表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/172

『色欲』

 檻の中で、倒れたミラアさん。


 目の前に現れる、あのメッセージウィンドウ。


『プレイヤー『ミラア』がギフトの力に飲み込まれました。周囲のプレイヤーは迎撃に当たってください。邪神の力が復活します』


 邪心の復活を告げる、絶望の警告。


 それと同時にミラアさんの身体は変化を始めようとするように、ビクンと大きく震えました。

 その痙攣は徐々に大きくなっていき、何かが起きようとしていることは誰が見てもわかります。


 ……頭ではわかっていたのです。

 『覚醒降臨』を使われてしまえば、問答無用でこの状態が起きてしまうということは。


 けれども、今の私には……!


『測定中……』


「狐ぇ! ギフトを使え! 今なら間に合うかも知れねぇ!」


 ワカバさんが叫びました。……わかっていますよ! くらいなさいな!


 『七神失落』!!


 私がギフトを発動させると、ミラアさんの身体を拘束する様に光の鎖が出現します。

 それはギチギチと彼女の身体に食い込んでいき、痙攣を抑え込もうとしているようでした。


 そして……。




『判明』




 無情にも、メッセージは止まりませんでした。


 その表示を見た私は一瞬頭の中が真っ白になってしまいます。


 身体を拘束していた光の鎖は砕けちり、ミラアさんの身体の変化が再開していきました。


 背中からはコウモリのような翼が服を破って飛び出し、腰からは悪魔の尻尾が生えてきます。その後、全身が一気に燃え上がり、元々彼女が来ていた服を焼却しました。


 下着姿になったミラアさんは、ゆっくりとした動作で立ち上がり、妖艶な笑みを浮かべたのです。


『種族『ハイヒューマン』。職業『観光客』。Lv8053……色欲の《ミラア》』


『クエストを開始します』


 そんな……。


 ミラアさんの邪神化が完了してしまった事により、討伐クエストが始まってしまいました。


 幸い、この場所、『クラブ・ケルティ』には多くのプレイヤーが集まっております。数の優位がありますので、討伐することは難しい話ではないでしょう。


 しかしながら、この状況は不味いです。


 高いレベルの邪神に対して、こちらは二人だけ。しかも檻を作り出した謎のコウモリまでいます。


 ……さて、どうするべきでしょう。

 逃げてこの状況を師匠やヒビキさんに伝えるか。このまま戦うのか。


 先程、ワカバさんは私の能力ならばあの檻を突破できると言っていました。それならばこのまま攻めるべきなのでは……。


 私が思考を巡らせていると、ワカバさんがコウモリを指差して叫びます。


「クソがっ! 厄介なことをしやがって、何が目的だ! ジェンマ! おれを暴走させたのもお前の仕業だろう!」


 !?


 どうやらワカバさんはこのコウモリと面識があるようでした。


「なんだよ、気付いてなかったのか? 寂しいぜぇ、俺とお前の仲だって言うのによ? ……そんな事よりも、折角こんなにエロい女神様が降臨したんだ、もっと嬉しそうな顔をしようぜぇ?」


 耳障りな声でそう言ったコウモリは、バサバサと羽ばたきながら邪神化したミラアさんの肩に止まりました。


 すると、邪神はそのコウモリに手を伸ばし、優しく撫で上げます。


「ふふふ、お前がワタシを呼び起こしたのか? ……褒めてつかわそう、良い身体を選んだな。中々楽しめそうではないか」


 邪神はそう言うと、私に振り返りました。


 その目を見た瞬間、背筋にゾワリとした感覚が広がり、私は思わず二、三歩後退りしてしまいます。


「そこの娘、お前には驚かされた。なんだその力は? 昔出会った、あのちんちくりんの女神と同じ力を感じたぞ? 見ろ、今でも身体が震えておる」


 ギフトが、効いている……?


 楽しそうに笑う『色欲』の邪神の言葉で、私の頭の中が澄み渡りました。


 先程使った私の『強欲』のギフト。


 邪神化を止めることができず、驚いてしまいましたが……目の前の邪神が言っていることが確かなのならば、今は攻撃を仕掛けるべきでしょう。


 邪神が囚われている檻を挟んで対面にいるワカバさんに目配せをすると、彼はコクりと頷きました。その手には沢山の糸が球状になっています。

 どうやら、ワカバさんも戦う気のようですね。


 油断している今がチャンスなのです……!


「礼をしなければな。……見るがいい、これが神の力だ」


 そう言うと、邪神の頭上に光の球体が現れました。……あれは、女神対戦で使用したエネルギー体!?


 あの動画の中ではチップちゃんの攻撃で吹き飛んでいましたが、あの映像を見る限り、相当な威力があったと予想できます。


 おそらく、使われてしまえばこの一帯は吹き飛んでしまうでしょう。


 しかし、『強欲』の能力には邪神に対してダメージを大きく与える事ができる能力があります。


 今までの修行により、私本来の攻撃力も高くなっているので、一撃を当てればただではすまないダメージを与える事ができるはず。


 倒しきれなくて、あのエネルギー体を放たれたとしても、こちらには完全防御の神技『リリアの祝福』があるので、死ぬことはありません。……もうやることは、決まりましたね。


 私は『妖狐の黒籠手』を発動させ、大爪を展開しました。檻の周りを取り囲むように、大爪が現れます。


「ほぅ?」


「やれ! ぶち壊せ!」


「無駄だ、無駄。俺の『鳥籠(ハッピー・バード)』を突破できるわけが……」


 面白そうな顔を見せる邪神、手に持っていた糸の塊を解放したワカバさん、余裕そうな態度を見せるコウモリ。


 それぞれがどのような結果を思い浮かんでいたのかはわかりませんが、私の大爪は一斉に射出されました。


 金属がぶつかり合う激しい音が響き渡ります。檻は防護壁の役割を果たし、私の攻撃を火花を上げながら耐えておりました。


 しかしながら、それも一瞬の事。


 『鳥籠(ハッピー・バード)』と呼ばれたそれは、あっという間に耐久限界を迎えてしまい、形を歪ませてしまいました。……新しい能力が役にたちましたね。


 『プレゼント』の能力抑制。


 どこまで効果があるのかは未知数でしたが、発動した本人が慌てふためく位には機能したようですよ?


「ば、馬鹿なぁ!? 物理攻撃で突破できるわけねぇのに!? ひぃいいいいいいいいいいいいっ!! お助けぇ!?」


 情けない叫び声を上げながら、コウモリは自らの翼で顔を覆ってしまいました。……安心しなさいな、貴方を狙っている大爪なんて一本もありませんよ。


 狙いは邪神一体のみ。


 速攻でミンチにして差し上げましょう。


 大爪は檻を貫通し、全て邪神の身体に着弾しました。


 突き刺さった場所からはあふれでるように血が流れ、確実なダメージを与えたということがわかります。……刺さった場所から爪を伸ばせば即死ですね。パパっと片付けてしまいましょう。


 死ねぇ……。


 大爪は全て、邪神の腹部に着弾しています。


 大量の血液が流れ、床を真っ赤に染めていくようです。


 そして、邪神はその光景に目を丸くして、ぼそりと、こう言うのでした。



「なにをしたのだ? 痛くも痒くも無いが?」



 その言葉と、瞬時に回復していく姿を見て、私はハッとしました。


 プレイヤーが邪神化した際、邪神は元になったプレイヤーの特色が濃く現れます。

 それは、ワカバさんが邪神化したときもそうでした。ロリコンでした。


 今回の場合、ミラアさんの特色を取り入れているとしたら、それは圧倒的な耐久力でしょう。


 どんな攻撃でも楽しげにくらい、あまつさえもっともっとと要求する彼女の頑丈さを取り入れているとするのなら……。


 私は、彼女に有効的な一撃を加えることはできません。


「この身体……もしや神を凌ぐ頑丈さをしているのではないか? ……素晴らしい、ワタシは気に入ったぞ」


 そう言いながら、邪神は笑っていました。


 ……駄目だ、勝てない。


 そんな声が、私の頭の中に響き渡ります。


 きっとそれは、本能的な警鐘であり、覆すことのできない事実だったのでしょう。私の頭の中では、どうやってここから逃げ出すかの考えがまとまりました。


 よし、全て師匠に押し付けましょう。


 あの人達なら速攻で片付けられるでしょ。私が頑張らなくてもなんとかしてくれますよ。とりあえず逃げましょう。


 どうですか? ワカバさん? 面倒事は他人に押し付けるというのは?


「うるさい! 動きを止めたから後十数秒は大丈夫だ! お前は早く逃げろ! おれがなんとかする!」


 あー、もう面倒な方ですね。


 こうなったら私がなんとかするしかありません。まともに戦える方をこんな所で見殺しにできる訳無いでしょう。


「ポロラさん! 先程の通知はいったい……!?」


「何が起きたんですか!? 邪神が復活するって……」


 オークさんと金髪ちゃんもやってきました。この邂逅は偶然なのでしょうが、見逃すわけにはいきません。……あー! もう! しょうがないですね!


 私はワカバさんに飛び付いてその身体を抱えた後、状況を理解していない二人に駆け寄りました。


「き、狐! 何してんだ!? このままじゃ全員消し飛ぶぞ!」


 ワカバさんが叫び声を上げましたが無視です。この場にいる全員が無事にあの攻撃を凌ぐ為にはこれしかありません。……賭けですが。


「重ね重ね礼を言おう。お前の攻撃で、この身体がどれほどまでの物か理解できた。満ち足りて死ね。……『ソウル・オーバー』」


 私が見たものは、ゆっくりと振り下ろされた邪神の腕と、目映い光を放つ白い光でした。









 そして、これは後から知ることなのですが……。


 この邪神の一撃で。


 『クラブ・ケルティ』及び辺境の村『シファフル』は、全て。


 更地になってしまい……。


 多大な損害と被害が出てしまったのでした……。

・邪神戦

 女神は邪神との戦いに介入してはならない。なぜなら憑依することで女神の能力を奪われるかも知れないから。そのため、自分の信徒はとても大事なものである。丸腰で、いろいろやられて、精神的に死んでいたとしても、その優しさは変わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ