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死の煙と呼ばれる男 その名はケイ


西暦20XX年。世界では健康を善とする風潮が広まり、有害物質を多く含む煙草は全面的に禁止された。だが、世界に散らばる愛煙家達や持続性喫煙症候群を持つ者はこれに反抗、世界は禁止された煙草を吸い続ける者たちを特定危険人物“ヘビースモーカー”と呼称し、その排除に動いていた。これは煙草を愛し、煙草を悪とする世界に刃向かう一人の男の物語である。


「隊長!目標を見失いました!」


「まだ近くにいるはずだ!探せ!」


「はっ!」


白い防護服にガスマスクを装着し、マシンガンのような物を持った兵士達が隊長らしき男の指示により、各々に散る。その様子を路地裏から隠れてみる男が一人。


「チッまったくしつこいな。」


男はポケットから丸い、紺色の缶を取り出した。缶には金色のオリーブの葉を咥えた鳩のエンブレムが刻まれており、中には大量の紙巻き煙草が入っている。


男の名はケイ。世界でも5本の指に入るほどの“ヘビースモーカー”であり、国際手配されている第一種危険ヘビースモーカーに登録されている男である。


ケイが煙草を咥えようとした瞬間、強い光を照射される。見るとケイに向かってマシンガンらしき物を構える隊員達がいた。


「見つけたぞ!通称死の煙(デッドエンドスモーク)のケイ!今日こそお前は終わりだ!総員、構えろ!」


隊長らしき男がケイに向って言い放つ。だが、ケイは特に動揺もせず、缶から煙草を5本ほど取り出し口にくわえる。


「まあまて、煙草の1本くらい吸わせてくれよ。」


「1本と言いつつ5本も咥えてんじゃねえ!!」


銃口を向ける隊員の言う言葉など意にも介さず、なめらかな手つきでポケットからライターを取り出し煙草に火をつけるケイ。その動作に一片たりとも無駄は無い。実に洗煉された動きである。そのなめらかな動きに目を奪われる防護服を着た男達だったが


「ええい!何をしている、早く撃たんか!!」


隊長の一言により、隊員達は持っていたマシンガンでケイに向かって一斉に掃射を始め、それを見たケイは不敵に笑いながら近くにあったゴミ箱の後ろへと隠れた。


「ふっ!ニコチンパッチ機関砲か!代わり映えのしない奴らめ」


ニコチンパッチ機関砲とは、ヘビースモーカーのニコチンやタールに毒された肺を浄化する成分、アンチニコチン成分を含んだパッチを掃射することの出来る、対“ヘビースモーカー”用鎮圧兵器である。


パッチに含まれるアンチニコチン成分を体に取り込んだが最後、ニコチンとタールにおかされたヘビースモーカー達の真っ黒な肺は完璧に浄化されてしまい、二度と煙草が吸えないほど脆弱な肺にされてしまう。


これはニコチン中毒者であるケイのようなヘビースモーカーからすれば死ぬよりも辛いらしく、現にアンチニコチンを受けてしまったヘビースモーカーの大半はニコチンへの渇望から無理に煙草を吸い、1日に1回は病院に送られているのだという。


「よし!今だ!」


掃射が止む合間を見計らい、ケイは総数5本にも及ぶ煙草を持ち前の肺活量で思い切り吸った。それに合わせ、煙草がもの凄い勢いで燃えだし、大半が灰となって崩れ落ちる。そして、ヘビースモーカーとは思えないほどの機敏な動きで隊員達の目の前に行き


「くらえ!」


ケイは煙草の煙を隊員達に向かって勢いよく吐き出した。瞬間、ケイの吐き出した煙草の煙によって隊員達は真っ白な煙に包まれてしまう。


これこそがケイの二つ名、死の煙《デッドエンドスモーク》の由来である。総数5本にも及ぶ煙草の煙を一気に相手に浴びせるこの絶技。受けた相手は将来がんになる確率が爆発的に上がる。まさに逃れられない死の煙


「ちぃっ!!全員距離をとれ!」


隊長らしき男が隊員達に指示を飛ばす。だが、すでに時すでに遅し。隊員達は煙草の煙に包まれてしまい、右も左も分からなくなってしまっていた。


「慌てるな!所詮主流煙クラスの煙だ!ガスマスクさえあればこのレベルの煙など問題は無い!早くケイを捕らえるのだ!!」


だが、隊長らしき男は不敵な笑みを浮かべ、隊員達に落ち着き、素早く目標であるケイを捕まえるように指示をする。


しかし、ケイは依然として落ち着き払っていた。そして隊員達にこう言い放つ。


「どうかな?確かに俺の煙草はピース。タール量28mg、ニコチン2.3mgの普通の煙草だ。でもな」


「あ。ああああああ!!!け、煙が!!」


「ごほっ!ぅえ!げっほ!い、息が・・・」


「が、ガスマスクのフィルターが茶色く・・?!!!」


みるみるうちに隊員達のガスマスクの中が白い煙で満たされていき、行きが出来ないのか、喉を押さえながら隊員達は次々と倒れていく。その中を悠然と歩いて行くケイ。


「これは缶ピースと言って、フィルターの無い両切りの煙草なんだ。フィルター付きの煙草よりも有毒な主流煙。しっかりと味わいな。」


そう言い残し、ケイは煙草の煙を吐きながら、煙の向こうへと消えていった。



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