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対ヘビースモーカー兵器開発研究所




「……なるほど。確かに政府公認の印章だが……本当に君が?」


「はい!本日付で配属されましたエミリア・アレクシーです!よろしくお願いします!」


白衣を着た中年の男性が、目の前で緊張しながらもしっかりとした敬礼する若い女性をじろじろと品定めするかのように睨めつける。そんな睨めつけるような中年男性の視線に顔を赤らめながら恥ずかしそうに身をくねらせる。


エミリアと呼ばれた黒髪の女性は一見すると地味だが、目も大きく、鼻筋が通っており間違いなく美人の分類に入る女性であった。


「ふん……まあいい。精々頑張ってヘビースモーカー達を殲滅できるよう頑張り給え」


「は、はい!失礼しまっ…します!!」


突如として放たれた激励の言葉にエミリアは慌てて敬礼をしながら所長室を出て行く。


部屋に一人残された中年男性……対ヘビースモーカー兵器の研究所兼工場の所長であるプルーム・パッチは椅子に深く腰掛けると不敵にニヤリと笑う。


「ククク……そんなもので私の目がごまかせる物か……」


そういって内線を繋ぐパッチ


「私だ、副所長はいるかね?」


『はっ!もう間もなくお戻りになられるかと』


「戻り次第私の部屋に来るよう伝えてくれ」


『承知しました!』


内線を切ると、再びパッチは深く椅子に座りながらとある書類の束を眺める。するとそこにどこから入り込んだのか1匹の蝶がひらりと止まる。


パッチはそれを見てニヤリと笑う。


「そうか…やはりあやつはそういう奴だったのだな……」


そう言うと、パッチは躊躇いもなく美しい蝶を素手でグシャリと握りつぶした。


「愚か者共め…目に物見せてくれるわ」


パッチの独り言は薄暗い所長室の中、誰にも聞かれることなく消えていった。


・・・・・


・・・


「グロー副所長。パッチ所長がお呼びです。至急所長室へ」


「分かったわ。すぐに向かいます」


研究員から告げられ、中年の女性。この研究所の№2であるグロー・イクォスは資料を受け

取ると資料に目を通しながら所長室へと、カツカツとヒールの音を打ち鳴らしながら向か

って行った。



グロー副所長、否それに変装しているアピスは資料に目を通しながら思考を巡らせていた。


(……ケイは上手く入り込めたみたいね。)


彼女の二つ名“煙幻自在”メタモルフォーゼとは煙草の煙を全身に纏わせる事による変装能力から来ている。一度目にした人物を煙草の煙を使って完璧に擬態し、それに加えて彼女の煙草の吸いすぎによって培われた何種類もの声色を使い分けられる能力がそれをさらに完璧な物としており、彼女の変装を見破れる人物は世界に数人しかいないとされている。


また、他人を変装させることも可能であるため、世界有数の潜入捜査のプロとして、世界政府からは煙幻自在の二つ名をつけられ、危険視されている。


ちなみに今回の潜入のために本物のグロー副所長はアピスの手によって監禁されており、ケイが変装している人物も同様に監禁されているため、万が一にも出くわすなどという事はない。


そう思いながらも辺りを警戒しながら所長室へと向かって資料に目を通しながら歩くアピスだったが、資料にあるとある一文を見て彼女の眉間に深い皺が刻まれた。


(!……なるほどね。そういうこと……)


警戒心をMAXに引き上げ、所長室へと向かうアピス。すると


「わわ!ごめんなさーい!」


曲がり角から何者かがアピスにぶつかる。ぶつかった衝撃でアピスの持っていた書類は床に散らばる。見るとそこには資料にあった本日配属されたばかりの新人、エミリア・アレクシーがいた。


「……気をつけなさい」


「す、すいませんでしたー!!!」


そう言って、落ちた書類を慌ててかき集めて走り去っていくエミリアを見てため息を一つ吐くと、アピスは再び所長室を目指して歩きはじめた


・・・


「失礼します。お呼びですか所長」


薄暗い所長室の中にアピスが入ると、薄暗い部屋の中でパッチは1枚の書類を眺めていた。そしてアピスに気がつくと、椅子に座ったまま鋭い眼光を向ける。


「ああ、端的に言うとネズミが紛れていた。計画を前倒しする」


「……そうですか」


私たち以外にもこの研究所に潜入している者がいる。


この研究所に潜入したときから感じていた誰かに見られているという感覚を幾百もの研究所に潜入して生きたアピスは敏感に感じ取っていた。


「やはり気づいていたようだな……先程送った資料は?」


「目を通しました。しかし先程……」


・・・


「ほほーん。なるほどね」


にこやかに、怪しげな笑みを浮かべながらエミリアはグローに化けているアピスとは反対方向へと歩いていく。その手には“先程までアピスが持っていた書類が握られていた。


「わざわざ資料に暗号紛れ込ませたみたいだけど、無駄無駄。ほんと、タールに脳みそやられてる紙煙草派はおバカさんばかりね」


そう言いながら、エミリアは近くにあったゴミ箱にアピスからかすめ取った資料を放り込んだ。


・・・


「まあいい。とにかく上は計画を前倒しにせよとのことだ。出来るな?」


「……分かりました。手はずは整えておきます」


「頼む。私はこれから“新型”の進行状況の確認へ向かう。新型アンチニコチンの方はお前に任せる。どの程度根を張っていたかはわからん。気をつけろ」


「承知いたしました。所長」


そう言ってパッチは白衣を整えて所長室から出て行った。


「……やはり来ていたわね幻影の煙(ファントムスモーク)今日こそはアンタを……」


1人所長室に残されたアピスは思い詰めたかのようにギリと奥歯を噛みしめ、そう独りごちると、決意を固めたかのように所長室から出て行った。



・・・


「あの薬は完成してボスのとこに送ってるし、新兵器のほうの仕掛けも組み込み完了まであと少し。この場所にもう用はないわね」


エミリアはそうつぶやくと白衣のポケットから情報端末を取り出しメッセージを送る。するとすぐにディスプレイ上に“了解”との二文字が映し出された。


それを見てエミリアは満足げに笑う


「さて、ぼちぼち最後の仕上げを始めますか♪」


そう言って歩き出すエミリアの周りを蝶が怪しげに舞っていた。



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