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パラサイト・アリス

 そりゃそうですよ。


 師匠もヒビキさんもシバルさんも……。

 全力でやりあってましたからね。いくらレベルが高くてスタミナが高くても、あれだけやってればいずれは尽きます。


「だ、大丈夫ですか!?」


「ししょ~、死んじゃだめですよ~!?」


 全くと言っても過言ではない程に動けない状態の師匠に、オークさんと金髪ちゃんが駆け寄りました。


 ……あの状態で邪神に狙われたら、確実にやられてしまいますからね。悪くはない判断ですが……。


「お前が……やったのか?」


 先程の攻撃で片腕を吹き飛ばされた邪神が、師匠の前に現れました。

 見たところ、身体を動かして移動した様には見えません。パッと消えて、パッと現れた感じですね。


 って、これ不味いですね。

 師匠の攻撃力位の火力がないと倒せないというのなら、あの人には生き残っていてもらわないと。どうにかして動きを止めなければ。……ワカバさん!


「ああ! イケっ! 『紅糸』ぉ!」


 ワカバさんもその事は理解しているらしく、既に能力を発動させていました。


 少しの時間ではありますが、行動を封じる事ができるというのは強い能力です。……しかし。


 またしても、邪神の姿は消えてしまいました。……な!? また消えた!?


「お前達は面白い力を持っておるな? ……頂いておこう」


 そんな言葉と共に、邪神の姿がワカバさんの背後に現れました。


 移動系の能力なのでしょうか? 恐らくはチップちゃんや黒子くんと同じようなものでしょう。


「しまっ……」


 大きく目を見開いて、ワカバさんは咄嗟にその場から離れようとしました。しかし、邪神はそれを許さないというように、彼の頭を抱えるようにして拘束しました。


 そして……。




 思いっきり、熱い接吻をかましたのです。ワァオ。




「んぅ!? んーーーー!!! んぎゅー!」


 ワカバさんは手足をジタバタと動かして邪神からの変態行為から逃れようとしていますが、お二人の舌が絡まり合うぐちゃぐちゃという音は止まりません。


 身体の中身を全部吸われていると思うほどの勢いです。


 ワカバさんは本気で嫌なのか、目から涙をボロボロと流しておりました。どうやらロリコンさんにとってはただの拷問でしかないそうですね。


「んー!? んっんっんーーーーー!!」


 あ、こちらに手を振って助けを求めて来ました。


 仕方ないですねぇ。時間稼ぎとデコイの仕事をしてくれたお礼に助けて差し上げましょうか。


 という事で、私は手に持っていた槍を構え、邪神の眼孔めがけて突きだしました。……流石にそこは柔らかいでしょ?


「むじゅ……れる……!」


 おや、どうやら正解だったみたいです。


 邪神はワカバさんから大きく離れ、私の攻撃を避けました。お楽しみを邪魔されたのが気にくわなかったのか、その顔は不愉快そうにしております。


「またお前か。……何をしても無駄だという事がわからない訳ではないだろう。何故あがく?」


 はん。さっきまでロリコンにベロチューかましてた変態がよく言いますよ。


 悪いですけど私は諦めが悪い狐さんでしてね。貴女程度の実力差で心が折れるほど簡単な精神していないんです。

 今度こそはその目をくりぬいて差し上げますよ。


 私は姿勢を低くし、大爪を展開してから槍を構えます。いくら転移しても関係ありません。どこまでも追いかけて必ず殺しましょう。


 さぁ……いきますy


「お"う"ぇ~………う"、か"……う"へ"ぇ~……」


 …………。


 後方からワカバさんの嘔吐する声が聞こえて来ました。……そんなにキスされたのが嫌だったんです? 筋金入りのロリコンですね。


「嫌だったよ! 畜生! ババァはおれが殺す! 覚悟しろやぁ!」


 ワカバさんは立ち上がり、力の限り叫びました。未だに目からは涙が流れております。

 その様子に、邪神は冷めた声でこう言いました。


「ふん。いくらでも叫べ、もう貴様には用は無い。見るが良い、これがワタシの力だ。……さぁ、産まれ直すのだ」


 瞬間。


 地面から光る人魂が飛び出しました。


 それは徐々に姿を変えていき、背の低い人の形になっていきます。

 人の形が出来上がると、今度はその人物が着ている服が再現されました。


 長い金髪と碧眼が特徴の幼女。服装はゴスロリ。嫌に見慣れた外見です。というか、私のすぐ側に全く同じ姿をした方がいらっしゃるんですけど……。


 完全に変化が終わったそれは、ワカバさんと全く同じ姿をしていました。


 少し雰囲気が違いますので、見分けはつきますが……。いったい何をする気ですかね、油断しないでください……。


 そう言って、私はワカバさんに振り返ります。


「おれ……なのか……? やべぇ、めっちゃ好み」


 ちょっと!? 自分に興奮しないでくださいな!?


 ワカバさんはプルプルと震えながら、自分自身の姿と対面しています。先程とはうってかわって目をキラッキラさせていますね。このロリコンがぁ!


「この子はお前の情報を元に産まれ直したワタシのこの子だ。全てにおいて、お前を凌駕するだろう。……戦ってみるか?」


 情報……先程のキスの事ですかね? 唾液からDNAを採取して作ったみたいな?


 そんな事ができるとは驚きですが……。


 煽りますねぇ。コイツ。


 邪神は産まれたという綺麗なワカバさんの頭を撫でながら、私達を挑発してきました。

 それを聞いて、ワカバさんは楽しそうに顔を歪ませます。


「言われなくてもそのつもりだ! 理想の幼女を痛めつけれるとか最高なんだよ! 動きを止めてからゆっくりと……!」


 ピタリ。


 荒ぶる鷹の如しポーズで地面を蹴ったワカバさんの身体が、空中で停止したように固まりました。


 手足には紅い糸が絡み付いており、それが動きを止めている様です。……まさか、『プレゼント』までコピーを!? ちぃ!


 私は大爪でワカバさんの身体に巻き付いている『紅糸』を切断しました。


「くっそ! もしかしてと思ったけど、やっぱりか! 逃げるぞ狐! おれに考えがある!」


 地面に着地したワカバさんは、踵を返して私の背中に飛び乗ってきました。……私に走れと!? 自分で走ってくださいよ! 変態を乗せる趣味はありません!


 私は文句を言いながらその場から逃げ出しました。


 本当は振り落として逃げてしまいたいのですが、ここでワカバさんを失うのは不味い気がするのです。戦力は少しでも多い方が良いので。


 それに、これだけ近ければ黒籠手の『プレゼント』の減衰能力で守る事ができます。ですので、これは悪くはない状況です。


 後方から襲いかかる『紅糸』を大爪で防ぎながら、私は助けに行ったオークさんと金髪ちゃんの方に目を向けました。


 二人で師匠とシバルさんを安全地域まで運んでいるみたいです。

 オークさんがシバルさんを担ぎ、金髪ちゃんが師匠を引きずっていますね。……あれ?


 飛び出して来た筈のヒビキさんの姿がありません。


 他の二人と同じで身動きがとれないように見えましたが、どこに行ってしまったのでしょうか?


「気付いたか? ヒビキの奴がいない、動いている。……ところで、ちょっと質問良いか?」


 何ですか!?


 今貴方の分身の攻撃の対処で忙しいのですけれど!?


 さっきよりも激しくなった攻撃を捌きながら、私は叫びます。もうよそ見をする余裕すらありません。下手をすると邪神がワープしてくるかもですので、油断もできませんしね。


「いや、結構重要なんだよ。お前、グロ耐性ある系女子? それとも無い系?」


 無い系です!


 私はハッキリと答えて、ワカバさんのコピーに向かって大爪を飛ばしました。


 それは不規則な軌道を描き、コピーの周りにたどり着きます。


 そして、周囲に展開して逃げ道を潰した後、一斉に打ち出して全身を切り裂きました。どうやら耐久は無いみたいですね。


 コピーは臓物を撒き散らしながら地面に膝をつき、バラバラになってミンチになりました。楽勝!


「ほう? やるではないか! それでは御代わりだ!」


 !?


 邪神は残った腕をふり、新しい人魂を呼び出しました。そして同じような工程へて、さっきと同じコピー作り出します。


 ず、ずるい! これではこちらが圧倒的に不利では無いですか!


 厄介なのを処理できたと思ったらこれですよ! どんだけふざけた性能しているんですかねぇ!?


「落ち着け狐。多分だがあの分身にも『七神失落』は効いている。じゃなきゃあの脆さはおかしい。シバルとシーデーが動けるようになったらスキルを重ねがけしろ」


 いきなり落ち着くなぁ!


 さっきまで慌てふためいていた癖に何ですかその態度は!? さっきのも倒したのも私ですからね!?


 いったいどんな手段があるのか教えてくださいな! というか師匠も『強欲』持ちなんですねぇ!? 凄ぇ!


 私は叫びながら新しく現れたコピーに向き直ります。


 いくらでも甦るというのなら! 何度でも殺せば良いだけの話! シンプル! 簡単! 死ねぇ!




「お前の力も欲しいな」




 ……え?


 現れたコピーに全ての意識を集中していた私の目の前に、邪神の姿が現れました。


 油断をしたつもりはありませんでしたが、既に邪神は私の頭に腕を回しており、残り数十センチという距離にまで迫っていまいした。


 ちょ、まっ。


 私、ファーストキスすらまだなのですが!? やめてぇ!? こんなのが初めてとか勘弁ですぅ!? いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?


 私は思いっきり叫びをあげましたが、邪神の動きはとまりません。


 ……ああ、まさか初めてが同性からのベロチューとは。もっとロマンチックなものを想像していたんですけどね?


 私は全てを諦めました。


 しかし、後数センチというところで邪神は動きを止めたのです。


「発動しろ……『パラサイト……アリス』……!!」


 気づけば。


 邪神のすぐ後ろにヒビキさんが立っていました。いきなり現れたような印象を受けます。


 人形の身体は至るところにヒビが走っており、既に片目は壊れてしまっていていました。


 今にも崩れてしまいそうな見た目です。


 けれども、彼が何かのスキルを発動させると、邪神は動きをピタリと止めて、口からごぼごぼと血反吐を溢れさせました。


「な……なんだ……これは。何をしたというのだ……がふっ!?」


 信じられないものを見ました。


 邪神が更に口から血を溢れすと、彼女のお腹から腕が生えていたのです。……文字通りの光景ですよ。




 まるで内側から突き破った様に、人形の腕が生えていたのです。




 何が起きたのかわからないまま、続けて二本目の腕が生えました。


 そんな光景に、私は理解が追い付かずただただ見つめていることしかできません。


「な……なんだ……これは!? わ、ワタシの、中に、何か……いる……!?」


 邪神も訳がわからない様で、フラフラと動き回りながら自分のお腹から這い出して来る存在に戸惑っているみたいでした。


 お腹から現れた腕は、徐々にその正体を現していきます。


 腕の次に現れたのはカチューシャを付けたツインテールと整った顔。


 機能性を重視したであろうメイド服。


 そして、節々に見られる球体間接……。




 ヒビキさんじゃないですかー!? これー!?




 私は恐怖で震えていました。


 皆さん想像してください。


 成人女性のお腹を突き破って、ずるりと人間大の人形が出てくるんですよ? しかも、這い出されているほうは血が溢れ出しています。


 邪神は苦悶の表情を浮かべながら、ヒビキさん人形が身体から出てきてるのを耐えており、見ているこちらは恐怖しか感じません。


 え、な、なんですか……これ……。


「これがヒビキの『パラサイト・アリス』だ。他人に寄生して自分の分身である機体を増やす……。相手を苗床にする能力だ」


 ワカバさんが私にコッソリと耳打ちします。


 それが事実だと言うように、這い出してきた人形はゆっくりと立ち上がり、邪神に振り返ります。




「産んでくれてありがとう、お母さん。……お礼に苗床にしてあげる。ボクを産む機械にしてやるよ」




 そう言ったヒビキさんは、もう疲れている様子は全くなく。



 非常に楽しそうな顔をして、ニヤリと笑っていたのでした……。

・『パラサイト・アリス』

 プレイヤー『ヒビキ』の『プレゼント』。人形である自分自身のパーツを他人の身体に埋め込むと、一気に成長して自分の分身を作ることができる。増やすことのできる数に限りはなく、人形の分身が得た経験値は本体へと帰ってくる。デメリットは回復無効。意識を違う人形に移すことができる。

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