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檻の中の蝙蝠と成し遂げた復讐

 今この場には、二体の人形がいます。


 私とワカバさんはその状況を邪神から距離を取りながら確認しました。


 ボロボロ状態の今にも壊れそうな物と、たった今邪神のお腹から這い出してきた血塗れの人形です。


 ワカバさんの簡単な説明では、あれはヒビキさんの能力だそうで他人に寄生して数を増やすことができるという事でした。ホラーですかね?


「ひぃっ……!? 『ドールズ・メイド』……! ど、どうしてお前が出てくるんだよ!?」


 邪神の肩に乗っているコウモリも驚いております。


「がっ……はっ……! なんなのだ……なんなのだ、お前は……! いったい、いつワタシの中に……!」


 お腹から溢れ出る血を手で抑えながら、邪神がヒビキさんを睨み付けました。


 しかしながらヒビキさんの表情は変わらず笑顔のままです。……あんな事をしたくせにそんな顔をできるとか凄いですね。どんな精神してるんだか。


「いつの間に? ……元々入っていただけですよ。レベルの高いプレイヤーの身体には、予め寄生するようにしているんですよ。寄生された方は知らないと思いますが」


 勝手に寄生してたのです!?


 や、ヤバい人じゃないですか! 無断で寄生するとか常識知らないんです!? いや、お願いされても絶対に許しませんけれど!


 そういえばトラウマメーカーとか、絶対に関わってはいけないとか言われてましたね、ヒビキさん……。


「アイツマジで勝手に人の身体に人形のパーツ埋め込むからな……。食事とかに混ぜたりしてな……」


 ワカバさんはそう言いながら苦い顔をしております。……もしかして、苗床さんでいらっしゃいました?


「苗床言うな。……とにかく状況が好転した。おれ達も動くぞ」


 そう言って、ワカバさんは邪神に向かって駆け出しました。

 既に能力を発動させているようで、その手の中には紅い糸が渦巻いております。


 その姿を確認したのか、ヒビキさんも邪神に対して攻撃を繰り出しました。


「っく……! 来い!」


 邪神が叫ぶとワカバさんのコピーが現れます。

 それは二人よりも速く動き『紅糸』を発動させようとしていました。……させませんよ!


 私はワカバさんとヒビキさんの周りに向かって大爪を飛ばします。そして彼等を捕らえようとしている糸をバラバラに切り落としました。


 するとコピーの動きが一瞬止まりましたので、その隙に一気に接近して首をはねました。


 能力を使われるのは厄介ですけど、弱いのは助かりますね。さて、邪神の方は、と……。


 雑魚を処理した私は今度は邪神の方に向き直ります。


 そこで見たのは邪神に対して立ち回っている二体の人形でした。


 先程ボロボロの人形は能力を発動した後、地面に倒れてしまったと思いましたが、今では元気に動き回っております。


 良く見ると身体のあちこちに紅い糸が繋がっていて、それはワカバさんの手から伸びておりました。


「ヒビキ! コイツは最後まで使わせてもらうぞ! ぶっ壊れるまでおれの奴隷だ!」


「どうぞお好きに! 後で産んでもらいますね!」


 しれっと恐ろしい発言が飛び出しましたね。


 しかしながら二人の連携は息ピッタリです。相手に反撃を許すことなく打撃を加えていきます。


「ぐっ……うっとうしぃぞ! カスどもが!」


 その言葉と共に、邪神の姿が消えました。


 そして数十メートル離れた場所にその姿を現します。既にお腹の傷は治っているみたいですね。飛ばされた片腕も徐々に再生していっているみたいです。


 まったく、あの移動能力厄介ですね。あれを封じる事ができれば楽に倒せそうな気もするのですが……。


「おい、狐! ちょっとこっち来い! 話がある!」


 私が悩んでいると、ワカバさんから呼び出しがありました。

 ヒビキさんが近くにいますので、警戒しつつ近寄ります。変な事しませんよね?


「……別になにもしないよ? レベルが高い人にしか種付けしないし。後、女の子には酷いことしないよ?」


 そう言ってニコニコとヒビキさんは笑顔を見せますが、さっき邪神の中から出てきた姿は一生忘れることができないでしょう。


 ……それで話とはなんですか? ワカバさんが苗床になって、ヒビキさんを増やすという作戦ですかね?


「人の身体をなんだと思っているんだ。……ミラアの移動能力について教えておいてやる。アイツが発生させるコピーを殺しながら聞け」


 え? また発生してるんです?


 その言葉を聞いて私は邪神に目を向けました。


 邪神の周りには多くの人魂が浮かんでおり、その内の数個が人型に変化していっております。どうやら本当にキリが無いみたいですね。


 私は大爪を飛ばして一体一体を丁寧に潰していきます。それと同時に、こちらに伸びてくるコピーの『紅糸』を防いでいきました。


「いいか? アイツの移動は座標転移だ。予め用意した座標にしか飛べない。そういう能力だ」


 それで!? どうすれば良いんですか!? それと、私の負担多くないです!?


「おう、悪いな。でだ、その移動できる座標だが見た感じそこまで多くはないはずだ。恐らく周囲に幾つかあるくらいだ」


 私が必死に対処しているにも関わらず、ワカバさんは淡々と説明を続けました。冷静過ぎてちょっとムカつきますね。


 けれども、決まった場所にしか飛べないのならある程度予測して攻撃することができます。


 その場所がわかればいいのですが……。


「それで、ボクから提案。……実はもう一体産ませることができるんだ。動きを止める事ができるよ?」


 うわぁ……。


 なんという事でしょう。


 あの光景をもう一度見ることになるなんて思いませんでした。しかもこんなすぐに。


 けど、動きを止めてどうするんですか?

 攻撃をするとしても、そんなに長くは拘束することはできませんよね?


「お前、自分の能力忘れたのか? 移動能力は『プレゼント』だ。お前の『プレゼント』の一部でも良いからアイツに打ち込めば、使えなくなる……と思う」


 そこ曖昧なんですね!?


 しかしながら、割りと有りな作戦ですね。ヒビキさんが能力を発動させて、出てきたお腹の中に攻撃を入れて上げれば良いん感じですか。


 わかりました、やりましょう。


「よし。……行くぞヒビキ、まずはアイツをボコる」


 その言葉で、二人は一斉に飛び出しました。……あれ?


 私の足元にはボロボロの方の人形が横になっていました。糸は繋がっているようですけど、今度は本人が戦うつもりなんですかね?


「もういい! お前達にはウンザリだ!」


 邪神はそう叫んで人魂を手元に引き寄せました。そして、それをワカバさんとヒビキさんに向かって打ち出しました。


 それはまっすぐに二人に向かって飛んでいきますが、彼等は余裕で避けました。

 同時に打ち出された人魂は地面に着弾し、爆発。砂煙を巻き上げます。


 ……弾数に限りがある攻撃なのでしょうが、良い威力してますね。私があれを食らったら粉微塵でしょう。


 あれに絶対に当たらないよう、作戦を遂行させなければ……。


「オラァ! くらえよアバズレぇ!」


 先に到達したワカバさんが、短い腕を振り上げて邪神に向かって殴りかかりました。


 邪神はそれを受け止めますが、多少のダメージは通った様で、彼女は顔をしかめます。


 それに続いて、ヒビキさんが腕を伸ばしました。


 これで能力を発動できれば、私達の勝利は目前です。


 できれば見たくは無いですが……やっちゃってください!


「さぁ、二人目だ! 『パラサイト……」


 ヒビキさんは能力を発動させようとしますが、その瞬間に邪神の姿は消えてしまいました。……またですか!? 今度はいったいどこに……。




「言っただろう……ウンザリだと」




 その声は、私のすぐ後ろから聞こえました。


 しまった。


 移動できる座標は周囲に幾つかある。


 ワカバさんはそう言っていました。


 けれども、さっきから邪神は狙ったように私達の背後に現れています。……もしかして、最初から私達自身を座標にしていたという事なのですか?


 邪神は先程とは違い、私を後ろから抱き締めました。簡単には振りほどけない力です。


「先ずはお前からだ。ワタシをバカにした罪を、その命で償ってもらうぞ」


 ま、不味い……。


 私の目の前に、人魂が集まってきました。


 どうやら確実に殺すつもりの様ですね。


 ワカバさん達もすぐには助けにこれる位置にはいませんし、これは助かりません。


 遺言でも考えて……おや?


「……ふふっ」


 ピンチになった私の目に写ったのは、ニヤリと笑っているワカバさんの顔でした。


 あ、私わかっちゃいましたよ。


 最初から私を囮にするつもりだったんですね。私達を座標にして転移できることもわかっていたのでしょう。……騙しましたね! ちくしょ~!!


「騙してねぇよ。……やれヒビキ。産ませろ」


 その言葉と共に、私の足元に転がっていた人形がゆっくりと立ち上がりました。


「了解です。さぁ、兄弟をおくれよ、お母さん……」


「なっ! て、転移を……!? 何故だ! なぜできん!?」


 起き上がったヒビキさんを見て、邪神は転移を試みた様ですが……悪いですね、やらせませんよ?


 私は黒籠手で邪神の腕をしっかりと掴んでいました。この状態ならばミラアさんの能力は使えません。


「や、やめろ! お前の顔など見たくもぉ!? あ、が……ま、またか!? また腹の中で何かが……」


 邪神は急に苦しみだし、地面に膝を付きました。そのお腹はボコボコと脈動するように動いております。

 私のすぐ側で集まりつつあった人魂も弾けて消えてしまっていました。


 もう余裕がない証拠でしょう。


「二人目って言ったけれど、兄弟は多い方がいいな。たくさん産んでよ……」


 そう言って、ヒビキさんは恍惚とした表情を浮かべました。うあ~、完全にイカれていますね、この人。


「い、嫌だ! 何故ワタシがお前などの子を……いぎっ!? あ、が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 獣の咆哮のような叫び声を上げた瞬間。


 邪神の腹部は……弾け飛びました。


 そして、中から出てきたのは物が辺りに飛び散ります。

 それは臓物や血液だけではありません。


 そこにいたのは、可愛らしくデフォルメされたビジュアルの、五体のヒビキさん人形です。例の如く血まみれ、臓物まみれなのが恐怖ですね。


「さ、ポロラ、早く邪神の能力を封じるんだ」


 あ、はい。


 ……と、言っても、さっきのでもう死にそうになってるように見えますね。


 邪神の目からは光が消えていますし、腹部の損傷が大きすぎて傷の回復も始まっていません。……けれども、ここで油断しちゃダメなんですよね。


 私は最早死に体の邪神に槍を向けました。


 そして、ヒビキさんが飛び出してきた傷口に向かって思いっきり突き出しました。攻撃は身体を貫通し、槍の切っ先は地面に突き刺さります。


「ぐぁ……!? き、貴様ぁ……!?」


 おやおや?

 まだそんな態度がとれる余裕がありましたか。


 もう諦めて死んでくださいよ? もう身動きも取れないですし、能力も使えないのですから。……苗床になるよりかはマシな死にかたをさせてあげましょう。


 私は邪神に突き刺した槍から刃を生やしました。それは、身体の中を少しづつ削り取りながら侵食していきます。


「ぎ、が!? き、きさま……何をぉ……!?」


 いやぁ、良い顔しますね? ミラアさんはこういうのお好きですからその影響でしょうか? まったく心が痛みません。


 ……よくも散々荒らしてくれましたね。ここからはじっくりと殺してあげましょう。お楽しみはここから━━━━。





「あぁ? さっさと殺してくれよぉ?」





 私が勝利を確信した瞬間。


 そんな言葉と共に、邪神の周囲に檻が現れました。……これは、あの時の!?


 私は檻に弾かれ吹き飛ばされてしまいました。


「おいおいおい……黙って見てたらよ、なんですぐに止めを刺さねーんだ。こっちは待ちくたびれてるってのによぉ」


 そう言いながら、檻の上にコウモリが止まりました。……何をするんですか!? もう少しで倒せそうだったというのに!


「ジェンマ……お前何がしたいんだ? さっきまで何もしてこなかった癖に……」


 そうだ! この人知り合いなんだっけ!

 

 ワカバさん、このコウモリなんなんですか!? さっきからちょこちょことウザったいんですけど! 知り合いなんですからなんとかしてください!


「ジェンマ? ……どこかで聞いたな? どこだっけ?」


 ヒビキさんもお知り合いなんです!?


 ということはソールドアウトの方でしょうか? それにしてはキャラが薄いというか、インパクトに欠けるというか……。


「おぉ……お前か……。よ、良くやった。ワタシを助けた事、誉めてつかわそう……」


 っち、まだ息がありましたか。


 邪神は息も絶え絶えにそう言いながら、ジェンマに向かって手を伸ばします。しかし……。


「あん? 何勘違いしてんだ?」


 コウモリは冷たい口調で吐き捨てたようにそう言ったのです。


 そして、檻が縮小を始めました。


「え……や、やめろ、このままでは……」


 徐々に徐々に檻はその形を変えていき、邪神の身体を押し潰しながら小さくなっていきます。


 ばきぼきという骨が折れる音を響かせながら、邪神は絶叫し、助けを求める声をあげました。


「あーあー、うざってぇの。さっさと……くたばれ!」


 その言葉で、檻の縮小する速度が一気に上がり、そのまま邪神を押し潰してミンチにしてしまいました。


 ……私には理解ができませんでした。てっきり私達を殺すために邪神を復活させたと思っていたのに、このコウモリは自分の手で邪神を殺してしまいました。


「あぁそうだ。お前らご苦労さんだな。わざわざ追い詰めてくれて助かったぜ、手間が省けたわ!」


 コウモリはゲラゲラと笑っています。……貴方は……いったいなんなのですか!


 いきなり出てきたと思ったら好き放題して! 私達に迷惑をかけて、ただじゃおきませんからね!


 私はジェンマを指差してそう叫びました。


「ギャハハハハ! なんだってか? 威勢の良い女だな! ……いいぜ、教えてやるよ。俺はな……『モブ』だ」


 はぁ? 『モブ』? 何をいって……。


 ジェンマはバサバサと翼を羽ばたかせ私達の頭上を飛び回ります。


「それと、良いことを教えてやる! お前達のクラン、『ペットショップ』を潰したのはなぁ……俺だぁ!」


 ……は?


 その言葉で、私は思考停止しました。


 子猫先輩やチップちゃん達が、こんな奴に負けた? いえ、そんな事はあり得ません。あり得ないのです。




 けれども、それだけでわかった事もありました。




 今、あの不愉快な声を出して飛び回っているコウモリは……。




 私の『敵』だということが。


・『紅糸』

 指定した相手を操る糸の『プレゼント』。プレイヤーに使えレベル差に応じた拘束効果が発動する。NPCに使えば拘束し操ることができる。NPCに使った時に限り、NPCのステータスを使用者に上乗せ、または他の操っているNPCに分ける事ができる。その際、スキルレベルは変動しないので注意が必要。

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