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如月の初桜(はつはな)   作者: 鈴 初夏ノ影
2/15

bad end

何度目かの今日も、涙を堪えて私は帰路につく。夕焼けの朱の中、烏が私を嘲笑うように鳴いている。今度の今日の私を軽蔑するように。

「俺ら、別れようか」

これまでに何度聞いただろう。この人の、この言葉。何度聞いても、心に容赦なく突き刺さる。

「もう、わかってたんだろ。俺の心中。そうだろ、望桜みおう

もう感情の籠もらない冷たい目見詰められても、感情の籠もらない音だけの言葉で話し掛けられても、嬉しくない。されたくない。それを避けるためには、こうして別れるしかないのに、悔しさと寂しさで心が支配される。

「それよりさ、望桜(みおう)に」

「もう呼ばないでっ!」

今日この人に通して来ただんまりを崩すように、これまで重ねてきた思いにけじめをつけるように叫んだ。

「やっと喋ったか」

「『やっと喋ったか』じゃない!」

不敵に笑われる。それを見ると、余計に腹が立ってくる。

「2月14日、バレンタインの日。私、チョコ渡したでしょ。あの日から決めてた。1週間後、別れようって。去年からあんたの心中なんかわかってた。それでもね、一緒に居たかった。だから今日まで頑張ってた。別れられるように。なのに、呼び出したのは私なのに、なんであんたからサヨナラが出てくるの?なんで私が言うと思わなかったの?考えなかったの?」

いつにも増して饒舌になっている。爆発した感情を鎮火するように深呼吸する。全く、本当に凝りないな。そう自分を罵りながら息を吐いた。

「あんたは」

「別に俺は、お前の事最初から好きだなんて思ってなかった」

…知ってる。何度も何度も実感してきている。この人は、私の事なんか、一生想ってくれる事はないって事ぐらい。また爆発しそうな感情を抑えて、平気な振りをして言った。

これが、私が今日あなたに言う最後の言葉。

「もういい。私達は別れよう。サヨナラ」

…振り返れば、本当に、最悪だ。何やってんだろ。これじゃあ、最初の“今日”と同じdab end。気がつけば、いつもの廃神社に来ていた。また、願おう。また、やり直すんだ。

一段一段、踏み締めるようにゆっくりと階段を上る。何段目になるか知らないが、相も変わらず長い。この長い階段に少し辟易するが、肩で息をして上を目指す。最上階に着けば、入り口と同じような大きな鳥居。壮麗な雰囲気を(まと)うそれを(くぐ)ると、賽銭箱の縁に一本の簪が危なかしく置かれている。それを取り、取り、賽銭箱の向こう、階段の1番上に置き直す。

そして、再び賽銭箱の前に立ってーー

「我が願を届けしを。我未来で(こう)なるに、この身を捧げんとここに誓う。

我が願が聞かれしを。たとえこの日が繰り返せど、我が力残る。我が魂を捧げんとここに誓う。

神に届くはこの願。我が願が聞き届けられんと欲す」

私が、2月21日の帰り、ここに寄っている理由。

私は“今日”も、2月21日をやり直している。あの人に、あの冷ややかな表情で別れを告げられないように。

…もう、こんな事を何度繰り返しても変わらないというのに。

ただ綺麗な朱を見上げた。

「朝比奈、お前何やってんだ?」

なんで人がここに?

私はまた“今日”を失敗した。そしてまた、私はkpの廃神社に来て願の(じゅ)を唱えていたところだ。この“今日”も、皮肉に烏の嘲けた笑い声が夕闇に木霊している。

その中、これまでになかった、この場面に出でこなかった人がいる。何故。

私は何も言わずにその人物を見詰める。真顔で。

「あの…その、だな。うん、邪魔した?」

「うん。邪魔」

キッパリと言ってやった。別にどうだっていい。また“今日”を繰り返せば、この人は私がやっていた事を忘れる筈。

「何?」

何か言いたそうに口をもごもごし、目を彷徨わせていた。

「あ、いや、ごめんってだけ。邪魔だったんだろ」

「うん」

愛想なくなったな。そう思った。これは、“今日”を繰り返しているせいだろうか。孤独で冷静すぎて暗くて表情の乏しい。昔は『あんたはどこの少女マンガの主人公よ?』と言われた事もある。

「あのさ」

「ぅえあっ!うん」

鳥居の傍に立つ彼は、私から声を掛けられるとは思っていなかったようで、素っ頓狂な声を出した。

「私が何をしていたのか、知りたいの?」

きっと疑問符を浮かべている。私が何故わざわざ、長い階段を苦労して上って、古典的な言葉を言っているのか。

「いいよ、教えても」

少しかけてみた。私がこれまでに読んできた、様々なループ形物語において、“これまでになかった事”は、ループを終わらせる鍵だった。その法則に則るなら、この人はきっと、“今日”を終わらせてくれる。

「私はね、あの真瀬(まなせ)ガレンに何度も振られるために“今日”を繰り返しているの」

平々凡々なクラスメイト、神志那(こうしな)葵貴(あおき)。もし、彼が“今日”を終わらせてくれるならーーー

如月の初桜を読んで頂き、ありがとうございます。

今回は、私の技術不足により、前回の続きが同じところに表示されませんでした。前から読んでくださっている方にはすみませんでした。

まだ始まったばかりですが、これからもよろしくお願いします。

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