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ニャック

※作者多忙のため次の更新は明日か明後日になります。御容赦ください。

 ザガードとの国境前。


 ツキトさんからカチコミに誘われた私は、正式な手続きを持ってお隣の国に入ろうとしました。

 なので検問所にて、二足歩行の猫のような生き物に点検をされ、入国の審査をされたのですが……。


「……過去の犯罪歴がやばすぎるにゃ。お引き取りねがうのにゃあ~」


 ダメでしたね。


 いきなり現れた沢山の猫型不思議生物に担がれ、私は建物の外にポイっと投げ捨てられてしまいました。……ふ、ふざけるんじゃないですよ! マスコットキャラ風情が!


 私は地面に這いつくばりながら、追い出したニャックに悪態をつきました。


 ……実はこのゲーム、『ニャック』というマスコットキャラクターが存在します。


 見た目は可愛い感じの二足歩行をするにゃんこですね。身長は人の腰位しかなく、個体によっては街中で働いていることもある友好的なモンスターです。


 まぁ街の外で見かけるのは、徒党を組んでプレイヤーを襲う奴等なんですけどね。初心者が見た目に騙されてミンチにされるというのはよく聞く話でした。……なんでそんなのが検問所で働いているんですか。もう。


 しかし、どうしますかね。


 もし私だけが通れないということになると、置いてけぼりになってしまいます。それはつまらないです。


 最悪密入国をしてでも、他の方達の後を追うことになるでしょう……。


 と、私が悪巧みをしている間に、さっき放り出された検問所から人が投げられました。


「え? なにすん……ぎょえ!?」


 地面を転がっていくツキトさん。


「わわわ!? 乱暴にしないでよ! あぶっ……着地!」


 見事な猫着地を披露する子猫先輩。


「にゃにゃにゃにゃ……ニャーーーーーーーック!!?」


 叫びながら飛び出してきたチップちゃん。


 …………。


 全員ダメだったみたいです。悲しいですけれど、私達は全員危険人物のようでした。ひどい言われですね。


「俺あっちで指名手配されてんのかよ……初めて聞いたわ……」


「おかしいなぁ? 善行値は問題ないはずなんだけど? やっぱり滅亡させた前科のせいか……」


「うう……やっぱりニャック怖い……急に現れたんだけどアイツら……」


 一名除き自分達の驚異度合いを自覚していませんね。チップちゃんも一緒に来てくれて正解でした。この二人を私一人で相手にするのは少々無理がありましたから。


 ……っていうか、もうチップちゃんの能力で密入国しちゃいましょうよ。正直余裕でしょう? 私達位の人数なら大丈夫ですよね?


「い、行けるけど、今回は国境沿いの軍事基地に用があるって言って聞かないんだよ。なんかワープ機材が置いているらしくて……」


 チップちゃんが指差した方に顔を向けると、金網のフェンスの遥か向こうに、大きな建物が見えました。おそらくあれが、国境を守る軍事基地なのでしょう……って、ワープ!?


 このゲームって中世時代のファンタジーじゃないんですか!? 明らかにオーバーテクノロジーなのですけれど世界観は大丈夫なんですかね!?


「今更なに言ってんのさ? チップの装備を見ればわかるだろ? ぶっちゃけ何でもありだって、作ろうと思えば何でもできるらしいし」


 子猫先輩はやれやれといった感じで首を振りました。


 どうやらザガードという国は、私達の国であるアミレイドよりも遥かに発展しているようです。……戦争始まるらしいですけど、勝ち目あります?


「あー、一応アミレイドが魔法大国、ザガードが機械帝国みたいな設定なんだ。実は魔導兵器があったり、魔法に強い『プレゼント』持ちが多いらしい」


 私の素朴な疑問に、ツキトさんが地面に倒れながら答えてくれました。……目の前に魔法が使えない人間がいるのにそれ言います?


 実のところ結構気にしてはいるのです。回復も移動も、全てアイテム頼りですからね、私。

 大きめな負傷をした際には死を覚悟しなければなりませんが、それは置いといて……。


 それで具体的な解決案はあるのですか?

 やはり多少時間がかかっても、チップちゃんの能力で目的地まで行ってしまうのが一番だとおもうのですが?


「いや、それだとチップの負担がでかい。流石に四人を運べばガス欠になるだろう。……だからだ。もっと簡単な方法で行こうや」


 そう言いながらツキトさんは立ち上がり、服に付着した汚れをパンパンと払います。


 どうやら何か考えているようですが……なんですかね?


 すんごい、嫌な予感がするんですけれど……。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「いけいけいけ~! 進め進め進め~!」


「ニャックの攻撃程度くらっても死なねぇ! ゴリ押しだ! ゴリ押しぃ!」


「攻撃される前に殺す! 狙撃主ナメんなぁ!」


 結局こうなるんですね! わかってましたよぉ!


 国境を不法に乗り越えて、私達はザガードの軍事基地めがけて走っていました。


 前方からは兵士の服装のニャックが銃弾をこれでもかと言うほどに撃ち込んできます。


 それを私は大爪を盾にしてはじいて進み、子猫先輩は魔法で、チップちゃんは小銃で反撃していました。ニャック達のにゃあにゃあという叫びが聞こえてきます。


 ツキトさんの言うとおり、ニャック達の攻撃は大した事はありません。大砲のような物もありましたが、それはチップちゃんが優先的に破壊してくれたので驚異ではありませんでした。


 次第に距離も詰まっていき、軍事基地はもう目と鼻の先です。


 ……というかツキトさん何もしていませんね! 女の子ばっかに任せて恥ずかしくないのですか!?


「うっせぇ! 俺が活躍すんのはこっからなの! ザガードの主力兵器が出てきたら頑張るから!」


 主力兵器?


 全力疾走をしながらクレームを付けると気になるワードが出てきました。軍事国家の主力兵器とか絶対相手にしたくないんですけど。


 そう思っていると、軍事基地の方が騒がしくなってきます。ニャック達の小銃分隊のようですね。……もしかして、やな予感的中?


「おみゃあらー! 死んじゃダメにゃー! メディィィィィィィィック! メディィィィィィィィック!?」


「タマー! タマ持ってくるにゃー! ……え、もう無いのにゃ!?」


「こうさん! 降参するにゃ! でも降参したら怒られるにゃ! こあい!」


「それなら……手段は一つ! しゅつげきにゃあああああああああああああ!!」


 うっさ。


 指揮官らしき服装のニャックが叫ぶと、軍事基地から十体程の巨影が現れました。それはガシャンガシャンと音を立てながら私達の目の前に立ち塞がったのです。……これは、ロボット?


「にゃははははははははは! これぞ、みゃあ達の専用機、『キャッツ』にゃあ! テメェラなんて全員ひき肉にゃああ!」


 現れたそれは、ニャックを型どった大きなロボット達でした。二頭身で頭には猫耳がついています。まるでオモチャみたいですね。


「出たよ! アーマーズだ! あれを全部倒せばこの軍事基地は落ちたも同然さ!」


 ……アーマーズ?


 子猫先輩の言葉にハッとして、私はチップちゃんに振り返りました。


 確かタビノスケさんと戦ったとき、彼女が乗っていたロボットも同じ呼び名だったはずです。


 圧倒的な火力と兵装が印象的だったと記憶しております。……それがこんなにいるのですか? 思っていたよりも厄介ですよ?


 私がそう言って苦笑いを浮かべると、チップちゃんが叫びました。


「問題ない! アーマーズは乗り手のステータスで強さが変わる! ニャックが乗っているのならアタシ達でも倒せる……と思う」


 え、最後何か言いました?


 なんかちょっと不安そうな事言いませんでした? もしかして、かなり強化されるんです?


「総員! 殲滅よーーーーい! ぶっぱなすのにゃあ!」


 指揮官ニャックが声をあげると同時に、『キャッツ』達に動きがありました。

 口と腹部から巨大な砲身が現れ、私達に向かって砲口を合わせます。


 そして、エネルギーをチャージし始めました。みゅいんみゅいん、というチャージ音が至るところから聞こえてきます。……これはやばそうですね。撃たれる前に倒さなければ……。


「だから俺達がいるんだよ。……いきますよ、先輩!」


「ああ! 暴れてやろう、ツキトくん!」


 私が目の前の光景に怯んだ瞬間に、ツキトさんは一気に飛び出しました。


 それと同時に、子猫先輩が肩から飛び降りて人間モードに変化します。本気で叩きにいくみたいですね。


「さてとぉ……皆殺しだ」


 ツキトさんは大鎌を手にして、目の前の『キャッツ』に襲いかかりました。そして、大きく武器を振り抜いたかと思ったら、機体は五体バラバラになって爆発してしまいます。……はぁ!? 今一回しか攻撃しなかったでしょ!? インチキか!


「さて……どれだけ丈夫になったか……な!」


 子猫先輩は『キャッツ』の頭上までジャンプして、脳天にその拳を叩きつけました。


 すると、機体はその衝撃に全身をひしゃげさせながら地面に埋もれていきました。最終的にはペッちゃんこになってましたね。子猫先輩やべぇ。


「……? 前より脆くなってない?」


 地面に着地した子猫先輩は不機嫌そうな顔をしています。一撃で潰れてしまったのが不満みたいですね。……子猫先輩やべぇ!


 そんな異常な様子を見て、指揮官ニャックは悲痛な叫びをあげています。早く撃てやら、死にたくないやら(わめ)いておりました。……まだ攻撃が来ないのなら、私も試してみますかね?


 私は新しく三本の大爪を作り出しました。


 硬度、切れ味、共に最高値。


 魔法戦士のスキル、属性付与発動。『深淵』を除く全属性を付与。……おそらくこれが私ができる全力の攻撃でしょう。


 さて。




 どこまで通じますかね?




 私はニヤリと笑いを浮かべて、一気に大爪を射出しました。


 チャージをしている砲口を目掛けて撃ち込まれたそれは、機体を貫通し地面に突き刺さります。属性攻撃の効果もあり、機体は完全に動きを止めてしまいましたが……な、なんですと?


 貫通してしまう事については別に驚くことはありませんでした。むしろそれ位できなければショックです。


 私が驚いたのは、大爪が当たった場所の変化でした。


 相反する属性まで詰め込み過ぎたせいでしょうか? 目の前では信じられない状況が起きています。


 撃ち込まれた場所から、属性攻撃のエフェクトが侵食するように広がり……。




 『キャッツ』は風化するように消滅してしまったのです。




 え、なにこれ、こわっ。


 こんなの見たことないんですけれど。


 これどうなってるんですか、子猫先輩……。


 あまりにも予想外の状況に呆然としてしまい、私は子猫先輩に助けを求めました。

 多分なんでこうなったか彼女なら知っているんじゃないですかね? 困った時の子猫先輩ですよ!


 さぁ、私の求める最良の答えを……。


「……いいね!」


 『キャッツ』を殴り飛ばしながら、子猫先輩はこちらにサムズアップしてくれました。……やったぁ、子猫先輩からいいねをもらいましたよ。いえぇい。


「いやいやいや、絶対おかしいでしょ。今の反応見たことねぇぞ……」


 あ、ツキトさんが残った『キャッツ』を粉微塵に切り刻んでマトモな反応してる。やっぱり常識人枠なんですねぇ。


 ……つまり、誰もわからないということですか。


 この前の検証で色々とわかったつもりでしたけど、もしかしたら『妖狐の黒籠手』にはもっと私の知らない何かがあるのかも知れません……。


 私はそう考えて、驚いた顔をしているツキトさんを見ました。


 ……復讐を忘れたわけではありません。絶対に追い付いて、私を殺した事を後悔させてあげますよ。


 それができる力が、この『プレゼント』にはあるのですから。


 必ず、強くなってやりますよ。


 私は決意を新たにし、強く拳を握りしめたのでした……。







 ちなみに、『キャッツ』を破壊されたニャック達は私達に寝返りました。白旗を全力で振ってましたよ。ええ。


 ワープ装置を使いたいといったら快く承諾してくれましたしね。なんならお茶とお菓子もだしてきました。


 死なないためならなんでもできるそうです。


 ……。


 こんなのがマスコットキャラクターって、このゲーム大丈夫なんですかね? 生態が可愛くない……。

・チップとニャック

 チップには昔、ニャックの集団に攻撃を仕掛けて返り討ちにあった過去がある。数体のニャックにナイフで刺されたり、こん棒で殴られたりして、未だに苦手意識が抜けていない。近くにいた冒険者に助けを求めたが見殺しにされた。





※今週も残業多めで不定期になりそうです。なるべく予定通りに更新する予定ですが、できなかったら申し訳ありません……。

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