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動き出した計画

 つまるところ、皆さんエナドリ中毒になってしまったんです。


 事の始まりは修行ブームの到来。普段は冒険やギルドの依頼をしてエンジョイしている方々も、まるで廃人の様に修行を始めました。


 子猫先輩やメレーナさんの修行を思い出してくれればわかる様に、このゲームの本気の修行は少々常軌を逸しているところがあります。


 しかしながら、あの拘束して延々とチクチクしたり、縛り付けて殴り続けるという修行。あれ、wiki見たらオススメの修行方法として紹介されていたんですよね。細部違いますけど。


 そして、効率が良いということは成長率の消費も激しいということで……。


 皆さん市場に売っているエナドリを大量購入。更に強くなるために、狂ったように飲みまくってたそうです。


 その結果、生産者が保有していたエナドリの素材が枯渇、または生産が追い付かなくなったのでしょう。


 しかし、市場でたまに高価で見かけるということは、出し渋り金額を上げて、利益を得ている可能性もあります。……この場合は許せませんねぇ。


 それと、前にも話しましたが、別に成長率が低くてもスキルレベルは上がるんですよ。ですのでエナドリ飲まなくても修行はできると言えばできるのです。


 けれども、サクサクとレベルが上がっていく快感に囚われたプレイヤー達が、効率を捨てることなどできる訳もなく。


 皆さんエナドリを求めて『クラブ・ケルティ』に集まっていた。……というのがケルティさん達の見解でした。


「……ウチで売っているのはクランで作っているのだから、外の事情は知らなかったなぁ。だからお客さんがこんなに沢山……」


「誰も彼も修行しているせいで、素材を集めて来る奴も居ないんだろう。しかも、たまに見かけるって事は市場をコントロールしてる可能性がある……」


 そうなのですねぇ。


 ところで、皆さんはどうやってエナドリの素材を補給していてのですか? 皆さんお店の経営で忙しいのでは? ずずず……。


 お茶を飲みながら質問すると、ケルティさんが答えます。


「それは大丈夫。一応クランだし、素材を集める担当もいるんだ。強いNPCだから任せておけるし」


 へぇ、NPCに。


 それは便利ですねぇ、ログアウトしていても働いてくれますし、勝手な行動もしないでしょうし。


「そうなんだよねぇ。しかもエッチな事をしても許してくれるし。私の生活を満たしてくれる良い娘達なんだよ~」


 そう言いながら、ケルティさんは体をクネクネと動かしました。……この人、女NPCでハーレム作ってるんです? そこまで爛れた生活が送りたいんですかね?


「うわ、キメェ」


 珍しくワッペさんと意見が合いました。


 しかし、ケルティさんはそんな事は気にしていない様子です。強い。


「だって~、日々のストレスを解消する為にはかわいい女の子に癒されるのが一番なんだよ~。会社でのセクハラとか残業が辛くてさ~。今日も定時直前に新しい仕事を押し付けられるし、帰りの電車で酔っぱらいに絡まれるし、さっきもログインする直前まで家で仕事してたしで、もうケルティさんのハートは限界ですよ。頼むから癒して~……ぎゃふ!?」


 長々と愚痴を漏らしているケルティさんがいきなり短い叫び声を上げて、ちゃぶ台に突っ伏しました。


 その後ろにはいつの間にか、ゴブリンさんが立っており、人差し指を立てています。


「うるさかったからな。ツボを突いて眠ってもらった」


 あ、はい。


 ゴブリンさんは達人さんなんですかね? なんたら神拳とか使えそうです。


「すまんな、コイツの愚痴を聞かせて。……とりあえず、ウチに人が集まっている理由がわかったのは感謝する。俺達は違う部屋で話し合う事があるからな、お前らもさっさと戻れよ? よっと……」


 そう言い残し、ゴブリンさんはケルティさんを引きずって行ってしまいました。……ほら、ワッペさん、お仲間ですよ? 雑に引き摺られる姿に既視感があるでしょう?


「うっせぇ。……でもそんなに素材が枯渇することなんてあるのか? 俺は生産しないからわかんねぇけど」


 まぁ『疲労回復のポーション』は最上級のポーションですからね。結構強いモンスターの残骸を使わないと作れないようですよ?


 そりゃ無くなる事もあるでしょう。


 それじゃあ、戻って修行の続きでもしましょうか。あと、この件はチップちゃんに報告しておきます。


 市場の価格操作なんてどう考えても迷惑行為ですからねぇ。根城を突き止めてもらって殴り込みといきましょう。ふふふ……。


「あん? 別に市場に卸すか卸さないかなんて個人の自由じゃねぇか。そんな咎められる事でもねぇだろ?」


 私が含み笑いをしていると、ワッペさんが真っ当な事を言ってきました。……ちっちっち~、甘いですねワッペさん。


 確かにそれは個人の自由ですよ? それに彼等が作った物を買わなくても、NPCが作った物を買えば良い話ですし?

 レベルの高いNPCなら、エナドリも作ることができるでしょう。


 けれども、今はNPCが作った物すら売っていません。ワッペさんが集めてきたのも、知り合いのプレイヤーさんから買った物ですよね?


「そうだけどよ……それとなんの関係が……」


 あるんですよ。


 探せど探せどNPC産のエナドリがないということは、そういう状態を作っている誰かが居るということです。


 つまり、買い占めを行っている方が居るということですよ。それも、組織的に。

 人数が居ないとそんな事はできないでしょうし。


 そして、そんな事をして、誰が一番得をするのかを考えたら……答えは簡単ですね?


 私が説明をすると、ワッペさんは、おお!と驚いた様子で手を叩きました。


「生産職の奴らか! そりゃ許せねーよなぁ! とっちめて反省させてやらねぇといけねぇ!」


 そういうことになります。


 ついでに言いますと、そのせいで修行に支障をきたしたソールドアウトの方々が、この場所に集まっていた、ということにもなりますね。


 これで報告もできるんじゃないです?

 貴方のお使いも完了でしょう。


「おう! そうだな! 助かったぜ! これで堂々と顔を出すことができらぁ!」


 そう言って、ワッペさんは喜びながら部屋の外に飛び出して行きました。……それでは、私も行きましょうかね?


 疲労度も回復しましたし、修行を再開すると致しましょう。


 そろそろオークさんと金髪ちゃんのマッサージも終わっている頃ですし、誘って訓練場に行くのです。


 さ、楽しんでいきましょうね~。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「おう、久々だな。狐」


 ……楽しめませんね、これは。


 廊下を歩きながらウキウキで二人を探していた私の前に、不機嫌な顔をしたゴスロリに身を包んだワカバさんが現れました。……また衣装新調したんです?


「いいんだよ、そんな事は。……でだ、お前、おれに対して何か隠しているんじゃねぇか?」


 隠していること?


 え? 何かありましたっけ?


 こう見えて割りと真面目なので、後ろめたい事とかはあんまりないですよ? それに、ワカバさんを敵に回したら嫌な予感しかありませんからね。


 リスクの高い生き方はしたくはないですしぃ?


「悪いけどよ、全部コイツがゲロったぞ。てめぇメレーナと一緒だったんじゃねぇか。……おい、出てこい」


 ワカバさんが合図をすると、物陰からメガネをかけたOLさんを思わせるような女性が現れました。


 ……誰?


 私がそう言って小首を傾げると、彼女は嬉しそうな顔をして口を開きます。


「あんなに激しく責め立てたくせに……忘れるなんて酷いじゃないか。君はいつもそうやって私を悦ばせてくれる。……なのに最近は構ってくれないのだから、寂しかったじゃないか」


 その後ニタリと口元を歪ませた彼女の顔で、私はハッとしました。……あ、ミラアさんじゃないですか! まともな格好してたんで、わかりませんでしたよ!


 いつもは縛られていたり、目隠しをしているのがデフォルトで、ちゃんと顔を見てませんでしたからね。


 まさかこうやって出会うとは思ってませんでした。……って事は、私とメレーナさんが一緒に修行していた話を言っているんですか?


「そうだよ! こっちはちゃんとした用事があって探してたのによ! たまたまミラアに会わなかったら全然知らなかったわ!」


 顔を真っ赤にして、幼女が吠えました。


 え~、そんな事を言われましても、メレーナさんから口止めされていましたし、普通に見つけると思ってたんですよぉ。

 メレーナさん休憩所でご飯食べたりしてましたし。


 というかミラアさん、勝手に私達の事を話してるんですか? そのゆるゆるのお口は何なのです? 一回痛い目見ないとわかんないんですかね?


 そう言いながら私はミラアさんの唇を掴み、ひねり上げました。


「あぅ!? ひゃ、ひゃめろ~!? ひゃめ~!?」


 何嬉しそうな顔をしているんです? まったく、貴女は本当にどうしようもない雌豚ですね。……本格的なお仕置きが必要みたいです。


 ついてきなさい。今日もとことん虐めぬいてさしあげましょう。


「ひゃ……ひゃい……」


 さて、今日の修行はこれで決まりですね。

 このままミラアさんを訓練場にまで引っ張っていきましょう。きっと、彼女もこの状況を知らない人達に見られて喜ぶことでしょう……。


「いや、おれを無視して話を進めるな! ……アイツの能力が必要なんだよ。居場所を知っているのなら教えてくれ」


 ワカバさんがそう言うと、ガチリと身体が固まりました。能力で動きを止められてしまったみたいですね。


 ……ですから、休憩所をくまなく探せば会えますよ。もしくは訓練場にいると思いますよ?

 それでも見つからなかったら温泉とかじゃないですか? もしくはログアウト中か。


 それと、ワカバさんの姿を見たら隠れるみたいですし、『怠惰』の能力で違う人の身体を乗っ取って探せば良いんじゃないですかね?


「……っ! そうか、その手があったか! 良い案だ、使わせてもらうぞ」


 それはどうも。


 ……にしても、どうしてそんなに焦っているのですか? ワカバさんらしくないですね、さっきも教えてくれなんて下手に出るような口振りでしたし。


 何かあったんです?


 いつもとは少し違った様子に疑問を抱き、私はそう質問しました。すると、ワカバさんは舌打ちをして能力を解除します。


「ちっ……お前には関係無い話だ。さっさと修行しに行けよ。おれはこれからメレーナを探し、に……」


 ……なんです?


 いきなり黙ってしまったので、どうしたのかと思い、私はワカバさんの方に振り向きました。


 彼は驚いたような顔をして、ミラアさんを見つめていました。……いえ、正しくは彼女の肩に止まっていたものに、ですね。


 真っ黒なコウモリがミラアさんの肩に居たのです。


 いつの間に居たのでしょうか、私にはわかりませんでした。


 ワカバさんの反応を見るに、彼もその存在には気付いていなかったのでしょう。目を丸くしております。


 しかしながら、それも一瞬の事。


 ワカバさんはすぐに動きました。


「『紅糸』ぉ!」


 直ぐ様腕をコウモリに向かって突き出し、能力を行使します。


 なぜコウモリなんかに攻撃を仕掛けたのかはわかりませんでしたが、ワカバさんの様子からは、鬼気迫るものがありました。……しかし。




「……無駄だなぁ」




 そんな言葉と共に、ミラアさんを囲う様に大きな檻が現れました。それの出現のせいで私は弾かれ、後方に吹き飛ばされます。


 な、なんなのですか!? というか、いま、コウモリが喋りませんでした!?


 直ぐに体制をとって、ミラアさんに目を向けると、彼女も何が起きているのかわかっていないのか、立ち尽くしておりました。


「狐ぇ! お前の能力だ! それならこの牢も……『プレゼント』もぶっ壊せる! その蝙蝠を殺せぇ!」


 ワカバさんはそう言って叫びますが、この状況についていけず、私は咄嗟に動くことができませんでした。


 まともな判断力が戻ってきたのは、肩の上のコウモリが口を開いてから。




「手遅れだカス……『覚醒降臨』!」




 『強欲』のギフトが使われて、ミラアさんが倒れてしまってからだったのでした……。


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