ぶ・ち・切・れ
私は地面に伸ばしていた刃を身体から切り離し、ゆっくりとジェンマとディリヴァに向かって歩いていきました。
「く、来るんじゃねぇ! 『鳥籠』ぉ!」
それを遮るように鉄檻が現れます。……それしかできないんですか? 勇者というものは器用貧乏で何でもできるのが自慢でしょう?
もっと面白い事をして見せてくださいなぁ……!
ギャリギャリという音を立てて、刃の尻尾が鉄檻を切断していきます。
この程度で今更私が止まるとでも思ったんですかね? 逆効果ですよ、イライラします。
バラバラと地面に檻だった物が散らばると、ディリヴァは翼を羽ばたかせ後方へと飛び立ちました。
そして、こちらに向けて悲しそうな視線を送ります。
「貴女は、わたくしの事を理解してくださらないのですね? ……愚かとしか言いようがありません。ジェンマ、更なる祝福を差し上げましょう、『勇者』として邪神の信徒を打ち砕くのです」
「はっ! ありがたき幸せぇ!! ……きぃたぁ! 来た来た来たぁ!!!」
ディリヴァは何かの呪文を唱えました。透き通るような声です。
おそらく何かのバフをかけたのでしょう。それと同時にジェンマの身体が光輝きます。……関係ないんですよねぇ、どっちにしろ小間切れにしてばら蒔いてあげますから。
私は刃の尻尾を伸ばしてジェンマに襲いかかりました。
先端をグパっと開いて奴を包み込もうとしましたが、ジェンマは俊敏な動きでそれを避けます。
「遅いぜぇ! なんだそのあまっちょろい攻撃はよう! 簡単に避けられるわぁ!」
そして、一気に私に距離を詰め、その手に持ったナイフで私に襲いかかります。……能力を使わないで勝つつもりですか。なめられたものですね。
その程度のスピードなら慣れっこです。ギリギリで避けて反撃を……!?
避けようと見構えたそのときです。
私の足元を固定するように小さな鉄檻が現れました。鉄柵は地面に突き刺さっており、簡単には抜けそうにありません。
「動きを封じんのは基本だからなぁ! 死にさらせやぁ!」
ジェンマは真っ直ぐに私の胸目掛けてナイフを突き出しました。……そう言えば、メレーナさんも言っていましたね。
戦闘に置いてまず狙うのは致命傷になる場所ではなく、相手の動きを封じる事ができる場所を狙えと。
全くもってその通りですね。
戦闘においてしなければならないのは、相手を圧倒し、優位を奪う事ではないのです。
正しくは相手の動きを制限し、絶対に勝てない状況を作りだす。
メレーナさんはそれが言いたかったのでしょう。
そう考えるのならば、ジェンマのこの悪あがきにも似た能力使用は褒められるものではありません。
私の自由はこの程度では奪えないのですよ。
「……は? なんで刺さらねぇ……!」
ジェンマが突き出したナイフは私の胸に突き刺さることはありませんでした。ちょっと服が破けた位です。
……本当にお馬鹿さんなんですねぇ。自由に武器を作れるのなら、防具だって作れるに決まっているでしょう?
まぁ……そういうことです。
私は能力を使って服の下に鉄板を仕込んでいました。
全身ではありませんが、急所の部分だけ防ぐことができれば大丈夫だと考えていましたが……上手くいきましたね。
さて、半裸男。
先程は動きを封じるのは基本と言いましたね?
私も同じ考えです。しかしながら……。
「糞がっ! やっぱイカれてやがる!? お前みたいな奴と関わると録な事が……!」
貴方程あまっちょろくは無いんですよねぇ!
私の叫びと共に、ジェンマに向かって地面から刃が飛び出しました。
さっき切り離した刃の尻尾です。私に繋がっていなくても簡単な操作ならできますからね。
ですので、そこから刃を伸ばしてジェンマの四肢を切り飛ばしたのです。……バフをかけてもらってこの程度ですか、ゴミカスですね。
私は地面に散らばったジェンマを睨みながら見下ろしました。
……さて、見下ろされる気分はどうですか? 私は最高です。貴方もそうでしょう?
なにか言いなさいな……このクソ野郎!!
私は苛立ちをぶつけるようにジェンマを何度も踏みつけます。……こんな奴らは生きている価値がありません。私が全て根こそぎ滅ぼしてあげましょう。
なので、先ずはコイツからです。
ぶち殺してぶち殺してぶち殺し続けて、コイツらが私の顔を見た瞬間に逃げ出してしまうまで殺してやります。
チップちゃんを邪神化させた復讐を果たさなければなりません。ツキトさんに復讐するよりも先にこっちです。
私達に手を出したことを、一生かけて後悔させてあげましょう……死ねぇ!
私は黒籠手から槍を作りだし、ジェンマに向かって振りかぶりました。この状態ならば、避けることも反撃することもできないでしょう。
そして槍が振り下ろされ、ジェンマの額に穂先が迫ります。……が。
私の身体はピタリと止まりました。
気がつくと、目の前で鬼の形相をした狐娘さんが槍を振り下ろしたような姿で固まっていますね。あら可愛い。
あれ? というか、私死んでいません?
この視線死ぬ直前のアレじゃないですか。視点変更とかそれくらいしか心当たりないんですけど。
「へっ……へへへ……、残念だけどよ、俺の方がレベルが高かったみてぇだなぁ。……『覚醒降臨』だ」
ジェンマは動きが止まった私を見ながら笑みを浮かべます。
「『強欲』には効かないと思ったのか? お前も『強欲』みたいだけどよ、自分に使った事無いんだろ? ……関係ねぇんだよ! もうお前は俺達の手足だ! 世界の破壊のために、働いてもらうぜぇ!!」
なっ……!?
この展開は予想していませんでした。
だってそんな事ができるとは思わないじゃないですか。『強欲』の能力で『強欲』の能力を暴走させれるなんて思いませんでしたし。
というか、そうなった場合どうなるんですか?
私の力はリリア様から貰ったものです、いったいどうなってしまうんですかねぇ? 幼女になるとか?
って、そんなことよりも……。
ふざけるんじゃないですよ! なんなんですかいったい!? こんなのズルすぎますよ!
私の勝ちだったはずなのに! もう殺せる所だったのに!
「……これがわたくしの力です。貴女の力も貸してもらいます。さぁ、貴女の思うままにこの世界を救うのです」
そう言ってディリヴァは楽しそうに微笑んでいました。……っく、コイツも復讐対象です。泣きながら土下座させてあげましょう。絶対に吠え面かかせてあげます。
私がそう呪いながらディリヴァを見ていると、目の前にメッセージウィンドウが現れました。
『プレイヤー『ポロラ』がギフトの力に飲み込まれました。周囲のプレイヤーは迅速に避難してください。『プレゼント』が暴走します』
少し変わったアナウンスを眺めながら、私は周囲の様子を確認します。
ワカバさんとヒビキさんは動きが止まったままです。先程と様子が全く変わっていません。
『測定中……』
ジェンマは楽しそうな顔をしていますね。
『判明』
もうここまで来たら手遅れですよ。
私も邪神になるしかないみたいです。
こうなったら邪神化した私に期待するしかありません。たとえ暴走したとしても、必ずや奴等を惨殺してくれるでしょう。
頃合いを見て、ログインしなおしますか……はぁ……。
そうやって落胆していると、私に向かって走ってくる誰かの姿が見えました。……オークさんに金髪ちゃんです。
きっとアナウンスを見て駆けつけてくれたのでしょう。逃げればいいのに。何をしているんですかね?
きっと私は皆殺しにしてしまうでしょう。敵味方関係無しに殺し尽くすはずです。
でも、嬉しいものですね。後輩達がこうやって仇をとりにきてくれるんですもの、私の人望の厚さがうかがえます……。
「ジェンマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 私の弟子に手をだすなぁ!! 『七神……失落』!」
とか思っていたら地面から師匠が飛び出してきました。そしてスキルの使用により私の視線が元に戻りました。メッセージもこれ以上の表示ありません。
そして身体の自由が戻ったので、すんでのところで止まっていた槍がバカの頭に突き刺さりました。……やりましたね!
うわ~ん、師匠~。
ありがとうございますぅ~! なんとか戻って来れましたぁ~!!
私はそう言いながら地面から飛び出してきた師匠に抱きつきました。
いつもの様にペストマスクを被っていて、ちらりと見えるガラス越しの目は怒っている様に見えました。
「ポロポロ、無茶しすぎ。後は私達に任せてよ。あの白いのをミンチにしてるのを見てればいいから」
くぅ~、これですよ、これ。
ぶちギレ師匠の強いこと強いこと、5・6回怒らせてますけど、逃げ切れた記憶はないですからね。
こんな男の娘みたいな容姿ですけど、常識はずれに強いんです!
「……それと、今から出てくる人に喧嘩売っちゃダメだよ? 五体バラバラにされるから」
そう言う師匠は焦っているようです。……え、そんな人もいるんですか? ちょっと怖いんですけど? いったいどんな狂人なんですかねぇ?
そんなことを考えていると、また地面を突き破って誰かの影が現れました。
それはディリヴァに向かって真っ直ぐに飛んでいき、手に持った武器で彼女の翼を根本から切り落とします。
「……ったっくよう! 人が休みにきてんのに騒動起こすんじゃねぇよ! 気が付いたら周り知り合いしか居ねぇし!」
!!?!?
そう言って叫ぶ彼には見覚えがありました。
翼を切り落とされ、落ちていくディリヴァに対して怒りをぶつけています。
「俺には自由すらねぇってか!? 折角先輩に許可もらって遊びにきたのによぅ! お前が問題起こすまで戦う気はなったのに! ぶっ殺す! ミンチだボケぇ!」
な……、なんで……。
私は目の前に現れた方の姿をを見て、驚愕しました。
黒い外套に片手に携えた大鎌。
そして威圧的で高圧的な態度。
まるで自分を倒す事ができないと言いたいような様子です。
彼の目は爛々と輝き、ニヤリと笑う口元が印象的でした。
私は、その姿に見覚えがあります。
最強と恐れられ。
暴走するプレイヤーを制圧し。
全ての邪神を殺して『死神』と呼ばれている化物。
世界を救った『英雄』としてNPCに褒め称えられる、『主人公』のような扱いをうける農民……。
最強のプレイヤー『死神従者』。
ツキトさんが大鎌を構えて立っていたのでした……。




