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婚約破棄なんてさせませんよ?愛しい婚約者様。


「セレン伯爵令嬢!君との婚約を破棄すーー」


「…あぁ゛?」


「ひぃっ!?」


顔を合わせるなり婚約破棄などと不穏な言葉をのたまった婚約者が、思わず出てしまった私の低い声に悲鳴をあげました。


おっといけない。淑女らしからぬ、地獄の底から響くような声を出してしまいました。でも笑えない冗談ですね。ジェイク公爵子息?


気をとりなおして、淑女らしく優雅に微笑みながら距離を詰めました。ジェイクの顔が更に引きつったのは気のせいです。


「ごめんなさい。今、あり得ない寝言が聞こえたものだから。ねぇ、なんて言ったの?もう一回言って?」


「き、君との、こ、婚約を、破きーー」


バシン!


言い終わるより早く、懐から抜いた扇子でジェイクのすぐ横の壁を殴りつけました。ほんのちょっぴりへこんでしまったけど、修繕すれば済む話です。

そんなことより


「ごめんなさい。今日は耳の調子が悪いみたい。もう一度お願い」


床に尻餅をついてしまったジェイクに、扇子を開いたり閉じたりしながら、にこっと笑いかけます。公爵家の息子が床に直接座るだなんて、行儀が悪いですよ?


「き、君との、婚約を…」


しゃがんで、ずいっと顔を近づけました。


「やっぱり聞き取りにくいです。でもこの距離ならちゃんと聞こえると思うので、ジェイク。はっきりどうぞ」


鼻先が触れそうな距離で睨みつけ…じゃなかった、静かに見つめました。


ジェイクはカタカタと震えています。


「ジェイク?」


「……あ…」


何故かちょっと目が虚ろです。どうしましょうか。

…よし。


「えいっ!」


ドガッ!


可愛らしい気合いとともに、閉じた扇子をしっかり握って壁に突き刺すように叩きつけました。…ようにっていうか、突き刺さってしまいましたが誤差です。


鉄扇は硬いので、こういうこともありますよね?


呆ける婚約者に喝を入れただけなのに。これくらいで穴の開く、脆い石壁の方に問題があると思います。


「ねぇジェイク。どうしたの?」


壁から引き抜いた扇子の先で、ジェイクの頬を優しく撫でました。だって私たちはまだ婚約者なのです。直接手で触れるなんて恥ずかしいじゃないですか。こうして扇子越しに触れるだけでも、頬が赤くなってしまうくらいなんですから。


削れた石壁の欠片がジェイクの顔についてしまったのはご愛嬌です。


でもジェイクはまだ、しゃべりません。黙っていたらわからないですよ?

困った人です。ここはひとつーー


「ねぇジェイク。言いたいことがあるなら言って?」


ちょっと恥ずかしかったけれど、耳元で甘く、猛毒を流し込むように囁いてみました。

こんなふうに愛しい婚約者からされて、反応しない男なんていませんよね?

案の定、ジェイクは


「セレン!済まなかった!俺がどうかしていた!許してくれ!!」


って叫んで涙を流し始めました。

なんで泣いているのかわかりませんが、こんなふうに泣きじゃくる成人男性は嫌いじゃありません。


男が泣くもんじゃない!っていう向きもあるかもしれませんが、私を信頼して弱い面をさらけ出してくれているって思うと、凄く愛しくなってきゅんときちゃいます。


こんなの見せられたら、安心させて、あげたくなりますよね?

だから、満面の笑みを浮かべて、私の想いのほんの一部を伝えてあげました。


「大丈夫。私はあなただけを、一生、ずっと、死ぬまで、死んでも、来世でも、その先でも、いつまでも、永遠に、愛しますから。ずーーーーっと、一緒にいましょうね?」


って。

気持ちが伝わるように、ちゃんと目を見て。


感極まったジェイクは、喜びのあまり涙が止まらなくなってしまいました。本当に可愛いです。


こんなジェイクを見ていいのは私だけ、です。


うふふ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ………レディーs…ゲフンゲフン、ヤンデr…ウォッホン………あー、うん、お幸せに…(目をそらしながら
[一言] ジェイクは犠牲になったのだ……古くから続く伯爵家の血統……その犠牲にな……
[一言] おお…まさしく最凶の令嬢!!!
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