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18 ホラー映画と吊り橋効果

「さて、次はどの映画だッ!」


 ビデオが積まれたテレビ台収納の中をあさり、適当なものを取り出す。


「こ、これは」


 おどろおどろしいフォントに、赤と黒を基調とした配色。思わず目を逸らしたくなるようなインパクトのある表紙の写真。


 ホラー映画だ。珍しい。一度も見たことがないやつだ。


「待ってくれよ、これはちょいと落差が激しすぎないか」


「お兄……後ろ……!!」


 真白が震えた声でいうものだから、つい後ろを振り返ってしまった。もちろん、誰もいない。


「やめろよ、まじで怖くなるだろう」


「違う、ケースの後ろを見てっていったの。怖すぎてびっくりしちゃった」


「お兄が勘違いしてたな、すまない」


 裏面を確認。これをぱっと見たら恐ろしくて腰が抜けそうだね。真白が先に怖いと教えてくれなかったらビビって漏らしていた気がする。


 パッケージの下の方に書かれたあらすじを適当に読み流し、内容の詳細を読むと。


「R15か……」


 これはなかなかきついんじゃないだろうか。真白の年齢なら、本来はアウトだし。やめておいたほうがよいのだろうか。いいや、そうではない。


 俺も真白も、怖いものは大嫌いだ。でも、人は怖いもの見たさで気になってしまうものだ。そんな自然の摂理に、俺たちは逆らえなかった。「怖ええよ、怖ええよ」とボソボソ独り言をいいつつも、本当はかなり気になっている。


「見るぞ、覚悟の準備はいいか」


「お兄、正気なの」


「ああ。いっただろう、映画はしょせんフィクションなんだ。どんなに恐ろしいことが描かれていても、現実にはいっさい関連がないんだ。そう思ってみれば、きっと大丈夫さ」


「お兄のこと、信じるからね」


 俺は快活に笑ってみせた。現在の俺は、好奇心半分、恐怖半分といったところ。ここでビビってたら、兄失格だ。妹がビクビク震えているときは、泰然と構えているなくちゃあならない。ここで恐れている場合ではないのだ。


「じゃあ、流すよ」


 メニューから本編再生を押すも、なぜか画面は暗転したままだ。機器の故障かと思ったが、音量を上げ下げには反応している。。


「妙だな」


「ねえ、もしかしてこのビデオ呪われてるのかな?」


「いいや、まさか」


 テレビに目を戻す。これまで暗転して何も映っていなかったはずの画面に、変化が。


「おい、なんだよあれ」


「なに、なに」


 映像が乱れる。ザーッと砂嵐が流れ、また画面が変わらなくなった。それから、砂嵐は消えたり現れたりを交互に繰り返すようになった。


「マジかマジかマジか」


「嫌だ、真白、嫌だ。やめて、止まって」


 切り替わるスピードはだんだん早まっていく。映像が一体化しているような感覚すらある。


 そして。


「キャアアアアアアッッッッ!!!!」


 女性の悲鳴と、人ならざるものと成り果てた女性の、顔面ドアップ映像がいきなりきた。


「うわああああ」


「おにぃぃ!!」


 真白はすかさず俺の腕をギュッと握ってきた。いつもなら天にも昇る気持ちになるのだろうが、今は恐怖の方が優っている。


「ま、ましろ。お楽しみはこれからだぞ」


「やだ。これ、こわい。お兄が隣にいてもみれない」


「それはさみしいな。じゃあここはあえて、お兄と全編みないか」


「お兄最低。真白が嫌だっていうことをやろうとするから嫌い。大っ嫌い」


「そう口ではいうけどさ。真白、さっきよりぎゅっと抱き締めているように見えるだがどうしてだ?」


 さっきまでは腕に抱きついていたのが、いつの間にか俺の背中に腕が巻かれている。


「違う、これは別。ただ怖いからお兄に抱きついているだけ。大っ嫌いは嘘だけど、ちょっと嫌いになるところだった」


「それじゃあ、許してくれるのか」」


「あとでしっかり謝ったらいいよ。お兄のこと、嫌いじゃないもん」


「ありがたきお言葉…… それを聞けただけで、俺は思い残すことなんてないぞ」


「お兄が死んじゃったら、なんて縁起でもないから絶対いわないで」


「すみません」



 意を決し、俺たちは映画本編を試聴し切った。死ぬとまではいかないが、何回かは心臓が止まったに等しかった。R15のホラー映画は、まだ早かったということだろう。

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