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プレイヤーキラー

 結論。


「そうですね……冒険者の皆様は自由な方が多いですから……。共通のルールを作れば良いのではないでしょうか? 破った際の厳罰を用意していけば、皆様守ってくれるのでは?」


 あ、はい。とてもマトモなご意見ありがとうございます……。


 リリア様は私達の善性を試すようなご意見を提案されました。


 確かにマナーを守る人だけならそれで済むお話なんですけどね……。このゲームやっている人達は、遅かれ早かれこの世界に馴染んでしまいますし……。


 それに結構癖になるんですよ。

 プレイヤーを罠にはめて謀殺したり、モンスターをけしかけて慌てているのを眺めたり、報復で殺されたり……楽しいです。


 しかも、街の中でなら衛兵に助けを求めれば、初心者でもプレイヤーキラーの毒牙から逃れることも不可能では無いですし。問題は無いと言えば無いのです。

 そこで、他の人達が迷惑しているから止めようと声を上げてても、素直に言う事を聞く人なんて数えれる位なもので。


 そんな環境で、もふ魔族達の扱いはどうなるのか。


 簡単に言えば、好きにやらせておけ、の一言で終わるんですよねぇ。対抗組織も無いわけでは無いですし、あいつ等を本気で潰すとなったらクラン同士の戦争となる事は、日の目を見るより明らかな訳で……無関係のプレイヤーにも迷惑がかかります。


 現状の通り、見かけたら殺す方が平和なんですかねぇ?



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 私はリリア様にドーナツを捧げて、数分戯れた後、教会の椅子で一休みしていました。


 先程はああ言いましたが、一応無法者のプレイヤーさん達にも最低限のルールはあります。


 その一つの中に、公共の施設及び他者のクラン拠点で許可無く戦闘してはならない、というものがありまして。


 つまり、この教会はプレイヤーから逃げ切れるセーフゾーンなのです。……NPCの方々にはそんな決まりは通じないので、本当に安全という訳ではありませんがね。


 そもそも、リリア様が在中している時点で、ここで悪さをしようとするプレイヤーは滅多にいませんけど。


 と、まぁ 。

 そんな理由でこの場所に休憩しに来ているんですけど、これからどうしましょうかね?


 とりあえず依頼は終わったので、クランに報告しないといけません。なのでテクテクと歩いてクランに帰らなきゃなのですが……、無駄な時間がかかるんですよ。


 拠点にテレポートできる帰還のスクロールがあれば、一瞬で帰ることもできるのですが……。


 どうやらチップ様に殺されたときに落としてしまったようで、切らしていたようでした。こういう時には魔法が使えないのが悔しく思えます。


 仕方ない……。


 私は手袋をナイフに変えると、その刃を首元に当てました。……もう何をするかお分かりですね?


 死んで帰るとしましょう……去らば!


「……何してるのよ?」


 と、私が覚悟を決めているといつの間にか私の隣に黒子さんが居ました。……あ、そういえば、私が死んだ際の死体回収班が、こっそりついてきていたんでしたね。


「いきなり自殺しようとするとか……疲れているのかしら? 仕事が終わったと思って迎えにきたのだけど……余計なお世話だった?」


 ああ、私を食料として捕まえようとした黒子さんですか。確か一人だけ女の方がいましたから、その方でしょう。


 ナイフを手袋に戻し、顔の見えない黒子さんの質問に答えます。


 ……ちょうどクランに死に戻りしようとしていたところなので、ナイスタイミングです。帰還のスクロールとか持っていません?


「持ってないのなら歩いて帰りなさいよ……。それで帰ったら、デスペナ帳消しするって言って、周りのプレイヤー殺す気でしょアナタ……」


 黒子さんがドン引きしております。……死に戻りってそんなに珍しいですかね?


 というよりも、どうやら私に対する偏見が激しいようです。まるで私が殺人鬼のように思っているようですが、それは違いますからね?


 こうやって教会に来て、女神様に祈りを捧げるくらいには信心深いのです。女神様に尽くしちゃう系の狐さんなのです。


「へぇ……アナタってリリア信者なのね。意外に普通でお姉さんビックリ」


 このゲームには『信仰』という要素があります。

 全6柱の女神様の内、いづれかの女神様を信仰することによって加護を貰うことができるのです。


 加護の内容はステータスアップと特殊なスキルの取得となっていて、デメリットは特にありませんので、信仰しない理由はありません。


 ……って、意外ってなんですか。意外って。

 私は今でこそプレイヤーキラーみたいな事していますけど、元々善良なプレイヤーの一人なのです。


 そう言うと、黒子さんは頭巾の下でクスリと笑いました。……何か?


「いえ……アナタはどういうつもりでそう言っているのかは知らないけれど、本当にそうなのかもって思ったから」


 おや?

 どういう風の吹き回しです? そこまで理解が早いと私も少しは動揺しますよ?


 ここまですんなりと納得してくれる人は珍しいので、私は動揺しました。


「あら? だってアナタはさっきの依頼人を殺さなかったでしょう? 『怠惰』で乗っ取られた子はしょうがなかったから別だけど。普通なら初心者はプレイヤーキラーのオヤツじゃなかったかしら?」


 ……なんだ、そんなことですか。


 私はため息をついた後に、アイテムボックスから金貨がつまったズタ袋を取り出しました。そして黒子さんに差し出します。……どうぞ。


「あら? どうしたのこれ? 随分と大金じゃない?」


 あー、これはですね……、さっき襲ってきた5名から死体漁りして稼いだお金です。これで迷惑をかけた件についてはチャラになりませんか?


 手渡したのは金額は、先程の護衛依頼で貰える報酬よりも遥かに高額でした。


 ついでに言うと……アナタは私の事を見直したようですが少し勘違いをしています。


 さっきオークさんと金髪ちゃんを見逃したのは、奪う価値のあるものを持っていなかったからですよ。


「……つまり?」


 私の真意を聞いて尚、黒子さんは楽しそうに聞き返しました。


 ……つまりは殺す価値が無かったということです。今『リリア』でお金やアイテムを探すのなら、ある程度長い期間遊んでいるプレイヤーを襲うのが一番効率良いんですよ。


 いざ復讐に来られても、奪った物を隠し場所に置いておくか、売ってしまえば問題はありませんからね。……まぁ、リスキルされて面倒な事になるかも知れませんが。


「そう……。じゃあなんでわざわざ国営ギルドまで連れていってあげたのかしら? 彼等との契約はクエストが終了した時点で終わっているはずよ?」


 今までの話を聞いてピンと来ません?


 彼等にはね……私の獲物になるまで成長して欲しいんですよ。


 大漁の金貨を手に入れて、いいアイテムをたんまり溜め込んで、もっとレベルが上がって、私の前に現れたとき━━。



 私は彼等を殺すでしょう。



 ニコりと、私は笑顔を作りました。


「……プレイヤーキラーの矜持って奴かしら? 弱い子は狙わない……悪くないわね」


 ま、弱い彼等と戦ってもあっけなさ過ぎてつまらないというのもありますがね? やっぱ狙うなら、自分よりもちょっと弱いか強いかって人に限りますよ。


 どうせ戦うなら、気持ちよく勝ちたいですしね。


「ふふっ……そう。……って、じゃあなんで街中でいきなりプレイヤーキルなんてしたの? 聞いた話だと、襲った相手はそれほど強くは無かったみたいだけど?」


 え?


 ああ、私がタダ働きする原因になった彼等ですか。そんなの決まっているでは無いですか……。


 イラッとしたからです。


 私の言葉を聞いて黒子さんは一瞬フリーズしたようにガチリ身体を硬直させた後、ゆっくりと口を開きました。


「……イラッと?」


 どうやら良く聞き取れていなかったようです。……ええ、イラッとしたので。


「じ、じゃあ、アナタを迎えに来た黒子を刺し殺したのは?」


 私を担いで連行しようとした方ですよね?

 あの方は……デスペナを帳消しする経験値が欲しかったので殺しました。以上です。


 そう言うと、黒子さんは頭を抱えてしまいます。どうしたんですかね、もしかして疲れているのでしょうか? 大丈夫です?


「いえ、なんでも無いわ……。ちょっと自分のチョロさに頭が痛くなっただけ……」


 ?


 良くわかりませんが、大変だと言うことはわかりました。元気だしていきましょうよ。人生どうとでもなりますって。


 あ、尻尾触ります? なんか私の尻尾、人気らしいですよ? 元気でるかも。


 黒子さんはふるふると首を横に降りました。そして、アイテムボックスからスクロールを取り出し私に手渡します。


「別にいいわよ、もふ魔族じゃあるまいし。それより、帰還できなくて困っていたんでしょ? これあげるから大人しく帰りなさいな」


 え? いいんですか?


「いいのいいの。私はまだ仕事が残っているし。後、お金も返すわね。ちゃんと謝りながら渡すのよ?」


 ついでにズタ袋も突き返されました。


 どうもすいません。……それじゃ、私はお先に失礼させてもらいますね。黒子さんもお元気で。


 黒子さんは私に向かって手を振ると、席を立って教会の奥に歩いて行きました。


 ……それでは帰りましょうかね。久々に戦闘も無く、ゆっくりとした時間を送ることができました。


 タダ働きもこれで終わりになるといいんですけどねぇ……。


 そう思いながら、私はスクロールを目の前に広げ、クランにへと帰還するのでした。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 そして、クランに帰った私を待っていたのは、クランメンバーによる不当な拘束でした……。なんで!?


「よっ、ポロラ。クエストお疲れ様。もふ魔族の奴等と遭遇したんだって? 大変だったな」


 懲罰室において十字架に鎖でぐるぐる巻きにされた私の前に現れたのは、今にも着ている服のボタンが弾けそうなおっぱいさん。


 真面目な顔をした、チップ様でした。


 あー……。


 うーん……えーと………。


 食われる!?


 きゃあああああ!? 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?


 叫びながらじたばたと暴れてるのですが、拘束が解ける様子は全く無く、目の前のチップ様は更に私に向かって距離を詰めてきます。


「ははっ、そんな暴れるなよ。……お前には聞きたいことができたから、こうやって拘束させてもらったんだ。私の質問に答えてくれ」


 え、それだけなんですか? 本当に食べませんか?


「答えによる」


 こゃ~ん……。


 ほとんど死刑宣告です。私はもう諦めて反抗するのを止めました。もう煮るなり焼くなり好きにしてください……。


 そんな感じにぐったりとしている私の顎をグイッと持ち上げ、チップ様は私の目を見つめて静かに口を開きました。


 なんですかね? 真面目な話かな?


「私が聞きたいことはたった一つ。『死神』と……『ツキト』と会った事があるというのは……本当なのか?」


 !


 私はその名前に思わず目を見開きます。


 忘れもしないその名前。


 ニヤリと気味の悪い笑顔を張り付かせ、大鎌をもって首を刈る、未だに恐怖の対象となっている史上最強のプレイヤー『死神』。


 まだ初心者だった私の前に姿を表した……。




 絶対に殺さなければならないプレイヤーの名前でした。

・聖母のリリア

 見た目は幼女であるが、ステータスが全てカンストしている正真正銘の最強NPC。『神殿崩壊』というマップ兵器に似た広範囲の即死スキルを持っており、今まで数回ビギニスートを消滅させている。街とNPCは数日で元に戻るので問題は無い。ビギニスートに居る理由はプレイヤーによって呼び出された為であり、本来なら存在しない。

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