Let's 検証タイム
『妖狐の黒籠手』。
私の『プレゼント』であるこの腕装備からは、まるで木々が成長する様に刃が発生します。
以前の『幼狐の黒手袋』の名残からか、その発生した刃は好きな形状に変形させる事ができ、様々な局面に対応することができるのです。
しかしながら、デメリットとして私自身は魔法を使用することができません。
そのため、物理攻撃が効きにくい相手には苦戦することもありました。まぁ、それをカバーするためのスキルも、ちゃんと用意してはいますが。
さて、以上を踏まえまして……。
今回問題になったのは『この黒籠手で作られた武器は、いったい何の武器スキルを基準に使われているのか?』という点です。
例えば、最初は銃の形をしていても、私の気分次第ではとたんに槍の形に変化させる事もできますし、盾の形にすることもできます。
いえ、別に既存の形に囚われる必要もなく、ただの刃の集合体として使うこともできました。……もちろんそうやって使っても、私は経験値を取得しています。武器スキルのレベルは上がっていました。
そして『妖狐の黒籠手』には注目すべき特性があったのです。
それが『作成した装備で戦う場合、武器スキル及び戦闘スキルは、最も高いスキルレベルで戦闘に反映される』というもの。
この一文、黒手袋の頃から装備の説明として残っているものなのです、私はこの意味をよく理解していませんでした。
全ての戦闘、武器スキルを参照し、最も強いスキルを反映しているということは……。
全てのスキルに影響しているのと同じ事である……らしいです。子猫先輩が言うには、影響しているスキルには経験値が入るのは当然と言っていました。つまり全ての戦闘スキルを基準として扱っていたということですね。
ということで、私の『プレゼント』の真価が判明したわけですけれども……。
「すごい、普段使わないステータスがガンガン上がる……! ツキト、頑張れ! アタシの攻撃を受け止めてくれ……お前なら大丈夫!」
「なんで!? なんで俺狙われてんの!? ねぇ聞いてる!? 先輩、せめて俺にも説明を……おわっ! かすったぁ!」
ぐんぐん上がるスキルレベルに感動したのか、チップちゃんは機関銃を手にしてツキトさんを追いかけ回していました。
私の能力は修行するにはもってこいのようです。
襲われているツキトさんは迫り来る銃弾を見切り、命を繋ぎ止めています。……多分、大丈夫ですね、死にはしないでしょう。
「修行を頻繁にする人は、普通ならステータスが片寄るんだよ。近接武器なら筋力や耐久が、遠距離武器なら感覚や速さが上がるみたいにね。武器によっても変わるけど、パワータイプの人は耐久が低い事が多いね」
えっと、つまりは皆さんのステータスはそんなにバランス良く成長していないんですか? 私のは大体一緒なんですけど……。
「それが異常なんだよ。前にポロポロには槍を使うのをオススメした事があったでしょ? 槍を使うと耐久に経験値が入るから、バランス良く成長しているって聞いても、おかしいとは思わなかったんだ。もう少し一緒にいれば気付いてあげれたかも知れないけど」
確かに普段は師匠に言われたとおりに槍を使っていましたね。使いやすかったので。
けれど今まで普通の武器なんて滅多に使っていませんでしたし……他の人と違うなんて、全く知りませんでしたよ。
私は部屋に響く銃声をBGMにしながら、子猫先輩と師匠の講釈を聞いていました。
ちなみに、チップちゃんもただ遊んでいるわけではありません。黒籠手武器を使った時の、ステータスとスキルレベルの上昇量の検証をしてくれているのです。
あ、ついでに言っときますとツキトさんは協力者です(事後承諾)。
現在の私達はそんな感じで、検証を進めていきます。
「とりあえず、質問していくけど……距離による威力減衰はあるのかな? 前におっきな杭みたいなのを飛ばしていたのを見たけど、近くに攻撃したときと、遠くに攻撃した時の違いは?」
子猫先輩から質問がきました。質問に答える形式で詳しく調べていく形式の検証みたいです。……そうですねぇ、大して差があるようにはありません。
あ、もちろん命中率は落ちます。あんまり遠いと操作に支障がでる感じはありますね。雑にぶっぱなす事が多いのも理由ですけど。
「ポロポロさ……勢いだけじゃなくてちゃんと勝ち筋を立てて戦う事を覚えようよ。そういうとこだよ?」
……?
刃物で突き刺せば、人は死にますが?
私が首を傾げながら常識を口にすると、師匠は床に崩れ落ちました。小さく嗚咽を漏らしております。
「命中が落ちるのは多分ポロラの感覚の問題かな? 機械とかを使って視覚の補助ができれば、命中率も上げれるかもね」
へー、そういう事もできるんですか。機械っていうのが少し不安ですけど……。
「改造手術を視野に入れておくといいよ、良いことばかりじゃないけどね。……それじゃあ、武器にしたときの性能はどうだい? 威力不足を感じたりはしないかな?」
武器自体の威力って事ですかね?
特に不満に思うことはないですかね。一応、大雑把な威力と硬度は設定できるんですよ。普段は切れ味も硬度も最低にしていますけど。
「え、なんでそんな事をしてるのさ? 設定できるなら、普段から全力だして行こうぜ? パワーは力だよ?」
子猫先輩はそう言ってネコパンチでシャドーボクシングを披露しますが、私としてはどちらも最低にしておいた方が都合が良いのです。
……実のところ、どちらも最高の強度にすると使い勝手が悪いんですよね。
咄嗟の攻撃は防ぐことはできないかも知れませんが、作るときのコストがかからないので様子を見る位ならこれでいいんです。
「コスト……? 武器を作る為に消費するものがあるのかい?」
私の答えに引っ掛かるものがあったのか、子猫先輩はピクリと耳を動かしました。……ええ、強い物を作ろうとすると、スタミナを結構持ってかれてしまうんです。
ですので、普段は細かい刃を大量に重ねたり連ねたりして大爪を作って攻撃しています。攻撃が当たってもすぐに修復できますし、当てれば重量でいいダメージを期待できますから……。
それと、属性を付与するとMPも持ってかれます。最近は物理耐性持ってる相手と戦わないので使ってませんg
「ちょっとまった!? 属性付与だって!? 君ってもしかして『魔法剣士』!?」
わっ、どうしたんですか?
子猫先輩はいきなり目を大きく見開き、大きな声を出しました。
べ、別に魔法戦士なんて、珍しい職業じゃ無いでしょう? 属性付与もそんなに強い強度ではありませんし、何もそんなに驚く事は……。
「武器の属性は重要だよ! 第一、魔法戦士の属性付与の強度は、自分自身の耐性が強ければ強いほど上がる! 君は装備を新調したじゃないか! 忘れたのかい!?」
え、そういう仕様なんです? これ?
そういえば私、ヒビキさんに装備を貰ってから、属性付与のスキルを使っていませんでした。
前のそれほど強くない装備でも、連打すればそれなりの打点は出ていましたし……もしかして、今ならもっと強い攻撃が繰り出せるんじゃ……。
「出せるよ! しかも、属性付与は重複ができる! 知っていると思うけど属性の状態異常は戦闘において重要だ! 武器に属性付与をできる事がどれだけ強いか理解してないな!?」
は? あれって重複できるんです!?
驚愕の真実に、私は驚きを隠すことができませんでした。
属性攻撃による追加の状態異常は、あれば少し嬉しいという位のものです。
火炎なら火傷。
氷結なら凍え。
電撃なら痺れ。
衝撃なら朦朧……等々。
追加のスリップダメージや行動を一瞬鈍らせる程度のもの、特殊な状態を付与するものまで様々です。
一つ一つはそれほど強くありませんが、もしも同時に与えることができたのならば、これ程強力な攻撃はありません。
その事実に気づいたからこそ、私は完全に固まってしまいました。
「ポロラ、君の存在は確実に保護対象だ。君ができる事を不用意に他人に話してはいけないよ。悪い人に捕まってしまったら、君は使い潰されてしまう。永遠に閉じ込められて、武器を生み出す為だけの存在になってしまうよ……」
子猫先輩は、本当に心配そうな声でそう言いました。
保護対象というのはよくわかりませんでしたが、私が悪意のある人物に利用されてしまうことを危惧している、ということはよくわかりました。
……けれど。
大丈夫ですよ、子猫先輩!
実のところ、この能力そんなに都合がいいものじゃ無いんです。見ててください、あそこにチップちゃんがいますね?
「え? ……あーあ、追い詰められてる」
私が指差した所には、部屋の隅でガタガタ震えるツキトさんと、うりうりと銃口を押し付けているチップちゃんがいました。……黒籠手の能力を解除すると、こうなるんです!
「さぁ……ツキト。諦めてアタシの修行相手に……あれ?」
「い、一方的な暴力は、修行とは呼ばな……お?」
黒籠手が手袋の形に戻ると、チップちゃんが手にしていた機関銃が消失してしまいました。いきなり装備が消えて彼女は不思議そうな顔をしています。
そう、そうなんですよ。
私が作った物は、能力を解除すると無くなってしまうんです。ですので、武器を大量に作り出して、街中で売りさばこうとしても意味は無いということですね。買い取ってくれないのです。
…………。
……い、いや、やってみた事があるわけじゃ無いんですよ? そう思っただけです、ホントホント……。
「や、やったんだね……。絶対やるなって言ったのに……」
師匠、誤解です。
貴女の弟子を信じて、お願い。
光の灯っていない呆れたような目で見てくる師匠の顔を、私は直視できませんでした。
「まぁポロラの素行の悪さはさておいて……」
悪くないですよ?
子猫先輩が私の真実に気づきかけていましたが、問題はありません。即座に否定しました。
「修行に有用な道具を用意できるのは、クラン全体の強化に繋がると思うんだ。もしもポロラが嫌じゃ無いのなら、君がログインしている間だけでも、その『プレゼント』を貸し出してあげるのはどうかな?」
む。
確かにクラン戦を控えている私達にとって、修行は大事です。けれど、さすがに数百個も武器を作る事は面倒なんですよね。
時間もかかりますし、それやる位なら普通に修行した方が……。
「え、今数百って言った? 分派したクランの数を合わせてもそんなに多く無いよ? もしかして、全員に配れるんじゃない……?」
「さっきのを皆に配れる? ……ポロラ、できるならお願い。正直言ってうちのクランは初心者も多いから、イベントを楽しめない人も多いかも知れないんだ。だから少しでも強くしてあげたい……ダメ?」
はい、やりましょう。
私は子猫先輩の話を聞いて飛んできたチップちゃんの手を握りしめ、速攻で承諾しました。
だって、目を潤ませながら、上目遣いでそんな事言われたら断れないじゃないですか。可愛いんですもん。虐めたくなります。
……もう、仕方がありませんからねぇ。
修行用の硬度が最高で、威力が最低ななまくらを、皆さんに大量に配布しましょう。
『ノラ』の強化に協力します。
これが私の『プレゼント』の真価だというのなら……。
試してみない理由はありませんからねぇ!
……こうして。
私の黒籠手武器による、クランの修行が始まったのでした……。
「で、俺が殺されそうになった理由は?」
え……ノリですかね?
「ツッキーさん馴れてるでしょ?」
「なんとなく、ちょうどよかったし」
「ツキトくんなら許してくれると思った。お詫びに僕のこと好きにしていいからさ、許して?」
ボロボロのツキトさんは私達の顔を見渡して、全てを諦めた様に笑いました。
やっぱり苦労人みたいです。ドンマイ。
・威力減衰
弓矢や銃等の遠距離武器は目標と距離が離れれば離れるほどダメージと命中率に下降補正がかかる。例外として、レーザー銃は威力が落ちる事は無い。
・改造手術
身体をサイボーグ化させる行為。一度死亡すると解除されるが、ステータスが大幅に上昇する。しかし、メンテナンスが必要だったり、手術が失敗することもあるので注意。
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