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ぐだぐだ道中

「それで……結局和解したのかい? つまらないねぇ、てっきり血を血で洗うような戦いが起きると思っていたんだけど」


 テクテクテク……。


 私達の一団はコルクテッドに向けてゆったりと街道を歩いていました。


 全速力で行けば直ぐに到着するのでしょうが、それだとオークさんや金髪ちゃんを置いていく事になってしまいます。

 驚異が明確になった今、単独行動は控えるべきですからね。


 たまにランダムポップでモンスターが現れたり、NPCの盗賊が出てきますが、こちらの姿を一目見ただけで勝手に逃げていきます。こちらのレベルが高すぎるのでしょう。


 と、いうことで。


 戦闘も発生しないこの旅路を私達は駄弁りながら行くのでした。……って、メレーナさん。どうしてそんな事が起きると思っていたのですか。


 私だって空気位読めますよ。今はそんなことをしている場合では無いのです。


 そう反論すると、私の尻尾の中でメレーナさんはクックと笑いました。


「面白い冗談を言うねぇ? そんなに大人しいわけでも無いだろうに、何を考えてるのやら」


 何にも考えて無いですよー?


 仲間内で不用な争いをするのは良くない事くらいは、皆わかっていますよ。ツキトさんだってそのはずです。

 そうですよねぇ?


 私は後方に振り返り、ツキトさんに同意を求めました。私達は真人間のはずです。


「…………」


「…………」


 おやおや?


 振り返った私の目に映ったのは、メレーナさんを……というか、私の尻尾を物欲しそうに見つめている、ツキトさんとヒビキさんの姿でした。


 あー、これは覚えがありますね。


 モフリたくてたまらないといったところでしょう。なぜ人というものはモフモフを求めてしまうのか、これがわからない。……変態どもめ。


 私がぼそりと呟くと、二人はハッとした表情を見せました。


「違うんだよ。ボクは別に変なことをしようとしていた訳じゃないんだ。ただ尻尾の中で気持ち良さそうにしているメレーナさんが羨ましいと思っただけさ。少し見とれていただけだよ? 何もおかしいことはない」


 何も言っていないのに、ヒビキさんはキリッとした表情を見せて反論してきました。


 しかしながら目が泳いでおりますので、真意は明らかです。……で、ツキトさん。彼女さん以外の女性に目を奪われていたみたいですが、何か言い訳は?


「また俺の個人情報漏れてる……!? い、いや、違うんだよ? 俺は尻尾の中に潜っているメレーナを見てたんだって! 別に何もおかしな事を考えていたわけでも無いし、触ってみたいと思ったわけでもねぇ! ……いや、そりゃちょっと思うところはあったけれどさ、流石にそんな無作法な事はしないよ? ちゃんとモフられる側の気持ちになってい考える事が出きる人間だからね? 俺は。それに今は先輩は関係ないから、俺は無実だから」


 成る程。


 メレーナさん、聞きましたか?


 他の女に見とれていた言い訳がこれですよ。マジでただの浮気者みたいですね。子猫先輩も悲しんでいることでしょう……。


「えっ、アンタ、私に気があったのかい? 冗談キツいねぇ~、そんなにあっちこっちに色目使って、いつか本当に刺されるよ? ククククク……」


 尻尾の中でメレーナさんは笑っていました。これは完全に見下している笑いかたですね。楽しそう。


「誰がお前みたいな殺すことしか知らない女に惚れるかよ。冗談キツいってのはこっちのセリフだわ。……オレが気になってるのはな、お前がそうやって尻尾の中で寛いでいることだよ。お前兎さんが好きだったんじゃないの?」


 おや、意外な一面ですね。


 メレーナさん、兎さんがお好きなのですか。私も好きですよ? 丸っこくて、可愛くて……。


「いや、狐のアンタが言ったら別の意味に聞こえるから」


 こゃ~ん……。


 メレーナさんは眉間にシワを寄せてそう言いました。


 普通に好きなだけなんですけどね? 別に私が狐さんだからって、好き好んで兎さんを追い回して食べているわけじゃありません。……いえ、食べたことも無いですけどね?


「ま、そんなことはどうでもいいんだけどねぇ。……別に狐だろうが兎だろうがどっちでもいいのさぁ。ゆったりとモフモフを堪能できるのならねぇ」


 メレーナさんは満足そうにそう言って、私の尻尾に抱き付いてきました。


 それを見たツキトさんは、ふっ……、と鼻で笑うと不敵な笑みを浮かべました。


「メレーナ……お前、これを見ても同じことが言えるのか? ……とぉ!」


 何事?


 ツキトさんは私達の前に立ち塞がるように飛び出ると、身体から光を発しました。その輪郭は徐々に小さくなっていき……。


「ふ……、どうだメレーナ。これでもモフらなくていいのかな?」


 その姿は白い兎さんに変わっていました。……そういえば、子猫先輩と同じように姿を変えることができたんでしたね。


 大きさは40cm位で、大きめの人形にしか見えません。ちょっと触って見たいかも……。


「えぇ……。だってアンタ、何処と無く血の臭いが染み付いている気がするんだよ……。それに比べて、ポロラの尻尾は香ばしい獣臭しかしないし……柔らかさもこっちの方が多いし……」


 え。


 私、獣臭するんですか!?


 今発覚した事実に、私は思わず足を止めてその場に崩れ落ちました。……そ、そんな。これでも日々のブラッシングや香水とかの御手入れは完璧だったはずなのに!


 びょおおおおおお……、っと、嘆きの声をあげてながら前を見ると、驚いた様に目を開いている兎さんがいました。


「お、俺が血生臭い……? う、うそだ。先輩は喜んでモフモフモフしてくれたのに……」


 あ、絶望してる。


 よっぽど自分の毛並みに自信があったのでしょう。しかしながら、ラビットファーよりもフォックスファーの方が優れているのですよ。


 貴方の敗北は必然だったのです。


 残念でしたねぇ! …………!?


 私は勝利宣言をしようとツキトさんに顔を向けましたが、そこにはヒビキさんが立っていました。

 彼は両手で兎さんを胸にだき抱えています。


 そして、ニタリと口角を歪ませました。




「油断したな、アニキ。それを待っていたんだ……!」




 ま、まさか……!


 ヒビキさんは抱き上げているツキトさんさんの口のなかに自分の指をツッコミました。大分奥まで入れています。


「んごっ!? んごんごん!? んごご?」


 ツキトさんは苦しげな声を出しながらもがいておりました。まぁ、喉の奥に指を入れられれば苦しいですよねー。


 そう思っていると、ヒビキさんは口から指を引っこ抜き、ツキトさんを地面に置きました。……あれ? なんか、ヒビキさんの指先、無くなっていませんか?


「……の、のんじゃった」


 下ろされたツキトさんは全身の毛が逆立ち、動物の姿でありながら慌てている様子を見てとれました。


 って、もしかしてヒビキさんは自分の指先のパーツをツキトさんに飲まさせたんですか? 確かに、人形の身体なら少し位パーツがなくなっても大丈夫なのでしょうけど……。


 問題はツキトさんです。


 私の記憶が確かなら、ヒビキさんは自分の身体のパーツを他人に埋め込んで、寄生することが出きるそうです。


 そして、寄生した後は体内で成長し、元の大きさになって体外に排出させることが出きるそうで……。


「さ、アニキ。ボクを産んでおくれよ。この身体は弱いから、強い子供がほしいんだ。アニキなら強い子供を産んでくれるって信じてる……」


 ビクンと。


 兎さんの身体が震えました。


 そして、その身体を突き破るように人形の腕が飛び出します。


 質量保存の法則を無視して、小さな身体から這い出してくるウサミミメイドの姿には、恐怖しか感じません。……め、メレーナさん。これは不味いのでは!?


「うぇ。相変わらずキモいねぇ。でも、兄弟だから許される事もあるから。仲のいい兄弟だと思って見逃してやりな……」


 え? もしかしてリアル兄弟なんですか?


「そうなんだよねぇ。ヒビキが何でもかんでも話しちまうから皆知ってるけど、ツキトの奴は仲間に恵まれていてねぇ。個人情報駄々漏れだよ。ククク」


 おお、それは酷い。目の前の光景はもっと酷い。


 ……そういえば、ヒビキさんって私の事をお兄さんと似ているとか言ってませんでしたっけ?


 つまり、ツキトさんと似ているって事ですかね?


 ……。


 それはないですね。

 だって、呻き声を上げながら弟さんを産み出している彼と比べて、どう似ているというのですか。


 全ては気のせいなのですよ……。


 そう思いながら、私はメレーナさんと金髪ちゃんと一緒に、ツキトさん兄弟出産ショーを眺めていたのでした……。




「弟の子供を産むお兄ちゃん……背徳感すごぉい……ハァハァ……」




 ……はい。


 何も、聞かなかった事にしましょう。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「見えたね。コルクテッドだ。なんか待たせているみたいだね。早くいこうよ」


 ウサミミを生やしたヒビキさんが意気揚々にそう言いました。完全にお兄さんの特徴を継いでいますね。凄いです。


「おう……、そうだな……早くいこう……」


 意識も絶え絶えのツキトさんが私の腕の中で呟きました。……可哀想に、あれから体力の続く限り新しい人形を産ませられていた姿は哀れとしか言いようが無いでしょう。


 これからは、少しは優しくしてあげてもいいですかね。


 そんなことを思いながら、私達はゆっくりとコルクテッドに近付いていきました。

 街の入り口には誰かが佇んでいて、まるで私達を待っているかのようです。


 いったい誰ですかね? 出迎えてくれるだけで嬉しいんですが……!?


 私は逃げました。


「ポロポロ!?」


「ポロラさん?」


 師匠やオークさんの言葉を聞きながら、私は足を動かします。


「に、にげろぉ!! 食われるぞ! まだ死にたくねぇ!」


 ツキトさんも同じ気持ちらしく、じたばたと暴れていました。その言葉に私は肯定も否定もしませんでしたが、とにかく逃げました。


 だって、街の入り口にチップちゃんが立って涎を垂らしているんですもの!

 どう考えたって、私達を美味しくいただくつもりです! ツキトさん! このまま逃げ切りますよ!


「おう! 頼むぜ! ちゃんと姿を見せると何をされるか……うぎゃあ!?」


 こきぁん!?


「……美味しそう。頂きます……」


  私は、ツキトさんと一緒に、現れたチップちゃんににびびって逃げ出しました。全力で逃げていたんです。


 けれども、私達を目の前には、能力を使って移動してきた小腹を透かせたチップちゃんが現れて……。


 既に、私の視界は第三者のものへと変化しておりました。もうどうなるかは、予想つきますね。




「あぁ……今日はごちそうだぁ……頂きます……」




 あぅあぁ……。


 私は、ツキトさん共々。能力によって移動してきたチップちゃんに美味しくいただかれ……。


 第三者の目線から、食事をするチップちゃんの姿を眺めていたのでした……。

・シーデーとシードン

「うわぁ……また孕ませているよ……」

「あれが……『パラサイト・アリス』……なんて恐ろしい……」


 常識のある反応。ありがとうございました。

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