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『ディリヴァ』

 殺さなきゃ。


 ハッと我に帰った私は、頭上で飛び回るジェンマに向かって、黒籠手から無数の刃を放ちました。


 刃は多方向から目標に迫りますが……。


「うひぃ!? おっかねぇなぁ!」


 ジェンマを守るように球体の檻が現れ、私の攻撃を防いでしまいました。……あの能力、予想以上に厄介ですね。壊せるのが救いですが。


 攻撃をされたのが気にくわなかったのか、ジェンマはこちらに向かって叫びました。


「何しやがる! このイカれ女! 大人しくしてやがれ! 『鳥籠』!」


 そして、その叫びと共に私を包む様に檻が現れました。……というか誰がイカれ女か。

 その翼を引きちぎって地面に叩き落として差し上げましょうか?


 私は刃で三本の尻尾を作り出し、檻の中で思いっきり振り回しました。


 するとギャリギャリという金属同士ぶつかり合う音と共に、檻は砕け散って消えてしまいます。……はんっ、他愛もない。


 なんですかぁ? 大口叩いてこの程度の耐久力とか私達を笑わせに来ているのですのかねぇ?  そう思いませんか? お二人とも……。


「だぁあああ!! 出せやぁ!」


「ふむ……ふむふむ……あ、これ突破無理なやつか」


 ……あれ?


 お二人を見ると彼等はまだ檻の中にいました。ワカバさんは鉄檻にしがみついてガシャガシャと音を立てており、ヒビキさんは材質を確かめる様にコンコンと檻を叩いていました。


「さ、さっきから……なんで壊せんだよ!? 俺の『鳥籠』は壊せないはずなのに……!」


 え? そうなんですか?


 親切にも破壊耐性があることを教えてくれました。壊せないって知らなかったらもがくのを眺めてたのに。


 やっぱり、このコウモリ抜けていますね。


 それはそうと、このまま殺されては困りますので、刃の尻尾を伸ばしてお二人の檻も壊してあげました。

 私の時と同じように、簡単に壊れて辺りに残骸が散らばります。……本当に大した事無いですね。


 こんなのが元『ペットショップ』の方々を倒す事ができたとは到底思えません。今ここにいる私達だけで返り討ちにすることもできそうです。


「よし、良くやった狐! このままアイツを拘束するぞ!」


 ワカバさんはそう言って私の隣にやってきました。ヒビキさんも同様です。


 あちらの能力で閉じ込められたら、すぐに脱出するためのでしょう。その意図は理解できました。……でもなんで尻尾触ろうとしているんですかね? ヒビキさん?


「……バレた?」


 私の三本になっている尻尾に伸ばした手をピタリと止めて、ヒビキさんは真顔で首を傾げました。

 そんな顔しても駄目です。後で変態として皆に注意換気しますから。覚悟をしておいてください!


「もうやられた」


 私の脅迫に、ヒビキさんがどや顔で答えます。変態強い。


「おれもやられた」


 駄目ですね、変態しかおりません。私を除き。


 と、こちらが戦闘準備を終わらせると、ジェンマはフラフラとしたコウモリの独特な動きをしながら地面に落ちました。


 そして、その輪郭がぶれて大きくなり、大きな人間の姿へと変化しました。


 見た目は二メートルを越える身長の大男ですね。恰幅が良く、上半身が裸の荒くれものといった感じです。


「あーあー、そんなに集まっちまって、そんなにビビらなくても良いじゃねぇか? 仲良くしようぜ? 今日は重大発表をしに来たんだからよ?」


 ……さて、お相手は油断しきっている様です。なにやら戯れ言を抜かし始めました。


 先手をとって攻撃を仕掛けても良いのですが、先程からこちらの攻撃は防がれるばかりです。できれば相手の能力をちゃんと把握したいのですが……。


「……狐、少し堪えろ。情報を引き出せ」


 ワカバさん……。


 悠長な考えだとも思いましたが、先程からのジェンマの様子を見る限り、こちらが何もしなくても勝手に情報を漏らしていますからね。


 焦る必要も無いことは私も同意です。


 けれども、仕込みはしておきましょう……。


「そういえばお前らさ、こんなところで油売っていて良いのかぁ? 他の街は今頃どうなってるだろうなぁ?」


 はぁ? そんなこと知るわけないでしょう?


 まさか、他の待ちでも誰かを邪神化させて来たとかそんなお話ですか? ま、その程度なら他のプレイヤーの方々がなんとかしているでしょうけどが。


 このゲーム、別に有名な人しか強い方がいない訳ではないですからね。隠れた実力者なんて沢山います。


 ですので、邪神の一体や二体、簡単に処理できるはず……。


「お? 惜しいな。……全部同時だよ、今頃他の街でも化物達が暴れまわっているだろうなぁ」


 !?


 そんな馬鹿な。


 『強欲』持ちのプレイヤーは数が少ないはずです。そんな方々が徒党を組んでいるとは考えずらいのですが……。




「おっ? 信じられないって顔してんな? それじゃあ、今回の主役に登場してもらおうか? ……俺達の女神、『ディリヴァ』様だ」




 にたりとした笑みを浮かべて、ジェンマはパチンと指を鳴らしました。


 すると、先程私達を捕らえた檻とは比べ物にならない大きさの鳥籠がジェンマの後方に現れたのです。


 その鳥籠の中には純白の翼を持つ存在が入っていました。


 それは髪も、肌も、服も真っ白な、幼い少女。


 神聖な雰囲気と、翼から散らばった光る羽がなんとも言えない美しい光景を作り出しています。


 私が見とれていると、ガチャン、という音が響き、鳥籠の扉がゆっくりと開かれました。

 自分が解放されたことを理解したのか、柔らかな笑顔を見せて 、ディリヴァと呼ばれた少女は口を開きます。


「ありがとう、ジェンマ。わたくしの信徒。良くここまで連れてきてくれました」


 柔らかく、魅力的な声色。


 それを聞いたジェンマは膝を付き、頭を垂れました。


「ありがたきお言葉……。言われた通り、強き『色欲』の欠片を回収しました……」


 ……どうやら、ミラアさんを襲ったのはあの少女の命令の様ですね。つまりは彼女も敵ということなのでしょう。


 それで、あれはなんなのですか? ヒビキさん知りません?


 チラリと振り替えると、ヒビキさんは驚いた顔をしておりました。


「わからない……。少なくとも、ディリヴァなんて名前は聞いた事がない……」


「女神……か。心当たりはねぇな」


 ワカバさんもわからない様で、険しい表情をしております。


 歴戦のプレイヤーであるお二人でも知らないということは、新規のキャラクターなのでしょうか? それともプレイヤーがそう言って騙っているだけ?


 見た限りではNPCということは確かですけれど……。


「ああ……そんなに緊張なさらないで? わたくしは、邪神に作られた貴方達を導くためにいるのですから」


 ディリヴァはそう言うと、クスリと笑いました。


 その瞬間。


 私の身体はガチリと硬直し、身動きがとれなくなってしまいます。まるでワカバさんの『紅糸』を使われたようでした。


 しかしながら、それはワカバさんとヒビキさんも同じようで横で驚いた様な声が漏れます。


「少しだけ、貴方達に干渉しました。今、少しだけ、わたくしの話を聞いてくださいませんか?」


 そう言いながらディリヴァが腕をあげると、私達の目の前に幾つかのウィンドウが現れました。


 そこに映っていたのは、この国にある幾つかの街の風景と……。




 そこを闊歩する化物の姿でした。




 ほ、本当にプレイヤーを、一斉に暴走させたのですか……?


「悲しい事です……」


 憂いの感情がこもった声で、ディリヴァは言いました。


「『冒険者』と呼ばれる貴方達の中には、このようなおぞましい化物が封印されています。それが暴走すると、このように辺りを破壊し、命を奪っていくのです」


 ウィンドウの中では、見覚えのある化物達が街で暴れていました。


 何かが集積して出来上がった、肉の塊と呼んでもいいような巨人。


 母体と繋がったへその緒を垂らしながら、人々を襲う異形の生物。


 太い幹から生やした食虫植物の様な蔦で住人を貪り食らう、天を覆い隠す様な巨大樹。


 周囲から生気を吸収し、全てを干からびかせるアンデッドと、次々に現れる骸骨達。


 その手にした大剣で命を乞う人々を残虐する、黒い鎧を纏った重装騎士。


 『色欲』を除く、邪神の特徴を持った化物達です。


 その表示されたウィンドウの中で、目を離す事ができない物がありました。

 そこに映っていたのは、巨大な樹木、『暴食』の邪神と……私達のクラン『ノラ』が居を構えるコルクテッドの町並み。


 どうしても嫌な考えが浮かんでしまいます。


 あれほどの大きさの邪神が、いったい誰から変化したのか。考えたくなくても、ついつい頭に彼女の顔が浮かんでしまいました。


 チップ……ちゃん?


 そんな事はないと思いたいのですが、その事に絶対の自信が持つことができず、私の鼓動がどんどん速くなっていくことを感じます。


「そして、最も悲しいことは、死んだ命が蘇ってしまうこと。……自然の摂理を無視したこの世界の理は、間違っています」


 私の戸惑いを無視して、ディリヴァは語り続けます。


「この世界を支配する、邪神リリア。彼女の手から全ての存在を解放するために、わたくしはこの世界へと降り立ちました。正しき世界を作るために。……そして、それを為すには貴方達の力が必要なのです」


 ディリヴァがそう言うと、新しい鳥籠がいくつも現れ、その扉を解放されていきます。

 そこから現れたのは、様々な種族のプレイヤー達。


「彼等はわたくしの祝福を得し勇者達。わたくしの信徒です。……さぁ、何も知らない冒険者様、隠された真実を知り、世界を救う冒険に行きませんか?」


 まるで甘露のような言葉を私達に投げ掛けたディリヴァは、こちらに見とれるような笑顔を見せてこちらに近付くと、優しく手を差し伸べたのでした……。




「わたくしの名前はディリヴァ。真理の『ディリヴァ』です。共に行きましょう冒険者様……いえ、勇者様……」



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