表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆走機鋼ガンフォーミュラ  作者: 龍神雷
1/27

1st LAP 夢見る少年

「さぁ!レースは終盤も終盤!最終盤っ!!残すは最終コーナーとホームストレートのみ!!最初にあのコーナーから姿を見せるのは誰かぁっ!!!」


 レース場内に響くアナウンサーの声を掻き消すかのような大歓声が響き渡り、それをも上回る地鳴りにも似た爆音が徐々に近づいて来る。

 最終コーナーを砂塵を巻き上げながら現れたのは鋼鉄の巨人。

 ある巨人は足の裏にある無限軌道を唸らせながら、ある巨人は足首の側面に付いた巨大なタイヤを軋ませながら、またある巨人は脹脛にある推進器でホバーのように僅かに地面から浮かせながら、またある巨人は人と同じように激しく地面を蹴りながら、ただ目の前のみを真っ直ぐ見据えて、最期の直線へと向けて駆けて来る。

 その中から一際目立つ金色の巨人が一気に加速して抜け出す。


「最終コーナーを最初に抜け出したのはっ!やはりこの機体!昨年の覇者!最強最速の黄金の皇帝!ゴルドカイザァァァァーーーー!!!そしてそれを駆るライオネット=レオハーツだぁぁぁっっっ!!!!」


 まるでステルス戦闘機のような三角形の胸部から肩へと伸びた翼の後部から白く輝く光の粒子が舞い、黄金の皇帝の背中にマントのように広がって翻る。

 瞬間、爆発的な加速力がゴルドガイザーを後押しし、更に後続との差を引き離す。


「ゴルドカイザー!!ここでっラスト!スパートぉぉぉっっっ!!!!純白のマントを靡かせて、ぐんぐんと後続との差を開いていくぅぅぅぅ!!!!これは圧倒的!!この皇帝は隣に誰一人として並ぶ事を許さなぁぁぁいいいいいっっっっっ!!!!!!」


 長い直線を、観客が最も詰め寄せるホームストレートを、たった1機、手を抜く事無く全身全霊をもって走り抜ける。

 全身を覆う黄金色はここまでの激闘を表すように傷付き、泥に塗れている。だがその輝きは色褪せる事なく観客を魅了し、その目に、その胸に存在と興奮を刻み付ける。

 怒号のような歓声がレース場を包み込む中、金色の皇帝は誰も前に存在しない栄光の道の終着地へと到達する。


「必勝!圧勝!!完勝!!!他を寄せ付けない圧倒的な力で、今期無敗での総合優勝を果たしたぁぁぁぁーーー!!!!しかもしかもしかも!!!!前人未踏!!史上初の!!!総合連覇も達成!!!もはや黄金皇帝の進撃を止める事など誰にも出来なぁぁぁぁ~~~いぃぃぃぃぃーーーー!!!!!!」


 アナウンサーが興奮を抑えられない様子で実況し、それを掻き消す程の大歓声が再びレース場に響き渡る。

 空から雪がチラチラと舞う真冬のはずなのに、興奮と熱狂で真夏のような熱気を放って盛り上がる観客席の一つで、車椅子に乗る少年もまた周囲の大人に負けず劣らずの興奮度合いでウイニングランを続ける黄金の巨人の姿を瞳を輝かせて見つめ続ける。


「凄い!凄いよ!ここでだったら僕もまた走ることが出来るかもしれない!!」


 少年の名は速水(ハヤミ) 颯太(ソウタ)

 彼は幼い頃から走る事が大好きで、名前の“颯”を“走”に改名した方が良いと周囲から言われる程に足も速かった。

 小学生に上がる頃から本格的に陸上競技を始め、すぐに頭角を現していった。

 ジュニアの大会ではどんな年上が相手でも負けず、この頃から既にオリンピックでのメダル獲得だけでなく、世界記録すらも期待されていた有望株だった。

 だが彼に不幸が襲い掛かったのは、陸上競技界における一流現役プロが運営するジュニアチームに推薦が決まった直後の事。

 レース中の不慮の事故によって足を大怪我した為に推薦は取消され、長い期間のリハビリが必要となったのだ。その上、リハビリを終えても元のように全力で走る事は出来ないだろうとアスリートとしての死を医者から宣告されてしまったのだ。

 それを聞かされた直後の颯太は、絶望に打ちのめされ、リハビリを始める気力すら起きない程に落ち込んだ。

 そこで彼の叔父は落ち込んだ気分が吹き飛ぶようにとこの場所――国立鋼機競技場に連れて来たのだ。

 そして鋼鉄の巨人が競り合い、争い、闘う姿を間近に見て、少年の心に新たな夢が生まれる。

 もう自分の足で風を切って走る事は出来ず、頂きに辿り着く事は出来ない。

 だけどこれならば、ここならば、自分はまた羽ばたく事が出来るかもしれない。

 頂きの景色を眺める事が出来るかもしれない。

 ここに来る前まで萎えていた心は感動に打ち震え、闘志の炎で燃え上がり、全身の血が滾り、その目に強い意思が宿る。

 術後でまだ動かない足の痛みなどどこかに吹き飛び、力が込もる。

 もうこんな所でじっとなんてしていられない。


「叔父さん!早く病院に戻ろう!!すぐにリハビリをしなきゃ!!」


 逸る気持ちも燃え上がる想いも抑えきれず、颯太は隣にいる叔父に叫ぶように声をぶつける。

 走る事を愛し、走る事に見放され、走る為に生き、走った為に死んでしまった。

 一度は走る事を断念させられ、諦めざるをえなかった少年は、再び夢に向けて走り出す決意を胸に刻むのだった。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


 ガンナバウトフォーミュラレーシング。通称ガンフォーミュラ。

 22世紀初頭に新たにカテゴライズされたレース競技である。

 マンネリ化が進み、相次ぐスポンサーの撤退とTV放映の中止、更には未だに化石燃料を使用してCO2排出量の削減に非協力的だとして、落ち目にあったレース業界に新しい風を吹き込む為に新設されたトップカテゴリーである。

 これまでの速さを求めるスピードレースと、悪路を走破するラリーレースを混ぜ合わせたガンフォーミュラを簡単に一言で表せば障害物レースであり、発表当初からその今までにない特異性で話題を集めた。

 その一つがカーボニックエンジンと呼ばれる二酸化炭素をエネルギーに変換する新技術のエンジン。

 草花の葉緑体の光合成から着想を得たこの新型エンジンはタンクに詰めた二酸化炭素に光を当てる事でエネルギーを発生させるという、世界のエネルギー問題とCO2排出問題を同時に解決する画期的な物であった。

 現状ではまだ燃費が悪く、出力も安定していない上にコストパフォーマンスが高過ぎて民間への実用化はされていないが、ガンフォーミュラのレースを実働実験の場としてデータを収集し、技術向上と性能向上を図り、いずれは世界中に普及させようという狙いがあり、大手自動車メーカーやエンジンメーカーなどが挙ってスポンサーとして名を連ねている。

 そして何より一番の話題を集めたのが、レースの仕様とそれに使われるマシンだ。

 ガンフォーミュラはただ単純に順位を競うだけのレースではない。

 スタートとゴールだけが決まっており、途中にあるいくつかのチェックポイントを規定数通過すれば、どこをどう通っても構わないのだ。

 そして障害物レースと評したようにレースの途中には障害物が存在し、それらは天然の山であり、谷であり、海であり、砂漠であり、湖であり、洞窟である。

 更にはこれまでのレースカテゴリでは存在しなかった他者への妨害行為まで認められていて、一緒に走る競争相手も障害となるのだ。

 それらを踏まえたガンフォーミュラに出走するマシンは、相手の妨害を有利にするために腕が生え、様々な路面状況に対応する為に足が生えた。

 結果、見た目は人間に近付き、車両という範疇を超えた汎用人型車両――ヴァリアブルビークルが誕生する事となる。

 最高速度は時速150km程度とこれまでのトップカテゴリーであるF1マシンに比べると半分以下だが、アニメ文化で他国の追随を許さない日本が発祥国であり、レース界の人気を取り戻す事が最重要視されたおかげもあって、その外見は美しく、格好良く、そして洗練され、機能美も兼ね揃えたフォルムで世界的にも絶賛され、まるでアニメの世界から飛び出してきたと言われる程の話題となる。

 レースの仕様上、スタートとゴール地点となるレース場以外はそれぞれの機体に内蔵されたカメラと追随するドローンによる空撮がメインとなり、実際にその目でヴァリアブルビークルが走る姿を見られるのはレースの一部でしかないのだが、それでも美しく格好良い巨大な人型ロボットが現実で競うという姿は、世界中が妄想し求めていたものだったらしく、ガンフォーミュラの知名度はヴァリアブルビークルと共に爆発的に上昇し、あっと言う間に世界で最も注目を浴びる競技となっていった。





 時は2122年。

 かつて夢が潰え、しかし新たな夢に向かって走り出した少年は青年へと成長した。

 そして今、青年は自らの夢を実現させる為にガンフォーミュラの世界へと足を踏み出すのだった。


サイバーフォーミュラ30周年&ウマ娘の影響でレースものが書きたくなり、丁度良い題材がある事を思い出したので、衝動的に書き始めました。

最近は私事で忙しく中々執筆時間が取れない為、1話の文量は少なめですが、なんとか週1連載で続けられるように精進したいと思いますので、宜しくお願い致します。


※予約投稿の日時を間違えていた為に投稿時間が遅れました事をお詫びいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ