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ヒャッハー!

『さぁ、殺し合いです! 粉微塵に殺して差し上げましょう! ミンチにしてあげます!』


 ……。


 スゥーーーーーー…………。


 ハァーーーーーー…………。


 私はウィンドウに流れる映像を見て頭を抱えました。

 私としては、可愛らしい狐娘さんがコンコンと鳴いているだけの映像にしか見えませんけれど、見る人によっては言っている内容と、完全にキマっている眼光にあまり良くない印象を覚える方もいるかもしれません。


「ポロポロ、この視界が刃で埋まっていくシーン凄い怖いんだけどさ、いつの間にこんなこと出来るようになったの? 師匠知らなかった、凄いね」


 わーい、師匠に褒められちゃいましたー。……って、いつの間に落ち着いたんですか師匠? 私がログインしてきたときは慌てまくってたくせに。


「まぁディリヴァを倒しちゃえば元通りになるだろうしね! 実力でなんとかなるのなら、慌てることなんて無いよ。全部吹き飛ばしちゃえば良いんだから!」


 これですよ。


 師匠のこういう無自覚サイコパスなところが私に移ったんですよ。その結果がこの動画です。


 どう考えてもそうとしか思えません。


 だって私、この人からこのゲームの常識教えてもらったんですよ? こういう時にはどんな対処をすれば良いのか、みたいな事もこの人から教えて貰いましたからね?


 ですので、私があんなに恐ろしい存在に見えるのはこの人のせいなのです。私、悪くありません。


 そんな私の考えをよそに、動画は続きます。


 この後は私がジェンマを蹂躙して、師匠が飛び出してきて……後はツキトさんがディリヴァを蹂躙している光景が流れていますね。


 ディリヴァを攻撃しているツキトさんは完全に狂人です。ニヤリと口角を歪ませ、目を爛々と輝かせているその姿は、誰が見ても恐怖を覚える事でしょう。しかも容赦無く幼女の身体を刻んでいます。


 ……これは完全に敵ですね。味方とは思えません。

 というか、味方にいたら絶対に問題を起こす感じですよ。即刻追い出した方が良いです。でも、強いんですよねぇこの人……。


「いや……これは……アウトだよなぁ……」


 本人も自覚しているようです。

 ツキトさんも頭を抱えていました。


 気持ちはわかるので、私は彼の肩に手を置いて慰めました。……皆酷いですよね、これだけで私達の本性を決めようとしているんですから。本当は心優しい人間なのに……。


「だよな……。でもポロラさんも俺も完全にキマっているんだよな……。完全にイカれてるようにしか見えないんだけど……」


 ツキトさんは半ば諦めたような雰囲気です。……ま、まだです! まだ希望は捨ててはいけませんよ!


 見てください! このゲームの仕様に毒されていない金髪ちゃんとオークさんがいます! 彼等に意見を聞いてからでも遅くはありません!


 彼等が私達の事をマトモと言えば、まだ救いが……!


「いや……何て言えば良いもでしょうか……とりあえず、これからも仲良くしていただければ嬉しいです」


「えっと……とりあえず、私はツキトさんとヒビキさんの関係を詳しく知りたいのですけれど? エッチなやつを所望します」


 だめだぁ~……。

「これは……ダメなやつだなぁ……」


 私達は一緒に仲良く絶望しました。


 あの動画だけでは、私達は完全にイカれた奴等という判定です。私達が着いた陣営のイメージダウンは免れないでしょう。


 だってオークさんですら引いてますし。金髪ちゃん至っては、自らの欲望を満たそうとするふりをして、私達の話をスルーしました。


 要するに、大きな声では言えないことを考えてしまったのでしょう。大分分厚いオブラートです。


 もう私達は諦めるしかないのでしょうか……?


「二人の戦いかたは容赦あらへんからな~、他の人達と比べても結構異質やと思うで? キュキュキュ……」


 私達の事を馬鹿にしてアークさんは笑っていました。


 そこで毛皮を刈り取ってあげてもよかったのですが、その言葉を聞いて私はピンときました。……そうだ! そうですよ!


 邪神と戦っていた他の方の動画も上がっているのでしょう? その人達もきっと極悪非道な戦い方をしていたに違いありません!


 皆ヤバイのなら、それは普通ということになります! それが最後の希望!


 私達の価値を決めるのはそれからでも遅く無いのでは!?


 私がそう発案すると、ツキトさんは更に深く落ち込みました。地面に肘と膝をついており、深い絶望を感じます。


「あぁ……うん……そうね……。それじゃあちょっと見てみようか……」


 これは見なくてもわかる反応ですね。


 ツキトさんはウィンドウを操作して、次の動画を再生しました。……これは、コルクテッドですか。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 見慣れた街の中央に、天を覆い隠す程の巨木がそそりたっていました。樹木からは沢山の食虫植物を思わせる蔦が伸びており、鋭い牙を光らせています。


 『暴食』の邪神の姿が、そこにはありました。


 それらは街のNPCを襲おうと蠢いていましたが……。


『おらぁ! やらせねぇぞ!』


『化物め! 私達を舐めないことだねぇ!』


 流石は魔境コルクテッド。


 ただのNPCでさえ、プレイヤーを凌駕する強さを誇っております。市民全員戦闘民族みたいですね。皆さん素手で植物を引きちぎっていますよ。


 そんな中、樹木に向かって行くプレイヤーが居ました。


 襲いかかる食虫植物を足場にして、彼女は縦横無尽に宙を駆けていきます。


『運が無かったな! アタシを狙ったのが間違いだ!』


 黒い軍服に、特徴的な散弾銃。


 可愛い犬耳とくるりと丸まった尻尾……ち、チップちゃんじゃないですか!? 邪神化した訳じゃなかったんですね!


 その姿を見て、私はホッと胸を撫で下ろしました。てっきりやられてしまったと思っていたので、彼女の姿を見ることができたのは嬉しいです。


『喰らえ……! 『キキョウの進軍』!!』


 宙を飛び回るように移動していたチップちゃんは、『暴食』の邪神の真上に姿を現しました。


 そして、軍神キキョウの神技を発動させます。


 真下に構えた散弾銃に光が凝縮されたと思うと、銃口の先から極太のレーザーが飛び出しました。


 それは樹木を焼き付くしていきますが、その間にも食虫植物はチップちゃんに向かって襲いかかります。


 しかし、それすらも巻き込む様にレーザーが拡散し、全てを滅却していきました。


 チップちゃんが自身の能力で地上に下り立った時には、街の中央にポッカリと大穴が空いていました。邪神の姿なんて微塵たりとも残っておりません。


『……お前か』


 チップちゃんはそう言って、ギロリとこちらに目を向けました。そして銃を構えた瞬間に引き金を引いて、銃声を鳴り響かせます。


 そこで映像は終わってしまいました。……成る程、録画をしていた敵を撃ち殺したんですね。流石我らがクランリーダー、カッコいい。


 いえ、カッコいいのはいいんですけど、めっちゃマトモじゃないですか。

 そこは、モグモグモグ……おいしー、みたいな感じで『暴食』のギフトを存分に使ってくれればよかったんですけどね。


 ……次いきましょう!



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 次に映し出された風景は、大きな城壁が特徴の都市、サアリドでした。


 一度タビノスケさんが滅ぼしたその街は、今は完全に復興している様に見えます。


 本来なら人々の雑踏で賑わっているその街は、人々を襲う骸骨で溢れ反っていました。……『嫉妬』の邪神ですね。


 広範囲が対象のエナジードレインと、骸骨の魔物を召喚するのが厄介な敵だと記憶しています。


 本体を殺さない限り無限に骸骨は現れるでしょう……。


『どけどけどけぇ~、でござぁ! 雑魚には興味ないで候う!』


 そんな骸骨で溢れ帰った街の中を、大きめの姿になった触手の塊が進撃していきます。……タビノスケさんですね。これはやらかすに違いありません。


 私はそう期待しましたが、彼は骸骨に襲われそうになっているNPCを助けながら移動しておりました。


 NPCの近くにいた骸骨を触手で叩き潰して、タビノスケさんは叫びます。


『拙者が来た道を戻るでござる! 早く避難するでござるよ!』


『ひっ!? ば、化物ぉ!?』


 彼のおぞましい姿を見て、NPCさんは逃げ去って行きました。けれども、その姿を見てタビノスケさんは満足そうです。


『うむ、それでいいでござるよ。逃げるでござ……っ!』


 逃げたNPCを見送ったタビノスケさんは何かに気づいた様子で、バッと振り返りました。


 そこには錫杖を手に持ち、ローブを着たアンデットが佇んでいたのです。……『嫉妬』の邪神ですね。


 邪神は何かの呪文を詠唱すると、逃げるNPCに向かって魔法を発動させました。

 必死に逃げるその背に向かって、魔力の槍が飛んでいきます。


『ちぃ……!』


 しかし、それをさせまいとタビノスケさんは魔法の射線に割り込み、邪神の攻撃を防ぎます。

 魔法が当たった場所は風化するように灰になり、少し間を置いて血液が吹き出しました。


『……しらねー攻撃でござるな。でも、一撃で死なないあたり、たかが知れているでござる。……にゃあああああああああああ!!!』


 タビノスケさんの絶叫と共に、触手が打ち出されました。


 それらは『嫉妬』の邪神に向かって真っ直ぐに飛んでいきますが、それを黙って受け入れる程の甘くはありません。


『…………』


 邪神は先程と同じ魔法を詠唱し、数十本の槍を作りだしました。そして、それらを全てタビノスケさんに向かって射出していきます。


 それは触手の動きよりも速く、あっという間にタビノスケさんは身体中を串刺しにされてしまいました。……しかし。




『ギフトを使った拙者にぃ……この程度の攻撃が……効くと思ったかぁーーーーーーーーー!!』




 タビノスケさんは止まりませんでした。


 打ち出した触手達は完全に邪神を包み込み、引き絞っていきます。


 バキボキという乾いた音が響くと、触手の間から何かのカスが漏れだして地面に撒かれていきます。


 やがて触手の動きが止まり、ゆっくりとそれがほどかれると……そこに邪神の姿はありませんでした。


 それを確認したタビノスケさんは、ふぅ、と安心したように息を吐きます。


『この程度なら……拙者がでしゃばる必要はなかったかもしれないでござるな。他のプレイヤーに任せても問題なかったかもしれないで候う。……なぁ、お前はどう思う?』


 ぐるん。


 タビノスケさんの血走った目がこちらに向きました。


 それと同時に、ウィンドウにはノイズが走りまったく何も映らなくなってしまいます。……狂気の状態異常で戦闘不能にしたみたいですね。


 これで『嫉妬』の邪神戦も終わりですか。


 なんか思った以上に普通でしたね。というか、NPCを助ける為に自分を犠牲にする姿はポイント高いですよ。


 むしろイメージが良くなったんじゃ無いです? この触手。


 ……。


 つ、次です。次の方はもっと残忍な戦い方を見せてくれるはずですよ!


 私は……諦めない!



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 その後は、謎の黒騎士と対峙するチャイムさんや、肉の巨人を協力して打ち倒す自称お兄ちゃん'sと弟くん、圧倒的な数の優位により『怠惰』の邪神を殲滅した『紳士隊』の皆様の映像が流れていきました。


 皆さんとても格好いいですね。


 特にチャイムさんなんて、居合い切りで黒騎士を鎧ごと斬り倒していました。すれ違ったと思ったら、黒騎士がミンチになっていましたね。スゴい、速業。


 自称お兄ちゃん'sと弟くんも手に入れた神技を駆使して戦っていて、一瞬たりとも目が離せない戦闘をしていましたよ。普段のポンコツ具合はどこへやら、完璧な集団行動でした。


 『紳士隊』の皆様も、精鋭揃いというだけはありましたね。ほとんど街に被害を出さないで邪神を討伐していました。本気を出せば強いんですね。このロリコン達。


 ……はぁ。


 私は思った以上に理性的に戦っている皆さんにガッカリして肩を落としました。それでもソールドアウトですか、貴方達は。おかしな事しなさいよ。


「これは……凄いですね! これが上級者の戦いなのですか!」


「巨人と戦っている人達はよかったです! 捗りました! え? ポロラさんのお知り合いなんですか!? 是非紹介してください!」


 オークさんと金髪ちゃんは感動していますね。参考になってよかったです。


「結局、ツッキーさんとポロポロが一番ヤバかったねー。断末魔と悲鳴の響き方が他の人達とは全然違ったよー」


「シーデーはんが本気で暴れてたらよかったんやけどねぇ。さっきの映像だけやとねぇ……」


 師匠とアークさんも呆れているようです。……どうしましょう、ツキトさん。


 私達のイメージが地に落ちる音が聞こえるんですけど……。


「ああ、この動画が出回ってしまった以上、俺達のイメージは覆しようがない。……けれどだ、逆に考えればそれは俺達をよく思わない奴等が敵陣営に行くだけなんだ。それなら話は早い」


 どうやらツキトさんには考えがあるようです。先程とは真逆の清々しい顔をしております。


 さていったいどんな考えが……。




「俺達を悪く思っている奴等を、皆殺しにすればいい。そうすれば、残っているのは俺達の味方だけになるよな?」




 ……成る程。


 結局、そういうことになりますね。


 あちらに着くような奴等なんてしょうもない人達しか居ないでしょうし、殺しても問題は無いということです。


 敵を殺せば殺すほど、私達の評価はプラスになっていくということなのですよ!


 ツキトさん! 私、完全に理解しました!


 やってやりましょう! 私達の手で、この汚名を払拭するのです!


 皆殺しにしてしまいましょう!


「おう! 楽しくなってきたぜ! ディリヴァもまとめて()ってやろうじゃねぇか! 汚名返上じゃあ!! ヒャッハー!」


 ヒャッハー!!




 ……ということになりまして。


 私達は誓ったのです。


 常識人である私達を奇異の目で見る不届きものを殺し尽くすまで、私達は戦い続けるということを……。


・ヒャッハー!

 口にすると元気がでる魔法の言葉。……というかコイツら更に悪評を広めようとしてるんだけど大丈夫? 殺せば良いって訳じゃないと思うんだけど?

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