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狐さんの修行旅!~愉快な仲間達~

「ま、『ノラ』の奴等には特に恨みとかは無いから、別になんもしねぇんだけど」


 ……それ、今言っちゃうんですか?


 コルクテッドを出てから数時間。


 一触即発の危機もありましたが、私は被害を出すこと無く修行の旅に出ることができました。


 途中で能力を解除したので、もうクランを襲わないのか聞いたら……これですよ。もう嫌になっちゃいます。


「おれの目の届くところにはいれば逃げれないし、これからは仲良くしていこうぜ? 『死神』の奴をぶっ倒す為にもな」


 一応、ではありますが、ワカバさんと私の目標は同じようです。


 悪名高い最強のプレイヤー、『死神』のツキトさんを殺すこと。


 ワカバさんは追加でヒビキさんも殺したいようでしたが、方向性は同じものでしょう。

 同じ目標を持つもの同士、協力することは決して悪いことではないとわかってはいるのですが……。


 協力する方の人間性に問題が……。


「うるせい。……とにかくだ、アイツらを殺すのなら複数人で協力して謀殺する位しないと無理だ。それにはそれなりに戦えるプレイヤーがいる」


 考え方はマトモな様です。


 ……そのための修行ですか? しかし、いったいどこで修行しようって言うんですか? しばらく移動していますが、未だにどこに行くか聞いていませんよ?


 こうやって長々と街道を歩いていますが、それらしき場所はありませんでした。


 この街道は、私が拠点にしているコルクテッドと、この前タビノスケさんが滅ぼしたサアリドを結ぶ道ですが、道中には無人の教会があるくらいです。


 他には何もなく、広い草原が広がっています。


「今はその教会で待っている仲間を迎えに行く予定だ。……修行するって言ったら参加したいって奴もいてな。おれ達とは目標は違うが多い方ができる事もある。修行場所に行くのは少し待ってくれ」


 あ、私達以外にも参加者がいたのですか。


 私はちょっと安心しました。

 このロリコンと二人っきりという最悪の事態を免れたという事実はとても重要です。


 いったいどんな方来るかはわかりませんが……マトモな方が来ることを祈りましょう……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 祝福の教会。


 外見が廃墟にしか見えない、ボロボロの教会です。しかし、中は見た目程汚くは無く、椅子に埃が積もっているくらいです。


 見処は教会の奥に鎮座している6体の女神像。壊れた天井から差し込んでくる光が女神様達を照らす光景は、感動すら覚えます。


 さて、そんな観光スポットの入り口で私達を出迎えたのは……。


「よぉ! ポロラ! 元気していたか!?」


 よく知っているアホでした。ワッペさんです。


 ……はぁ、また貴方ですか。なんとなくわかっていましたけど、貴方って『紳士隊』の小間使いでしょ。


 今度は何ですか? ワカバさんの監視とかお手伝いとかですかね?


 ため息混じりにそう質問すると、ワッペさんは怒り気味に反論します。


「あぁ!? ちげぇっつーの! 俺はシバルのじーさんに付き合って来たんだよ! 稽古をつけさせてもらいになぁ!」


 シバル?


 どこかで……聞いた名前ですね。


「およびですかな?」


 私が考えていると、教会の中から神父の格好をした大柄の老人が出てきました。その顔は温和な微笑みを浮かべています。……あ、思い出しました。


 『怠惰』の邪神に素手で立ち向かっていた神父さんです。


 貴方が……シバルさんですか?


「おや? ワカバ君の連れていきたい方というのは貴女でしたか。今回の修行、同じリリア教徒が一緒とは心強い。どうか、よろしく」


 目の前の老人はそう言って手を差し出して来ました。……は、はい。よろしくお願いします。


 私は差し出された手をとって握り返しました。

 そうすると、シバルさんはニカっと笑って気持ちのよい笑顔を見せてくれます。


 普通……というか、凄いマトモな方が現れましたね。もっとおかしな方が出てくるものとばかり思っていたので、私は驚きを隠せませんでした。


 ええっと、シバルさんは何故修行をしようと? この間の戦いを見学していましたが、充分な強さだと感じたのですが……。


「ポロラ、お前なにもわかってねーな」


 ワッペさんはドヤ顔でそう言いました。……いや、貴方には聞いていないのですよ。黙っていなさいな。


「シバルのじーさんはな、この間の化物との戦いで力不足を感じたんだよ。立派だよなぁ、こんなにつえぇのにまだ上を目指すなん……てぇい!?」


 私は勝手に喋りだしたワッペさんに対し、ローキックを繰り出しました。爪先が正確にワッペさんの脛に当たります。


 貴方ねぇ、今はシバルさんと話してるんだから黙ってなさいな。ほら、ワカバさん、このうるさいの何とかしてくださいよ。役目でしょ?


「いや、めんどいからっておれに振るなよ。コイツ、ロリコンじゃないからおれに怒られても喜ばねーし。……けどだ、ワッペ、おれのお使いは? ちょっと確認させろ」


「おぅ! 安心してくれ、ワカバの兄貴! しっかり集めて来たからよ!」


 ワッペさんは騒がしくワカバさんに近寄ると、ウィンドウを表示しました。……さて、これで静かになりましたね。


 それで、どうしてこんな方々と修行なんて?


 私が改めて質問すると、シバルさんは腕を組んで、ふむ……と考えるような仕草をしました。


「そう聞かれると困りますが……。ワッペ君が言っていた事に尽きますな。このシバル、それなりの強さだと自負していました。夢見の扉において、全ての邪神を単独で撃破する程度の実力はありますから」


 ……やっぱり相当な実力者ですよ、この人。


 夢見の扉で戦える邪神達は、いわゆるレイドボスです。能力の相性はあるのでしょうが、単独で倒せるような設定になっていません。


 私だって、他のプレイヤーの方々にお願いして一緒に戦ってもらいましたし。……私には充分に思えますが?


 シバルさんは首を横に振りました。


「いえ、足りないのです。邪神の能力に『プレゼント』まで使う敵が出てきました。これまで以上にプレイヤー個人の実力が試されることになるでしょう。にも関わらず、鍛練を怠るというのは愚の骨頂。今こそ、力を付ける時です……」


 おお……。


 私は感動しました。


 遂に……遂に私は出会ったのです。


 必ず想像の斜め上を行く元『ペットショップ』のメンバーの方々は、言ってしまえば、どこかおかしい方ばかりでした。


 しかし、実際はいらっしゃったのです……。


 何の! 問題も! 無い方が!




「それに、強く無ければリリアたまの側に居られませんからな! リリアたまを呼び出した責任を、このシバルは背負っていかなければならないのです!」




 はい、駄目でした。ちくしょー。


 リリアたまて。


 たまってなんですか、たまって。


 というか、呼び出した? もしかして、ビギニスートにリリア様を呼び出した、伝説のプレイヤーとは……。


 私が恐る恐る質問すると、シバルさんは少し恥ずかしそうに頬を赤らめました。


「ははっ、お恥ずかしい話です。このゲームのリリース初日、リリアたまを召喚してビギニスートを吹き飛ばしたのはぼくでして……。自分の中の衝動を抑えきれませんでした」


 このゲームには、伝説と言われた事件があります。


 リリース初日。


 何でも願いを叶えてくれるという『願望の杖』というアイテムを使い女神を召喚したプレイヤーがいた、というものです。


 ちなみに願望の杖は、一番最初にプレイヤーが手にいれる事ができるアイテムです。


 普通のプレイヤーは、願望の杖を使って『プレゼント』を手にいれるのですが……。


 その方は願望の杖を使いリリア様を召喚。その後、女神様にセクハラを仕掛けて『神殿崩壊』をくらい、ビギニスートもろとも吹き飛んだのだとか。


 で、その吹き飛ばされたプレイヤーというのが。


「このシバルですな! いやぁ、懐かしい!」


 なんて事でしょう。


 ハッキリ言って、私が出会って来た中でもトップクラスにヤバイ方でした。実績が違います。


 え? 私これからこんな方達と一緒に旅をしなきゃならないのですか?


 絶対に問題が起きるじゃないですか……。


 私はあまりの希望の無さに地面に崩れ落ちました。


「おい、話は終わったか? 良かったらそろそろ行くぞ。……どうした? 狐? 元気ねーな?」


 ああ……ワカバさん。


 私、やっぱり無理みたいです。もう帰って良いですかね? これからやって行ける自信がありません……。


「はぁ? 何があったか知らねぇけど、これ飲んで元気させよ。エナドリだ。お近づきの印だと思ってくれ」


 そう言ってワカバさんは何かの液体が入った瓶を私の前に置きました。……なんですか、エナドリって? 絶対おかしな物でしょ? どうせ私の心を折ろうと……。




 『疲労回復のポーション』。




 目の前のアイテムを確認したところ、そんな名前が出てきました。……は? なんで、こんな物が?


 私は起き上がって振り替えると、皆さんの手には私に差し出された物がありました。ワッペさんにいたっては既に開封しています。


「いやぁ! この辺の街巡って買い尽くして来たぜ! やっぱ修行って言ったらこれだよな!」


「ワカバ君の人脈には助かります。作っているプレイヤーも少ないと言うのに……」


「まぁな。悪人には悪人のつてがあるんだよ。……で、狐。おれ達は修行しに行くがお前は……」


 同行させてください。


 私はポーションを飲み干して答えました。


 確かに、この旅に不安はあります。

 しかしながら、疲労回復のポーションを定期的に飲むことができるというのは、それ以上に魅力的です。こんな素晴らしい提案を断る理由はありません。


 例えどんな厳しい場所にでも行ってあげますよ……。


 いい修行にしましょう。ニコリ。


 私が笑顔を見せると、ワカバさんは少し動揺しながら口を開きました。


「お、おう。それじゃあ行くか。これから向かうのはサアリドから南西にある、小さな街シファフル……」


 あ、知らない街ですね。

 名前も知らないということは、本当に小さい街なのでしょう。いったいどんな施設があるのでしょうか?




「……にある『クラブ・ケルティ』だな。あのレズエルフのとこに行って修行しようと思う」




 ……やっぱり帰りますね?


 思った物とは違う種類の厳しい場所でした。

 耐えられるかどうか自信がありません。


 私は逃げ出しましたが、再び『紅糸』によって動きを止められて、肩に担がれてしまいました。……なるほど、私の立ち位置がわかりましたよ。


 生け贄……って奴ですかね?


 私はどこまでも青く広がる大空を見ながら、全てを諦めて笑うのでした……。

・疲労回復のポーション

 成長率を回復させる珍しい薬液。作るためには相当の修練が必要になる。通称エナジードリンク。修行を止めたい? 皆頑張ってるんだからやらなきゃダメだよ? ほら、これ飲んで頑張って? ……みたいなやり取りがあるとか無いとか。

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