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36 仲直りの証

 園崎との話を終えると、俺は踵を返して我が家へと向かった。笑里のことだ。ここまで追ってこなかったということは、ずっと家の前で待っていると考えていいだろう。


 我が家のアパートが見えてくる。階段を駆け上がると、壁に背を預けていた笑里が目に入った。暗い顔をして俯いている。


「悪い、待たせた」


 笑里は目を輝かせ、パッと立ち上がる。助走をつけて力強く抱きついてきた。


「待ったんだよ。あの女と、話はついたの」


「まあ、そんなところだ」


「あの女を捨てて、私のことを選んでくれたんだ。やっぱりかずっちは……」


「悪いが、そうじゃない。あの女は捨てていない」


「どういうこと。私を選んでくれたんじゃないの」


 笑里は不意をつかれたようで、呆然としてしまう。


「そうさ、ようは笑里()選んだのさ」


「まさか、二股かけようっていうの。私だけが一番じゃなかったの」


 私だけを見てほしい。その言葉は、今の自分にとって重すぎる。かといって、捨てたくない。


「俺は笑里が好きなんだ。それだけじゃダメなのか?」


「ふざけないでよ。ねぇ、笑里とあの女──────真琴さん、どっちが好きか答えてよ! 私、そこがはっきりしないと納得できない」


 だから、俺は。


「どっちもだ!! どっちも世界で一番愛している」


「それって答えになってないよ。私は、私は……」


「好きに順位なんてつけられないんだよ」


「私は、誰とも比べ物にならないくらい愛されているんじゃないの?」


「俺は笑里がずっと好きだ。昔も、今も、これからも。でも、このままの関係は危うすぎる。笑里は自覚していないかもしれないが、愛が重いときがある。それを苦痛に思ってしまう自分がいることが許せないんだ。そう思わないためにも、俺はこれを最善策として見出した」


「身勝手だね。そんな理由で二股かけるなんて」


「でも、これが俺の出した答えなんだ。これしかないと思っている。だから、頼む。この通りだ」


「やめて、土下座なんてしないで」


「俺たちがうまくやっていくためには、これしかないんだ。もっともっと、笑里との時間を作っていきたいんだ。たとえこの瞬間笑里の心が苦しくとも、認めてもらえるまでここから動くつもりはない」


 こちらの要求がふたりの間で考えれば得だとわかってもらえるまで、折れてはいけない。要求を飲んだら負けだ。


「どうして、どうしてそんな残酷なことをいうの」


「変われるのは、今しかないんだ。今しか」


 笑里は何度も頭を抱えてはうなり、ぐるぐると歩き回って考え続けた。時間にして、体感およそ十分。


「それで、本当に私たちは幸せになれるの?」


「今と同じくらい、いいや、それ以上のものを手に入れられる。一+一が一足す二に変わったら値が大きくなることと同じくらい決まっている」


「かずっちがそこまでいうなら。私、信じてみようと思う。二股っていう選択を」


 俺は顔をあげ、立ち上がった。


「ありがとう、笑里」


 拳を突きつける。


「約束のしるしだ。二股かける以上、どっちも蔑ろにはしないっていう約束だな」


「嘘ついたら針千本飲ませるからね?」


 目が虚なまま笑いかけられる。


「笑里の場合マジでやりかねないから怖いんだよ」


「冗談きついな、かずっち」


「お前の執着心は計り知れないからな」


「そんなにひどいかな」


「鈍感ヒロイン気取ってんじゃねえよ、笑里」


「そんくらいわかってるっていってるって」


 その言葉、正直半分くらい信じていいか微妙なもんだな。


「それじゃあ、これからもよろしくな」


「こちらこそ、よろしく頼むね」


 俺たちはグータッチした。

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