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アットホームでクリーンな職場です、残業もありません

 軍事基地を制圧した私達は、無事にワープ装置まで辿り着くことができました。


 子猫先輩が言うには、行き先を設定して起動ボタンを押せば、瞬きする間に目的地に着くそうなのですが……。


 そもそも、このワープ装置を使って何処にいくつもりなんですかね? 街中ですか?


 沢山のコードが繋がった装置を弄っているツキトさんにそんな質問をしてみると、彼は作業の手を止めずに答えます。


「いや、コイツは『シリウス』の各支部にしか移動できない。おんなじ機械があるところにしか行けないって制限があるらしい」


 へぇー、そうなんですか。


 今、私とツキトさんが立っているのは円形の台の上、ワープ装置と呼ばれる機械の上でした。

 近未来を感じさせるような作りをしております。足元がピコピコと光っているのがそれっぽいですね。これどうなってるんです?


 まぁ、私程度の頭じゃ理解できない作りをしているのでしょう。それなら気にするだけ無駄というものです。


「……よし、設定終了っと。先輩とチップがニャックの蘇生から帰ってきたら移動しよう。いつでも起動できるから、変なところ触らないでね?」


 りょうかいでーす。


 優しい子猫先輩とチップちゃんは、先程殲滅したニャック達を蘇生しに行っています。なんでも、あのニャック達は警備の為に必要なのだとか。これも私の頭では理解できませんね。


 けれども、そうしなければいけない理由があるのでしょう。ならばその方針に私は従うまでです。こゃん。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「やあ、ツキトくんに子猫ちゃん、それにチップちゃんに……キツネちゃんか。ようこそ『シリウス』へ。手荒い歓迎をお詫びしよう」


 ……大人しく言うことを聞いた結果がこれです。従順過ぎるのも考えものですね。


 ワープした私達を出迎えたのは、武装したニャック達の軍団と、クラン『シリウス』のリーダー、キーレスさんでした。みーんな銃口をこちらに向けていますね、逃げ場もないみたいです。


 ホント、なんで『シリウス』の本拠地にワープしてるんですかねぇ!? カチコミでももうちょっと慎重になりますよ!?


「やぁ、キーレス! 突然で悪いけど、サンゾーに用があって来たよ! 戦う気はないから安心してね!」


 ツキトさんの肩の上で子猫先輩がにゃーんと鳴きました。全く怯む様子はありません。


 というよりも、こっちの面子を見てニャック達が逃げるかどうかを話し合っています。完全にこっちの有利が確定しておりますね。


 その事をわかっているのか、キーレスさんも楽しげな笑顔を見せました。


「それは助かる、君達に暴れられたらたまったものじゃない。戦う気が無いのなら大歓迎だ、クランを案内してあげよう!」


 そう言ってキーレスさんが笑うと、全ての銃口が私達にソッポを向きました。


 どうやら、私達は歓迎されているようです。姿が現れた瞬間に総攻撃をされていたら、こちらもただではすまなかった事は確かでしょうし。


「……冗談キツくないですか? 俺は先に言ってたはずですよ? クランにお邪魔しますって」


「まぁまぁ、国境警備隊の訓練も兼ねていたからね。それに君達にとっては朝飯前だろう? ところで……『キャッツ』の性能はどうだったかな? ニャック達は上手く使えていただろうか?」


 うんざりしたような顔をしたツキトさんに対し、ウキウキとした様子でキーレスさんは問いかけました。……どうやら上手いこと使われていたみたいですね。


「性能とか一撃だったからわかんないよ。もうちょっと頑丈なのを用意してほしかったな」


 まぁ子猫先輩にとっては遊びにもならなかったみたいですが。


「まぁ実験機体だからね。……とりあえず、移動しながら話をしようか。チップちゃんも、新しい機体を探しに来たんだろう? ゆっくりと見ていくといい」


 そう言ってキーレスさんは踵を返し部屋を後にしました。


 ここまで来て殺されることがないということは、別に警戒する必要もないでしょう。


 私達もその後に続き、部屋を出ました。




 自動ドアを通り、まず目に飛び込んで来たのは広大な空間です。大きな工場の様で、立ち並ぶアーマーズと、それを整備する人達が工具を持って忙しそうにしています。


 まず普段の生活では見ることのない光景に、私は思わず口を開けて驚いてしまいました。


「キツネちゃんは初めて来たのかな? どうだい? 君達の国は未だに電気が通っていないそうだし、同じゲームの世界とは思えないだろ?」


 言われてみれば、天井には電気がついておりました。リアルでは当たり前の事なので気にしていませんでしたが、確かに大きな違いです。


 こんなに発展しているとは思っていませんでした。

 私はてっきりプレイヤーが頑張って国を成長させたものだと思っていましたけれど、この感じだと元からこんな感じなのでしょう。


 そうなると、どうやって電気を発電しているか気になりますね。……どこかに発電所みたいなものがあるのですか?


「いや、自家発電だ。地下で奴隷達が発電機を手回ししてる」


 キーレスさんは至極真面目な顔をしてそう言いました。……思ったより黒い!?


 それってあれですよね、よく漫画とかで見掛ける奴隷が回しているよく分からない奴ですよね!?


 えらく非効率的じゃありません!?


「キーレス、アタシの仲間をおちょくるのは止めてくれよ。普通に発電施設あるだろうが」


 チップちゃんは呆れたようにそう言ってため息を吐きました、ちょっとした冗談だったみたいですね。


「ははは、ゴメンゴメン。オジサンちょっと調子のっちゃったよ。うちのクランはアットホームな所だから安心してほしいな」


 不安しかない!?


 このクラン本当に大丈夫なんですかねぇ!? ゲームの中でもブラック企業が蔓延っているとか、勘弁願いたいのですけれど!


 ……と、思っていたの一瞬の事でした。


 アーマーズの生産工場や、様々な銃火器を売っている売店、大量の資料を保管している作戦会議室等、興味深い物を見せていただいた私達はすっかり観光気分です。


 徐々に出来上がっていくアーマーズを、ツキトさんは少年の様な目で見つめてましたし、射撃場でいろんな銃火器を試し撃ちしてチップちゃんも楽しそうでした。


 まぁ敵の装備を知るという意味ではとても有意義ではあります。必ずや、戦場においてこの情報は役に立つことでしょう。でも……。


 ……皆さん目的を忘れてません?


 ここに来たのは、私とツキトさんが保有している『真理の翼』を武具に加工できるかどうかを試してみるという話だったのでは?


 早くその鍛治士さんの所に行きましょうよ。私も街の方を見てみたいので。


「ポロラ、我慢できてないよ? 遊びに行きたいのかい?」


 そ、そんなまさか。子猫先輩も人が悪い。


 けれども、物作りというものは時間が掛かるものですから、待ち時間をどう過ごすかは各人の自由だと思うのですよ。


 時間というものは有限ですし?


 有意義に使うべきだと私は提案いたします!


 別に、どんな名産品やお店があるのか気になった訳ではありませんでしたが、私はそう言って皆さんの同意を募りました。


「あ、言っておくが、こちらの国は人種差別の文化が残っている。出歩くなら、その立派な尻尾は隠した方が良いだろう」


 おっと、観光は中止ですね。


 キーレスさんの口から人種差別とかいう恐ろしい言葉が飛び出しました。きっと、ちゃんとした人間じゃないとケモノと同じ扱いをされるとかそんな感じでしょう。


 ……街中を歩いていて、いきなり襲われるのは嫌ですからね。大人しくすることにします。


「あれ? 最近はそういうの減ってきてるって話じゃなかった? ニャックを雇用しているのも差別を減らすための一環って僕聞いてたけど」


 そうなのですか?


 確かに、あんなにおかしな生物に国境の警備という重要な仕事を任せている辺り、そんな恐ろしいものが残っているとは考えにくいです。……もう、また冗談ですか?


 オジサンっていう生き物のサガなのはわかりますけれど、そうやって若い子をおちょくるのは止めた方がいいですよ?


「い、いや、冗談じゃないんだよ。言ってしまうとツキト君以外は街に出ない方がいいかも知れない……」


「はい? むしろ俺はいいんですか? 俺指名手配中ですよ?」


 …………。


 また嫌な予感がしてきました。


 指名手配犯が街をうろつくよりも、私達みたいな無害なプレイヤーが観光に行くことの方が危険。


 そして、私とチップちゃん、子猫先輩の共通点と言えば……。




「最近、街中で『もふもふ教』っていう新興宗教が流行っているんだ……。その宗教のせいでニャックや獣人の子達が被害にあっててね……、セクハラ紛いな事をされているらしい。人種差別の一つとして問題になっているんだが……」




 せ、セクハラもふ魔族……!


 最近は出会うことがありませんでしたが、奴等は確実に生き残っていたようです。寒気がします。


 くっ……、こちらの国はマトモだと思っていたのに、結局頭のおかしいプレイヤーが湧いているじゃありませんか……!


 ええい! こんな国に長くいられるもんですか!


 私だけでも鍛治士さんの所に行きますからね!


「ちょ、ポロラ!? どこ行くの!? そっち逆だよ!?」


 私はチップちゃんの制止を振り切り、逃げるように建物の置くに走って行ったのでした……。








 数分後。


 迷子になった私は『発電室』のネームプレートが表示された部屋の前で保護されて、鍛治士さんの元に案内されました。


 発電室からはなにやら呻き声のようなものが聞こえていましたが、何も聞かなかったことにしましょう。さっきのは冗談だったのですから、きっと私の気のせいです。


 そう自分に言い聞かせ、私は綺麗な物をしか見ないことを心に決めたのでした。

・奴隷が回しているあれ

 大きな臼の様な物に、持ち手を取り付けたような装置。複数人で回すことにより何らかの動力として使用することができる。実際に見たことが無い物の一つ。

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