密室……女二人……何も起こらない訳は無く……
『クラブ・ケルティ』のロビーで少し待っていると、私にマッサージをしてくれる店員さんがやって来ました。
施術着を着た、白い毛並みのコボルトの女の子ですね。
同じコボルトのチャイムさんとは違ってちんまい感じで、可愛らしい見た目をしています。小型犬かな?
「こんにちわです! コボルトの『アンズ』と申します! 今日はよろしくです!」
こちらこそ~。よろしくお願いします~。
最初は警戒していましたが……杞憂だった様です。
ちゃんと挨拶してくる方に、おかしい方なんて滅多にいません。常識をわかっているという事ですね。
私がホッとしていると、アンズちゃんはこちらに見せるようにフリップを手に持ちました。
ザっと目を通すとコースの説明が書かれているようです。
「それでは、今回の1週間の修行コースについて説明させてもらうです。簡単な流れはマッサージを受けて成長率を回復、その後道場で修行してもらう……という感じです」
あ、ここで修行もできるのですか。というか道場があるんです? 結構本格的なトレーニング施設なんですね。
「その通りです! 『クラブ・ケルティ』と系列店の『ゴブリンの巣穴』は、プレイヤーの皆様に効率良く成長してもらう為に作られた、トレーニングの為のクランなのです! お帰りの際には自分の成長に驚く事でしょう!」
ほぉ。
流石はソールドアウトのクランですね。
プレイヤーの育成を目標にしているというのは、『ノラ』と変わりません。
知識面の受け持ちが『ノラ』、ゲームの平和維持の役目が『紳士隊』、そしてプレイヤーの強化が『クラブ・ケルティ』の仕事と言ったところでしょう。
一見ふざけている様に見えても、中身はしっかりとしているのですね。
「勿論です! ……っと、コースの説明に戻りますね? マッサージにつきましては、1日一回無料で受ける事ができるです。それ以上は有料になりますのでご注意下さいです」
まぁ、それはそうですよね。
マッサージをする人手も無いでしょうし、ちょっと成長率が下がったからと言って何回もマッサージを要求されたら、店員さんも困るに決まっています。
まぁ、その辺りは常識をわきまえていきましょう。常識は大事。
「道場や他の施設は基本的に無料で、何度使用しても構いません。汚したり、周りのお客様に迷惑をかけなければ結構です」
要するに、ムカついたプレイヤーが居ても殺すなということですね?
正当防衛に見せかけてコッソリと暗殺しろということですか……なるほど。
私は納得して数回頷きました。
「違うですよ!? 迷惑行為をされた、発見した際にはスタッフに声をかけてください! こちらで対処するです!」
どうやら違ったみたいで、アンズちゃんは慌てた様子を見せました。……え、このゲームって人殺しても問題無いのでは? 障害は自分の手で取り除くのがこのゲームの常識だとおもってました。
「問題しかないです! なんで殺して全てを解決できると思っているのですか!? 問題を起こしたら問答無用で追放ですからね!」
え~。絶対問題起こす人いるでしょう? なのに返り討ちにしちゃいけないのですか?
ワカバさんやワッペさんという問題しかない方も居ますからね。恐らく、一週間後に私達4人が揃って顔を合わせることは無いでしょう……。
「少しは問題を起こさない努力をしてくださいです! って、なんで説明だけでこんなに疲れるのですか……、お客さん元『ペットショップ』だったりします?」
いえ、違いますが?
「ナチュラルな殺人鬼でしたか……」
違いますよ?
私が否定すると、アンズちゃんは全てを諦めたような顔をしました。すいませんね、どうも。
「いえ、いいんです……。お客さんみたいな方は『ペットショップ』にはいっぱい居たですから……」
どうやら苦労してきたみたいです。……あ、ごめんなさい、問題起こさないようにしますから。
ああ、もう、そんな顔しないでください。
尻尾触ります? 癒されますよ?
「ううっ……もふらせてもらいます……」
尻尾を差し出すと、アンズちゃんはゆっくりと手を伸ばし、優しい手つきでもふもふしてきました。
……手慣れていますね。やはり同じケモノ属性を持つ方は良くわかっております。これなら好きにさせても問題ないでしょう。
さ、存分に癒されてくださいね~。
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存分にもふられた後、私とアンズちゃんは施術室にやってきました。
光源がランプのみの薄暗い個室で、ベッドがおいてありました。アロマを焚いているようで、部屋全体にいい香りが充満しています。
リラックスできる環境が整っている感じですね。ベットに寝っ転がって油断したら眠っちゃいそうです。……それで、アンズちゃん。聞きたいことがあるのですが良いですかね?
部屋で毛布を敷いたり、低い身長をカバーする台持ってきたりして準備をしているコボルトちゃんに質問すると、彼女はクルリと振り返りました。
「どうしました? もう準備は終わるですよ? あ、年齢設定は全年齢にしました?」
それはしているのですが……その……。
なんで、私達は水着になっているのですかねぇ……?
何故かこの部屋に入った瞬間に、私達の服装は水着になっていました。別にイヤらしい水着じゃないですし、他に人もいないので問題はないのですが。……いや、ありますね。私の装備は何処へ?
「これはですね、浴場に入ると服装が水着で固定される仕様を利用してるんです。ここでは武器や防具、スキルも効果がないのです。ウィンドウを見れば今でも装備してるのがわかるですよ」
言われた通りに確認してみると、確かに武具は装備されたままになっていました。
荒事を起こさせない為の措置でしょうね。
「ちゃんとしたお風呂もあるので、マッサージが終わったら入りに行くといいですよ。サウナもあるです。修行に飽きたら資料館やレストランとかもあるですよ?」
どうやら至れり尽くせりのようです。
なんか、既に来てよかった感じがしてきました。
この1週間はリフレッシュ期間ですね。最近は邪神やらロリコンやらに絡まれて疲れていましたから、ゆっくりさせてもらいましょう。
「日帰りでゆっくりする方もいますですよ~。……はい、準備できましたからベッドに乗ってうつ伏せになってくださいです」
私は言われた様にベッドに乗りました。枕に顔を乗せると、一気に眠くなった気がします。
「それでは始めていきます。少ししたら『気持ちいい事をしますか?』というメッセージが出るです。全年齢にしていれば問題は無いので、『はい』を選択してください」
ふぁ~い……。わかりましたぁ……。
私はまぶたを擦りながら答えます。
なんか凄い眠いんですよね……、このアロマのせいでしょうか?
徐々にまぶたも下がってきました。……それ、はいにしなくちゃできないんですか?
「できますですよ? けど、この設定にしないと誰かが入って来るかも知れないです。はいにすると、他の人は入って来れなくなるのです」
ふぇ~……しょうにゃのれすか~……。
私は大きくあくびをしながら答えます。……ね、眠い。
ゲーム中に寝ると、真っ暗な空間に移動して、フワフワ浮いている感じになるんですよね。『睡眠』という状態異常です。
身体は眠った場所にあって、身動きが取れなくなるそうです。
けど、アンズちゃんは私が寝ていても、何も変な事はしないでしょう。
「眠かったら寝ちゃっても大丈夫ですよ? きっと目が覚めた時には身体がスッキリしているはずです」
どうやら問題は無いようです。
それじゃあ眠っちゃいましょうか。凄い心地良いですしね。起きたらお風呂に行ってみましょう……。
サウナも気になりますけど、修行もしなくちゃですし……。
けどレストランも……。
いろいろと考えていると、遠くからアンズちゃんの声が聞こえてきました。しかし、もう眠気も限界です。寝ます。
「それ……あ始め……くで……ね? ……え? ケ……お姉……? すい……ん、ちょ……待ち……いで……」
……。
Zzz……。
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んむぅ……。
私が目を覚ますとまだ施術中だった様で、背中をマッサージされている感触がありました。
痛さと気持ちよさの絶妙なラインを攻めて来ますね。ついつい口から声が漏れてしまいます。
こゃ~ん。こゃ~ん。
「あれ? 起きちゃった? そのまま眠っててもよかったのに……」
ぞくり。
その聞き覚えのある声に、私は寒気が走りました。
そして、感触がおかしい事に気付きます。
アンズちゃんの手は肉球付のもふもふです。先程沢山もふられたのでわかります。
しかし、今私の身体を触っているのは……。
普通の、人の手です。
「獣人の娘は、尻尾と耳の付け根がこってるんだよね~……。そこを優しくマッサージしてあげると凄い悦ぶんだよぉ……?」
そ、そんな。
私のマッサージはアンズちゃんがしてくれているはず……しかし、この声は間違いなく……。
私は覚悟を決めてゆっくりと振り返りました。
そこにいたのは……。
「尻尾と耳は敏感だから、気持ちいいんだよね? ところで、今ならまだRー18設定に変えられるけど……ちょっと素敵な夢を見ていかない?」
すごく楽しそうな顔をした、銀髪のエルフさん……ケルティさんがいたのでした。……きゃあああああああああああああああああああああああ!!?
その姿を見た私は、絶叫しながらベッドから転がり落ちてしまったのでした……。
・施設
プレイヤーの所有している施設はウィンドウを使い細部を指定できる。闘技場や浴場等。闘技場は経験値が入らないが死んでも即時復活、デスペナ無しの施設。浴場は戦闘不能で強制的に水着になってしまう。




