昇華
嫌ですぅ~! レズエルフの毒牙にかかるくらいなら、いっそのこと死んだ方がましですぅ~!
ワカバさんの能力によって拘束された私は、担がれながら抗議をしておりました。ただいまシファフルに向け街道を前進中です。
これから向かうという『クラブ・ケルティ』は女性プレイヤー向けのマッサージ店という話でした。
しかし、オーナーであるケルティさんは女性に興味があるそうで……。
この前の会議の時には無料チケットまでもらっています……。このまま向かってしまえば性的な意味で頂かれるのは明白でした。
言ってしまえば貞操の危機です。……その辺りわかっているんですか!? ワカバさんだってエッチな事をされるかも知れないんですよ!? びょおおおおおおお!!
「威嚇すんなよ。まぁ安心しろ、レズエルフの店は全年齢設定にしないと入れない決まりになっている。お前が考えているようなことは起きない」
ホントです……?
このゲーム、フルダイブ型のVRゲームであり、かなりのリアリティがあります。
そして、なんでもできるをウリにしている以上、避けられないものがありまして……その……。
性的な事をです……。
私はしたことも見たこともありませんが、ゲーム内でもできてしまうらしいんですよ。プレイヤー同士でもNPC相手でも、そういうことが。
ちなみに、同性同士でシても子供ができるそうです。恐ろしいお話ですね。
で、もちろんそんな仕様だと、餓えた狼のような方々が出てくるわけです。当然と言えば当然だと思います。皆そう思います。
そこで、開発者の方々は『全年齢モード』というのを設定に用意したのです。
このモードにしている限り、エッチな事……Rー18になりそうな行為はすることができなくなります。服を脱いでも身体に光が入って全身は見えなかったり、襲いかかろうとしてもシステムによって止められたり。
つまり、一部の変態の方を除き、このゲームは健全な物となっていました。……いや、どっちかと言うとRー18Gって感じです。わりとグロい。
ワカバさんの言うことが確かなら、それはそれで安心なのですが……。
結局のところ、私の尻尾が犠牲になる気がするのですけど、その辺りはどうなんですかね?
「……」
ワカバさんは黙ってしまいました。……ちょっとぉ!? そこで黙るのは止めなさいな! 不安が増える一方ですよ!
「ギャハハハ! ポロラよぉ! いいザマだな! オメェ普段好き勝手やってんだからよ、たまにはメタクソにやられちまえ!」
貴方は黙りなさいな! このウジ虫がぁ!
下品な笑い方をしながらワッペさんが煽って来ました。どうやら前に殺された事を忘れてしまった様ですね。再教育をしてあげましょう。……動けるようになったらねぇ!
未だにワカバさんの能力は健在であり、私は身動きをとることができません。まぁ、じっとしていれば目的地につくので楽と言えば楽なのですが。
「いやはや、賑やかな旅路ですな。たまには街から離れるのも悪くはない」
あ、シバルさん。
何とかしてくださいよ~。この弱っちぃウジ虫さんが煽ってくるのです。よっぽど死にたいとみました。
どうかプチっとやっちゃてくださいよ~。
私達の事を朗らかに眺めているシバルさんに、私はダメ元でワッペさんの殺害を依頼しました。
「ふふふ、ワッペ君は修行でいくらでも追い込みますから、我慢してくだされ。笑っていられるのも今のうちということですな」
「え、マジ?」
目の奥が笑っていないシバルさんの顔を見て、ワッペさんの顔から笑顔が消えました。ドンマイです。
……というか、本当にケルティさんのところで修行なんてできるのですか? 私はマッサージ屋さんとしか聞いていませんでしたが……。
「あん? ……ああ、そうか。普通は知らないか。実はな、成長率を回復させる方法で一番効率が良いのはエナドリやログアウトなんかじゃない」
そうなのですか?
私はそう聞き返しながら、とあることを考えていました。……ソールドアウトの皆さん、何かしら他人に言っていない秘密を持っていますね。
例えるならチャイムさんのギフトの使い方や、ツキトさんの『強欲』のギフトの情報等。トッププレイヤーだからこそ知りうる事ができた情報です。
彼等が口を開かなければ知ることのできない情報は、確実に有用な物だと言えるでしょう。
ですので、これからワカバさんの口から語られる事は聞き逃してはいけません。強くなりたいのならば、貪欲に情報を集めるのです……。
「一番効率が良いのは……気持ちのいいことだな。プレイヤー同士でヤルとガッツリ回復する……そのための『クラブ・ケルティ』だ」
去らば、私の貞操。
『気持ちのいいこと』とは、気持ちのいいことです。詳しく言わなくてもわかりますよね?
……って、やっぱり如何わしいお店じゃないですかー! 貴方達、なんて所に私を連れていくつもりです!
私は嫌ですよ! エッチな事をされるなんて!
「悪いなぁ狐。強くなるには捨てなきゃいけないものもある……」
「ギャハ……ギャハハハハハハ!! なんだよポロラ? 清楚ぶりやがって! あんなに楽しそうに人を殺していたお前はどこ行っちまったんだぁ?」
うるさいわぁ! それとこれとは話が別なんですぅ! そんなの気楽にできるわけがないでしょうが! 何が悲しくてそんな事しなくちゃいけないのですか!
そんな、そんな……。
……。
……いやぁ、いやですぅ。
そういうのを知らない人とするなんて、考えたくもないですよぉ……。なんでもしますから見逃してくださいぃ……。
私は涙を流しながら懇願しました。真面目に嫌だったのです。
だって、嫌だったんですもの。仕方ないじゃないですか。
何をしてでも強くなりたいとも思っていましたが、そんな事をして強くなりたくありません。
「あ? ガチ泣き? ……えと、すまん。冗談だよ! そこまでする訳じゃねぇって!」
「いい顔してんな、からかって良かったよ。……安心しろ。全年齢設定でそんなんできるわけがないだろうが。アイツらの気持ちのいいことってのは、ただの全身マッサージだよ」
ワッペさんは慌てた様に、ワカバさんは至極楽しそうに表情を変化させました。……は?
「ははは。すいません、途中で止めようとも思ったのですが……お二人が止めるなと言ってきましたので、このシバル傍観しておりました。申し訳ない」
……なるほど。
つまり、私はお二人に騙されたということですか。涙を流して弱味を見せて、その結果がこれとはお笑いですねぇ。ケラケラケラ……。
私は笑いながら、目の前に表れたウィンドウを凝視していました。
「あ、ヤッベ……」
ワッペさんは逃げました。
「ふふ、遊びすぎましたかな? はははは………それでは!」
シバルさんも逃げました。
「お前らさ、何してんだよ? おれが能力で拘束してるんだから……おい、嘘だろ? なんで能力が解けてるんだ……?」
ワカバさんはひきつった顔をして、担いでいる私を見つめています。……悪いですけど、私は『強欲』持ちのプレイヤーでしてねぇ。
2回目の『プレゼント』の開封確認がきまして。追い詰められた事で能力が開花したみたいですよ?
新しい能力は、『敵プレイヤーの『プレゼント』の能力減衰』だそうで。……覚悟は、よろしいですね?
私は後方にクモの巣の様に刃を伸ばしていました。そこからいつでも大爪を射出できるように、準備をしています。
私が合図をした瞬間に、嵐の如く刃が撒き散らされるでしょう。
全員、皆殺しです。
そんな私の様子を見て、ワカバさんは、なるほど……、と頷きます。
「プレイヤーの『プレゼント』と『ギフト』、特殊な能力を封じ込めることができるんだな。完全にプレイヤーキラーとして昇華したか、すげぇや。……じゃ、そういうことで」
ワカバさんは私を投げ捨てて逃げだしました。……逃がすわけないでしょうが。
とことん追い詰めて、なぶり殺して差し上げますよぉ……。
このウジ虫どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
こうして、私達は仲良くシファフルを目指すのでした……。
あと、新しいデメリットは『あなたの尻尾は見る者を魅了する』でした。
本数が増えなかった分、ボリュームが増えてるんですけど……。どうしろっていうんですか……。
・気持ちのいいこと
お互いの昇任がないとできない。無理矢理しようとした方は、無条件で独房にワープする。……健全!




