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『死神』は二度死ぬ、とりあえず死ぬ

「ほいっ『パーフェクト・リターン』」


 あ"ぁ"~、生き返る~。


 私達がチップちゃんに食べられて死亡した後、アークさんが姿を現し蘇生呪文をかけてくれました。

 サポート能力に全振りしているだけはありますね。やるぅ。


「ふぁ~……お腹いっぱい……」


 そしてお腹いっぱいになったチップちゃんはにこやかな顔をしてぼうっとしておりました。……あれ、どうしたんですかね?


「ああ、あれ。一応同族食いしてるから、狂気状態で混乱しているみたいだね。知らない? 魔物以外が人間食べると一定確率でああなるらしいよ?」


 私が不思議に思っていると、ヒビキさんが教えてくれました。どうやら食べ過ぎによるバフが発生しているそうです。お腹もぷっくりと膨らんでいますし……。


「まったくよ……。迎えに来たつもりだったんだろうけど、つまみ食いしてどうすんだお前は。……ったく」


 そう愚痴りながらツキトさんはチップちゃんに近付いて行きます。……ちょ、何するつもりですか? 殺されたからとはいえ、抵抗のできない相手に手を出すのはどうかと思いますよ?


 私はそうツキトさんを止めると、師匠は驚いた様子でこちらに振り返ります。


「え……ポロポロがそれ言っちゃうの……? 一番やりそうなのに……」


 私は殺人中毒とかそういうものではありません。


 全く、何故師匠は私を危険人物扱いしたがるのですか! 私は貴女に育てられたんですからね!


 弟子というものは師を見て育つの物なんですからね!


「いや、それはないやろ。二人にも同じ事を教えていたけれど、マトモにそだっておるしな。完全に資質ってやつやで」


 おぅふ。


 咄嗟に飛んできたアークさんの反論に、私は顔を背けました。……オークさんと金髪ちゃんの話題を出すのは卑怯でしょ。その二人は元から善良なプレイヤーだったのですから……。


 何もおかしいところは無いのですよ……。


「ぽ、ポロラさん、な、涙が!?」


「悲しまないでください! ポロラさんだって優しい先輩ですよ! ねっ!?」


 優しい二人は私に駆け寄り慰めてくれました。暖かいですねぇ。


「……なにやってんだよ? ほら、迎えに来たって事はコイツも急いでいるんだろ? さっさとクラン行こうや」


 っち。


 和やかな雰囲気にツキトさんが割って入ってきました。……もう、そんなに急かさないで下さいな。第一、チップちゃんを置いていけないでしょう。


 ここはチップちゃんが正気に戻るまで待つのが……。


 …………がぁ!?


「い、いや……アンタ……なにしてんだい……」


「ツッキーさん、それはどうかと思うんだけど……」


 メレーナさんと師匠も、目の前の光景に驚き、目を丸くしておりました。ヒビキさんは半目になって呆れた顔をしております。


 オークさんと金髪ちゃんの反応は薄いですが、おっ、と言いたそうな雰囲気が出ておりました。


「あん? どしたん? そんな驚くことでもあったのか? さっさと行くぞ」


「あ! ツキトだ~! お久ぁ~! きゃっきゃ!」


 私達の目に映ったのは、幼児退行したお腹の大きいチップちゃんと、彼女をお姫様抱っこで抱き上げているツキトさんでした。


 な、何してるんです!? 動けないからって、流石にそれは不味いでしょう!? チップちゃんの様子がおかしくなっている時点で事案の臭いしかしませんよ!


 私はすかさずそう言いますが、ツキトさんは眉間にシワを寄せて、よく分からないというような顔をしています。


「……なんで? これが一番手っ取り早いんだから良いじゃんか。じゃ俺はクランの場所知っているし、先行ってるから」


 あ!?


 ちょ、ちょっと!


 私の制止を気にもせず、ツキトさんはチップちゃんを抱えたまま街の中に行ってしまったのでした……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 簡潔にいきましょう。


 街に入った後、チップちゃんは直ぐに正気に戻り、自分の状況を確認して顔を真っ赤にしていました。


 離して、とか、見ないで、と言いながら恥ずかしそうに顔を隠すチップちゃんの可愛いこと可愛いこと……見ていたら私にも火が点いてしまいましてね。


 私はそんな彼女の耳元で囁くように現状を説明してあげました。……さっきまで喜んでいたくせに、そんな事言わなくたっていいんですよ?


 みんなチップちゃんの事が可愛くて、ついつい見とれていたんですから。ずっとキャッキャとはしゃいでいた貴女はとても愛らしかったです。


 ほら、可愛い顔を隠すなんてもったいない。


 よぉく、私に見せてくださいな……。


 私がそうやって意地悪にクスクスと笑うとチップちゃんは、やだぁ~……、と言いながらイヤイヤと抵抗する姿を見せてくれました。可愛い。


「何を……しているのかな……?」


 と、楽しんでいるのも束の間。


 私達の目の前には凄まじい鬼迫を放つ子猫先輩が立っていました。人間モードです。


 きっと、迎えにいったチップちゃんが何時までたっても帰って来なかったので、心配になって見に来たのでしょう。


 そして見に来た結果、一言では言い表せない状況に出会ってしまったということです。……子猫先輩、違うんですよ。


 私はそう言って弁解をしようとしましたが、それよりも前にツキトさんは動きました。


 抱きかかえていたチップちゃんを私に手渡すと、直ぐ様踵を返して走り出したのです。一瞬見えた彼の表情は青ざめており、この世の終わりを思わせました。


 しかし、子猫先輩も黙ってはいません。


 目の前で、地面が弾けました。


 大量の砂煙と砂利が街中に舞い上がります。子猫先輩が全力で動いたからですね。


 地面から跳躍した彼女は、建物の壁で三角飛びをしてツキトさんの目の前に立ちふさがりました。


 それを見越していたのかどうかはわかりませんが、既にツキトさん次の行動へと移っています。




「誤解なんです、許してください」




 そう言って彼は地面に頭を付けて、ひれ伏していたのでした……。




 ということがありまして。


 私はクランの大講堂に来ていました。

 どうやらこれから会議が始まるらしく、皆さん集まっているみたいです。


 ちなみにツキトさんはその後、子猫先輩の魔法により拘束され、連行されていきました。


 私もチップちゃんをお姫様抱っこしたままクランに入ろうとしたのですが、彼女は自身の能力を使って逃亡、もう少し恥ずかしい姿が見たかったのですが……残念でなりません。


 ま、それはそれとして。


 子猫先輩が居たということは、前みたいな主要クランのリーダーを集めた話し合いになるんですかね?


 イベントの発表もありましたし、これからの方針を確認するのは不思議ではないのですが……。


 どう思います? 皆さん?


 私はいつも通り集結してきた自称お兄ちゃん's+黒子くんに対して、そう問いかけました。


「ん? そうだな! 久々のイベントで皆やる気入っているし、クランとしても動きがあることは確かだ!」


「座ってくれてありがとう、お兄ちゃん嬉しいよ……」


「それよりさ、動画見た? 俺達凄かったっしょ?」


「バカ野郎、妹ちゃんの方が凄かったわ。俺達みたいな落ちこぼれと一緒にすんな」


「そうだぜ。我等が妹があんなに強くなっていたのを見て、俺は感動したよ……」


「今日はポロラねぇちゃんの想像通り、今後の方針を発表するらしいよ? それと、紹介したい人達がいるんだってさ」


 ありがとうございます、黒子くん。


 好き勝手わめいていた自称お兄ちゃん'sとは違って、自称弟くんは素直でいい子ですね。


 にしても、紹介したい人ですか。


 今まで姿を現していなかった方達となると、もうだいたいわかってしまいますね。


 今まで『正体不明』と言われていた師匠と、あれほど高名にもかかわらず全くの音信不明だった『死神』……。


 さて、あの方達の登場でこの会場はどんな反応を見せるでしょうね。


 そうやって楽しみにしていると、大講堂に大きなウィンドウ表示されました。


 そこにいる方々……前回の会議に参加した各クランのリーダー達が映された後、最後に子猫先輩の姿が映ります。ちなみに子猫モードです。


『やぁみんな! 『魔王』のミーさんだよ! 今日は集まってくれてありがとう! 今日はイベントに伴ったこれからの活動方針の決定と……』


 ぶっ!?


 カメラが引いていき、部屋全体の様子が写し出されました。その様子に、思わず吹き出してしまったのです。


 最初は気がつきませんでしたが……子猫先輩の後ろには十字架に拘束されたツキトさんと、その頭部に散弾銃を突き付けたチップちゃんの姿があったのです。


『この『浮気者』の処刑を実施していきたいと思います。やっぱり見境無く女の子に手を出そうとする人は、こうやって殺さないといけないよね。……さて、ツキトくん。遺言はあるかな?』


『せ、先輩……じょ、冗談ですよね? ちょっとふざけただけで、本気で殺そうとか思ってませんよね? ……ねぇ!?』


 ツキトさんは震えながらひきつった笑顔をしていますが、無情にも散弾銃の撃鉄はカチリと音を立てて、発砲の準備を完了します。


『ツキト……諦めるんだな。というか、アタシに恥かかせやがって! せきにんとれー!! ばかー!』


 そう叫ぶチップちゃんの顔は真っ赤でした。


 いったい何があったのか、これでは何も知らない人達から見たら、如何わしいことがあったようにも見えてしまいます。これはいけません。


 もう殺すしかないですね。


 やっちゃえ、チップちゃん!


『ち……ちくしょー! 俺はまた死ぬのかよ! んじゃあ言ってやる! とっておきの遺言をなぁ! てめぇらよく聞きやがれ! いくぞぉ!』


 まさに負け犬の遠吠え。


 さぁなんと言うんですかね? できれば面白いことを言ってくださるといいんですが……。




『せんぱぁい! 愛してまぁす!! ずっと一緒にいてくd、ぐぎ……!?』




 パァン! パァン! パァン! パァン!


 ここぞとばかりの愛の宣言をしたツキトさんは、頭の形が無くなるまで散弾銃を打ち込まれました。最後はミンチに向かって撃ってましたね、チップちゃん。


『ばかやろー……』


『き、きみってやつは……もぅ……』


 おや。


 チップちゃんはつまらなそうな顔をしていますが、子猫先輩は満更でも無い様子ですね。


 これなら問題なく会議を始めることができそうです。


『さ、さっきのは忘れてね! そ、そ、それじゃあ今から新イベント『Bessing of World』の話し合いを始めるよ!』


 血だらけの会議室で、子猫先輩は高らかにそう宣言したのでした……。






 あれ? そういえば師匠忘れられていません?


 画面の(はじ)でペストマスクを被った不審者が慌ててるんですけど?


 全部ツキトさんに持っていかれてしまいましたねぇ……。

・同族食い

 カニバリズムを行うと、一定確率で狂気の状態異常が発生する。『暴食』持ちのプレイヤーはこの判定が起きることは滅多にないが、なるときはなる。食べ過ぎ注意。

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[良い点] 流れるような謝罪と当然のごとく行われる処刑 [気になる点] 十字架はどこから持ってきたんですか? [一言] シーデーさんが常識人に見える不思議
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