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37 真白との決着

 笑里との話が終わると、すっかりあたりは暗くなっていた。ようやく、我が家の扉をくぐれる。


「ただいま」


「お兄、遅かったね」


「ようやく話がついたんだ、簡単じゃなかったが。頭を悩ませている問題っていうのはさっさと解決するに尽きるって話だなー」


「そうだったんだね」


 見ていたテレビの電源を消し、こちらの目をじっと見る。頬を膨らませて、何かを主張しているかのような。


「それって、真白が学校に行けって遠回しにいってるつもり?」


「いや、俺はな」


 真白にとってはそうきこえても仕方ないところがあった。ちくしょう、俺は愛しい妹になんてミスを。


「お兄が本気でやる覚悟を見せてくれたんだもん、真白が答えなくてどうするの。園崎のお姉ちゃんのこと、きちんと受け入れたんでしょ」


「そうだな」


「今度さ、お父さんとお母さんのところに電話してみてもいいかな。今の気持ち、しっかり伝えてみたいと思ってて」


「今度っていつだ」


「じゃあ、今かな」


「無理しなくてもいいんだぞ」


「わかってる。でも、お兄が真白の背中を押してくれた気がするから」


 こんなときに、二股をかけるという結論に至ったなど、口が裂けてもいいだせなかった。バレた日には、兄としての尊厳を保てそうになくなる気がする。


「真白は偉いな」


「お兄はもっと偉い。ダサいけどかっこいい」


「なんか矛盾してねえか」


「してない。とにかく、お兄大好き」


 無上の光栄だ…… もう思い残すことはない。しかし、残念ながらテープを回していなかった…… 物理的に再生することは不可能だが、脳のテープにはしっかり焼き付けておいたからよしとしよう。


「ありがとう、妹よ」


「違う、大好きじゃない。違うから」


 顔の前で腕をばってんに重ね、必死に否定してきた。


「わかってるさ、だって真白は……」


「うるさい」


「すみません」



 それから、俺は久しぶりに両親にスマホで電話をかけた。


 別居をはじめる前とは、あまり変わっていなかった。父は父のままで、母は母まま。


 真白はたどたどしくも今の思いをしっかりと言葉にしていた。「学校にいこうと思う」のひとことは電話越しではいえなかったけれど。


「……それじゃあ、またね、お母さん。お父さん」


 通話終了ボタンを押すと、真白はスマホを差し出してきた。


「ちゃんとはなせてよかった。絶対できない、って逃げてきたけど、やってみたらなんてことなかった。もっとはやくやれていたらよかったのに」


「真白は一歩踏み出せたからそう思えるんだ。すごいよ」


「またさっきと同じようなこといってるね」


「頑張ったときにはとことん褒めて気持ちよくさせるのが教師のやり口だろう」


「お兄は教師じゃないし。むしろ生徒だし。意味わかんない」


 億劫そうにあしらわれてしまう。再度テレビを点け、みていた番組の続きを再生していた。が、途中で手がぴたりと止まる。


「たまには、違うジャンルも見てみようかな。特に絶対見なさそうやつ」


「そんなの家にあったか?」


「なかったらお兄が借りてきて」


「俺はパシリかよ」


 俺は大仰に肩をすくめて残念がると、なぜか真白は笑った。


「どこが面白かったんだ」


「見てて痛々しくて笑っちゃった」


 ちょっとそういうのはチクチク言葉だと思うぜ。もちろん怒ってないけど。

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