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お前らどんだけ情報持ってるんだよ…… by チップ

『あ、でも会議は続けるからね? 情報の共有はしておきたいから。兵士くん達には帰ってもらってもいいかな?』


 戦争を挑んできたキーレスさんに対して、子猫先輩はそう答えました。……いやいやいや。子猫先輩、それはおかしいでしょ、そこは無理矢理叩き出すところではないのですか?


 というかいきなり戦争を始めようとする人が、まともに話を聞くわけが……。


『む、すまない。……よし、お前達は下がっていいぞ。光学迷彩のお披露目も終わったしな。後は会議が終わるまで観光でもしていてくれ』


 あら常識人。


 キーレスさんはいきなり現れた部下達に対して、退室するように言いました。

 その指示に対して兵士達は、「あ、マジすか? 失礼しやした~」「お土産かってこ~」「なんかここのクランの日本酒が有名らしいよ?」などと楽しそうにおしゃべりをしながら退室していきます。


 その様子を訝しげな目付きで眺めていたタビノスケさんが一言……。


『え……さっきの奴等、何しに来たんでござる?』


『ちょっとした技術の紹介だよ、タビノスケ君。光学迷彩を開発することができたからね。売り込むのなら実際に見てもらった方が早いから』


 商魂逞しいですねぇ。


 光学迷彩というのは、先程の兵士達が着けていた機械の事でしょうか? 周囲の風景に溶け込む事ができれば、偵察や暗殺等の仕事がとても楽になりますね。


 欲しがる方もきっと沢山いらっしゃるでしょう……。


『それと、他にも新装備を幾つか用意してある。きっと君達が気に入る物があるだろう……もちろん、その効果は君達自身に体験してもらうけれども』


 そう言って、キーレスさんは静かに自分の席に戻りました。その様子を見て、ヒビキさんはため息と共に口を開きます。


『ふぅ……つまり、戦争とは名ばかりで、新商品の売り込みをしたいということですか? 意外に大胆な事をするんですね、キーレスさん』


『そうかな? けれど、イベントが始まるまで君達も退屈だろう? こちらの国に出現した邪神群は歯応えが無くてね、イベント前に強い敵と戦いたくて仕方がなかったのだよ』


 結構ムチャクチャ言いますね、このサイボーグさん。


 つまるところ、自国で生産した装備のプロモーションと強い敵と戦いたいという欲望を満たしたいだけじゃないですか。


 自分のやりたいことを他人に押し付けて来るのは、誉められることではありません。しかし……。


『いいね! 大暴れできる場を用意してくれるのは僕も大歓迎だ! 降参は無しでいこう! 先に全滅したほうの敗けで!』


『……アタシもみー先輩に賛成だ。ここまでなめられたら黙ってられる訳がない。やってやる』


『長がそう言うのならば俺に反対する理由はない。『ノラ』の集団行動がいかに有用か、その身を持って教えてやろう』


『うねうね……ストレス解消に殺してやる……女の子に良いとこ見せたい……うねうね……』


『拙者も参加するで候う。前はお前達にはしてやられたでござるからな。皆殺しでござぁ』


『悪くないじゃないか。売られた喧嘩は買ってやるよぉ、なめられたままじゃいられないからねぇ……!』


『戦争の準備はボクの店をご贔屓に。何でも売るよ。『オーダーメイド』をよろしく』


 皆さんやる気満々ですね。


 全員が鋭い目付きでキーレスさんを見つめていました。このまま戦闘が始まっても不思議ではないでしょう。


 けれども、そこは皆さん各クランのリーダーですから、楽しみの抜け駆けをするような事は致しません。

 皆さん大人しく自分の席に着きました。


『さて、それじゃあキーレスからは以上でいいかな? 何か有用な情報があれば助かるけれど?』


『……すまないが、今言える情報は無いな。戦争後にまた情報を開示できる場を整えてくれると助かる』


 うーん、なんか納得いきませんねぇ。


 場を混乱させておいてお咎め無しというのはどうなのでしょうか? 見ていた方の中にも不満を持った方がいらっしゃるのでは? 


 んー……前みたいに、乱入でもしてみますかね。盛り上がるかもしれません。


 そんな事をボソリと呟くと、周りにいた自称お兄ちゃん'sが全力で止められました。……やだなぁ、冗談ですって。本当にやるわけ無いじゃないですか。ははは……。


『それじゃ、次は私が行くかねぇ。……本当だったらここにいるのはワカバのはずだったんだけど、アイツはもう行動しているらしいから代理で来たよ』


 ウィンドウにメレーナさんが映し出されました。相変わらず不敵な表情をしております。


『代理? どういう事だ? もう行動しているとは?』


 チャイムさんがそう聞くと、メレーナさんは、チッ、っと舌打ちをして視線をギョロリと動かしました。


『……前アンタと戦った時、賭け事をしただろう? それで『紳士隊』が保有しているアーティファクトを『ノラ』に譲渡するって話覚えているかい?』


 ああ、そういえばそんな話もありましたね。


 その後どうなったのかは知りませんでしたが、あれからどうなったんです? どんなものを徴収したのか確認しに、クランの宝物庫に潜り込みましたがそれらしい物は見当たりませんでした。


 会場の片付けをしている間に、ワカバさんからチップちゃんへと渡されたらしいのですが……。


『どうやら、『紳士隊』の宝物庫は空になっていたらしいねぇ。いつの間にか全部盗まれていたって話さぁ。それで、焦ったワカバは私を探していたみたいだねぇ』


 盗まれていた? それじゃあ、そもそも受け取って無かったということですかね? ……っち。


『まさか……メレーナ殿、チャイム殿に負けた腹いせに持ち逃げしたのでござるか? ダメでござるよ? そんなことしちゃ』


 あ、メレーナさんが犯人でしたか。まぁ盗みに特化した能力していますからね。


 私の尻尾に隠れる前に、パパっと盗んで逃げたのでしょう。後で分け前でも貰って来ますか。


『しないよ! 私の事をなんだと思ってんだい!? 私の能力で誰が盗んだのか調べろって頼まれたんだよ! 今ワカバが居ないのも盗んだ奴を仕留めに行っているからだ!』


 メレーナさんの説明によると。


 彼女の『プレゼント』、『いたずらティターニア』には遠くから他人のアイテムを盗む効果だけでなく、この世界に存在するアーティファクトの場所を把握する能力があるそうで。


 しかも、もしもプレイヤーがアーティファクトを保有していた場合、その人の居場所や名前までわかってしまうという高性能さでした。


 そして、『紳士隊』が保有していたアーティファクトを所持していたのが……。


『ジェンマの奴だったねぇ。ワカバを邪神化させて騒ぎを起こしたのはそういう理由だったんだろうよ。仲間にばら蒔いているみたいだ。アホだねぇ、盗品を所持している時点で私に居場所がまるわかりだって言うのに』


 そう言って、メレーナさんは、ククク……、と笑い声を漏らしていました。どう考えても悪いことを考えている顔です。ジェンマざまぁ。


『それじゃあ、ワカバくんがアーティファクトの回収に向かっているって事? どうせならその場で仕留めるより、泳がせて敵の本拠地を割り出して欲しいんだけど……』


 どうやら子猫先輩は本拠地を襲撃したいようです。

 うきうきと目を輝かせております。あれは獲物を刈る時の目ですね……。


『安心しなよ子猫様ぁ、簡単には殺さないように約束してあるさぁ。今は各地にある仮拠点を把握している所、もう少しで奴等の詳しい正体もわかるんじゃないかねぇ?』


 おお、仕事が早いです。


 というか、ワカバさんが執拗にメレーナさんを探していたのはそういう理由でしたか。そんなに便利な能力を持っているのなら、確かにそうなりますよね。一瞬で盗品の行方を追うことができるのですから。


『ま、私からは以上かねぇ。これ以上はワカバの活躍次第ってとこだ、期待しないで待ってておくれよ』


 メレーナさんがそう言うと、カメラは子猫先輩に戻りました。満足そうな顔をしております。


『ありがとう、メレーナ。それじゃあ次に言いたいことがある人はいるかな? 今までで公表していない情報でも大歓迎なんだけど……』


 子猫先輩がそう言って辺りを見渡しますが、特に何も無いようで、皆さんお互いの顔を見合っています。


 ……まぁ、こんなものなんですかね?


 ギフトカードの新しい使い道や、ジェンマの居場所がわかっただけでも大きな躍進です。これで一方的にやられるということは無くなりました。

 順調に、イベントへの準備が進んでいます。


『あ、誰も言うことが無いのならアタシからいいかな?』


 っと、会議室の沈黙をチップちゃんが破りました。


『まだ何か言いたいことがあるんですか? それともお腹が減りましたか? 兄貴なら今向かっているそうですけれど……』


 ヒビキさんの失礼な発言をチップちゃんは首を振って否定します。さっき食べてましたもんね。流石にそんなに早くお腹空かないでしょう。


『いや、腹は減っていない。……この中に、確実に情報を秘匿している奴がいる。なぁ、そうだろう……タビノスケ』


 た、タビノスケさん!?


 チップちゃんはギロリとタビノスケさんを睨み付けました。


 しかし、睨み付けられた本人は目を大きく見開いて驚いた顔をしております。なんの事かさっぱりわかっていないようです。


『せ、拙者でござるか!? 何の事で候う!? 拙者が持っている情報なんてりんりんの次のライブの日付と警備範囲位でござるよ! 皆の役に立つような情報なんて何一つ……』




『『憤怒』の能力について、報告していない物はないか?』




 サッ……。


 チップちゃんがドスの効いた声でそう言うと、タビノスケさんは視線を逸らしました。明らかに何かを隠しているようです。


『ギフトカードで私も一時的に『憤怒』の力を使えるようになったけど……確かに増加と増幅の能力はあったよ。味方にかかったバフと敵にかけられたデバフの強化。身体の巨大化によるステータス強化……。お前の説明はこんな物だっけ?』


『ち、チップ殿……それには理由があるでござるよ。け、決して皆に公表するのを忘れていたとかそんな話では……』


 忘れていたようです。


 多分『憤怒』のギフトには更なる能力が隠されていたのでしょうね。ギフトの能力は使えば使うほど強くなっていきますから、タビノスケさんほどの使い手ならば新しい能力を知っていても不思議ではありません。


『やっぱりあるんじゃないか! アタシ驚いたんだからな! というか、他の奴等! 『暴食』の遠隔食事や、『怠惰』の半覚醒憑依みたいなギフトの新しい能力隠してるだろ! 心当たりがある奴もいるはず……!?』


 怒声を上げていたチップちゃんは、会議室の様子を見てピタリと動きを止めました。


 なんというか、皆さん分かりやすい反応をしておりますね。


 メレーナさんは何も言わずにキーレスさんの影に隠れましたし、ケルティさんは自分の殻の中に入ってしまっています。


 師匠もなにか心当たりがあるらしく顔を背けていますし……。


『『傲慢』に『色欲』……『強欲』まで……。どんだけ情報持ってるんだよ!? ええい! 今日は情報を洗いざらい話してもらうからな! ほら、みー先輩も何か言ってください! コイツら協力する気が……』


 チップちゃんが振り返った先には、美少女の姿になった子猫先輩の姿がありました。

 いつものような可愛らしい容姿の彼女は、その片腕を天に向かって高くあげております。……ま、まさか、子猫先輩?




『ごめん……実は『嫉妬』にも隠し能力があるんだよねー……ハハハ……』




 そう言って、子猫先輩は苦笑いを浮かべたのでした……。


 皆さん奥の手を隠していたんですねぇ……。


・『ペットショップ』と『シリウス』

 この両クランについては、過去のイベントにおいて激突した事がある。お互いの実力は拮抗していたが、先に主力装備を撃破されたシリウスは徐々に戦力を消耗していき、ペットショップはイベントの判定で勝利を納めた。しかし、キーレスはツキトを追い詰め、ミーさんの攻撃も凌ぎきり、最後まで倒れることはなかった。もしも判定というルールが無かったら、どちらが勝っていたのかはわからない。

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