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爆走機鋼ガンフォーミュラ  作者: 龍神雷
17/27

17th LAP  初陣

『さぁ、今年も始まりました!ガンフォーミュラシーズン!国内最高峰であるGⅡクラス開幕戦がいよいよ始まろうとしています!!』


 実況者の熱の篭ったアナウンスが競技場に響き渡る。


『今年の注目はなんといってもあの黄金皇帝の実子であるリオネス=レオハーツでしょう!レース実績はまだありませんが、その実力は父親であるライオット=レオハーツに引けを取らないと言われる天才ドライバー!!新人にも関わらず6番人気に押されています!ですが、やはりダントツの1番人気は昨シーズンの覇者ミハエル=イエーガー!!GⅠに昇格し、世界へと挑戦すると思われましたが、移籍先のチームとの交渉が纏まらず、今年もGⅡでの参戦となります。そのオッズはなんと驚異の1.0倍!!いや、正確に言いますと1.0倍を切っているとの事です!!!2番人気で既に2桁オッズという事からもその人気の程が窺えるというものです』



 それは誰もがミハエルの勝利を疑っていないという意味。昨年の総合優勝者なのだから、当然とも言える。

 そして5番人気までは昨年GⅡクラスで活躍した実力者で占められている。

 その中で6番目の人気になったリオネスには大きな期待が寄せられているという事になる。 

 だが僅かな一部の人間は知っている。

 そんな彼女に土を付けかけた人物がこの場にいるという事を。そしてその人物が勝つと信じている人達がいるという事を。


「オーッホッホッホー!!これだけ注目の相手をブチ追い抜いたとなれば、ワタクシの名が世界に轟く事は間違いないデ~ス!!」


 チームメノーインに宛がわれたピットブース内でモニター越しの実況を聞いていた瑪瑙はご機嫌な様子で、高笑いが絶えずこだまする。

 煩くて適わないのだが、唯一のツッコミ役である黄玉が、徹夜続きでなんとか整備を終わらせて疲労困憊であるため、まともにツッコむ余力が無いのだ。

 一応、チーム員の中で一番元気であるケインにツッコミ用のハリセンが渡されているのだが、瑪瑙と幼い頃からの付き合いである黄玉ならともかく、雇用関係にあるケインにはオーナーの頭にハリセンを叩き付けるなど、到底出来るものではなかった。


「知れ渡るとしても速水くんの名前だと思いますけど……」


 一応、呟くようにツッコミを入れてみるが、ケインの言葉など耳に入っていない様子。いや聞こえてはいるが、意に介していないというのが正しいだろうか。


「ムフフ~。これが切っ掛けで世界中のセレブからワタクシは求婚を迫られて……そう!あれもこれもワタクシの思いのまま~。オーッホッホッホ~」


 彼女の妄想は留まる事を知らない。一体何処まで妄想が突き進んでいるか分からないが、今のケインにはそれを止めるだけの力は無い。諦めて聞き流している他に無い。

 なので現実から逃避するようにモニターに集中する。間も無くスタートだ。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



 100機を超えるヴァリアブルビークルがまるでマラソンのようにスタート地点に集合する。

 シーズンレースの開幕戦は毎年、出走者が多い。

 これは同グレードのシーズンレースならば無条件に出走する事が出来るというのが起因している。

 しかしシーズン中盤以降になると大幅にその数が減る。終盤で開幕戦の2割が残っていれば良い方だろう。

 その理由は明瞭。

 年間ポイントによって総合順位が決まり、総合10位以上の入賞圏内に入っていれば賞金が与えられるからだ。

 つまりどんなに足掻いても10位以内に届かない事が分かった時点でシーズンレースから撤退していくので、激減するという訳だ。

 しかし開幕戦ではポイントは全員一律である為、腕に覚えがある者が挙って参戦し、これだけの大人数になるのだ。

 そんな集団の最後方にヴァルガリオンはいた。

 開幕戦は過去の実績や人気でスタート位置がある程度決定される。GⅡレースでの実績が無い初参戦の颯太がこの位置に居るのは当然と言えば当然だろう。

 ちなみに同じく実績は無いが、6番人気であるリオネスとシルフィロードは先頭集団に居て、スタートの段階で既に数kmのハンデを負う事となった。


「まぁ、こればかりはレースの仕様上、仕方が無いよな」


 いくらリオネスにライバル宣言され、注目度が高まったと言えど、それはあくまでCFJ内での話。シルフィロードと互角に競り合えたのも今では運が良かっただけだと囁かれているくらい。

 対外的にはほぼ無名なのだからこの位置なのは仕方が無い。

 2戦目以降からは総合順位と人気に応じてスタート位置が変わるので、まずはここでそれなりの結果を出して、次に繋げられれば良いと颯太は考えていた。


「それに最後尾ってのはこれはこれで色々と美味しいんだよな」


 最後方からのスタートにもメリットは存在する。

 1つ目は前までの集団が地面を踏み固めてくれる為、前半はどんな地形であろうと平地を走っているように燃費を抑えて楽に走り抜けることが出来る。

 時々地雷などのトラップが仕掛けられている事もあるのだが、それも後方集団が到達する頃には大抵が発動済みになっている。

 2つ目は、これは先の選考レースでもそうだったが、前の集団が争った後である為、疲弊した相手が多いので撃破ポイントを稼ぎやすかったり、既にリタイアした機体から弾薬やエネルギータンクを補充しやすい。

 ただし実力が切迫していて前方の混戦状態が長く続いていた場合、その戦闘に巻き込まれてしまい、中々前に進めないというデメリットもあるので、そこをどう回避するかがポイントとなってくる。


「まぁ、ケインさんの指示したコースを信じて走るだけだな」


 まだたった1ヶ月ほどの付き合いで、トレーニングも遊びの延長みたいなものばかりだったが、彼の戦術・戦略論は大したものであると実感している。

 コースの地理データを詳しく調べ上げ、出走相手全員の記録に残っている過去のレースを全て確認して、レース全体の状況を予測。

 その上で起こり得るアクシデントを可能な限り抽出してシミュレートする。

 颯太の脳内シミュレートなんて比じゃない程の完成度の高いシミュレートなのだ。

 ついでに言うと遊び心満載のケインはそのデータをガンフォーミュラを題材に扱ったレースゲームに反映させていて、ヴァリアブルビークルのコクピットと接続させる事で実際さながらのシミュレーションを行うことも出来るのだ。

 アームガンの調整プログラムと同時並行でそのプログラミングを手伝わされていたレイジは死に掛けていたが、おかげで質の良い本番のシミュレーションが出来た事は言うまでもない。

 そんな数え切れない程のシミュレーションの結果、レース前に勝利に最も近いコース取りを何通りか指示されていた。

 複数指示されているのは、実際のレースがシミュレート通りの結果になる事は無く、それに近い状況に適宜対応していくためだ。

 レース中のピットとの交信はチェックポイント付近の妨害不可能エリアと走行不能となった時だけなので、ドライバー自身で逐次判断していかなければならないのだ。


『さぁ、いよいよGⅡクラス・シーズンレースの開幕です!!』


 そのアナウンスに上方に目を向ければ、赤色だったスタートシグナルが黄色へと変化し、青へと変わる。それから少し間を置いて、ようやくヴァルガリオンの前の集団が動き始める。

 なんとも緊張感の無いスタート。

 先頭集団ならばスタートダッシュで誰がハナを行くか、どれだけ好位置につけるかという緊張感もあるのだろうが、前の詰まった最後尾では追い越しにくいのでスタートダッシュも何も無いし、位置取りも殆ど関係ない。

 こればかりは仕方が無いが、颯太としてはスタート前のいつもの不安感が薄れてくれて、これまでより楽な気持ちで挑めていた。


「さて、新生ヴァルガリオンの力を見せてやろうかっ!!」


 競技場を出て、間も無く妨害可能エリアへと突入する頃合いを見計らい、颯太は前方を見据える。

 その目は獲物を狩る獅子のような獰猛さに輝いていたのだった。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



「やはり彼は後方からか………」


 公式戦のデビューレースでありながら上位人気を誇るリオネスは、周囲にヴァルガリオンが居ない事に落胆しながらも、それも当然かと納得しつつ、先頭集団からやや離れた位置を走る。

 ライバルと認めたとはいえ、それはCFJ内だけの話。世間的に見れば、彼はまだ無名のドライバーでしかない。


「同じ条件で競いたかったのだがな。だが勝負に固執してレースで勝てなければ無意味」


 シーズンレースではポイントを競って年間王者を決定するので、総合優勝の為には1レースでも多く勝ち、ポイントを積み上げる事が求められる。

 いくら専属チームといえど、勝利度外視の私的な勝負を行えば非難されてしまうので、リオネスは自らの欲望を抑える。いやそれは抑え込むというよりも、その時が来た時に備えて溜め込んでいるといった方が正しいかもしれない。

 なぜならこの状況は規模は異なるものの、先の選考レースと酷似しているからだ。


「ソウタ=ハヤミ。君ならば私に追い付いてくれるのだろう?」


 姿すら見えない、遥か後方にいる相手に向けて、リオネスは期待の眼差しを向けつつ、散開していく先頭集団を見送る。

 今回のコースはその殆どが、かつて磁場の影響により方位磁石はおろか電子機器まで正常に作動せず、迷い込んだら抜け出せないと言われていた樹海で構成されている。

 ただしそんな話も昔の事。

 今ではどんな強力な磁場の影響も受けない観測器の登場と人工衛星やドローンに搭載の高精密カメラのおかげで、逆に遭難する方が難しいとまで言われるようになっていた。

 故に先頭集団は迷い無く次々とそんな樹海の中へと突っ込んで消えていき、そして少し遅れてリオネスの乗るシルフィロードも太陽の光が届かない薄


暗いの樹海の中へと突入するのだった。


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