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『死神』

 チップちゃんの能力によって移動したツキトさんが、色欲の《パスファ》に頭上から強襲をしかけます。


 手に持った大鎌を振りかぶり、一撃で邪神の首を落とそうしていました。


「甘いわ! この身体が誰の物か忘れたか!?」


 しかし、邪神はどこからともなくレイピアを取り出して、大鎌の攻撃をいなしてしまいました。……パスファの持っているレイピアですね。やはり、取り憑いた身体の能力はそのまま使えるみたいです。


「っち、そう簡単にはいかないか……! 先輩! 支援お願いします!」


「わかった! いくよ!」


 ツキトさんが地面に着地して距離を取ると、邪神を取り囲むように数多の魔方陣が現れました。


 同じ魔方陣がツキトさんの肩……子猫先輩の元にも出現しています。


「いくぜ? 『マジック・アロー』!!」


 子猫先輩の宣言と同時に、魔方陣から魔力の矢が一斉に飛び出します。それは途切れることなく、まるで機関銃のように射出され続け、邪神に向かって襲いかかりました。


 魔法の同時発動……、たしかこれは『魔神のグレーシー』から貰える神技だったはずです。


 名前は『グレーシーの追約』。


 MPが続く限り大量の魔方陣を作り出し、魔法を使うことができる神技です。

 魔法使いである子猫先輩がグレーシーの信者である事は別におかしな事だとは思いませんが……それにしてもこの魔方陣の数はすごい。


 目の前のウィンドウに映っているのは、画面をうめつくす魔力の弾丸です。


 矢と呼ぶには巨大すぎる弾丸が、邪神の体力を容赦なく奪っていきました。


「なっ……! なんだこれは!? この力……どうなって……かふっ!?」


 その圧倒的なパワーに邪神もなす術も無いようです。……やっぱり子猫先輩強すぎぃ! これツキトさん倒せても子猫先輩は無理でしょ!? この攻撃が当然の様に飛んでくるとか、どうやって勝てというのですか!? むりぃ!


 私のそんな考えはかなり正しかった様で、マジック・アローの魔方陣が消えると、ボロボロの姿になった邪神の姿が現れました。


 戦闘は始まったばかりだというのに、もう死にかけのように見えます。


「あうぅ……魔力切れー、あとよろしくー」


 子猫先輩は疲れきってしまった様に、ツキトさんの肩でぺたんと小さくなりました。可愛い。


「了解です、先輩。……死ねやぁ!」


 フラフラになった邪神に向かって、ツキトさんが飛び出しました。


 邪神を守ろうと敵プレイヤー達が立ち塞がりますが、出てきた瞬間に大鎌でまとめて処理されていきます。


 これなら、すぐにでもその刃が邪神の首に届くことでしょう。


 ですが……。


「くっ……! 者共! 蘇るがいい! ワタシを死んでも守るのだ!」


 邪神の叫びと共に、倒されたはずのプレイヤー達が現れました。


 これがワカバさんの言っていた復活なのでしょう。邪神による強化もされているようで、今度は簡単に殺すことはできないはずです。


 しかしながら、ツキトさんの表情は曇りません。


 彼は大鎌を構え、ニヤリと笑みを浮かべます。


「うざってぇな。……発動『キキョウの進軍』」


 スキルの発動と共に大鎌が振るわれました。


 振るわれた刃から全方向に斬撃が飛び、戦場を駆け抜けていきました。


 斬撃が当たったプレイヤー達は皆、まっぷたつになって死んでいきました。そのミンチになって死んでいく様子はまるで花が咲いていくようです。


 そして、斬撃が当たったのはプレイヤーだけではありません。


「ば……馬鹿な……! 冒険者風情が……ここまで強く……!?」


 邪神の身体には、袈裟懸けに大きなきずができていました。そこからは多量の血液が流れ出ております。


 その事実が邪神を動揺させたのでしょう。


 ツキトさんが間合いに邪神を納めるまで、彼女は身動きすることができませんでした。


「とった」


 刃が、邪神に振り下ろされました。


 元の身体がパスファだというのに、その攻撃には一切の戸惑いはなく、真っ直ぐに首もとを狙っていました。


 この攻撃が決まれば女神陣営の勝利のはず……!?


「なんだと……?」


 次の瞬間。


 邪神の姿は消え、ツキトさんの攻撃が虚空を裂きました。


 それとほぼ同時に、彼のお腹からレイピアの剣先が生えてきます。


 ツキトさんがゆっくりと振り替えると、そこにはレイピアを握った邪神の姿があったのです。


「もう一度問おう。……この身体が女神のものだということ忘れたか? 冒険者ごときが、勝てるわけがなかろう!」


 そう言って、邪神は突き刺したレイピアを引き抜くと、目にも止まらぬ速度でツキトさんを串刺しにしていきます。


 その速さに彼は対応することができず、気が付いた時には黒い霧になって霧散してしまいました。


 肩から落ちた子猫先輩が見事な着地を披露します。


 …………え?


 ちょ、ちょっと!? なんで死んじゃってるんですか!? 貴方、最強のプレイヤーじゃなかったんです!?

 あまりにもあっけなさ過ぎるでしょう!? 多分、子猫先輩もビックリしてますよ!?


「中々であったが……こんなものだろうな。お前もすぐに殺してやる」


 ツキトさんを突き殺し、いい気になった邪神が今度は子猫先輩に刃を向けました。……きゃ~! 逃げてぇ~子猫先輩~!


「ん? お前も、っていうのはどういう事? まるで、僕達が追い詰められているようじゃないか」


 私の祈りも虚しく、子猫先輩は余裕そうな様子で、その場から動こうとしません。これが強者の余裕という奴ですね。


「ふふふ……まだ虚勢を張るのか? ケダモノめ。その足らない頭で良く見ると良い、この軍勢が目に入らないか?」


 邪神が笑いながら手を高く上げると、先程ツキトさんが屠ったプレイヤー達が現れました。


 全員が正気を失っているようで、白眼を剥き、口から涎を流しながら息を荒げて興奮しているようです。

 子猫先輩なら大丈夫かもしれませんが……流石に数が多すぎます。


 魔法が使えず、敵は倒しても直ぐに復活し襲いかかってくる。更には邪神まで……。


 これは……詰みでは?


「そうだね。こっちの味方も減ってきているみたいだし、追い詰められていると思っても不思議じゃないかな? これは……仕方ないなぁ」


 子猫先輩はちょこんと座った状態から、まるで降参するように両方の前肢を上げました。


「それじゃあ、ちょっとだけ……」


 そして、文字通り子猫先輩の目の色が変わります。


 大きく見開いた猫の目は綺麗な緑へと変貌したのです。……まさかこれは……『嫉妬』のギフト!?


「本気で遊んであげようか!!」


 子猫先輩がそう言うと、その前肢から円環状に黒い波動が放たれました。


 それに触れたプレイヤー達は、まるで糸の切れた人形の様に地面に倒れ付していきます。……『嫉妬』の能力はHPとMPをすいとるエナジードレインの様な能力です。


 強い方が使うと、回復しながら相手を倒す事ができるそうですが……。


 ここまで強力なことってあります? 皆プルプル震えて動けなくなってますよ?


「な……なんだと!? ワタシの兵隊達が……!」


 一瞬にして無力化されたプレイヤー達に驚き、邪神が愕然とした表情を見せました。


 それとは逆に、ギフトによって完全に回復した子猫先輩は楽しそうに目を細めて笑っています。


「おや? どうしたんだい、そんな顔をして。まるで追い詰められているようじゃないか?」


 まるで挑発するような子猫先輩の態度に、邪神は怒りで顔を歪ませました。そして、レイピアを構えます。


「黙れ! そんな劣化した能力でワタシを殺すことができるものか! 串刺しにしてくれるわ……!」


 邪神の姿が、一瞬消えました。


 次にその姿が現れたのは、子猫先輩の背後です。


 超スピードによる攻撃。


 それに子猫先輩が反応した様子は無く。


 先程と何ら変わらない子猫の姿がそこにありました。



 そう。



 何も、かすり傷一つ無い、子猫の姿が。


「ば、馬鹿な……。なぜ生きている……」


 怒りに満ちていた邪神の顔は、今は真っ青になっていました。


 そして、ただ一点を怯えながら見つめていたのです。


 そこに居たのは……。




「何故? そんなもん決まってんだろ。最初から死んでいないだけさ。……勝ったと思ったか?」




 真っ黒なマントに身を包み、大鎌を携えたツキトさんでした。


 先程と違うのは、その肌は死人のように白く変化し、眼孔は真っ黒に染まっています。

 そして右手には、レイピアを握った切り取られた腕が握られていました。


 邪神の姿を確認すると、レイピアを持っていた腕が消滅しています。……まさか、あのスピードを見切り、攻撃を無力化したというのですか? そんな……。


 レベルが……違いすぎる……。


 それにあの状態、あれは確か『輪廻のカルリラ』の神技を使った状態のはずです。この間自称お兄ちゃんに見せて貰いました。


 鎌を装備していなければ使えないという制限がありますが、全てのスキルのなかで、最も強度の高いバフがつくスキルなのだとか。


 しかし、問題はそこではありません。




 何故、キキョウとカルリラ、二つの女神の神技を同時に使えるのですか?




 一度に信仰できる女神様は一人だけ。違う女神を信仰して祝福を得るためには、今まで信仰していた女神様の祝福を捨てなければなりません。


 その祝福には、神技も含まれているはず。


 ですので、彼がやったことは、普通はあり得ないのです。


「さて、パスファ様のお母様……ってことでいいんだよな? ……わりぃけどご退場願おうか? 子沢山のババァのきわどい姿なんて、金もらっても見たくねーんだよ。正直キッツい……わかるよな?」


 ツキトさんの姿が黒い霧に変化しました。


 それを確認して、邪神は動こうとしましたが……。




 それを許さないというように、その首に大鎌の刃が当てられました。少しでも動かせば、その首は切り落とされるでしょう。




 びたりと動きが止まった邪神の前に、黒い霧から姿を変えたツキトさんが立っていました。……あの状態なら、邪神よりも、女神よりも速く動けるというのですか? 嘘でしょ?


「そ、そんな。ワタシが、お前達程度の存在に……」


 絶望の色を浮かべた邪神に見えるように、ツキトさんはニヤリとした気味の悪い表情を浮かべます。


「負けるんだよ。そんな存在にな」


 最初から。


 この結末は決まっていたのでしょう。


 圧倒的に見えた戦局も、邪神の能力に翻弄されたように見えたのも、全てはツキトさんと子猫先輩の想定の範囲内。


 だからこそ、ここまで余裕を持って、神という存在に挑むことができているのです。


 最強のプレイヤー、ツキト。


 その肩書きは決して誇張されたわけでは無く、ただの事実だったのです。


 ……そして。


 最強と呼ばれている彼を、私は殺そうとしている。


 そんな事実に、私は身を震わせたのでした……。



・『カルリラの契約』

 カルリラ信者の最終奥義。その身に死神の力を宿し、大幅にステータスを向上させる。任意で身体を黒い霧に変化させることができ、物理攻撃を無効にすることができる。鎌か大鎌を装備していなければ使うことができないが、発動したら最後、使用者は全ての命を収穫するまで止まることはないだろう。

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