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爆走機鋼ガンフォーミュラ  作者: 龍神雷
14/27

14th LAP チームメノーイン

「我がチームメノーインに加入して頂けませんか!先代の想いが詰まったヴァルガリオンと共に再びガンフォーミュラで頂点を目指したいんです!」


 言葉を通して黄玉の想いが伝わってくる。

 頂点を目指す。

 それは颯太の想いと同じ。

 それにメノーインダストリーの先代社長がヴァルガリオンを造り出したという事は、彼女達ならばヴァルガリオンの全ての能力を解放出来るかもしれないという事。


「速水さんのご要望にチームメノーイン…いえメノーインダストリーは最大限、お応えする事を誓いましょう。それに幸いと言ってはなんですが、レース業界から一時的に離れていて、新しいパーツを造っていなかったおかげで、昔のパーツの金型がそのまま保存されているのを確認しております。ヴァルガリオンはワンオフ機ですが、その量販品であるヴァーミリオンの純正部品の生産ラインが残っています。ですのでパーツの生産も低コストで製造することが可能です」

「ウム。要望には最大限応えるとは言ったが、ワタクシの身体だけはいくら欲しくてもあげないデスよ。この身体は将来、メノーインダストリーを背負って立つものにしか渡さないと決めているのデスから!」

「いや、別に幼女趣味は無いので要りません」

「お嬢は黙っててって言ったでしょ!」


 二人がほぼ同時に声を上げる。

 瑪瑙は颯太が自分を求めなかった事に心底驚愕した表情を浮かべつつ、黄玉のお叱りに顔を引き攣らせて黙る。黄玉に殺気を孕んだ怒気を向けられ完全に脅えている様子だ。


「えー、オホン。このバカの言葉は完全に無視して下さって結構です。ええっと…その……まぁ、本当に彼女の身体を求めているならば、力尽くで無理やりにでも。もしも他の誰かの方が良いと言うのでしたら攫って――」

「ちょっとちょっとストップ!僕ってそんな人間に見えるの!?そんな風に見られてるの?!というか色々と犯罪行為だから絶対にやらないでよねっ!」

「いえ、ちょっとした冗談です。ただそれくらい我々は本気だという事です」


 真顔で言われても全く冗談に聞こえない。

 隣で委縮していた瑪瑙も顔を青褪めさせて更に引き攣らせている。冗談だと言っても尚、顔を引き攣らせている事から、黄玉なら本気でやりかねないと思っているのだろう。

 なんだかんだで黄玉も瑪瑙の非常識に慣れ過ぎて、若干、常識のタガが緩んでいるのかもしれない。

 しかし颯太を引き入れたいという熱意は伝わってくる。

 それに色々と良い条件も揃っている。


「1つだけ聞いていいですか?」

「ええ、何なりと。1つと言わずいくつでも構いませんよ」

「いえ、1つで十分です。もし僕がチームの加入を断ったらどうしますか?」

「それはモチロン、お前を借金塗れにしてワタクシの奴隷に――へぶしっ」


 表情も姿勢も変わらず振り抜かれた黄玉の水平チョップが瑪瑙の鼻柱に突き刺さるが、まるで何事も無かったかのように、いや僅かにその瞳に悲しみを浮かべながら黄玉はその答えを返す。


「その場合は致し方ありません。ヴァルガリオンをいい値で買い取らせて貰います。先代社長の遺品でもありますので、10億だろうと100億だろうと払う所存です」


 颯太は意地悪な質問をしたと少し後悔する。

 勧誘する黄玉の瞳には熱意だけじゃなく期待も篭っていた事に気付いたからだ。

 彼女はヴァルガリオンと共に頂点を目指したいと言った。

 それは先代社長の残したヴァルガリオンで目指したいという意味だが、それ以外の意味もあったのだ。

 ここが日本語の難しい所。


“ヴァルガリオンと、共に頂点を目指したい”


 ここで区切るだけで意味合いが変わる。

 つまりヴァルガリオンで“颯太と”共に目指したいという願望が含まれていたのだ。

 ヴァルガリオンの変形機能は制限されていた。そして制限されているという事実は元社員でも気付けなかったものだ。

 それを颯太は偶然とはいえ解除した。

 いや、偶然などではない。

 ヴァルガリオンは颯太が欲しいと思った力を都度与えてくれた。

 黄玉の説明によればヴァルガリオンの機能ロックはドライバー情報を新規入力した後の走行距離と走行時間で時限解除される仕組みになっているそうだ。

 つまりは颯太がそれだけ長くヴァルガリオンに乗り、共に戦ってきたという事に他ならず、黄玉はそんな彼ならば最も巧く操縦出来、もっとも機体のポテンシャルを引き出し、自分達をガンフォーミュラの頂点へと導いてくれると期待したのだ。

 単純に、颯太から買い取って新たなドライバーを乗せても、ヴァルガリオンの最大限の性能を発揮するビーストシステムをすぐに使用することが出来ず、頂点に立つのがかなり遅れるだろうという打算もあるだろう。


「変な事を聞いちゃってすみませんでした。でも安心してください。僕はヴァルガリオンを手放す気はありません。でもそれはいくら積まれても手放さないという意味ではなく……えっと…その…つまりは……速水颯太。これからチームメノーインでお世話になります。宜しくお願いします!」


 回りくどい事なんて言わなくても良い。

 最後の質問をする前から既に心は決まっていたのだから。

 頂点を目指したいという熱意を感じ取った時から決めていたのだから。

 だからこうして頭を下げる。

 最初に黄玉が挨拶した時と同じように深々と。


「オーホッホッホ!ようやく心を決めたようデスわね!これであなたはワタクシのド・レ・いぃぎゃあああああ…目がぁぁ目がぁぁっっっ!!!」


 黄玉からの目潰しを食らった瑪瑙が格納庫の床をのた打ち回る。


「はぁ…後でちゃんと躾ておきますね。という訳で、ようこそチームメノーインへ。歓迎致します、速水さん」


 これから毎日が騒がしくなるなと感じつつ、颯太は黄玉の差し出した手を握り返すのだった。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


「遂に我がチームメノーインはドライバーの獲得に成功した!これでシーズンレースに参加出来るデス!皆、喜べなのデェ~ス!!」


 音頭を取るのは瑪瑙。

 チームメノーインに宛がわれた格納庫兼スタッフルームでは、今、宴会…もとい颯太の歓迎会が開かれていた。


「いや~、よく決断してくれた。お嬢があんなんだから、中々入るって言ってくれる奴が居なくてよ~」


 コップになみなみと注がれた日本酒を一気飲みしながら、バシバシと痛い程背中を叩いてくるのは、メカニックの一人である桐生(キリュウ) 弾吾(ダンゴ)

 ニッカボッカにねじり鉢巻き、程良く日に焼けた筋肉質で大柄な身体。歯だけが真っ白に輝く爽やかな笑顔を浮かべたガテン系の40歳近いおっさん。

 性格に表も裏も無く、思った事は直ぐに口から出てしまうが、その笑顔のせいでどこか憎めない人物で“弾吾のおやっさん”と呼ばれ、親しまれている。


「おかげで昨年は都度ドライバーを募って、スポット参戦ばかり。会ったばかりのドライバーに合わせた調整なんて簡単には出来ないからポイントも大して稼げず、評判は下がる一方でしたね」


 話に加わって来たのは、もう一人のメカニックであるレイジ=ジェイロゾフ=高宮。

 日本人とイギリス人のハーフで、全体的にやや色素が薄く、色白灰髪の線が細めの青年だ。スーツジャケットをきっちりと着こなし、どこかクールな雰囲気の彼は、主に動作プログラムなどの電子関連を専門にしている。


「あれ?確か今年から復帰したと聞いていたんですが?」

「それはスポンサーとしてのメノーインダストリーがって事ですよ。チームとしては去年から活動はしていたんです」


 本格参戦前の準備期間とはいえ、そこでの結果は重要だ。


「去年が散々な結果だったおかげでこんなチームにはいられないとチーム発足時に集めたトレーナーやメカニックも他チームに移籍してしまいました」

「かっかっかっ。それで残ったのが俺達だけって訳だ。まぁ、俺はメノーインダストリーからの出向だから辞める訳にはいかなかったし、レイジも黄玉ちゃんがいるから残り続け――」

「だ、誰がっ!ボ、ボクはボクのプログラムを完璧に走らせられる環境がこのチームだけだと思っているから残っただけだ。ベ、別に黄玉さんは関係ない!」


 色素が薄いせいで分かりやすい程、顔を赤くするレイジ。


「はい?今、私の名前を呼びましたか?」


 そこへ黄玉がやって来る。

 チームメノーインのメンバーは多くない。詳しい内容は分からなくても自分の名前が聞こえれば、会話に参加してくるのは当然だ。

 おかげでレイジは更に顔を赤くして、動きが油の切れたヴァリアブルビークルみたいになっている。

 黄玉は相変わらずのツナギ姿だが、身形さえ綺麗にすれば、その丁寧な言葉遣いや仕草も相俟って、すぐそこにいる本物のお嬢様よりお嬢様っぽい。ほんの少しだけ手が出るのが早いが。

 本人は人よりもヴァリアブルビークルの方が好きで、恋愛に疎いというよりも興味を持っていないので、ここまで分かりやすいレイジの恋心に気が付いていないようだ。

 現状では彼の恋が報われるのは絶望的なのだが、当人達の問題なので口出しはしない方が無難だろう。

 ちなみにチームメノーインのメカニックは他に数人がこの場にいるが、基本的にメノーインダストリーからの出向者でファクトリー勤務である為、颯太が直接関わるメカニックは、主にこの3人となる。


「いやいやいや。君が速水颯太くんですね~。お噂はかねがね学園長から聞いてますよ~。いや~、私達のチームに入って頂いて大歓迎ですよ」


 遅れてやってきて、ペコペコと頭を下げながら近付いてきた腰の低い男が颯太の手を勝手に取って握手する。

 着ているスーツは安物なのかヨレヨレでネクタイも曲がっている。やや馬面っぽい縦に細長い顔にはギョロっとした目が浮かび上がり、天然パーマらしきモジャ頭でやや突き出た顎は無精髭で覆われている。


「あ、お疲れ様です、ケインさん。工場の方はどうでしたか?」

「うん。コスパが良いとは言えないですけれど、副社長さんは先行投資だと理解を示してくれたのでパーツの生産ラインは確保出来ます。機体の方も明日にでも送れば、シーズンレース初戦にはなんとか間に合いそうですね。おっと自己紹介がまだでしたね。僕はケインスタイナー=トロウゼン。このチームの雑用係……じゃなくて一応トレーナーです。ケインと呼んでください」


 黄玉に報告した後、握っていた手を更にブンブンと降りながら、颯太に向けて自己紹介をするケイン。


「え…えっと…宜しくお願いします」


 腰は低いのにやけに強引で馴れ馴れしいケインに圧されつつ、颯太も返事を返す。

 オーナーの瑪瑙。

 メカニックの黄玉、弾吾、レイジ。

 トレーナー兼雑務のケイン。

 そしてドライバーの颯太。

 この6人がチームメノーインの主要メンバーであり、この1年を戦う頼もしき仲間であった。

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