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おさけ!!

「好きにして良いって言ったけど! 壊して良いとは一言も言ってないんだけど! どうしてくれるのさ! これ!?」


 訓練場……だった場所で、ケルティさんの悲痛な叫びが上がりました。


 師匠とヒビキさんの戦闘の影響は大きく、特殊な加工をされている壁以外は全て吹き飛んでいました。頭上に広がる青いお空が綺麗です。


 ……師匠が本格的に爆弾で攻撃し始めた時から、こうなるのは予想できていたんですよね。


 対抗するヒビキさんもヒビキさんで、いくら攻撃をされても立ち上がるし、壊れそうになったら違う人形が本体になって戦ったりと……。


 模擬戦という話はどこへ行ったのやら、完全な殺しあいでしたからね。


 途中でシバルさんが止めに入らなかったら外にまで被害が出るところでした。……吹き飛んだ天井の破片がどうなったのかは気にしないものとします。


 しかし、そんな目に見える程の被害が出てしまえば、経営者が黙っているはずもなく。


 師匠とヒビキさんは正座をして怒られていたのでした……。あ、私達は野次馬です。


「けるちー、悪かったって。こんな被害が出るとは思って無かったんだよぉ。もっと丈夫だと思っていたし」


「そうですね。ボク達が遊んだ位で崩壊するなんて、耐久性に問題があるのではないでしょうか? ここは一つ、作り直してみるというのは?」


 師匠とヒビキさんは反省した様子もなく、そんなことを言いました。


「アンタらの本気の戦闘なんて想定してないし!? というかちょっとは反省してよ! かきいれ時なのに、お客さんが訓練できないじゃん! 流石に怒るからね!」


 その態度にケルティさんは御立腹のようです。右手に大剣を持ちました。


 しかしながら、正座している二人の様子は変わりません。まぁまぁ、と言いながらケルティさんをなだめようとしています。


「ちゃんと直すから安心してって~。私の『プレゼント』の能力しってるでしょ? このくらいぎゅい~んって直しちゃうよ?」


 ……実際そうなんですよね。


 師匠のドリルは壊した物を思った物に作り直す事ができます。壊した地面に攻撃して思ったら形に作り変えたり……よく考えたらまんまC(クレ◯ジー)・D(ダイア◯ンド)じゃないですか。大丈夫なんですかね?


 まぁ、そんなわけで。

 1日位時間があればこのくらいの建物なら作り直すことも難しくはないでしょう。素材も隣の方から買い付ければ済むでしょうし。


「もちろんボクも協力しますよ? 人手はボク達がいれば足りるでしょうし、ちょっと頑張れば元通りですとも」


 そんなヒビキさんの言葉と共に、10体程のメイド人形が現れました。全員頭に『安全第一』と書かれた黄色のヘルメットを被っています。各々手には工具と資材も持っていました。


 まるで準備をしていたかのような準備の良さです。……まさか。


「……ちょ、ちょっと待って。壊れるの想定してないとか嘘でしょ? もしかして直す時間も考慮しての貸し切りだったんじゃ……」


 ケルティさんも私と同じ結論に達したようで、ひきつった顔をしておりました。


 しかし、それが事実だとしたらあまりにも酷い。


 元から壊す気しかなかったということになりますからね。経営者にとってはいい迷惑です。

 しかも、今は利用者が多くて忙しいのだとか。ホントにいい迷惑ですね。


 まぁ、ここまで全部私の想像ですし、違うとは思いますけど……。


「違うよ? ……けれど、前よりはもっと立派に、丈夫にしてあげるね~。何階建てにしてあげようか~? ヒビキっち~?」


「最低3階建てでいきましょう。……どうせなら地下に部屋を作りませんか? 匠の技を見せてあげます」


 あ、想像通りみたいですね。


 お二人とも楽しそうな雰囲気をだして改装計画を話しております。どうやら元々仲は良いみたいです。


 早速作業に取りかかった様で、師匠が地面に潜りました。


 ヒビキさん達も散会して、壁の補修やら天井の修復に取りかかっております。


 そんな様子に呆れてしまったのか、ケルティさんはため息を吐いて一言。


「もう好きにして……」


 疲れきった顔をして、二人の所業を受け入れました。……これはあれですね。日頃の行いのせいですねぇ。


 強姦紛いの事をしていたので、天罰が下ったのですよ。


 女神様は見ていたのです。




 数時間後、『クラブ・ケルティ』の訓練場は地上一階、地下二階の巨大建造物にへと姿を変えました。


 無駄に広くなったので、管理が大変になったとかならないとか……。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「それじゃ、新訓練場完成と、みんなの再会を祝って……かんぱ~い!」


 かんぱ~い!


「乾杯!」


「か、乾杯」


「かんぱい!」


「乾杯です」


 さて、訓練場の建設を見届けた我々は、休憩所にある酒場に集まっておりました。……久々に顔を合わせたのですから、こういうのも良いでしょう。


 私はそう思いながら、師匠の乾杯の音頭でグラスを打ちならし、その中身をごくごくと飲み干しました。……あ、店員さーん! 甘いお酒くださーい!


「おお! 良い飲みっぷりですな! このシバルも負けてはいられません……こちらにもウィスキーを!」


 シバルさんが乗ってきました。……ちょっと~、大丈夫ですか~? 強いお酒なんて頼んじゃって~?


 こう見えて私、実は結構強いんですよ? 酔っぱらいの相手なんてしたくないですからね?


「しばるんは大丈夫だよ~。私達の中で一番お酒強いし。それよりポロポロ、そうやって言ってるけど自分の心配もしてね?」


 そう言って笑う師匠は、先程まで被っていたペストマスクを外しておりました。


 緑色の長髪に、女性そのものと言っても過言ではない顔立ち。……この姿を見れば、誰だって女性キャラだと思うことでしょう。


 しかしながら骨格は男性なので、聡い方ならば直ぐに男キャラだということがわかります。けど、普段の格好は女性のものです。


 つまり……私の師匠は女装子なのですよ。英語で言ったらクロスドレッサー。


 本人曰く、「キャラメイクの時に間違って性別を男にしちゃってさ……、しばらくした後に、何か生えてる事に気がついたんだよ……」だそうで。


 真実はわかりませんが、私は師匠を信じますよ?

 修行中に話している限り、中身は女性ということは確定していますので。言うなればネナベって奴ですね。


 けれど、師匠にはもっと教えてもらいたい事もありましたし、こうやってもう一度会えた事には感謝しかありません。……もう、師匠ったら~、そんなこと言わないで飲みましょうよ~。


 弟子が注いだお酒が飲めないのですか~?


 心配をする師匠のグラスに、私はお酒を注ぎました。


「逆じゃない!? それアルハラだよね!? むしろ私がする側だと思うんだけど!?」


 わぁい。私、師匠のツッコミ大好き~。


 私は師匠の横に座ると、頭をグリグリと師匠の胸に押し付けます。おら~、甘やかせ~。


「もぉ~、ポロポロ~、ブーちゃんとしらちゃんが見てるって~。恥ずかしくないの?」


 そう言いながら、師匠は私の頭を撫でてくれました。……そういうとこが好きなんですよ~。


 弟弟子の貴方達もわかるでしょう?


 この人ホントに優しいですからね~。拾ってもらって万々歳です。


 どうですか? 普段言えない感謝を言葉にしてみては?


 私がオークさんと金髪ちゃんに同意を求めると、二人はうんうんと頷きました。


「師には本当にご迷惑をおかけしています。それほどの実力を持ちながら、自分程度の初心者に教えを説かれる姿は尊敬しかありません。……そして、あなたが恩人であるポロラさんの師とわかった今、自分の道は決まりました。感謝致します」


 どうやらオークさんはお酒が入ると口数が増えるみたいですね。

 深々と頭を下げていました。

 お酒の場には似合わない光景です。


「私はそんなに深く考えて無いけど……。師匠とは話が合いますし、修行終わっても友達でいてください! 約束です!」


 金髪ちゃんはそう言って笑顔で師匠に抱きつきました。……わぁお! 師匠モテモテぇ! 私もぎゅ~!


「わっわ!? もう二人ともやめてよ~! そんなに感謝されることないって! 私だって、今まで教えてもらってた事を言っているだけなんだしさ~」


 そう言いながらも、師匠は嬉しそうです。楽しそうに顔を弛めて、私達をナデナデしております。


「はっはっは! シーデー君! 良かったですな、新しい仲間ができて! ……どうですヒビキ君。彼を見て思うところはありませんか?」


 店員さんが持ってきたお酒をあおりながら、シバルさんは楽しそうにそう言いました。


 対するヒビキさんは穏やかな顔で口を開きます。


「べつに、何も。……と、言いたいところですが、実のところ楽しいですね。こうやって強いプレイヤーが育っていくと思うと楽しくてしょうがない。……ボクも誰かを育ててみれば良かったかな?」


 ヒビキさんは楽しそうにそう答えました。


 良いですね。皆さん明るい様子でこの場を楽しんでおります。


 元ペットショップの方々が多くて、少し気が引けるところも無いわけではありませんが……実に楽しい集まりです。


 皆さん遠慮することなく、思っている事を口にして親睦を深めています。


 ここで余計な事を考えるのは無粋というもの。楽しまなければなりません。


 そう言うことで、今だけは修行を忘れて。



 私達はお酒を飲むのでした……。






「いや、おかしいだろ」


 はい?


 その言葉に振り向くと、そこには疲労から回復したワッペさんが立っていました。


「なんでソールドアウトの主要メンバーがこんなに集結してんだ。その時点でおかしいとしか言いようがねぇ」


 その表情は険しいもので、まるで全員を疑っている様な目をしておりました……。


「誰かが……ここに誘導したようにしか思えねぇ。油断しない方がいい」


 ワッペさん……。


 私は、そう言うワッペさんを見ながら、運ばれてきたワインを飲み干したのでした。




 お酒うめ~。





・クロスドレッサー

 女装子。見た目に騙されてはいけない。後、この場合はちゃんと英語で言うのなら、トラップの方が正しい。


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