表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/172

私は……

 このゲームの世界において、勇者という称号は特に特別な意味を持ちません。


 いえ、一応は『勇者』の二つ名を持つNPCが居たのですが、彼は邪神の依りしろとしてプレイヤーの前に現れ、儚く破れ去ったのです。


 公式設定では、自分の使命も役割も放棄し、廃人になって街を彷徨い歩いている……との事でした。


 ですので、そのたった二文字の肩書きは特別な意味など無く、過去の強敵を連想させるだけの下らない言葉なのです。


 しかしながら……その言葉には、皆さん弱いのですよ。


 人々を救い、世界を守護し、物語を回す。


 ゲームやファンタジーが好きな方なら、誰だって憧れる主人公の代名詞ですもの。なれるものならなってみたいに決まっていますからね。


 けれども、それは逆に考えると……主人公は『勇者』でなければならないという、残念な話になってしまいます。


 街を、国を周り、弱気を助け、強きを挫き、人々に称賛される存在。


 皆が皆そうなれるのかと聞かれたのなら、私はこう答えるでしょう。……ちょっと夢見すぎじゃないです?


 実際、割りと無理な話ですよ?


 このゲームはMMOなんですよ。

 色んな人が集まって、色んな事をして、ちょっとずつ楽しい世界を作っていくゲームなのです。


 そこで『勇者』なんて仰々しい名前で呼ばれるようになるためには、リアルを捨てる覚悟と勇気が必要になります。


 そして、『勇者』という高みに、最も近いのはサービス開始からプレイをしている、トッププレイヤーと呼ばれる方々でしょう。


 彼等を打ち倒し、更にはこのゲームのストーリーを次に進め、ラスボスをぶっ飛ばす位の偉業を成し遂げても尚、そう認識されるかはわかりません。


 具体的に言うのなら、全ての邪神を打ち倒し、NPC達から尊敬され、愉快で頼もしい仲間達に囲まれて……、ついでに隣には可愛いヒロインでも付けてあげれば、そう呼ばれるかもです。まんまファンタジーの主人公って感じ。


 まぁ……普通に考えて無理です。


 ですから、私達はちょっとした憧れを諦め、楽しく遊ぶ事を考えながら、この世界で生きているのです。


 けれども、そうやって『楽しく』を極めた結果、認められた方は沢山います。……良くも悪くも。


 そんな理由もあって『勇者』という言葉には何の意味もなかったはずなのです。




 けれども、それを終わらせる、存在が……。




 私達を『主人公』と認めようとする存在が、目の前に現れてしまったのです。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「さぁ、祝福を受け取ってください。貴女も、わたくしと共に歩む勇者様になってくださいませんか?」


 うわっ!?


 いきなり身体に自由が戻ってきたせいで、私はフラフラとした足取りで前に出ました。


 私に向かって手を差し伸べているディリヴァまでは、後数メートルの距離があります。


 他の後ろを向いて見ると、ヒビキさんとワカバさんはまだ身動きがとれないようで、固まったままでした。


 ……えーと? とりあえずお話でもしましょうか? まだ頭の整理がついていないんですよねぇ。


 貴女って何者なんです? そこの半裸男は女神だとかなんだとかと言っていましたが……。


 おずおずと質問した私に、ディリヴァは笑って答えました。


「そう言われると少し恥ずかしいです。確かに、わたくしは貴女達から見ればその様な存在です。……今貴女が信仰している邪神も同じ。神と呼ばれる力を持った、次元の違う存在だと思って頂けたら幸いです」


 要するに女神様ですか。


 これはこれは失礼致しました。いきなりキラキラした子が現れたので少し驚いてしまったのですよ。


 それにしても……なんで女神様がこの世界を救おうとしているのですか?


 貴女がとてもお優しい事は察することができますけれど、そこまでする必要があるのです?


 お話を聞く限り、彼女はこの世界に元からいた訳では無いらしいですし、ちょっと気になるところです。


「いいえ、無関係では無いのです。……とても昔の話です。この世界は混沌そのものでした。人は信仰を知らず、地を這う獣と変わりませんでした。それを知ったわたくしは、この世界に種を撒いたのです」


 ……まだ足りないですね。


「それらはわたくしの力を分けた者達、様々な種族を反映させ、いずれは神と呼ばれる存在になるはずでした。……けれども、そうはならなかったのです」


 ディリヴァは説明をしながら、一滴の涙を流しました。

 本当に悲しんでいる様にしか見えないその姿は、とても美しいと感じます。


「何故か、本当にどうしてかわからないのですが、あの世界に新たな女神が産まれてしまいました。……邪神リリア。命を弄び、自身を女神と偽る化物。五人の下部(しもべ)と共にこの世界を支配するわたくしが倒さなくてはならない存在なのです……」


 そうですか。


 なるほどです、貴方のお気持ちは良くわかりました。よっぽどこの世界を大事に思っておられるのですね。


 私はそう言いながら、すっと右腕をあげました。


 その愛には感服致しましたよ。私も考えを改める気になりました。らぶあんどぴーすという奴ですかね?


 その理想に付き合うのも悪くはないでしょう。


「あぁ……。ありがとうございます、勇者様。貴女の聡明な判断は、この世界をきっと素晴らしいものへと変えるはずです。それでは祝福を……」


 あっと、その前に一つ質問です。


 私はディリヴァに向かって上げた右手の人差し指を上げました。


 ……なんで無関係な冒険者をあのような姿に変えたのですか? そのせいで街は破壊され、皆苦しんでいるようです。


 この答えを是非お聞かせいただけませんか?


「ああ、その事ですか。……ジェンマ、近くに。この勇者様にご説明を」


「はっ! ただいま!」


 ディリヴァに呼ばれた半裸男が、慌てた様子で少女の隣に駆けよってきました。暑苦しっ!?


「よう、イカれ女……っと、流石にこの呼び方じゃ失礼か。これからは俺達の仲間なんだしな」


 いえいえ、お好きに呼んでくださいな。


 私も好きに呼びますから、遠慮なしにいきましょうよ……ジェンマ。


 私がそう返すと、半裸男はニタリと笑みを浮かべました。


「おおっ!? 良いじゃねぇか、気に入ったぜぇ! お前は俺達と同じだと思っていたんだ! 歓迎するぜ! ようこそ『モブ』へ!」


 …………もうちょっと。


 私は大きくため息を吐きました。……『モブ』、ですか。


 気になっていましたが、その名称はいったい何ですか? 貴方達はこの子が言うところの『勇者』様なのでしょう?


 その名称は如何なものな物かと思うのですが?


「ちっちっちぃ、わかってねぇなぁ。てか……わかるだろ? 俺達は『モブ』だろうが? 少なくとも『主人公』では無いことは確かだ。そうじゃねぇか? 俺達は何時までたっても日陰者、メインキャラにはなれねぇ」


 ジェンマの言葉の端には、どこか苛立ちのような物を感じました。

 何をやっても上手くいかない苛立ちというか、諦めきれないやるせなさというか……共感できなくはない感情です。


「けれどだ、俺達はこの子から力を貰った。『主人公』どもを地に叩き落とすことのできる力だ。……見ろよ、トッププレイヤーって称賛されていた奴らが、正気を忘れて暴れているぜ? ……あれがアイツ等の本性だ! 他人の迷惑なんて考えず、自分の思い道理の道を進んだ末路! 俺達『モブ』に良いようにやられて! 気分がいいぜ! いてっ!?」


 楽しそうに語るジェンマの頭をを、ディリヴァがポカリと叩きました。


「こらっ! それは貴方の都合でしょう! わたくしの目的はこの世界の住人の魂を解放することです!」


 ……かい、ほう?


 その言葉の意味はわかりました。


 このゲーム、基本的にNPCは殺しても次の日には何事も無かったかの様に生き返りますし、街を壊しても勝手に直るご都合的な世界です。


 けれども、NPCは一定の条件を満たすことで永久ロストさせる事ができます。そして、それは難しい事ではありません。

 『深淵』という属性攻撃で止めを刺せば、NPCはもう二度と復活しないのです。


「この呪われた世界から解放し、正しき輪廻を廻す……その為に彼等の力を利用させていただきました。彼等の攻撃には可哀想な彼等を導く力があります。その為には強い冒険者の力が必要だったのです」


 ……あ、もういいですね。


  そうですか、貴女の言いたいことはわかりました。……いやぁ! 素晴らしい理想です! 


 呪われた輪廻から解放し、正しき世界に戻す!


 良いじゃないですか!


 今までの常識を覆し、あるべき姿に戻す!


 言うならば『勇者軍』と言えば良いのですかね!? 私みたいなソールドアウトの皆様に振り回されて来たプレイヤーにとっては面白い話でしょうしねぇ!


 ああ愉快! これで晴れて私も『モブ』から脱却して『主人公』の一人というわけですか!


 『モブ』が『主人公』を打ち倒すという、反逆の物語を回すのがお望みなのですね!?


 今流行りの成り上がりってやつですか!?


 うっける!


 あぁあははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!


 私は狂った様に捲し立て、辺りに笑い声を響かせました。


「ど、どうしたのですか、勇者様……。は、早く、手を……」


 先程と変わらずに手を差し出すディリヴァを庇うように、ジェンマが彼女の前に身を乗り出しました。


「テメェ……! その尻尾、どこに繋がっている!?」


 ジェンマは私の刃の尻尾を指差して叫びます。


 私が作り出した尻尾は、地面に向かって伸びておりました。……これが私の答えですよ!


 一人と言わず、()で仲良く手をつなぎましょうよぉ!! びょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!




 その言葉と共に。




 前方でたむろしていた、クソモブプレイヤー達全員を取り囲むように。




 地面から刃が飛び出しました。




 それはあっという間にドームを作り出すように半円状に変化して、彼等全員を取り囲みます。


 そして、モブの……勇者達の叫びが聞こえました。


「なんだ……!? 不味いぞ! 皆、ジェンマの檻に逃げ込め!」


「お、おう! あの中なら最悪死なねぇ!」


「なんだよこれ!? ソールドアウトのバカ達にこんな能力は持っている奴いないはずじゃ……」


 そう言ってゴミどもが逃げ惑っています。


「ば……なにしてんだ!? 逃げろ!!」


 ジェンマがそう叫びますが、手遅れですよ。


 私の刃は逃げ込んだ檻共々ゴミどもを切り裂いて行きます。今頃ドームの中は刃の嵐で血の花吹雪が舞っているでしょう。お祭り騒ぎです。


「そん……な。わたくしの勇者様達が……」


 ディリヴァは顔を真っ青にしていました。……もう一度言いましょう。これが私の答えです。


 よくも……よくも私の友達に、チップちゃんに酷いことをしましたね。


 貴女の世界がどうとか、魂がどうとかどうでもいいんですよ。


 勇者?


 知るかそんなもん。


 友達を犠牲にしてまで得た世界に、いったいどれだけの価値があるのです?




 そんな世界を生きるくらいなら、私は一生『モブ』でいいのです。




 友達と楽しく遊べるなら、それが一番なのです。……ああ、そうだ。


 貴女方、私の二つ名知ってますか?


 味方でも、敵でも、その辺の無関係な人にまで。


 好き放題襲いかかる『戦闘狂』ですよ? 『勇者』なんてありふれた下らないカスと一緒にしてもらっては困るんですよねぇ!


 さぁ、殺し合いです!


 粉微塵に殺して差し上げましょう!


 そう言って、私は二人に襲いかかりました。






 さぁさぁさぁ、お立ち合い。


 おそらくこれが、私の一番の大舞台。


 『戦闘狂(バーサーカー)』というクソみたいなモブキャラと、『女神』&『勇者』という主人公勢の戦いが。


 たった今から…………始まるんですよぉ!


 ミンチにして差し上げます!


 びょおおおおおおおおおおおお!!!!

・輪廻の『カルリラ』の神託


 ……聞こえますか?


 貴方達程の強者が、なんでそんなところで動けないままでいるのですか?


 事情があるのはわかります。強すぎるという悩みもわかります。……けれども、ここで動かないのは、以前の貴方達ではありません。


 あのディリヴァという存在のせいで、数多の死ななくてもいい存在が、深淵に還りました。もう私の力でもどうしようもありません。


 お願いします。


 世界を救えと言っている訳ではありません。


 誰かの為に、必死に足掻いている彼女の為に。


 貴方達の力を使っては下さいませんか?


 それとも貴方達は、彼女の叫びを下らない物と一蹴するような方だったのですか? ……違うでしょう?


 ……ありがとう。


 それならば、お逝きなさい。


 私の『死神』の力ならば幾らでも差し上げます。


 必死に足掻く彼女に、力を貸してあげて……!


 お願いします!

 


・CD


 弟子の為に……行こうか! 吹き飛ばすよ!


・浮気者


 カルリラ様にそう言われると弱いんだよなぁ。……仕方ねぇ、いっちょわからせにいってやっかな?


 女の子助けたらまた先輩に怒られそうだけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ