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如月の初桜(はつはな)   作者: 鈴 初夏ノ影
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黄泉国(よもつくに)

スッと開いた扉の中は、ただ暗いだけ。御堂自体は小さいが、闇はそれよりもずっと奥深くなっている。私達は縹衛を先頭にその闇の中に足を進めた。両手で丁寧に包むように持った簪の、手からはみ出した部分の鈴が歩く度、チリン、チリンと小さく鳴ってまるで熊避けだ。同じように縹衛の首元に付いた鈴も鳴って、それを頼りに進んで行く。しばらくすると、縦に一筋光るものが見えた。

《これが、黄泉国への入り口の扉です。開けてもらえませんか?》

 無言のまま、扉を横に引く。しかし、開いたところは長方形に光るばかりで何も見えない。光はそれほど強い物でもないが、長時間見ていたら疲れそうな物だ。

《ここを通れば、世界が見えることになってるんですよ》

 なるほどね。深呼吸を1つ、これでもかという程ゆっくりして、怖がる心臓を宥める。

それを確認した様に、縹衛が先に光の中に飛び込んだ。まだ、心臓は恐れを成して駄々をこねている。そんな事は無視して、光の中へ同じように飛び込んだ。

☆ ☆

「あれ?」

 そこは、先程の廃神社と変わりなかった。

《朝比奈 望桜、早くそこを退きなさい。狭いんですから。》

 あの闇から出た所を考える時間もなく、突っ慳貪に言われた。けち。

 そう心の中で悪態を吐きながら、階段を降り…

「え?ぅわ!あ、朝比奈!?」

「え?きゃーー!」

 ドッタン、ドッタン…。

「あたた…」

「朝比奈悪い。あんな狭い所にいるとはおもってなかった」

「あー、いや、こちらこそごめん。あんなとこに長い間いて」

互いに謝りながら立ち、落ちた簪を拾う。良かった。折れてない。

《だから言ったのに》

 煩い。そう思いながらきっと睨む

「ここはさっきいたところと変わらないと思うのだけど。本当に来たの?黄泉国とやらに」

《ええ、勿論です。その証拠に電話が使えませんよ。ネットは使えますが。》

 …それは、つまり、ここはさっきのところは違うところだから、私たちのケータイに入っている電話帳は使えないけど、ここにもネットが繋がっているから、ネットは使えるって事?

《そういう事です》

 また読まれた。

「もう心を読まないでもらえる?ここに来たら、そうなるって、そうしてくれるって言ってたでしょ。

《はぁ、仕方ないですねぇ。個人的にこちらの方が過ごしやすいんですがね。》

 そう心に話しかけてくるや否や、淳司から狐へと変わるときより遥かに長く、強く、大きく光って目を閉じる。次に目を開けた時、その余韻が残っていた。それも終わって、あの狐がいたところを見ると、人が立っていた。人が。そう、人が立っている。

 吊り目がちな縹の瞳に、同じ縹色のツンツン頭。長身な体をモノトーンの着物で包んでいる。そのクセに、細縁のメガネまでしている。なんか、腹立たしい。

「ハァ、これで読めなくなった」

 声も先程の可愛らしい声から、大人の男の人の低いそれに変わった。細縁眼鏡の向こうの細い目から覗く瞳が私達に鋭い視線を送る。それは、まるで私達のここをどうにかして読もうとしているよう。しかし、そう上手く出来なかったらしく、また溜息を吐いて諦めた。それ程溜息を吐いていれば、来る幸せも逃げてしまうだろうに。

「まぁ、お2人は本来、焼刑か無期懲役かなんですが…」

 この皮肉な口から何やら物騒極まりない言葉が出てきたようですが、空耳でしょうか。その皮肉な言葉で笑い飛ばしてください。って、ショウケイって何?無期懲役は知ってるけど。

「ま、そういう事態から逃れるために僕がいるのです」

「つまり、私達は何か凄い悪い事を前世でして、その罪償いにその…ショウケイ?とかさられるけど、あんたがそれを回避してくれるって事?」

「そういう事です。僕はそうしようと尽力して下さる方の使者なんですがね。今現在、こうして無事に黄泉国に到着した事をその方に伝えなければ。って事でその方の所に行くのです」

 その方、その方煩い奴。そんなに“その方”が好きなのか。こんな皮肉な奴の好む人なんて、きっと碌でもない人だ。

 そんな偏見まみれの事を考えながら私は縹衛に付いて行った。

☆ ☆

 しかし、偏見だらけの予想は、的中する。

「ようやく連れて参りました」

 縹衛に連れて来られたのは、和風で小さな家。先程見た木製の札には、『雅攣』と書かれていた。どう読むのかわからないが、格好いい漢字だと単純に思った。

「あぁ、遅かったな」

 そこの住人の自室らしき部屋に通され、その住人の方が机に向かって何やら書いている。縹衛に呼ばれて振り返ってたのは。

「…真瀬!」

 白金の美しい髪、流れる血を連想させる赤い目。私の知るものとは全く違ったが、均整の取れた顔立ちに左目の下の黒子。何より、私に送られる視線の意図が読めない事。それらは全て、私の知る真瀬 ガレンそのままだ。

「ようやく、帰って来たか、望桜。」

 ガレンは不適に笑って言った。そして、何かを思い出したように。

「いや、ここではこう呼ぶべきか。」

 足を少し、後ろへずらす。持ってきた鞄を強く握る。キッと前方を睨み、歯を食い縛る。この人には、何を言われるかわからない。

 そんな風に警戒されて彼が発した言葉は。

「緋志」

 あけゆき。意図の読めない視線とは裏腹に、優しい声。そのギャップに背筋に寒気が走った。

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