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エナドリと闇

 さて、状況を説明致しましょう。


 路地裏ウジ虫ことワッペさんが言うには、この『クラブ・ケルティ』にこんなにも人が集まっているのは、誰かの企みによるものだそうです。


 特に、元ペットショップのメンバーが集結している事が不自然だということでした。


 ソールドアウトの皆様方は一人一人がぶっ飛んだ実力と能力をお持ちです。それに加えて、各人がそれぞれの場所に拠点を持っており、クランの管理や修行、商売をしているそうです。


 つまり、一人で何でもできるような方達が、わざわざこんな所に来て修行をするだろうか?という話だそうで。


 確かに、タイミングが被った事は疑問に思うこともわかります。しかし、そういうこともあると言ってしまえば終わりのお話です。


 何故ならば、その原因になら私は心当たりがあるから。


 理不尽にプレイヤーを化物に変えてしまう『強欲』のギフト。


 邪神の力を抑える『七神失落』と対を成すスキル。




 その名も『覚醒降臨』。




 プレイヤーの中にあるギフトの力……邪神の力を無理矢理増幅させるスキルです。


 このスキル、現時点では同じ『強欲』のギフトを持っている方に『七神失落』を使ってもらう事でしか防ぐことしかできません。


 このスキルを使われたワカバさん曰く、いつ使われたかもわからない、ということでした。

 理不尽極まりないスキルだということで、ソールドアウトの皆さんはこの事実をネットで即日拡散。


 顔もわからない『強欲』持ちのプレイヤーの皆さんに注意換気をしました。


 そのおかげもあってか、邪神化したプレイヤーの報告は未だに無く、騒動は一段落したように見えます。……しかしながら、新しいコンテンツを見つけたプレイヤーがそれを楽しみにしないわけがなく。


 『強くなって、邪神化したプレイヤーを倒し報酬を手に入れる』、『いつでも邪神化しても良いようにレベルを上げておいて、レベルが半減しても良いようにしておこう』と、考える方々が増えてきているようです。

 クランでも修行する方が増えていましたしね。


 つまりは、世間はちょっとした修行ブームなんですよ。


 わかりますか? ワッペさん?


 貴方の心配は全て杞憂ということです。あ、杞憂ってわかります? 心配する必要のない取り越し苦労ということですが?


 私は廊下を歩きながら、ワッペさんの頭が大丈夫かどうか確認をしました。脳ミソ詰まってます?


「うるせぇわ!! そんぐらいわかるっつの! 俺が言いてぇのはそんな事じゃねぇんだ! ……なんか、こう……なんだ?」


 大きな声で吠えたワッペさんは、眉間にシワを寄せて、首を傾げて私にそう質問してきました。いや、こっちに聞いてどうすんですか。というか、自分でもわかっていませんね? 貴方。


 もしかして、その『誰かがここに誘導した』っていうのも、誰かの受け売りじゃないんですぅ~?


 私が肩を竦めて馬鹿にしたようにそう言うと、ワッペさんはギクリした顔をして、そっぽを向いてしまいました。おい、コイツマジですか。


 さすがにそれはないでしょ。


 あんだけ大見得切って、宴会中に割って入って来たのにも関わらずそれですか。まぁ、そのあとアニソン絶唱したせいで、みんな忘れているみたいですけど。


 ちょっと、貴方何を考えているのです。正直に言ってみなさいな。


「いや……その……ここだけの話な?」


 ええ、どうぞ。


 今のところ貴方には不信感しかありませんが言ってみなさい。


「じ、実はよ。ワカバの兄貴やシバルのじーさんだけじゃねーんだよ。ここに来てる元ペットショップのメンバーは」


 おっと。


 どうやらメレーナさんとエンカウントしたのは私だけではなかったみたいですね。

 前あった時はそれほど中が悪い訳では無いみたいでしたし。


「それでよ、その人に命令されたんだよな。『こんな都合が悪いことがあってたまるか。誰か嫌がらせをしてるだろこれ。ちょっと調べてきてくんない?』ってな」


 納得の使いっぱしりです。


 したっぱ感が滲み出ております。出先で偶然出会った上司から命令されて、雑用やらされるとか中々のブラック具合ですね。


「でもよー。そんなん言われても俺頭わりぃからさぁ、なんの手がかりもなかったのよ。だから手伝ってくれると助かるんだわ」


 はぁ、そうですか。


 んん~、疲労が回復しきっていないので修行もできませんし、回復しにマッサージを利用してもいいですがそれほど成長率へってませんしね。


 何かで時間潰して、修行しに行くのが一番いいのですよ。


 ということで、断る理由はありません。


「お、サンキュー。……まぁ、女がいると交渉がしやすいと思ったんだよ」


 ああ、なるほど。そういうことですか。完全に理解しましたよ。


 ハイハイハイハイ……。


 なるほどなー。


 そういうことー……。


 じゃあ、帰りますね。去らば。


 私はニッコリと微笑んで、踵を返しました。


「ちょ……!? まてやぁ! 手の平返しが早すぎんだろ! 察するんじゃねぇ! コラテラルダメージって知ってかぁ!?」


 そう言いながら、ワッペさんが慌ててこちらの後を追って来ます。……知ってますぅ!


 言っておきますが! それ仕方のない犠牲とかそういうのじゃ無いですからね! 巻き添え被害って意味ですから!


「そうなの!?」


 ええい! その反応、やっぱり私の事を生け贄に捧げようとしましたね!


 あ! 足首を掴むのを止めなさいな!


 私は逃げますからね! 見つかる前に遠くにいくんですy




「あれ? 狐さんだー。こっちには事務所しかないよー?」




 こゃん……。


 聞きたくない声が聞こえたので、私はピタリと動きを止めました。そして、逃げられないことを理解し、ゆっくりと振り向きます。


「もしかして、好き勝手されて傷心中のケルティちゃんに会いに来てくれたのかなー? 大、歓、迎!!」


 そこには両手を広げて、こちらに飛び付いて来るケルティさんの姿があったのでした……。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 『クラブ・ケルティ』及び『ゴブリンの巣穴』合同事務所にて。


 ちゃぶ台とお茶を淹れるためのセットが置かれている和室ですね。どちらかというと休憩室と言った感じでしょう。


 そのちゃぶ台に私とワッペさん、対面にケルティさんが座っていました。


「おらよ、粗茶だ。こんなもてなしだけで悪いな」


 そこに人数分の湯飲みを持ったゴブリンさんがやって来て、丁寧にもてなしをしてくださいました。あ、これはどうもご親切に……。


「気にすんな。……で、用事ってのは?」


 素っ気ない様子のゴブリンさんはドッコイショとちゃぶ台に着きました。……一目でわかるゴブリンさんですね。荒々しぃ服装では無く、施術服を着ているのが気になりますが。


 どうやら『ゴブリンの巣穴』のオーナーみたいですね。部屋に入った時には資料に目を通していたみたいでしたし。


「ちょっと、ゴブくん。ポロラは私とお話ししに来たんだからさ、邪魔しないでよ。ね? もふらせてくれるんだよね?」


 いえ、違います。もふらせません。


 私はいやらしい目を向けるケルティさんに、手を十字にしてハッキリと拒否の意向を示しました。バッテン。


 ……とある人の依頼で、このクランに来ている人の調査をしているのですよ。

 最近は利用する方が多いそうじゃないですか。ソールドアウトの方々の沢山来ているそうですし?


 どうしてそんなに人が増えているのか、とても気にしておられたのですよ。ええ。


 なにか、人が増えた心当たりはありますか? なにか悪いことをしていらっしゃるとか?


 私は単刀直入にずらずらと気になった事を述べました。……ゴブリンさんがいるので少し安心しましたが油断はできません。早くレズの手が届く範囲から逃げなければ。


「お、このお茶うまい」


 相方は役に立たないみたいですし。


「心当たりか。そうだな……言える事は何も無いってことだな。商売の秘訣を教える奴がどこにいる。こっちは信用と信頼で商売やってんだ。お前らの妄想に付き合う気はねぇ」


 まぁ、そうですよね。失礼しました、帰ります。


 よし、ゴブリンさんはお客様第一のまともな方みたいです。これで帰る理由ができました。それでは。


「え、ちょっと待ってって。別に何も特別な事なんてしてないよ? 普通にマッサージしてるだけだってば。別に隠す事なんて無いからさ、もう少しゆっくりしていきなよ~」


 っく……!


 ケルティさんはゴブリンさんの考えを全く気にしていないようで、クランの内情を話してしまいました。


 そんな彼女に、ゴブリンさんは厳しい目線を送りながら口を開きます。


「……おい、ケルティ。お前、コイツらが同業者だっていう考えはないのか? どんな情報をやっても損をするのはこっちだぞ」


 ええ、私もそう思います。


 どうやら迷惑なそうなのでかえりまs


「でもゴブくんもさ、なんでこんなに繁盛しているのかわかってなかったじゃん。お客さんも新規が多くなったって言ってたし、売店の売上も上がったって喜んでたじゃん」


「うちの内情を漏らすな。お前、経営者としての自覚はないのか?」


 わぁ、何を言わなくとも情報が流れてきます。楽なものですね。


「……売上?」


 その言葉にお茶を飲んでいたワッペさんが反応しました。……おや、何か閃いたのですか? これでつまらない事だったら土の中に埋めますね?


 あーでもないこーでもないと議論している二人を尻目に、ワッペさんはウィンドウを開いてアイテムの項目を開いていました。


「いやよ、ここって結構辺鄙な場所にあるだろ? でよ、わざわざここまで来るって事は……これが目的じゃね? これはここで買った奴なんだけどさ」


 そう言って、ワッペさんは『疲労回復のポーション』をちゃぶ台の上に置きました。……あ、なるほど。成長率ですか。

 私も成長率が無くなったからここに来ましたし。


 でも、その為だけに高いお金を払ったり、危険をおかして長い街道を歩いてきますかねぇ?


 エナドリも高いし、見ないしですので、仕方のない話かも知れませんが……。


「「え?」」


 はい?


 私がボソリとエナドリの話をすると、ケルティさんとゴブリンさんはピタリと言い争いを止めました。

 二人とも何を言っているのかわからないという顔をしております。


「……おい。どういうことだ。市場に卸している業者のプレイヤー達はどうした」


「それ、本気で生産やってる人達が製造ライン作って、大量に市場に流しているはずだけど……今ってそんなことになっているの?」


 おや? これはこれは……。


 なんだか、汚いお金の臭いがしてきましたね?


 どうやら私達は、プレイヤー達の闇の部分に踏み込もうとしていたのでした……。







 これ、上手くいけば売上を脅し取れますね。生産したエナドリ共々押収してしまいましょうか?


 こゃ~ん。


・市場

 NPCが開いているショップのこと。プレイヤーとNPCが様々な素材やアイテム、お金を使いやり取りをしている。この際、片寄った素材の買い占めや、一種類のアイテムの大量売却等をすると価格が大きく変動する。つまり、ある程度の財力とアイテムがあれば、市場に売っているアイテムの値段をコントロールすることもできるのだ。

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