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trailrunners②レース  作者: 千原 文則
1/1

陣場山トレイル

いよいよ、仁の初レースが始まる

 神奈川県藤野駅、午前6時30分。まるで通勤客のような人波が出来ている。その中に瞳と仁はいる。

「マジで、俺、完走出来るかな」

「大丈夫だよ、制限時間緩いし。諦めなければね」

人波は、中央高速の上にあるフォレストゴルフ場に吸い込まれて行く。瞳と仁は会場に着くと、装備品の準備を始める。陣場山トレイルレース。全行程23、654キロのトレイルランニング。そこに菅野が現れる。

「いよいよだね、デビュー戦。今の気持ちはどうだい」

手荷物をテント内に入れて、菅野は仁に聞く。

「ドキドキですよ、完走出来るかな」

「まぁ、楽しく走れば結果ついてくるよ」

「菅野さんは、勿論優勝狙いですよね」

瞳が聞く。

「どうかな~、最近若い奴が強いからな。まぁ狙うは狙うけどな」

「このコースの攻略ポイントはどこですか」

「七キロの林道。あそこを走れれば完走出来るよ。じゃあアップしてくるから。」

菅野はそういって、アップを始める。それから間もなく、陣場山トレイルレースがスタートした。

 始めの林道をひたすら走っていく瞳と仁。道は登り坂。次第に角度がきつくなっていく。

「スゲーな。このペース持たないよ。瞳、先行ってて。ゴールで、会う」

仁のペースが一段落ちる。

「わかった。じや、ゴールで」

瞳はそのまま先に消えていく。林道の終わり、登山道の入り口で、渋滞が起きている。渋滞でようやく仁は瞳に会う。

「何が起きているの」

「入り口狭くて渋滞してる。トレランだとよくあること。今のうちに補給したほうが、いいよ」

「了解」

仁は、ハイドロから給水する。渋滞を抜けて、いよいよ本格的な山道に。瞳は小刻みな足さばきで登って行く。仁はペースが上がらず、次第に歩き出す。しばらく進むと、道は緩やかに。仁はまた走り出す。係の誘導で、右の道に入ると下り坂。軽快なリズムで仁は走る。下り切るとまた登りが始まる。


ひたすら歩き続け、登りが終わると、そこは山頂。大きな白いモニュメントが建ていた。

「やったね。山頂到着~」

モニュメントの下に、瞳が立っていた。

「山頂。じゃあ後は下り」

「そう、こっから長い下り」

「マジか」

「頑張ろう。後は半分だから」

瞳は走り出す。仁は、モニュメントを見上げ、補給を済ませて走り出す。 


下りが始まる。仁は軽快なリズムで下って行く。風かとても爽やか。紅葉した木々達が季節を知らせている。リズムに乗り出した矢先、仁は転けた。足首を捻ってしまった。立ち上がろとしたとき、後ろから来た小太りの男が止まった。

「大丈夫、足捻ったでしよ」

「あっ、はい。でも…」

仁が戸惑っていると、その男は、リュックからテーピングを取り出す。

「あっ、俺、藤谷。手当てするよ。テーピング持ってないでしよ」

「大丈夫ですよ。まだ走れます」

立ち上がり、走ろうとした仁は顔を歪める。

「ほらっ、テーピングで、固定しよう」

藤谷は、仁を座らせ、捻った足首をテーピングで固定していく。

「これレースでしょ。タイムロスしますよ」

「いいの、いいの。あんまりタイムこだわってないから。これでよし」

藤谷はテーピングを切った。仁は靴下を履き靴を履いて走ってみる。

「ありがとうございます。走れます、これなら」

仁はまた走り出す。そのすぐ脇に藤谷が走る。

「レース何回目」

「初ですよ、今日が」

「そりゃ大変だ。俺は今年、4レース目」

「そんなに。走り方とか教えてくださいよ」

「レース出てるけど、そんなに速くないから。登りは歩くしね、デブだし、走り方とかは教えられないよ。楽しみ方は教えるけどね」

「完走はしてるんでしょ。自分完走出来るかな」

「大丈夫。ここまでこのペースなら大丈夫。もうじき給水所だよ」

「やった~。後で少しですよね、山頂が半分だから」

「甘いな~。この給水所がちょうど半分。残りまだまだあるよ」

「ぇ、マジか」

「給水所から林道七キロ、登り、また山道下って、道路に出て、登ったらゴールだよ」

「頑張ります。ゴール遠い」

山道を下りきり、林道に出ると、給水所が現れた。給水には、水、スポーツドリンク、おにぎり、バナナ、梅干し、オレンジが置いてある。仁は、おにぎりをもらい、食べ始める。肩を叩かれ振り向くと、瞳がいる。

「遅かったじゃん」

「足首捻ったから、ちょっとね」

「大丈夫なの、走れる」

「テーピングで固定してもらったから大丈夫。それより、何分待ってたの」

「15分位かなぁ。じゃあ、今度はゴールでね」

瞳は、走り出す。仁はバナナを切り頬張り、ハイドロに水を入れてから、給水所を後にする。ここから、ロード。登り7キロが始まる。仁は、ランで登り始めるが、次第に登る角度がえぐくなっていく。ほぼ直線。レース参加者達のやる気を剃るように、真っ直ぐなロードは、ランナーを歩行者に変えていく。仁も歩き出す。真っ直ぐ伸びる道路をひたすら歩く。車はほぼなし。たまに猿が、旅館の軒下にいるくらい。仁は、歩く。

「なが~、マジか」

呟く仁。

「長いですよね~、みんな歩いてる。ゾンビの大行進」

「確かに、そう見えますね。ナイス例え。あなたは」

「私、板倉ミキ。毎年出てるけど、ここは毎年歩いてる」

「俺、伊沢仁。初レースですよ」

「あらー、それはそれでけっこう頑張ってルね。陣場、首都圏から近いしね。因みに、私、千葉県。始発乗って来たのよ。」

「自分、八王子なので。近いです、ここは」

「菅野さんに選んでもらったでしょ。ウエア」

「何で分かるですか」

「だって菅野しょく丸出し。赤基調で黒をアクセントにするコーデは」

「菅野さんと知り合いなんですか」

「同じ会社だもん。お店は違うけどね。多分、やれば分かるって言われたでしょ。どうなのかな、トレラン楽しい」

「その通りですよ、今のところ楽しく苦しいかなぁ」

「やっぱり~。後はゴールしてからよね、楽しみは」

「レース後の楽しみ、なんですかそれ」

「決まってんじゃ、山、レースと来れば温泉~。」

「はぁ、温泉ですか」

「無料で入れて送迎あり。これはサイコーよ」

「無料、ほんとですか」

「参加の書類の中にあったでしょ、無料券が。さぁ、もうすぐ7キロ終わるわよ。山道下りよ、頑張ろうねぇ」

板倉は、走り出し、すぐに見えなくなった。仁は、林道の終わりまで歩き、いよいよ山道の下りに入る。風が気持ちいい。土の登山道を軽快なリズムで仁は走って行く。木漏れ日が、ランナー達を輝かせる。西日になりかけの山道は、優しい光で満たされる。山道を下りきると最後の道路が現れる。やや登りの道を仁は、走っていく。ゴルフ場に敷地に入り、ゴールテープを切る仁。

「ナイスラン」

瞳がゴールで、待っていた。


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