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狐さんの修行旅!~クラン『クラブ・ケルティ』~

 ズル……ズル……。


 重くなった3本の刃の尻尾を引きずりながら、私は目的地であるシファフルの目の前までやって来ました。


 見た目は綺麗な街ですね。湖のほとりに作られたているようで、観光客の姿がちらほらと見えます。……修行の合間に観光してみても良いかもしれません。


「ポロラ~……。悪かったって言ってんじゃんよ~。出してくれって~」


 っち。


 尻尾の中に閉じ込められたワッペさんが何やら言っていますが……知りませんね。

 大人しく延々と、チクチクされていればいいのです。


「ワッペ君。この状態、攻撃判定が出ています。修行の一環だと思いなさい。回復魔法をかけてあげましょう……」


 そう言ってシバルさんは範囲回復の魔法を使いました。……この人に関しては本気でそう思ってそうですね。その気になったら自力で出てこれそうですし。


「クソ、攻撃を受けている間は『プレゼント』効果が半減以下になってるな……。『紅糸』で強化されるステータスがかなり減っている……おい、狐。検証してやるからこっから出せ」


 誰が逃がすものですか。


 ワカバさんの拘束は他の二人よりもかなり厳重です。わかりやすく言いますと、内側が剣山の様になっている鉄箱の中に閉じ込めている感じです。


 継ぎ目からは血が垂れ流れておりました。


 ……悪いですが、ケルティさんのお店に着くまでその状態で引きずらせてもらいます。


 そして、私の代わりにレズエルフの生け贄になってもらいます。私の事を恨みながら快楽に溺れてしまいなさい……。


「だから健全なマッサージ店だって……、つーかHPを徐々に削るの止めろ! ウザったいんだよ!」


 ドガドガとワカバさんは尻尾の中で暴れますが……絶対に逃がしません。壊れた部分は即座に修復、泣いても許してあげません。


 さ、早くお店に行きましょうか。


 いったいどうなってしまうのか……見物ですねぇ。


 私はニコニコとしながら、シファフルの街を訪ねるのでした……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 『クラブ・ケルティ』。


 街に入ってから少しするとその看板が見えたので、探すのに時間はかかりませんでした。


 そして、約束通り尻尾の中の3名をお店の前で解放してあげます。……はい、着きましたよ。これからどうするのですか?


 血塗(ちまみ)れで立ち上がる三名はどこか疲れた顔をしておりました。


「相変わらず頭イカれてるよな……お前……」


 ふらふらと立ち上がったワッペさんが自殺志願をしてきました。

 しかし、せっかくここまで連れて来たのに殺してしまうのはどこか勿体ない気がします。見逃してあげましょう。


「中々有意義な時間でありましたな。攻撃を受けていたお陰で、ステータスも上がっております」


 それはどうも。


 面白がって止めなかったのを後悔してほしかったんですけどね。喜んでもらうつもりは微塵も……!?


 尻尾の中から出てきたシバルさんの姿を見て、私は絶句して手で顔を覆います。


 な、なんで裸なんですか!? 私の『プレゼント』には服を剥ぐ効果なんてありませんよ!?


 ……そう、シバルさんの上半身は裸になっていたのです。しかも彫刻の様なガチガチの筋肉をしていました。

 その様子を私は指の間から見ています。


「何故、裸かと? ……脱いだからですが?」


 私の質問にシバルさんはキメ顔をして答えます。……脱ぐなぁ!


 街中で裸になるとはどういう事ですか! 少しは恥じらいというものを持ってください! 女の子だっているんですよ! びょおおおおおおお!


 私の反応にシバルさんは、ふふっと笑いながら口を開きます。


「このシバル、何も恥ずかしい事なんてありません……。どうぞ、気の済むまでご覧下さい……」


 見ませんよ! 変態!


 どうやらシバルさんは露出癖があるみたいです。……も~、一瞬でもまともな方だと思った私が間違いでしたよ。あんなに誇らしげに変態行為に走るとかどうかしています。今はポーズとってますし。


 でも、良い身体してますね……っは!?


 指の間からシバルさんを見ていた私の事を、ワカバさんは冷めた目で見ていました。

 幼女にそんな目線で見られると、とたんに冷静になりますね。なにしてるんでしょ、私……。


「おら、アホやって無いでさっさと入るぞ。……じゃ、おれとポロラはこっち行くから、お前らはそっちな。男女で違うからよ」


 あ、はい……。


 ……あれ? 一緒じゃないんですか?

 確かに女性専用って話でしたけど、姿を変えれば入れるんじゃないですか? 一瞬だけネカマになれば良いのでは?


「なんか男でも女でも入れる所があるらしいぜ? 俺達はそっちに行くって話だ。なんか隣の店らしいけどよ……」


 ワッペさんは私の質問に答えながら、『クラブ・ケルティ』の隣の建物に目を向けました。

 私もそれにつられて、看板に記載された店名を確認します。




 『ゴブリンの巣穴~筋肉大歓ゲイ~』




 ……なるほど、そう来ましたか。


「俺……帰るわ……」


 ワッペさんは顔を真っ青にして逃げ出そうとします。しかし……。


「どこに行こうと……言うのですか?」


 シバルさんに捕まってしまいました。


 ワッペさんは叫び声をあげながら剣を抜き、シバルさんに襲いかかります。


 しかし、二人のレベル差は圧倒的であり、ワッペさんの攻撃はシバルさんが誇る鋼の肉体にダメージを与えられていません。


「安心なさい。ただのマッサージ店ですよ。店長のゴブリン君が行うマッサージはプロの腕前です。……きっと気に入る事でしょう」


「は? まじでゴブリン!? ちょ、ポロラ! 頼む、助けてくれぇ!!」


 はーい、お幸せにぃ……。


 連れ去られるワッペさんを見送りながら、手を振りました。無事に帰って来れると良いですね。


「そうだな……」


 ワカバさんも思うところがあったようで、どこか悲しげな顔をしていました。

 どうなってしまうのか、きっとワカバさんは知っているのでしょう……。



 ああ……、去らばワッペさん。



 また会う日まで……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 という事で、『クラブ・ケルティ』に入店しました。


 今はロビーに居りますが、一見おかしな所はありませんね。壁に書いてあるマッサージのコース料金も普通ですし、内容もエッチな事を想起させることは一切書いてありませんでした。


 ……本当にただのマッサージのお店みたいですね。


 ワカバさんが言うには、これから受付をしてコースを決めるそうなのですが……。


「1週間修行コース。二人分だ。コイツの相手は誰でも良い、おれには幼女を頼む」


 どうやら……頭がおかしいのは、こっちだったみたいですね。


「お客様、当店はそういうお店ではありません。それと、アナタはネカマじゃありませんか。当店はネカマのお客様には同じネカマの方がお相手しますので……」


 ロビーのお姉さんは慣れた様子でワカバさんをいなします。……そういうことらしいですから、諦めましょうよ。


 普通にいきましょう? 普通に……。


「いるんじゃねぇか。どうせ見た目はロリなんだろ? そいつにおれの相手をさせろ」


 どうやらネカマでも構わないようでした。いったい何をする気なのでしょうか? ちょっと怖いです。


「え……、は、はい……。それじゃあイブさんをお呼びします……」


 受付さんは戸惑いながらイブさんというスタッフさんを呼びました。


 少しすると、施術着を着た幼女が出てきました。黒髪ぱっつんの姫カットで、中の人の趣味が透けて見えるようです。


「……成る程、お前がおれの相手をしてくれるのか、楽しみだな」


 その姿を見てワカバさんは楽しそうに目を細めます。


「へ~……随分有名なネカマが来ちゃったね~。いいよ~、アチシが全力で相手してあげる~。トロットロになって~、心までメスになる覚悟はいいかな~?」


「ふん……何を面白い事を言っているんだ? おれはロリコンだぞ? メスになってどうする? ……お前がメスになるんだよ」


「……っ!」


 二人は少しの間見つめ合うと、静かに奥の方に去って行きました。……え? なんですか今のやり取り? 私の理解できない次元で争いが始まってしまったのですが?


「お客様? お客様はどうしますか? お連れの方は1週間の修行コースでしたが……」


 唖然としていた私に、受付さんは遠慮がちにそう聞いて来ました。……あ、はい。私もそれで。そういえばチケットがあるんですけど使えます?


 え? 1週間コースはサービスの適用外? 融通の効かない居酒屋さんみたいですね……。




 こうして、クラン『クラブ・ケルティ』における、私達の修行が始まったのでした。




 けれども、私は気付かなかったのです。


 お店自体は健全であっても……。


 レズエルフさんは……とても不健全な方だということに。



・シファフル

 湖のほとりに作られた小さな街。漁業が盛んであり、湖には漁の為のボートが浮かんでいる。周りのモンスターも大人しく、生産を生業にするプレイヤーにとって理想的な街と言えるだろう。

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