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狐さんの修行旅!~え?やっとで始まるんです?~

 動物の毛皮というものは、意外とゴワついているものです。思ったよりも硬いんですね。


 けれども、ちゃんとお手入れすると柔らかくなります。食生活を変えても効果があるのだとか。


 私としましても、髪や尻尾がボサボサのまま出歩くのはゲームの中とは言え、恥ずかしい事です。

 ですので、常日頃から適切なお手入れはしているのですが……。




 ぼふん。




 ……温泉に入った後、ちゃんと乾かしたら毛皮のボリュームが凄いことになってしまいました。過去最高のもふもふ具合です。

 触ろうとすると、手首より先が毛皮に埋まってしまう位のモフみ。これにはメレーナさんも思わずニッコリ。


「この前よりも具合が良いじゃないか。このまま道場に向かいな、ワカバの奴とは顔を合わせたくないからねぇ……」


 尻尾の中からメレーナさんの声が聞こえてきました。……やっぱりお好きなんですねぇ。変な事している自覚はありますか?


「こんなにもふもふしているアンタが悪い。罪な獣だよぉ……にへへへ……」


 はぁ、それはどうも?


 尻尾の感触を全身で味わっているメレーナさんに呆れながら、私は道場へと向かうのでした……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 さて、温泉から宿泊施設、食堂を横目にみながら廊下を進んでいくと、『訓練道場』というプレートがかかっている扉が現れました。


 何の疑問も無くその扉を開けると、そこには板張りの広い空間が広がっていたのです。……道場というよりかは、体育館と言った方が近いですね。訓練だけでなく、スポーツをしている方もいますし。


 にしても、かなり広いです。サッカーのフィールドぐらいあるんじゃ無いですか?


「クラン戦ができるくらいの大きさだからねぇ。あ、右奥の部屋に入っておくれよ。トレーニングルームを一室貸し切ってるから」


 さっすがメレーナさん、貸し切りとか太っ腹ぁ。思う存分、もふって頂いて結構ですよ?


 私は尻尾を振りながら媚びを売りました。


「ちょ、動かすんじゃないよ! 揺れるだろうが! ……とにかく、さっさと部屋に入いるよ。鍵は持っているから」


 はーい、と返事をして、私は体育館の奥に進んでいきます。

 他の方の修行の邪魔をしないように壁際をトコトコと歩いていきました。……どうやら、まだワカバさん達は来ていないみたいですね。


 もう既にマッサージは終わっているはずなのでしょうが、いったい何をしているのでしょうか? まさか、いきなり問題を起こして追放された訳では無いでしょうけれど……。


「どうかしたのかい?」


 そんな様子を感ずかれたのか、尻尾からメレーナさんが顔を出して、こちらを見ていました。


 いえ、何でもありません。


 一緒に来た方々が見えなかったので、不思議に思っていただけですから。

 気にはなりますが、心配することでもないと思っております。


「……そうなのかい? 問題しか無いような気がするけどねぇ?」


 気のせい、ということにしておきましょう。私達には関係の無いお話です。

 そんなことよりも、早く鍵を開けて下さいな。早くレベル上げをしたくてうずうずしているところです。


 私は『特別訓練室:M』という部屋の前に立ってメレーナさんを急かしました。


「それって現実逃避じゃないかい? ……まぁ、いいんだけどねぇ。気持ちはわからなくもないしぃ、っと」


 メレーナさんは私の尻尾の中から飛び出しました。その腕の中には鍵が抱き締められております。


 彼女はひゅいっと風を切りながら飛んで、ドアノブに鍵を差し入れました。そして、身体全身を使ってガチャリと鍵を回します。


「はい、開いたよ。ちょっと狭いのは我慢しておくれ」


 そう言いながら、メレーナさんは私の肩に座りました。……ご自分の大きさを知らないでいってます? それ?


 メレーナさんの冗談はさておき、やっとで修行を始めることができます。ここまで来るのに大変苦労しました。主に変態の方々のせいで。


 しかしながら、それもここに来るまでの試練だったのでしょう。

 それを乗り越えた私は今、成長する大きなチャンスを手に入れることができました。


 今こそ、頂点に向かって羽ばたく時です。


 そんな希望を胸に、私は扉を開け放ちます。


 訓練室の中はひどく汚れており、天井からは縄が垂れていました。その先には大きな物が入った、血の滴る長方形のズタ袋が━━。


 バタン。


 私は扉を閉めました。……何ですかね、アレ?


 一度深呼吸をして、この部屋の名前を確認します。


 恐らくは拷問部屋とかでしょう。うっかり間違えてしまったみたいですね。ちゃんと確認をしなければ……。


 私はちらっと目線を動かし、部屋のネームプレートを確認します。


 『特別訓練室:M』


 間違いでは無かったようです。


「どうしたんだい? さっさと中に入りなよ、修行したいんだろう?」


 それはそうなんですけどね!?


 さも、先程の光景が当たり前だと言うようなメレーナさんの態度に、ついつい口調が強くなっしまいます。


 いったい何なんですか! さっきの部屋の様子は!? 明らかに、なにか違う事件が起きていましたよ!?

 これ以上、私をおかしな事に巻き込まないで欲しいのですがねぇ! ……って、いただだだだだぁ!?


 肩に座っているメレーナさんが私の頬を掴んで引っ張ってきました。いたぁい。


「うるさいねぇ、良いんだよ。吊るされている本人が望んでああなってんだから。思う存分痛み付けてやりゃあ良いのさ……てかアンタの頬っぺ柔らか! ? めちゃ伸びる!?  すご!」


 私の柔らかほっぺにメレーナさんは感動を覚えたようです。いや、痛いですから!


 うぅ~……、仕方ないですねぇ……。


 私は渋々と、もう一度扉を開けました。


 恐る恐る中を覗くと、吊るされたズタ袋が蠢いていました。そして、耳をすましてみると、女性の小さな声が聞こえて来ます。……え? 何ですか? 何を伝えたいのです?


 ズタ袋に近付き、私はなんと言っているのかを確認します。そーっと、そーっとぉ……。




「……シテ……コ……シテ……コロシテクレ……」




 ホラーだこれぇ!?


 私は叫び声を上げました。


 明らかに自ら望んでこの状況になった訳じゃ無いですよね!?  誰かに追い詰められた結果じゃないですか! やっべぇんですが!?


「気にすんじゃないよ、ただのロールプレイだ。こんな奴はこうやって蹴り飛ばしてやればいいのさ。……こんな風にねぇ!」


 メレーナさんは打ち出された様に肩から飛び出しました。そして、ズタ袋に入っている女性のお腹辺りに向かって激突します。


「ひゅぐぅん……!?」


 すると、袋の中からうめき声が漏れました。……何処と無く嬉しそうな感じだったのは気のせいです。


「まだまだぁ!」


「かひゅっ……! ぁう! いぅぅっん!?」


 その後もメレーナさんによるジャブのラッシュや高速の体当たりは続きました。その度に、中身さんはビクビクと跳ねながら、嬉しそうな声を漏らしています。気のせいでは無いようです。


 ……。


 あ、『特別訓練室:M』ってそういう……。


「どうだい! こうやって痛め付けられるのがいいんだろう? なんか言ったらどうだい! 楽しいだろう!? 嬉しいんだろう!? ……嬉しいって言え! この豚ぁ!」


 攻撃を繰り返していくうちに、彼女は楽しくなってきたのかSっ気が混ざってきました。……いやいや、メレーナさん。


 流石に言い過ぎですよ。


 中身の人の性癖がどうであれ、そこまでは言うのはやりすぎです。せっかく修行に付き合ってもらうのに、そんな事を言って機嫌を悪くされたら元も子も無いんですから。ここはもう少し冷静に……。


「はぃ……楽しくてぇ……嬉しい……です……」


 ……うっわ。


 私が助けようとしたズタ袋の中の人は、相当気持ちの悪い趣味をお持ちの様でした。


 よく聞くと、袋の中からは上気した息づかいが聞こえて来て、興奮していることが伝わってきます。

 口があると思われる場所からは、涎と思わしき液体も垂れていました。……気持ち悪、死ねば良いのに。


「んぅ!? い、今のは!? 今の見下されるような感じは……悪くない……! いやっ! いいっ!」


 うわ~、本格的にきもいですぅ~。


 やはりといってはなんですが、M体質の方は精神的に無敵のようです。痛みを力に変えられるというのは、素晴らしいことですね。


 それはそれとして。


 本気で目の前のウジ虫さんは気持ち悪いです。イラッとしたので、ここで殺してあげましょう。


 私は黒籠手を発動させ、鞭を作り出します。そして、使用感を確かめるように、地面をピシャリと打ちました。


「今の音は……鞭か! そ、そんな物で私は屈しないぞっ! どんな責め苦にも耐えきって見せよう! ハァ……ハァ……!」


 ……あ~、なるほど。


 この修行方法がわかりましたよ。


 要するに、このクソドMなウジ虫を、あらゆる手で痛み付けて、経験値稼ぎをするのですね?

 win-winの関係ってやつですか。


 私が納得するようにそう言うと、ウジ虫さんはむくりと身体を起き上がらせ、私に向かって口を開きます。


「そ、そんな嬉しい言葉を使わないでくれ……。そんなことを言われると、訓練じゃなくプレイになってしま……きゃん!」


 すぱしーん。


 私は、さっそく鞭を使ってウジ虫をしばきます。……誰が喋って良いと言ったのですか? 許可があるまで言葉を発してはいけませんよ? わかりましたか?


「は、はい……ぎゃうん!?」


 誰が口を利いていい言ったのですか! 黙りなさい! すぱしーん! すぱしーん!


 私はノリノリで鞭を振るいました。


「なんだい? ノリが良いじゃないか。訓練の主旨がわかっているみたいだし、中々良いねぇ。……それじゃあ、シバいてシバいてシバキ倒すよ。コイツの体力と私達の体力、どっちが勝つか……勝負だ!」


 メレーナさんはそう言って構えをとると、ウジ虫に攻撃を繰り出しました。私もそれに続きます。……了解しました。たっぷりと喜ばせてあげますよぉ!



 こうして、私達のSMプレイ……ではなく、修行が始まったのでした……。




・伸びる

 動物の皮膚はよく伸びる。試しに飼い犬のほっぺを詰まんで横に引っ張ってみよう。ちょっと楽しそうな顔をするぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  SMプレイww主人公からの性格からしてSっ気ありそうですもんねww前作も面白かったし今作も面白いので読んでで楽しくなる作品ですね。  私の中の主人公の内面がSに近いMって感じがしますね(/…
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