煙幻自在のアピス登場!!
エイジとの死闘から数日。ケイはとある人物との待ち合わせの場所へと向かうために薄暗い裏路地を歩いていた。
誰もいない路地。すると突如としてほのかに甘い香りがケイの鼻腔をくすぐる。
「……」
ケイは警戒心を高めながら煙草を咥え、火をつける。その時だった
「ゲホッゴホッ……」
路地の向こう側から年老いた男性が一人、路地の向こう側から歩いてきた。ケイはそれを見ながら煙草を吹かす。すると老人がさらに咳き込んだ。
「……チッ」
ケイは苛立たしげに舌打ちをすると、ずかずかとその老人に近づき胸ぐらを掴みあげた。
「おい…!どういうつもりだ……!」
「ゲホゴホ……な、なんのつもりで……?」
「まだしらばっくれるか……」
ケイは思い切り煙草の煙を肺に入れると老人の顔に吹きかけた。すると、老人の顔は系の吐いた煙と共に薄れていき、煙が晴れた頃、そこにいたのは、ワインレッドのライダースーツを着た、美しい白銀の髪を持つ絶世の美女だった。それを見てケイはため息を吐く。
「相変わらず俺をからかうのは楽しいか?煙幻自在のアピス」
アピスと呼ばれた美女は怪しげに微笑んだ。
彼女は数少ない女性のヘビースモーカーでピアニッシモを愛煙している潜入工作のエキスパートであり、ケイとは何度も任務を共にした仲である。
「もう、むくれないでよ。冗談よ冗談……冗談が通じない男はモテないわよ?」
「時間の無駄だ。さっさと今回の仕事の説明をしろ」
苛立たしげに言うケイに対してアピスは楽しげに笑いながらこう言った。
「ふふ…そう焦らないの。いい男が台無しよ?……まあいいわ。今回のシガーからの任務は対ヘビースモーカー用の兵器開発をしている工場の破壊工作よ」
「……またか。ここ最近増えてきてないか?」
エイジと戦ったあの日も、ケイは工場破壊の任務に就いていた。先月までは破壊工作のみならず、潜入捜査などを行なってきていたケイにとって、ここ最近破壊活動の割合が増えてきたことに疑念を感じざるを得なかった。
「シガーが言うには政府も本腰入れて私たちを捕まえようとしているらしいわ……それに、加熱式煙草派も怪しい動きをしているらしいし……エイジも……」
「……アイツのことはいい。それよりも今回の目標は」
どこか悲しげな顔をするアピスの言葉を遮るケイ。そんなケイをみてアピスは微笑むと、ケイに資料を手渡した
「……これは…新型の対ヘビースモーカー兵器の設計図……今回の目標はこれらの抹消って所か」
「ご名答。折角頑張って手に入れたんだからしっかり読み込んどきなさいよ」
ケイはアピスから渡された工場のデータの中にまだロールアウトされていない新型対ヘビースモーカー用の兵器の設計図、並びにプロトタイプのデータがあることを見つけ、ため息を吐く
「それと、この資料には載っていない、まだ未確認の情報だけど……この工場、どうやら新しいアンチニコチン成分を創り出しているらしいのよ」
「……どういうことだ?」
思わず疑問を投げかけるケイ
数瞬の沈黙の後、アピスは話し始めた。
「最近、偵察任務に就いていたカマルが政府の連中に襲われて、私たちの病院に担ぎ込まれたんだけど、その時はもう手遅れだった……」
「……そうか」
カマル
ケイとは何度も任務を共にした、いわば戦友である。ケイは逝ってしまったカマルを思い、心の中で静かに黙祷を捧げた。
「……ドクターによれば、カマルの肺はまるで石灰のように、白く固まっていたそうよ……苦しかったでしょうね」
今までのアンチニコチン成分にそんな症状は出なかったはずだ。と言うことは……
「新型の実験台にされたのカマルは……」
「…聞いた話だとカマルは研究所の潜入任務をしていて、丁度一週間前から連絡が付かなくなって一人の潜入捜査官を向かわせたところ……」
「見つけたって事かっっっ……!」
煙草のフィルターを思い切りかみつぶしながらケイは吐き捨てるように言う。いつもなら甘く感じるはずのピースの煙が、どこか苦々しく感じるケイであった。アピスも悲しげに目を伏せている。
一年前に政府によるヘビースモーカー掃討作戦の折に、最大の理解者であり唯一の血の繋がった兄を亡くしたアピスにとって仲間の死というのはこれ以上無く辛いものだろう。
見た目は平然としているが、手が震えているのか、中々煙草に火をつけられないアピスにケイはそっと自分のくわえていた煙草を火種として差し出した。
「…案外優しいとこあるわよね」
「……早く任務の内容を知りたいだけだ」
ぶっきらぼうに言うケイにクスリと笑うと、アピスは気持ちを切り替えるかのようにピアニッシモのピーチの風味が漂うメンソールの煙を一吸いすると、真面目な顔で今回の任務の説明を始めた。
「今回の任務の目標は二つ。一つは新型対ヘビースモーカー兵器の破壊。もう一つは……新型アンチニコチン成分の抹消と成分表の入手よ」
「なるほど、だから俺とお前が選ばれたって事か」
最高の潜入能力を持つが戦闘能力は低いアピスと戦闘能力はヘビースモーカーの中で世界有数の力を持つケイの2人が組むことが今回の任務には最適であった
「そうよ。精々迷惑掛けないでねケイ」
先程までの妖艶な声とは打って変わって、低い、中年女性を思わせる声で言うアピスにケイは
「言ってろ」
と、煙草をくわえたままニヤリと笑った。
7.12
諸事情によりキャラの名前を一部修正しました