『Blessing of World』
NPCの未復活、及び、街の建造物の再生成がされていないという問題は、ログインしてきたプレイヤー達を大きく驚かせました。
ウィンドウを呼び出し、運営のお知らせページを見ている周りのプレイヤーさん達が目を丸くしております。ついでに私も。
新しいイベントの告知、ですか。
えーと、タイトルは……『Blessing of World』?
内容を簡単にまとめますと、既存の女神達の勢力と、件のディリヴァの勢力に別れてのPvPを実施するという感じですね。
細部を説明すると、一日に一回、決められたディリヴァ側のプレイヤーが女神側のプレイヤーを邪神化させる首謀者になるそうです。
暴走した邪神を打ち倒し、首謀者も倒すことができればこちらに報酬が。
一定時間の内に、邪神と首謀者を倒せなければあちら側に報酬が出る、といった内容だそうで。
つまりは、この間私がひき肉にして差し上げた彼等を常に殺し続ければ、こちらの勝利は確固たる物になるということです。楽しみ。
ちなみに、どちらの陣営に付くのかはウィンドウから決めることができるそうです。流石万能ウィンドウさん。
決定期間は二週間、その間にどちらかの陣営に着くのかを決定しなければいけないという事でした。
要所要所で女神様達のイベントも挟まるそうなので、この世界の成り立ちも知ることができるようですね。考察班の皆さんが喜びそうです。
……とりあえず、殺せばいいという事でよろしいでしょうか?
「ポロポロ、間違ってはいないけど言い方を考えようか。いつもだけど物騒だからね? 通りすがりの人が引いてるよ?」
ウィンドウを眺めていた私が師匠に確認したのですが、どうやら違うそうです。
「……どちらの陣営を選ぶのかは良いとして、問題は復活しないNPCと施設でしょう。どうやらこの場所は既に街としての機能を失っているようですし……」
悩ましげな様子でオークさんが口を開きます。
オークさんが言うには、この『シファフル』という街はマップ上から消滅してしまったそうです。ついでに運営のホームページからも。
ディリヴァが言っていた救済とはこういうことでしょう。一度全てを消滅させて、世界を作りなおうそうとしているのだと思います。神話とかで良くあるパターンです。
そして、それが本格的に始まるのが2週間後ということでしょう。
それについて、金髪ちゃんは……。
「女神に翻弄される運命……戦場で出会ってしまった想い人…………シードン、知り合いであっちに着きそうな人いない?」
自分の欲望に忠実に生きようとしていました。どうやら、戦いたくないけれど戦わなくてはいけないシチュエーションをお望みのようです。
「悪いが居ない。……師よ、これはどうするべきでしょうか? 何か行動をとるべきかと……」
話を正常に戻すためにオークさんは師匠に問いかけました。真面目ですねぇ。
そんな彼に対して、師匠はキョトンした顔をしていました。
「どうして? そこまで気負う必要はないとおもうな。所詮はただのイベントだよ、もっと気楽に楽しまなくっちゃ。強いて言うのならアイテムの補充にレベル上げだね。いつも通りだよ?」
流石は歴戦の猛者と言ったところでしょう。
要するに、常に戦えるようにしているから何も問題は無いという事を言いたいのですよ。この人。
割りと無茶な事を言っていますが、そのくらいしないと急な戦闘には対処できませんからね。私が常に毒薬と火薬瓶を持ち歩いているのはそういう理由です。
決して何か事件を起こそうとしていた訳じゃないんですよ……。
それはそれとして。
これから何をすればいいのか、っていうのは私も考えていました。
このままこの場所に留まっていても意味無いですし、クランに帰ってどうなったのなったのか確認しようと思ったのですが……。
黙って居なくなるのも師匠達に悪いですからね。あと他の方達の考えも聞いておきたかったのでもう少しこの場に残る事にしたのでした。
……そういえば師匠、他の人達はどうしたのですか? ワカバさんやシバルさんの姿は見えませんけど……。
「あ、『紳士隊』の人達は一足先に帰ったよ? 現れた邪神は全部倒されたみたいだけど、街の被害の方が気になるんだってさ」
ああ、そういえばあの人達は街の守護者的な事をしていましたね。確かに自分達のクランが無事かどうかは気になるでしょう。
……じゃあここに残っているのは、私達だけということですか?
「いえ、ヒビキさんとメレーナさんが今地下に行っております。念のために確認をしてくるそうです。ツキトさんは……まだ来ていないようです」
そうですか。皆さん既に行動を始めていたのですね。
そして地味にメレーナさん生き残っていたんですか。……ところで、そろそろ姿を現してもいいのでは? もう貴方を知らない人はいないでしょう?
私はそう言って、ジロリと師匠の肩に視線を向けました。
実のところ、師匠の『正体不明』という二つ名は彼女一人のものではありません。
ツキトさんが子猫先輩とコンビを組んで戦っていたように、師匠も一人で戦っているわけではないのです。
「……しゃあないなぁ。けれど、姿を見せなきゃマトモに話もできへんか」
師匠の首周りがボヤけたと思うと、そこに一匹の狐さんが現れました。私の様に一部が狐の特徴をしているのではなく、ちゃんとした動物の狐です。……どうも久しぶりですね、アークさん。お金返してください。
狐の『アーク』。
他人の五感に干渉し、操作する事のできる『プレゼント』、『狐狗狸サン』という能力をもったプレイヤーです。
師匠やヒビキさんの姿がいきなり現れたりしていたのは、この狐さんの仕業だったのですね。
狐っぽい事は大抵できるという、私に対して喧嘩を売るような能力でした。あとお金使いが荒いです。
「お金は勘弁やで~、夜のお店に落として来てしもうて今オケラや~……ひぃ!?」
私はその言葉を聞いて、畜生の眼前に刃を突き付けました。……やはり死にたいようですね。というか姿を隠しているのはいろんな人からお金を借りているからでしょうが。
ほら、早く出すんですよ。貴重品の一つ位持っているでしょうが……!
「し、シーデーはん!? ヘルプ! ヘループ!」
「あー、はいはい。……ポロポロ、アーくんのお金は私が管理しているから後で渡すよ。今は抑えて、ね?」
っく、師匠に助けを求めるとは卑怯な……。
そう言われれば見逃してあげるしかありません。私は伸ばした刃を引き戻しまし、舌打ちをしました。
「相変わらずおっかないなぁ、きみ……。もうわてより強くなってるんやから優しくしてーや」
アークさんは師匠の肩から地面へと着地し、こちらを見上げてきました。……まったく、今回だけですからね?
「すまへんね~。とりあえず、この場所にはソールドアウトの関係者しか居らへんし、全員集まってから何をするか話し合ってもええんちゃう? 後来てないのはツキトはんだけやし」
大体同じ考えなのがイラッとしますが、それには賛成です。
ツキトさんの戦力は間違いなく、このイベントには必要不可欠でしょう。
本人も乗り気のようでしたし、是非とも力を貸していただきたいところなのですが……。
と、思っているとすぐ側に誰かがログインしてきました。ナイスタイミングです。
事前に昨日ログアウトした場所を覚えていておいて正解でしたよ。これでスムーズに話を進めることができるでしょう。……こんにちわ~、ツキトさん。
ちょっとお話いいですか? 実は相談したいことが……。
そう言いながらニコニコと笑顔を作り、彼の顔を覗き込みました。
「…………」
え、何ですかその顔?
ログインしてきたばかりだというのにも関わらず、ツキトさんは浮かない顔をしておりました。
まるで何か失敗してしまった様に見えます。
「あ、ああ。ポロラさんね。うん、こんにちわ、こんにちわ……」
そして明らかに私の顔を見て動揺しております。
「シーデーとアークも居るんだな……。こうやって集まっているっていう事はさ、お前らあの動画……見た?」
動画?
私は振り替えって師匠達に視線を送りますが、全員なんの事かわからないというような表情をしておりました。
えっと、みんなわからないみたいですけど、どんな動画何ですかね?
「……なんか、敵さん全員録画状態で戦ったみたいでさ。俺達が戦っていた状態を全部記録されてたみたいなんだよ……」
へー、そうなんですか。
それの何が悪いのですか? なにも問題は無いとおもうんですけど?
だって明らかにあっちが敵だってわかる内容でしょう。邪神を復活させていたのはディリヴァ達だということは運営からのお知らせでわかっていますし。
どんな内容でも、私達の不利になるような事は無いのでは……。
「あー……と、じゃあ見てみる? ハッキリ言うけど結構ヤバイよ? お前らからしたら普通の事かも知れないけどさぁ……」
ツキトさんはウィンドウを表示し、そこに動画の一覧を表示しました。どうやら各街に現れた邪神とディリヴァとの戦いを記録したもののようです。
サムネイルはそれぞれの邪神達の姿が映っていました。……これの何がヤバイのでしょうか?
私にはさっぱり……。
「あまりにも敵に容赦無さすぎて、俺達が悪役にしか見えないんだけどさ……。どうする? 俺がディリヴァと戦ってるのバッチリ映ってるぜ?」
こゃ~ん……。
私はツキトさんとディリヴァの戦い、もとい、惨殺ショーを思い出していました。
地面を転がり回る幼女を大鎌で痛め付けるツキトさん……。どうあがいてもサイコパスです。これにはロリコンさんもご立腹。
それが大手の動画サイトに晒されたということは……。
「あちらに味方をするプレイヤーが増えるかも知れませんね。真実を知らないプレイヤーの方が多いですし、これは不味いのでは……」
オークさんの言うとおりです。
ロリコンじゃなくても幼女っていうのは守るべき物というのが常識なんですよ。
それを痛みつけてギッタギタに切り刻んだツキトさんの姿はどう考えてもヤバイです。一般人には見せられません。
確かにこちらの味方が減りそうですね。
「それと、ポロラさんが大暴れしている動画もあったな。相当恨まれてるみたいだ……」
嘘でしょ!?
まさか私にまで被害が及ぶとは……どうしましょう、私も仲良くサイコパスの仲間入りですよ。ヤバイです。
…………。
しかしですよ。
それはツキトさんの主観ですよね? 他の人が見たらそうでは無いかもしれません。これは一度確認した方がいいのでは?
「え?」
「ポロラさん?」
「見るん……ですか?」
師匠とオークさん、金髪ちゃんがなにやら驚いていますが関係ありません。……もしかしたら、ツキトさんの戦いも普通の人が見たらそんなにやばくないかもですよ?
「そう……かな? いや……だよね! 俺は全力で返り討ちにしただけだしな! よし! 一回確認してみっか! あ! 他の邪神討伐した動画も面白いからみようぜ!」
良いですね! そうしましょう!
……ということで。
私達は邪神討伐の動画鑑賞会を始めたのでした……。
・陣営
リリア「どちらの味方をするとしても、それは冒険者様達の自由です。私達の敵になるとしても、それは変わりません。私は貴方達がこの世界を動かすことを期待しているのですから……」
本人は気にしていない模様。けれども不安そうな様子は見てとれる。




