狐さんの修行旅!~修行再開!~
資料室を後にした私達は特別訓練室:Mに戻り、本格的な修行に勤しんでいました。
「ホラホラホラ! 殴り続けるんだよ! そんな攻撃でツキトがくたばると思ってんのかい!? 一撃で殺すんじゃなく、確実に、正確に! 有効な攻撃を当てていくんだよぉ!!」
訓練室の中にメレーナさんの怒号が響きます。……わかりました! 教官! びぃょおおおおおおおおおお!!
鼓舞された私は、『妖狐の黒籠手』の効果を発動させ大爪を展開しました。それら全てが、目の前に拘束された女性に標準を定め……打ち出されます。
彼女の手足には的が書いてあり、点数も記載されていました。手足が5点、お腹が10点です。
それらに向かって私は正確に攻撃を当てていきました。
「んっ……!? ふごっ!? ふががっ!!」
攻撃を当てられた彼女は苦しそうに悶えますが、猿轡をしているため何を言っているのかわかりません。
「よし! 良いじゃないか! 手は攻撃を、足は機動力を、腹は体勢を崩せる! 首や頭を狙うのは止めだけだよ!」
そう言いながら、メレーナさんも攻撃を繰り出し始めました。……という訳で。
再びミラアさんを痛め続ける訓練をしていました。
ちなみに、縛ったのも、猿轡をしたのも、はたまた点数を書いたのも私達ではありません。部屋に入ったらそうなっていたのです。
この前出たときには拘束は解いていたはずなので、これは自分でやったものなのでしょう。……どう考えても変態です。助けてください。
けれども、底の見えない変態さんに攻撃をし続け、私のステータスも上がってきました。代わりに成長率がガッツリ下がってきましたが……。
メレーナさん曰く、ある程度ミラアさんを満足させてあげないといけないそうです。じゃないと後でごねて来るのだとか。
注文の多いドMですねぇ……。
とりあえず、猿轡でも外してみますか。
もしかしたら何かして欲しいことがあるのかもしれません。そのご注文を聞いてみましょう。
私はメレーナさんの攻撃を邪魔しないようにそっと猿轡をはずしてあげます。すると、ミラアさんは殴られる苦痛に悶えながら……。
「もっと……もっと酷いの……ほしいぃ……」
と、恍惚とした表情でそう言ってきたので、私はニコリと笑ってその頬を叩きます。
人語を話すな。
その後、逆の頬を叩き猿轡を付け直しました。手荒い扱いを受けた彼女は目を潤ませて、嬉しそうな表情をしております。やりましたね。
さて、今のでいい感じなりましたので、そろそろ離脱しましょう。
私はちらりとメレーナさんに目線を送りました。すると、彼女は二回頷いて返してきます。
離脱の合図です。彼女も疲労がたまって来ているようですね。
私は黒籠手の能力を使用して、ミラアさんに見えるようにとあるものを作り上げました。……さて、先程はああ言いましたが、貴女には楽しませてもらっていますからね。ご褒美をあげましょう。
ほら、今からここに入るんですよ? 嬉しいですよね~……?
ミラアさんに囁きながら、私は作り出した物を、彼女に見せつけます。
そこには、誰もが知っているであろう、鉄製の女性を象った棺がありました。中央の切れ込みが扉の様に開くと、そこには沢山の杭が見えます。
いわゆる……鉄の処女ですね。
「んっ!? んぅ~!! んっんっ!!?」
わぁ、無駄に嬉しそうですね。
ああそうだ、安心してください。あの杭なんですけど、さほど鋭くはないんですよ? 簡単には死なないような設計になっているということです。
けれども、閉めきる為には身体に刺さらなければなりません。……つまり、とても長い時間をかけて、ゆっく~り、苦痛を与えるんです。
「……っ! ……っ!?」
もう、そんな顔しちゃって。
ミラアさん、痛いの大好きですものね。だから用意してあげたんですが、そんなに喜んでもらえるとは思っていませんでした。
さて……もう御託はいいですかね?
それじゃあ入りましょう。
私がゆっくりと閉めてあげますから……。
楽しい声を、沢山聞かせてくださいね?
ミラアさんを棺に立たせ、私は鉄の処女の蓋を閉めていきます。
締め切る前に見えた、ミラアさんはどう考えても興奮しているみたいで、まるで恐怖というものを知らない様子でした。
そして、長い時間をかけて閉めきると……。
棺の中から絶え間の無い、喜びに満ちた声が聞こえて来たのでした……。
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「そ、それで、殺してしまったんですね……?」
施術室。
どんな修行していたのかと聞かれたので丁寧に説明すると、私をマッサージしていたアンズちゃんは困惑したような声でそういいました。……いや、ちゃんと解放しましたよ?
あのまま殺しちゃうと怒られそうだったので、声がしなくなってから開けてみたら、嬉しそうな顔で失神しているミラアさんがいました。
色々と漏れてましたね、ええ。
「ミラアの訓練で心が壊れない方は久しぶりです……。メレーナさんもブッ飛んでいるですが、ポロラも中々です。褒めてあげるです」
それは褒めているのですか……っと、そこいいですね~。気持ちいい~……。
コボルトさん特有のぷにぷに肉球が、私の身体のツボをとらえてきます。身体から疲労が抜けていってますよ~。こゃ~ん。
私はベッドにうつ伏せになりながら、上機嫌になっていました。
「褒めてるですよ? このゲームで頭のネジが外れてるのは強い証拠です。ソールドアウトと面識があるのなら、わかるですよね?」
えぇ~? そんな事ないですよ~。
一人くらいはマトモな人だっているはずですって、例えば……。
例えば……。
…………。
私がまだ出会っていない方とかですかねぇ……。
私はしばらく考えを巡らせて、少し悲しくなりました。皆さんどこかのネジが飛んでいられますね、悲しい。
「ま、そうなるですよ。……あ、尻尾をほぐしにかかってもいいです? こんなにおっきぃと、沢山こっているに違いないです」
あ、お願いしま……ひゃうぅぅぅっん!?
アンズちゃんに尻尾の付け根辺りをコリっと揉まれて、思わず凄い声が出てしまいました。
まさか……この間の影響ですか!?
ケルティさんに良いようにやられた影響がまだ残っていたというのですか!? な、なんですかそれ! これじゃあまるで、こんな感じに仕込まれたみたいですよ!
恥ずかしっ!
「あっ……。そういえばケルティお姉さまにマッサージ受けていたんでしたね……。敏感なとこは止めておくです」
察せられてしまいました……。
違うんですよ? ……あれはただのマッサージだったのです。何もおかしいところはありませんでした。もう二度とやられたくはありませんが……。
「いいんです。あれに負けるなというのが無理なのですよ。素直になった方が気持ちいいですし……」
……おおっと?
なにやら雲行きが怪しくなってきましたね。
私、もしかしなくてもとんでもない人に身体を預けてませんかね? あの時の恐怖が込み上げて来てドキドキしてきましたよ?
逃げようかどうしようか悩んでいると、こちらの考えを見抜いたのか、アンズちゃんは笑いながら口を開きます。
「あ、心配ないです。どちらかというとワタシ、ネコですので……」
コボルトなのに!?
と、アンズちゃんの意外な一面がちらりと見えましたが、施術は無事に終わりました。最後まで、心地よく身体中をぷにぷにしてもらったのです。……ちょっと肉球の後が残りましたが。
いや~、ありがとうございました。
スッキリしましたよ、これでまた頑張れそうです!
施術台に腰掛けながら、片付けをしているアンズちゃんにお礼を言うと、彼女はニコリと目を細めてこちらに振り返りました。
「ふふっ、こちらこそ、です。……あ、そういえば聞きましたか? 訓練場の話」
訓練場?
あの大きな体育館の事ですよね? そこがどうかしたのですか?
「一応貼り紙をしてたですけど、あそこを貸しきる方が居るそうで、立ち入り禁止になるです。ですので、しばらくは休憩所でゆっくりするか、外に出て時間を潰して欲しいですよ」
はぁ……訓練場を……。
あそこを丸々貸しきる? ずいぶんと豪勢な方がいたものです。あんなに広いスペースを個人で使ってもできることなんて限られているでしょうに。
いったい、どんな人が借りられたのですか? 何の目的で?
「それは……」
口を開こうとしたアンズちゃんは、ハッとした顔をすると、慌てて顔を逸らしてしまいました。
「ちょ、ちょっと特別なお客さまです! あんまり目立ちたがる方では無いので気にしないでですよ! 人に見られたくないないそうですので!」
へぇ~、そうなのですかぁ~。
私はあたふたしているアンズちゃんに対し、にこやかに笑いながら答えました。……修行ができないのなら仕方ありませんね。時間を潰しましょう。
アンズちゃんのこの反応、きっと貸しきっている方はソールドアウトの関係者に違いありません。
なんと言っても、『特別』な、お客さんですしね。
もしかしたら、ツキトさんかもしれない可能性もなきにしもあらずです。
それに……。
貸しきって、立ち入り制限をかける様なことをするなんて、絶対に怪しいではありませんか。
これは……覗きに行くしかありませんよね!
私はそう思い、アンズちゃんと別れた後、真っ直ぐに訓練場に向かったのでした……。
そして、私は。
思いもよらない人物と、再開することになったのです……。
・鉄の処女
人気の拷問器具。店売りの物は使用者に確定で致死量のダメージを与えるので注意が必要。ゆっくりやれば大丈夫とかそういう物ではないので、楽しみたいのなら手作りするしかない。……そもそもこれで楽しむとは?




