狐さんの修行旅!~みんなで修行!~
さて、修行3日目。
昨日は宴会を終えて、全員ログアウトしました。
ワッペさんも不穏な事を言っていましたが、なんやかんやお酒を飲み始めたらはじけてましたね。
やたら歌が上手かった事を覚えております。
そして、せっかく集まったので、今日は昨日一緒だった方々と修行することになりました。
それで訓練場に来たんですけど……。
やたら人多くないですか?
「あちゃ~。昨日使えなかった反動かもね。昨日改修工事をしておいて正解だったかもしれない。違う階に行こうか」
ペストマスクを被った師匠は訓練場をぐるりと見渡して、階段の方へと歩いて行きました。
それに続いてゾロゾロと私達も下の階へと向かいます。
怪しい人物にひきつられていく私達を、修行中の方々が珍しい物を見るような目で眺めていました。……失礼な、ちょっと修行を手伝って来ますね。
「ポロラ君、落ち着いて、落ち着いて。元気が良いのはわかりますが、それをしたら我々は追放ですよ?」
そう言って、シバルさんは能力を起動した私の肩を掴みました。
……仕方ありませんね。そう言われたら何も言い返す事が出来ないじゃないですか。もう。
ああいうのは問答無用でわからせてあげるのが一番なのですよ。このゲームは基本死に覚えゲーなところがありますからね。
死んで覚えてもらうのが、一番てっとり早いんですよぉ……!
笑顔を作って目を輝かせると、集まっていた視線が散らばりました。なんだ、意気地の無い連中ですね。
「なるほど、なんか親近感沸く理由がわかったかも」
あら?
どうしたんですかヒビキさん?
そんな険しい顔をしながら私の事を見るなんて、何かありました?
もしかして……また尻尾をもふもふしたいとか、そんなのですかね? 悪いですけどタダじゃダメですからね~? また強いアイテムを貢いでくれないとそういうことは許可できませ……。
「貢げばもふってもいい……だと……!?」
ヒビキさんは驚愕の表情を見せました。まるで強い衝撃を受けたような顔です。……そこそんなに驚くことです?
そんな私の疑問に答える答える事無く、ヒビキさんは「いや……しかし……もふもふ……」と何か呟いていました。
少しして顔をあげると、彼はキリッとした顔で……。
「後払いでもいい……?」
もふもふを要求してきました。
もちろん駄目です。
というかそんな話してなかったでしょ。私の悪ノリに付き合わないでくださいな。で、親近感がどうとか言っていましたが?
「え? ……ああ、そっちの話ね。ちょっと雰囲気が知り合いに似てるんだ」
知り合いに?
「あれ? そういえばヒビキっち、ポロポロには敬語使わないね。何かあったの?」
私達の会話に師匠が入ってきました。
「ああ、別に。ポロラの悪いことを考えていると、直ぐに顔に出るところがアニキに似ていたってだけの話ですよ。しばらく会って無いから懐かしくなって」
……そんなところに親近感持たれても困るのですが?
しかもお兄さんに似ているとか複雑な心境ですよ? 私そんなに悪い顔をしていましたか?
私は振り替えってオークさんや金髪ちゃん、ワッペさんに質問しました。
「おう、スゲェ顔してたぞ。ぶるっちまうとこだった」
「失礼ながら……」
「妄想中でみてませんでしたっ!」
うそー。
ちょっと悪い顔したくらいですよ~。
そんな皆して私の事を害獣扱いしなくたって良いじゃないですか~。こっちは可愛い狐さんですよ~。こゃ~ん。
私は可愛らしく抗議をしましたが、そこで誰かがボソリと言いました。
「何も間違ってはいないんよなぁ……」
ああん!?
声は師匠の方向から聞こえてきました。……あの口調。姿を見せていなかったから居ないものとしてましたけど……いるんですね。
姿を消している間は無敵ですからね……、あの害獣め……。
姿を見せた瞬間に、その毛皮剥がして襟巻きにして差し上げますよぉ……。
私は師匠の肩に乗っているであろう奴に殺意を向けながら、地下の訓練場に向かったのでした……。
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増設された訓練場にも、人は沢山いるようでした。
しかしながら、師匠が挨拶をしながら近付くと蜘蛛の子を散らすように皆さんは去って行きました。
まさか不審者の姿がこのように役に立つとは思いませんでしたね。もしや師匠はこの事を想定してこの格好を……?
「みんな優しいね。私達が使うスペースを譲ってくれるなんて」
いえ、そんな事は無いみたいです。
これは自分が避けられた事に気がついていませんね。
師匠はどこか抜けているところがあり、つい、とか、うっかり、みたいなのが多い方でして。
間違えて私を爆殺した事も何回もありましたし……。
まぁ、今日に関しましては大丈夫でしょう。
それでは師匠。
私はオークさんと金髪ちゃんと一緒に修行しますので。同門どうし仲良くしたい所存です。
「うん、いいよ。私もヒビキっちと訓練しようと思ってたから。しばるんはわっぺんとするって言ってたし、ちょうどいいね!」
師匠から許可がおりました。これで安全に経験値稼ぎができますね。
「は? ちょ、俺もポロラ達と……」
危険意識が低かったワッペさんは逃げることができなかったようです。
にっこりとした顔をしたシバルさんが、彼の肩をがっしりと掴んでおりました。逃がす気は全く無いようですね。
「貴方はこちらですよ……? 今日も足腰が立たなくなるまで修行をしましょう……」
「じ、じーさん……!?」
ワッペさんはいつもの様に引きずられて行ってしまいました。……なんかあの人いつもあんな感じですね。反省とかなさらないのでしょうか?
まぁ放っておいても良いですね。
さ、私達は私達で修行を致しましょう。どこからでもかかってきてください。
私は能力を発動しながら御二人に振り返りました。
大爪を周囲に展開、がぎがぎと不快な音をならしながら、狙いを定めます。……大丈夫、切れ味は最低にしておりますから、当たっても死にはしません。回復もしてあげましょう。
そちらは全力で構いませんから……。
全力でかかってきなさいなぁ! びょおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「あの、ポロラさん。ここは貸し出しの武器しか使えないそうなのですが……」
え、そうなんですか? って、張り紙してありますし。
あ~昨日の件で制限がかかったんですね。そりゃ『プレゼント』を全力で使えば訓練場の一つや二つ簡単に吹き飛びますよ。
って、それじゃあ私が無駄に強敵オーラを出したのはなんだったんですか。
ちょっと恥ずかしいじゃないですか、咆哮まであげたというのに、その結果がこれですか? やってられないですね。
じゃあ仕方ないですねぇ。で、貸し出しの武器はどこにあるんですか? 槍あります? 槍?
この壁にかかっているのでいいんですよね? じゃあ、遠慮無く使わせてもらいましょうか。オークさんは斧で良いですよね?
それで金髪ちゃんは……金髪ちゃんは何しているんです?
こちらの威嚇にも、武器選びにも、なんの興味も示さなかった金髪ちゃんの方を見ると、彼女もこちらの視線に気がついたようで振り返りました。
「老人と青年の組み合わせも……良いものだって思いませんか?」
その口の端からは涎がたれていたのでした。……ぶれないですね。きっと強くなれますよ。
でも、余所見はいけません。
私達は強くなりに来たのですから、そこはしっかりしていきましょう。
それでは……いきますね?
私はニコリと笑顔を作り、貸してもらった武器を構えたのでした……。
・間違ってはいないんよなぁ
?「昔からあんな感じやったからね? 基本誰にでも喧嘩売るし、悪いことをしようとすると直ぐ顔に出るしで。わても苦労してたんよ? 何回か売られそうになったし……」
人にはそれぞれの悩みがあるそうだ。




