表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/172

ツキト

 『女神大戦』の終盤。


 ソールドアウト……当時は『ペットショップ』と言われていた彼等の前に立ち塞がったのは、『色欲』の邪神でした。


 『自由のパスファ』の身体を使い現界した邪神の姿は、およそ服とは言えない布切れで局所を隠したパスファそのままのものであり、妖精の羽は蝙蝠を思わせるような悪魔の羽に変化しています。


 悪魔の様な尻尾も生えている事から、『色欲』の邪神のモデルがサキュバスであることは想像に難しくはありません。


 変わり果てた彼女の前に、二人の女神が立ちました。


 フェルシーとグレーシーです。


 覚悟を決めた二人の顔を値踏みするように見ると、《パスファ》は満足げな顔をして口を開きました。


「我が娘達よ。大きくなったな。特に獣人のお前、……まるでワタシが生きていた時とそっくりではないか。身体を乗っ取るのならお前にすればよかったなぁ……ふふふ」


 そうやって、含み笑いをする邪神に対し、フェルシーが声を上げます。


「黙れ! 我らが母は……リリア様だけだ! お前などに母親面される言われなどない! パスファの中から消え去るがいい! この淫売めが!」


 フェルシーの顔は怒りに染まっていました。今にも襲いかかりそうな剣幕です。……格好がバニースーツでなければ、とても真面目なシーンだったんですがね。


 いつもの様子とはまったく違うフェルシーに続き、グレーシーも叫びました。


「パスファ! 目を覚ますのじゃ! そんな奴に乗っ取られてどうするのじゃ!? お前は『自由のパスファ』……しがらみにとらわれてどうする! 目を覚ませ! お願いじゃ!」


 話の流れから察するに、この三女神は姉妹であり、『色欲』の邪神から生まれた存在なのでしょう。


 姉妹を助けたいという思いが、画面越しからでもひしひしと伝わってきます。


 そんな二人の様子を見て、『色欲』の邪神は高笑いを上げました。


「あははははははははははは!! 遊びで産んだお前達が姉妹ゴッコをするとは! 面白い事もあったものだ! 元は男達の玩具にするつもりだったのに、そこまで知恵をつけるとは! 中々の見世物ではないか! ……来るがいい!」


 そう言って、邪神がパチンと指を鳴らすと、彼女の後方に数えきれないほどの人間とモンスターが現れました。……どうやら、全員プレイヤーのようですね。


 彼等は女神達を裏切ったのでしょう。


「冒険者を味方につけたか……!」


 自分達の味方だと思っていたプレイヤーを奪われ、フェルシーは奥歯を噛み締めるように顔を歪めます。


「簡単な交渉だったぞ? 『ワタシに協力し、勝利した暁にはお前達に女神達を使わせてやろう』……そう囁いただけでこれ程の者が集まったわ! はははははは!」


 最低です。


 そんな確証も持てない発言を信じてしまうなんて、彼等の欲望の大きさには私も脱帽です。人間として恥ずかしくないんですかね?


 けれども、そんな甘い囁きを撥ね付けた方々も当然いたわけでして。


 フェルシーとグレーシーの後方にもプレイヤー達の姿がありました。……人数としては、こちらの方が若干少ないようにも見えます。


 しかし、先陣で武器を構えている方々を見ると……これは過剰戦力ですね。寝返った方々が勝利を掴む未来が見えません。


 先頭に立っていたのは人間モードの子猫先輩でした。


 そのすぐ側にツキトさんと、既にウィンドウを表示したチップちゃんの姿があります。

 左翼には、チャイムさんが現『ノラ』のメンバーを整列させ待機させており、右翼にはタビノスケさんが親衛隊を集結させておりました。


 彼等の上空では、翼を生やしたケルティさんが飛んでおり、飛行装置をつけた大量のロボット……たしか『アーマーズ』という兵器が攻撃準備を整えています。


「そちらも準備は良いようだな? それでは始めよう……お互いの身体を貪りつくす為に!」


 女神達の姿がそれぞれの陣営の後方に移動したと同時に、両軍が激突しました。


 味方陣地の両翼から一斉に、チャイムさんとタビノスケさんが部隊を率いて突撃します。


「うりゃうりゃうりゃ~! 雑魚は引っ込むでござるよ! ん……にゃぁあああああああああああ!!」


 タビノスケさんが奇声を発しながら巨大化しました。『憤怒』のギフトでしょう。

 彼はそのまま巨大化した大きな目から怪光線を発射し、敵全体を照らしました。


 すると、敵陣に大きな乱れが生じます。


 動きがピタリと止まると、いきなり同士討ちを始めました。武器を持っているものは力の限り振り回し、モンスターの姿をしたものは狂ったように味方に噛りついていました。……タビノスケさんの全体狂気付与の能力です。


 あまりにも強すぎるので、クラン戦では使わないよう協定を結んだとは聞いていましたがこれほど効果的だとは……。


「狂気が入ったぞ! このまま殲滅する! ついてこい!」


 チャイムさんはそう言いながら、敵陣の中心に向かって走り出しました。

 同士討ちをしている敵を切りつけながら進む彼に追い付こうと、後続の隊員達も戦闘をしながら前に出ます。


 しかし、彼等が両翼から突出したことにより、女神陣営の真正面の守りが甘くなりました。


 その隙を狙ったかのように、飛び出してきた影がありました。運良く狂気付与から抜け出せたのでしょう……って、あれは!?


「よぉぉぉぉぉ!! ツキトぉぉぉぉぉ!! 殺してやんよぉ!!」


「ワカバぁ! またお前かよ! いい加減にしろやぁ!」


 ワカバさん!?


 飛び出してきたワカバさんは、遠くから子猫先輩に向かって腕を突きだします。そこに割って入るようにツキトさんが前に出ました。


 ツキトさんは手にした大鎌をその場で振り回し、虚空を切り裂きます。……何してるんですかね?


「げっ!? 『紅糸』を切りやがった! お前そんなのできんのかよ! 相変わらずぶっ壊れてんなぁ!」


 どうやらワカバさんの『プレゼント』を大鎌で切り捨てた動作だったようです。自慢の能力を防がれて、ワカバさんはとても嬉しそうでした。


「うっせーな! というかお前! ワカバ! ちゃっかり邪神の味方してんじゃねーよ! パスファ様はお前の守備範囲外だろうが! え? なに? あれくらいならロリコン的にオッケーなの?  イケるの?」


 ツキトさんはワカバさんを指差し、声を荒げます。……この人、戦闘中になんの話をしているんですかね? そこはなんで裏切ったかを聞くべきでは?


「あ? あれはババァだろ、ピクリともしねぇ」


 そしてワカバさんも、なに当然のように答えてるんですかね?


「だったらなんでそっち居んのよ? 普通に俺達の味方しろよな。お前が抜けたせいで、ロリコン達がそっち行っちまったろうが」


 ツキトさんとしては、頭数が減ってしまったのが気にくわないそうです。


 そんな無駄話している間に、敵陣ではミサイルの雨が降ったり、タビノスケさんが怪獣の如く大暴れしているんですが……。


 お二人には関係ないみたいです。駄目だこりゃ。


「いやよ、ロリコン代表としてお前にもの申したい事があってなぁ。今回は敵になってみた、他の奴等も一緒さ」


 ワカバさんの言葉を合図にしたように、数名のプレイヤーが飛び出してきました。皆、表情に怒りを浮かべています。


「死神ぃ……てめぇ……」


「ロリコンは罪とか言ってた癖によぉ……」


「殺す、絶対に殺す、なにがなんでも殺す」


 皆様覚悟がキマっていらっしゃるようです。……いったい何したんですかね? ツキトさん。


 ロリコンにここまで怨まれるとなると、相当な事をやらかしたのでしょう。……そういえば、ツキトさんは女神様を仲間にしているとか聞いた覚えがありますね。


 噂では女神様全員がパーティメンバーになっているらしいので、当然そこにはリリア様も含まれるのでしょう。


 つまりロリコンの嫉妬ということですか、ホントにどうしようもない方々……。




「「「魔王ちゃんに手ぇ出しやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! このロリコンがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」




 …………。


 え? なにそれ? え?


「は? ……い、いや、待て。俺と先輩の付き合いはそう言った不純なものじゃねぇんだよ、清らかなお付き合いというかね? そんな感じ、うん。少なくともエッチではないかな?」


 ロリコン達の気迫に押され、ツキトさんは慌てた表情を見せました。


 先程の様子はどこへやら、額には汗をかき、視点が定まっておりません。明らかに動揺しております。……え、というかその反応ホントにそういう関係なのですか!? 子猫先輩騙されてますよ!


「嘘付けやぁ! 最近、魔王ちゃんのお前をみる目が違うんだよ! ぜってぇなんかしたろコラ!?」


「何したぁ! 純粋無垢の魔王ちゃんに何を教えたぁ!? ことによっては再起不能にしてやるよぉ!」


「やったのか……? やったんかぁ!! ……とりあえず詳しく」


 一人冷静になってる!?


 そんな感じのロリコンさん達を見て、ワカバさんが楽しそうに笑います。


「カカカ! まぁ、こういうことさ。おれとしては、二人を祝福してやろうかと思ったんだけどな、コイツらが言うこと聞かないんだよ~、な~」


 ニヤニヤとした態度にイラッとしたのか、ツキトさんが動きました。


 殺す、と、小さく呟くと、一回の跳躍で一気にワカバさんまで距離を縮めます。


 その重心は低く、すぐにでも大鎌で切り付けてきそうな様子でした。


 そして、次に地面を蹴った時には、既に大鎌が振るわれており、刃がワカバさんの喉元に迫ります。


 ワカバさんは持ち前の身体の小ささを活かし直撃を避けましたが、その左腕は地面に転がっていました。


 後方で騒いでいたロリコン達は、大鎌の挙動を目で追うことができなかったのか、一降りで全員がミンチになっています。……まるでステップを踏むように大鎌を使っていますね。使いづらい武器で良くやるものです。


 真正面から突っ込んだと思った瞬間に横に逸れて、想像とは違う角度から攻撃をしてくるので避けづらいのでしょうね。


 大鎌は大振りかつ、有効な範囲が少ない武器です。しかしながら、普通の武器とは違う挙動に、対応できない方も多い事は間違いありません。


 けれども……あの戦い方……動き……。


 これは思ったよりも簡単かも知れませんね……。なんだ、あるじゃないですか、弱点。


 私は、ロリコンに続いて、回りのプレイヤーも切り捨てていくツキトさんを見ながら、そんな事を考えていました。


 ツキトさんはあらかた周囲の敵を屠ると、ボダボダと血を流しているワカバさんに向き直ります。


「お? 殺すか? ちょっとはやりあえるかと思ったんだけどな、腕持ってかれたらそれも難しくなっちまったよ」


 ワカバさんはニタニタとした笑みを浮かべていました。……まるで奥の手があるぞと言っているようですね。気味が悪い。


「っち、やんねーよ。……それで? 敵の勢力は?」


 ツキトさんは舌打ちしながら口を開くと、アイテムボックスからポーションを取り出し、ワカバさんに差し出しました。

 肉体を再生させる、リジェネレーションのポーションです。


 ワカバさんは受けとったばかりのそれを一口で飲み干し、お礼を言いました。


「ごちそうさん。……死んだら邪神のすぐ近くに復活できるみたいだな。しかも復活する度にバフがついて来るおまけ付きだ。さっさと邪神本体を殺さないと、じり貧で負けるだろうな」


 ワカバさんはそう言って笑っていました。……しれっと裏切りましたね。いえ、この場合、最初から敵情を確認するために動いていたとみた方が正しいかもしれません。


「そうか、わかった」


 ツキトさんはそう言うと、子猫先輩の元に戻ります。


「お帰りなさい、ツキトくん。作戦は決まった? なんか急に攻撃の勢いが落ちてきたみたいでね、タビくんとチャイムが助けを求めてたよ?」


 子猫先輩は楽しそうにそう言うと、子猫の姿に戻り、ツキトさんの肩にかけ上りました。


「ツキト、そろそろこっちの戦力がヤバい。あっちの人員で強いのはそんな居ないけど、徐々に押されてきてる。タビノスケの狂気も抜けてきているみたいだ」


 ウィンドウを確認しながらチップちゃんが現状を報告しました。


「了っ解。つまりは、どうにもこうにも邪神を直接叩かなきゃいけないってこったな。じゃあ簡単だ。……行けますか? 先輩?」


 ツキトさんはそう言って、肩に乗っている子猫先輩の身体を優しく撫で上げました。

 子猫先輩もそれに答えるように、彼の頬に顔を押し付けています。……あら~、イチャイチャしちゃって~、も~。


「という訳で、チップ。ちょっと行ってくるわ。邪神のところまで飛ばせるか?」


 その問いに、チップちゃんはコクりと頷きました。


「当たり前だろ? ……こっちの指揮と、援護は任せてくれ。二人は邪神を頼む」


 ツキトさんがコクりと頷くと、チップちゃんはウィンドウを操作し始めます。チップちゃんの能力で、邪神の側までワープさせるつもりなのでしょう。


「……よし! 移動するぞ! 行ってこい!」


 画面が大きく変わります。


 次に映し出されたのは、邪神の真上に姿を表したツキトさんと子猫先輩の姿。

 そしてそれを不敵な笑顔で見上げる色欲の《パスファ》。……さぁ、見せてもらいましょう。


 最強の邪神と、最強のプレイヤー。




 その戦いを。







 ところで……、ツキトさんと子猫先輩はどういう関係なんですかねぇ……?



・色欲の《パスファ》

 黒歴史です。ノーコメント。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ