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狐さんの修行旅!~そして復讐へ~

 さて、あのポンコツが帰った後のお話をいたしましょう。


 とりあえずツキトさんとは停戦協定を結ぶことにしました。殺すにしても今のタイミングは良くありません。

 敵対する相手が同じである以上、ここでギクシャクしてしまうのは良くありませんからね。

 ソールドアウトの皆様に迷惑がかかります。


 そして、驚異が去ったので今まで隠れていた方々も顔を出してきました。


 どうやら地下訓練場に居た方々は少ない人数では無かったようで、全力で師匠やシバルさんの手当てに当たっていたのだとか。


 そのおかげで師匠も戦線に復帰し、ツキトさんも最高の状態で参戦することができたようです。


 地上に出てきた彼等は驚いた様な顔で辺りを見渡していますね。まぁ、何があったのかすぐには理解できないでしょうし。


 ちなみに私は残骸漁り中です。大量のウジ虫を切り刻んで殺しましたからね、少し位は良いアイテムを落としてくれているといいのですが。


 ……?


 私はとある発光体に気付いて手を止めました。……あそこに落ちてる光っているのって、ツキトさんが切り落としたディリヴァの翼でしょうか? まだ消えていなかったのですねぇ。


 恐る恐る近づき、黒籠手から刃を伸ばしてつついてみますが、爆発とかはしないようです。まぁ、いきなり動かれたりしても困りますけれど。


 ためしに手に取って、確かめてみようとする前に、その翼は手元から消失してしまいました。どうやられっきとしたアイテムだったみたいです。


 アイテムボックスを開いて確認してみると、『真理の翼』という見馴れないアイテムがありました。素材ですかね? これなーに、っと。


『真理の翼


  ??????』


 ……詳細を開いてもこれしか出てこないとは。


 ここにきてウィンドウさんまでポンコツ化するとは思いませんでした。基本的に万能な機能だと認識していたのですけれど。


 けれども、ウィンドウさんでも処理しきれない秘密がこの中に詰まっているのではないか、というふうに考えることもできるのではないでしょうか?

 ちょっとワクワクしますね。


 という訳で、切り落とされたもう一枚の翼も回収してしまいましょう。どこに飛んでいいったんですかね~。


 そうやって顔をあげてみると、ちょうど翼を手に取ったツキトさんと目が合いました。どうやら彼も残骸漁りに精を出していたみたいです。


「ど、どうも」


 あ、はい。どうも……。


 …………。


 気まずいです。


 非常に気まずいですよ。


 全部師匠のせいです、なんであんなことを言ってしまったのですか。


 あの人が言うには『それくらいじゃ怒らないから大丈夫』ということでしたけど、そういうことじゃないんですよねぇ。違う問題が発生しているんですよねぇ。


「えーと、ポロラさん……だっけ? この辺で光る羽見なかった? なんかレアアイテムっぽかったんだけど……」


 やべ。


 確かにこの人が切り落とした物ですし、所有権の優先度はツキトさんにありますね。これは返すのが礼儀なのでしょうが、やっぱり珍しいアイテムみたいですし……。


 ここは黙っているのが吉ですね。


「うわ。絶対持ってる顔してやがる……」


 そう思っていたらすかさず看破してきました。……私が考えていたことを見抜くとは流石最強といったところですねぇ。褒めて差し上げましょう。


 しかしながら、これは私が先に手に入れたもの、欲しければ力ずくで奪うとるといい……!


 私は戦闘体勢に移行しました。


「なんで!? さっき戦わないって決めたばっかじゃん!? どうしてそうなんだよ! ……てかよ、どうして俺の周りの奴等ってこんなんのしかいねーんだよ!? 血の気多いんだってば!」


 あら軽いノリ。


 私の事を見てツキトさんは頭を抱えていらっしゃいます。


 どうやら今まで沢山苦労してきたみたいですね。確かに子猫先輩を筆頭に、チップちゃんにメレーナさん、ケルティさんやヒビキさん等々……。


 うーん、もしかしてこの苦労人だったのですかね?


 そうなると、こうやってふざけて困らせるのは悪い気分になってきます。これから暫くは味方ですし、少しは仲良くしておきましょう。


 私は能力を解除してツキトさんに近付きその肩をポンポンと叩きました。


 ……強く、生きてください。


「お前もその要因の一つなんだよなぁ!?」


 ツキトさんの慟哭は辺りに響き渡っていったのでした。


 それと、ディリヴァの翼については早い者勝ちという事でお互い了承しました。

 どうやら、殺せばなんとかなると思っている、その辺のウジ虫さんとは違うみたいですね……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「それで結局、俺なにしたの?」


 周囲の残骸をあらかた回収し終えた私とツキトさんは、座って少し休憩をとっていました。よく考えてみたらずっと戦いっぱなしでしたからね。


 ついでにしょうもない質問をしてきましたので、私はため息混じりに答えます。……はぁ~、私が教えて思い出すんですかぁ~?


 私もいろんなウジ虫さんをひねり潰してきましたけど、一々顔なんて覚えちゃいませんよ。貴方だってそうでしょう?


 それも、相手が弱ければ尚更です。


 あの時の私は印象に残らない様なクソザコでしたからねぇ。一息で消し飛ばされた私の事なんて覚えてなくて当然です。


 どうぞどうぞ、お気になさらず。

 そのうち闇討ちでもしに行きますので、どうぞお覚悟ください。あと子猫先輩によろしくお願いします。


 私はヘラっと笑いながらそう言ってやりました。……どう考えても、今の私じゃ敵いませんからね。こうやって笑って見せるのが精一杯です。


 そんな私に対して、ツキトさんは納得したように頷きました。


「成る程。なにか勘違いしているみたいだから説明するけどさ、俺は先輩と違って自分より強い相手と戦いたいわけじゃねーよ? 俺にとってこのゲームは、牧場○語だからね?」


 ……よく真顔でそんなおかしな事言えますね。


 私は唐突に訪れた価値観の違いにドン引きしました。


 こんな血みどろの牧場○語嫌ですよ。

 何が悲しくて、生物の残骸を集めるこのゲームにスローライフを求めなくてはいけないのです?


 どう考えても無理でしょ。貴方。


「……いけると思ったんだよ。最初はカルリラ様を信仰して、ゆっくり農業でもしようとしてたんだ……。それなのに、今は『死神』だから驚きだよね……」


 遠い目をしております。


 そういえば職業は農家さんでしたか。まぁ気がつけば変な二つ名が付いているなんて良くあることですから、気にしない方が良いのでは?


「まぁね。でも、こっちに残していった農園もあるし、一段落したら様子でも見に行くさ。俺、農民だし」


 そうやって自虐的に笑う彼の姿を見て、私はふと思うことがありました。なんとなく、この人から未練の様なものを感じたからです。


 ……あの、聞きたいことがあるんですけれど、答えてくれませんか?


「ん? どうしたのさ? そろそろヒビキ達に絡みに行こうと思ったんだけど……」


 そう言って立ち上がったツキトさんを、私は見上げながら口を開きます。慎重に、言葉を選びながら。


 わかってはいるんですよ。これから聞くのは失礼なことで、私の勝手過ぎる不満なんです。


 それでも、聞かずにはいられませんでした。




 ……なんで、仲間が大事なのに、助けに来なかったんですか?




「……」


 だって、そうですよね?


 ミラアさんが邪神化した警告は、貴方にも届いていましたよね? それなのになんで助けに来てくれなかったんですか?


 もっと早く来てくれたら、この街はこんな風にはならなかったかも知れないのに……。


 自分でも、酷いことを言っているのはわかっています。


 完全に責任転嫁です。私の弱さを全部背負わせるような発言にもとれるでしょう。


 けれども、今にも怒り出すような顔をしていると思った私の目に写ったのは、悲しそうな顔をしたツキトさんですた


「悪いけどさ、俺そこまで強くないんだわ」


 ……は?


 何言ってるんですか? 貴方は最強の……。


「クランが襲撃されたのはさ、俺のせいなんだよ。……わかるだろ? 俺はあまりにも怨みを買いすぎちまった。だから、復讐されたんだ」


 クランというのが、『クラブ・ケルティ』の事なのか『ペットショップ』の事なのかは、私にはわかりませんでした。


「クランを解体して、今日までなるべく人目に付かないように遊んでいたんだけどね。結局嗅ぎ付けられてこのザマさ。しかも、誰かが動いているとなんとなく察していたのに先手を防げなかった。自分の弱さに泣けてくるよ……情けねぇ。踏ん切りを付けて戦いに来たのも、大分遅かったし」


 けれど、彼が責任を感じていたことはわかってしまいました。ずっと、悩んでいたことも。


 ……あ、あの、すいませんでした。そんな風に思っているとは思わなくて……。


 私は焦りながら謝罪の言葉を口にしましたが、ツキトさんはゆっくりと首を横に振りました。


「いいんだよ、君を助けたのもシーデーだしね。俺は何もしていない。……でも、それも今日までだ」


 その言葉と共に、彼の表情が一気に変わります。


 ニヤリと笑った口元はまるで三日月のようにつり上がり、その目は燃えるように爛々とした輝きを見せていました。


 先程のような萎びた様子はどこへやら、彼は瞬時に私の知っている『死神』に戻っていたのです。


「ようやく尻尾を出しやがった。倒すべき相手とその能力がわかったのはデカい。後は殺しに行くだけだ……」


 肩に大鎌を担ぎ、ツキトさんは私に振り返りました。




「さぁ、君もやられっぱなしは頭に来ただろう? そろそろ反撃でもしに行かないか?」




 私は高鳴る胸の鼓動のままに、ニコリと笑顔を浮かばせて立ち上がります。 ……上等じゃないですか。やってやりますよ!


 『勇者』か何かか知りませんけど! 全員まとめて皆殺しですよ!


 プレイヤーキラーの意地、見せてやろうじゃないですか!


 私はそう言って、ディリヴァへの復讐に向かって、最初の一歩を踏み出したのでした……。

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