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張り切っていきましょう!

「な……なめるなぁ!」


 追い詰められた邪神の姿が一瞬消え、ツキトさんから少し離れた場所に姿を現しました。……ツキトさんと子猫先輩が、まったく反応できない速度? いえ、これは……。


「テレポートか。……自慢の速さはどうしたんだ? 魔法に頼り始めるなんて、プライドはねぇのかよ?」


 大鎌を肩に担いだツキトさんが笑います。


 黒いローブに身を包んだ彼の姿は、恐怖そのものです。大鎌の存在感と威圧する様な笑顔……対面した敵は逃げ出したくなることでしょう。


 現に、邪神の顔は先程と何も変わっておらず、先程の行動もただ逃げただけにしか見えませんでした。


「黙れ、黙れ黙れ黙れぇ!! こうなればなりふり構っていられるか! もう一度封印されるというのなら、貴様達を殺して死んでやろう!」


 邪神はそう叫ぶと、残っている左上を高く振り上げました。


 すると、子猫先輩のギフトを食らって倒れているプレイヤーの中から、人魂の様なものが飛び出し、邪神の手の先に集まっていきます。


 良く見ると、後方で戦っている邪神側についたプレイヤーも同じようで、人魂が抜けるとその場に倒れ付していきました。


「全て……全て吹き飛ばしてやろう! お前達に封印されるほどワタシは安い女ではないわ!」


 集まった人魂は、邪神の手の先で爛々と輝く大きな球体になりました。凄まじいエネルギーを放っているようで、周囲の小石や砂が舞い上がっています。


 あれを放ち、自分もろともプレイヤー達を吹き飛ばすつもりなのでしょう。


「はー、そりゃ怖い。聞いとくが、それをぶっぱなすのと、俺がお前を切り捨てるのどっちが速いと思う?」


 ツキトさんは両手で大鎌を構え直し、瞬時に邪神に切迫しました。


 瞬きする間に邪神を間合いにとらえた彼は、容赦なく武器を振り下ろします。……しかし。


「っち!? またか!」


 邪神の姿は消え、戦場を見下ろすように空中に姿を現しました。その手の先にあるエネルギー体も一緒に。


「お前との速さ比べなどどうでもよいわ! 女神もろとも……消し飛べぇ!」


 そう言って、邪神はエネルギー体を放とうと腕を振り下ろします。


 その前にツキトさんが地面を蹴り、邪神に向かって飛びかかりますが……もう手遅れです。


 どう見ても、邪神の攻撃が着弾する前に彼女を倒すことはできないでしょう。

 子猫先輩の魔法なら間に合うかもしれませんが、攻撃を防ぐ手段がありません。


 ……けれども。




 『ペットショップ』にはまだ彼女が残っています。




 地面に着弾する直前のエネルギー体に向かって、どこからともなくレーザー砲が放たれました。


 その攻撃には見覚えがあります。


 邪神化し、かつ巨大化していたタビノスケさんを一撃で吹き飛ばした、私達のクランリーダー。


 チップちゃんによる『キキョウの殲滅銃』、その攻撃でした。


 彼女が放った光の帯は、エネルギー体に直撃し、それを消し飛ばしてどこまでも伸びていきます。


「ば、馬鹿な……そんな事が」


 とっておきの攻撃を防がれた邪神は放心状態になってしまったようで、接近するツキトさんにまったく気づいていないようでした。


 そして、遂にその時は訪れます。


 ツキトさんの大鎌が、邪神に対して袈裟懸けに振るわれました。


 大鎌の鈍い光が輝いたと思った瞬間には、すでに攻撃は終わっており、そうやって攻撃したとわかったのは、邪神の身体が真っ二つに切り裂かれたからでした。


「あばよ。もう二度と起きてくるな」


 地面に着地したツキトさんはそう言い残し、子猫先輩に顔を向けました。


 子猫先輩はいつの間にか少女の姿になっており、可愛らしい笑顔をしています。そして……。




「お疲れ様。じゃ、残骸回収に行こうか? 今日はプレイヤーと女神のアイテムが回収できるからね! 全部持って帰っちゃおー!」




 ぶれない発言を繰り出しました。……今のそう言う雰囲気じゃなかったですよね!? 少なくとも、残骸あさりをするタイミングではありませんでしたよ!? もっとツキトさんに言った方がいい事が……。


 って、動画終わったぁ!? これがシメでいいんですか!? 問題しかない発言で終わってしまいましたが!?


 え? 最後は可愛いかったからオッケー?


 …………。


 まぁ、可愛かったですけど……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「……と、こんな感じだね。どうだい? 参考にできるところはあったかねぇ?」


 クラン『クラブ・ケルティ』、資料室。


 『女神大戦』の動画を見終わった私とメレーナさんは、映像の止まったウィンドウを見つめていました。


 ……参考にできるかどうかの前に幾つかツッコミたいことがあるんですけど、いいですかね?


「ああ、いいとも。なんだい?」


 いや、確かに皆さん激しい戦闘に巻き込まれて、命を落としていたみたいですけど……それって結構普通じゃないですか。


 それが理由で当時の事を教えてくれないなんて事あります?


 メレーナさん曰く、『女神大戦』はあまりにも脱落者が多く、思い出すのも嫌な人が多いのだとか。一種のトラウマかと思っていましたが、動画を見た限りではそこまで酷いとは思いませんでした。


 なので、そんな疑問が浮かんだのです。


「ん? そこかい? ……実はねぇ、問題はさっきの戦争が終わってからだったんだよぉ。具体的には、戦争の報酬と各陣営の関係に問題があってねぇ」


 報酬と陣営ですか?


 各女神の陣営で報酬に偏りがあった……ということですかね?


「いやいや違うんだよ。……邪神に寝返った馬鹿達が居ただろう? あいつらにはさぁ、報酬自体無かったんだよぉ。自業自得なのにねぇ」


 あー……それで文句を言い方が沢山居たと……。


「そうさ。……で、更に言うと、エロに釣られた奴等として叩かれたんだよ。女性プレイヤーも当時は荒れてたねぇ。いったい何人処刑されたんだか……」


 それも……仕方ないですよ。


 だって、明らかに男性に媚び売ってる格好だったじゃないですか。ほとんど裸でしたよ、あれ。


「まぁね。で、あの痴女を倒したおかげで『色欲』のギフトが解放されたんだけど……これも問題の火種になったのさ。アンタ、どんなのか知ってる?」


 『色欲』のギフトですか?


 メレーナさんから聞いた、成長率を回復させるということしか知りませんね。……あ、そういえばケルティさんが会議の時にチップちゃんを誘惑しようとしてました。


「んー、惜しい。あともう一つ能力があるんだけど、コイツが問題だったのさぁ。アイツら、気持ちいい事を……マッサージした相手の『プレゼント』をスキルとしてストックできるんだよぉ。コピーした能力は一回しか使えないそうだけどねぇ」


 スキルコピー!?


 え、なんですかそれ。メチャクチャ有用じゃないですか。条件は厳しいですけど、色んな能力をつかえるというのは強いですね。


 ん? つまりケルティさんも『妖狐の黒籠手』を使えるようになっているということですかね?


「まぁ、能力のコピーについてはそこまで強くはないよ。『プレゼント』開封前の能力しか使えないしね。……問題は気持ちいい事をしないといけないって所さ。当時は迫害がおきたりしてたよ?」


 なるほど。


 確かに聞こえは悪いです。

 気持ちのいい事という名称が悪いですよね。どう考えてもマッサージとは思いませんし。このゲーム、実はRー18でしたしね。


 それも踏まえて、『色欲』もちのプレイヤーが警戒されても仕方ないとは思います。


「そ。それの問題も解決しなくちゃいけなくて、クランは大忙しさ。事後処理で相当苦労したからねぇ、みんな当時の事は忘れたいんだよ。私も朝から晩まで使われたし……」


 そ、そうですか。


 そう言うメレーナさんの顔は何処と無く疲れているように見えました。


 どうやら色々あったようです。


 ケルティさんも『色欲』持ちのプレイヤーですし、当時は苦労したのでしょうか? ……いえ、とりあえず誰かに手を出しに行く姿しか想像できませんね。


「昔の事は置いといて……、さっき動画見てて気づいたけど、アンタも可愛いとこあるんだねぇ? ツキトの姿を見て、ブルッちゃうなんて、普段の様子からは想像できなかったよぉ」


 そう言うと、メレーナさんは私を見て意地悪な笑顔を見せました。


 え? ……ああ、さっきは確かに震えてましたね。


 けれども、勘違いしてもらっては困りますよ。


 私はそう言いながら、立ち上がってピーンと背伸びをしました。もう疲れは抜けきっており、いつでも修行に行けそうです。


 ……私、さっきのツキトさんの姿を見て、ちょっとワクワクしちゃったんです。あれ、絶対勝てないでしょ?


 そう聞くと、メレーナさんは笑いながら私の肩に止まりました。


「そうさ。アイツに勝つのならそれ相当の準備と人数、戦略が必要さ。女神を相手にするよりも厄介かもねぇ。……それでも、その虚勢を張れるのかい?」


 虚勢?


 何を言っているのですか、私は何も怯えてはいませんよ。


 私、負けるのは嫌ですけど、強い相手と戦うのは楽しいんです。自分がどこまでできるのか、ワクワクしちゃうんですよ。


 だから、できることを増やす為に私は頑張るのです!


 そう言いながら、私達は部屋を出て訓練場に向かいます。


 ……さぁ、訓練再開です。


 張り切っていきましょう!









 あ、最後に質問なんですけど、ツキトさんと子猫先輩のご関係って……。


「あ、あの二人かい? ……なんかリアルで付き合っているらしいねぇ。端から見てると結構初々しい感じがして面白いよ?」


 な、なんと……。


 子猫先輩、完全に騙されているじゃないですかぁ……。


・女神大戦の報酬

 グレーシー陣営

 魔法効果が強化されるアクセサリー。高い耐性もついており、魔法使いのみならず、近接職にもオススメの逸品。


 フェルシー陣営

 幸運を運ぶブレスレット。高い幸運のバフが付き、手に入るアイテムが高品質な物になりやすくなる。これを付けて宝箱を開けると、大抵使える物が入っている。


 パスファ陣営

 速さを手に入れる事ができる履き物。速度が大幅に上がり、成長しやすくなる便利な装備品。疲れにくくなる効果もついており、修行に使うといい感じ。


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