に加速する。一瞬で最高速に到達し、遥か前を行く4位の機体との差を一気に詰めて、その勢いのまま抜き去る。

 その差が広がっていく中、強烈なプレッシャーと共に猛追してくる金色の存在をすぐ背後に感じ取る。


「くっ…この間より速い!だがっ!!」


 選考レースでは最高速度はほぼ互角だったが、加速力ではシルフィロードが優っていたが、レースに懸ける熱量と勝利への飽くなき執念の差で敗北感を味わった。

 だがあの一戦のおかげでレースに対する情熱を思い出し、勝利への渇きが増した彼女は今度こそ負けない――いや絶対に勝つと心に誓っていた。

 だからこの1ヵ月は、これまでで最も厳しいトレーニングを行い、シルフィロードも更なる速度向上を果たした。

 だが相手はそれ以上の速さで追いかけてくる。


「どうやら私は知らず知らずの内に、皇帝の娘という最強の座に浮かれていたようだ。そうだ。今の私は追われるような立場なんかでは無い。彼を追う立場だ。スタート前に思った“同じ条件で”なんて私が言うのはおこがましい事だったのだ!」


 誰の血を引いているかなんて関係ない。

 これまでがどうだったのかも関係ない。


「天才だと言われてきた。GⅠクラスでも十分に勝てると言われてきた。常に周囲は私に期待し、私もそれに応えてきた。だが今の私にはそれらは全て過去の事。今の私は未だ誰にも勝った事の無い……ただの挑戦者の小娘にしか過ぎないのだ!!」


 背後に迫る金色の獅子。

 最高速度では向こうが上なのは間違いが無いので、このままではすぐに追い抜かれてしまうだろう。


「故に出し惜しみなどしない!挑戦者は挑戦者らしく、全てを出し切って君に打ち勝つ!!」


 シルフィロードの左隣までヴァルガリオンが迫る。

 だがシルフィロードは前に行かせまいのブロックする。

 ブロックされたヴァルガリオンは最高速を維持したままフェイントを絡めたサイドステップで今度は右側を抜く素振りを見せる。


「させない!」


 シルフィロードはフェイントに引っかからずに右側をブロック。

 そんな一進一退の攻防を続けながら、観客の待つ競技場へと突入する。

 カーブの多い競技場では加速力に勝るシルフィロードが有利。

 だが前回の事もあるので気は緩めない。

 最初のコーナー。

 ヴァルガリオンが4つ脚ドリフトで曲がり、シルフィロードは腰にマウントしてあったランスを咄嗟に引き抜いて地面へと突き刺して内側を強引に鋭角に曲がる。

 お手本通りのアウトインアウトでは外側に機体を振った瞬間にインを突かれて抜かれてしまうと直感が告げたからだ。

 驚異的な加速力を誇るからこそ出来る芸当だ。

 続くコーナーも両機とも同じ方法で曲がり、抜かせる事はさせない。

 しかし1週目の第4コーナーで、シルフィロードがランスを突き刺して曲がった直後に、耐え切れずに根元から折れ砕ける。


「だがこれで少しは軽くなった!」


 1周目を終え、その差は変わらない。

 2周目最初のカーブ。

 シルフィロードが若干外側に膨れ、ヴァルガリオンがそこを突いて内側に割り込む。

 ここで順位が入れ替わる。だがそれはリオネスの計算の内。

 強引に内を突いたせいでヴァルガリオンのドリフトが若干外へと膨れ、その隙にシルフィロードが再び内を突いて、再び順位を取り戻す。

 目まぐるしい攻防。

 近年、最後の最後までここまで競ったレースになった事が無かった為、競技場は割れんばかりの歓声に包まれる。

 だがその中を走る二人にはその歓声さえ耳障りだった。

 一瞬でも気を抜けば追い越される状況の中、五感全てを研ぎ澄ませて相手の動きを察知し、抜かせまいと抜き去ろうと尽力する。

 最終コーナー。

 ランスを失ったシルフィロードが遠心力に耐えられずに大きく外へと膨らむ。

 そのほんの僅かな隙を見逃さず、ヴァルガリオンが内側へと踏み込み、一歩前へと抜き出る。

 残るは最終ストレートのみ。

 僅かに発ち上がりが遅れたシルフィロードと既に最高速へ達しようとしているヴァルガリオン。

 その差はゼロコンマ数秒という僅かな差。だがゴールまで後僅かのこの場面では絶望的な差。

 ここで諦めたとしても誰も責めはしないだろう。

 けれどそれは彼女自身が許さない。

 前回の颯太がそうであったように、挑戦者は挑戦者らしく、最後の最後まで勝利を諦めてはいけない。


「ここで諦める訳にはいかない……君の…本当のライバルとなる資格を私はここで手に入れるっ!」


 ゴールまで後僅か。

 だがリオネスの心は未だ折れず、それどころか今までで一番の闘志を漲らせていた。

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