協力者
へ~、ネカマによる被害って本当にあるんですねぇ~。
運ばれている私は抵抗しても無駄な事を早々に悟り、ウィンドウを表示してwikiを見ていました。成長率を回復させる簡単な方法を調べようとしたのです。
そこで『幼女誘拐事件』という項目があったので開いたのですが、思ったのとは違う内容が記載されていました。怖いですね~。
……ちなみに、私はどこに連れてかれるのですか? エッチな事とかするつもりです?
「安心しろ。そういう目的じゃないことは約束できる。おれはロリコンだって知ってるだろ? ……お前じゃ興奮できないから、これはちょっとしたお遊びだよ」
質問をすると、私を肩にかついで全力疾走をしながら、ワカバさんは答えました。
もうこの時点で嫌な予感しかしません。
逃げてしまうのが一番良いのでしょうが……。
抵抗したくとも、ワカバさんのレベルは確か4000越え……ステータスも凄まじい物だと予測できるできます。敵うはずもありません。
ああ……本当にどうなってしまうのですかね……。
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「おれ思ったんだよ。狐、お前ってツルペタだよな……って。ワンチャンあるんじゃね?」
ワカバさんに連れ去られた私は、コルクテッドの洋服屋さんに来ていました。そして、目の前にはワカバさんが選んできた洋服達が並べられています。
例外無く、ロリファッションですが……。
うえぇ……こんなの着たく無いですよぉ~。こんなの、自分が着て楽しむんじゃなく着ているのを見て楽しむ物じゃないですかぁ。
もちろん全力拒否です。
貴方みたいな性格の悪いネカマの前でこんな格好になったら、どうなるかわからない訳じゃありません。どうせスクショされて『ノラ』にばら蒔く気なのでしょう?
私を笑い者にしようとしても、そうはいきませんからね?
そう言って、私は胸の前で腕をバッテンにしました。拒否のポーズです。
「……いや、そこまでしようとは思ってないけど? ちょっと自分の性癖の新しい扉を開いてみようかと思っただけさ。服装だけでもロリロリしいなら、体型合ってればイケるんじゃね?って。擬似ロリって奴かな……?」
ワカバさんはそう言ってふふっと笑います。……なにとんでもない扉をこじ開けようとしてるんですか!? ずっと閉めて置いてください!
想像以上におかしいワカバさんの言動に私は引きました。
でも、ソールドアウトの人達ってそういうとこあるんですよねぇ。むしろちょっと変な位が普通っていうか。
たまに、こっちがおかしんじゃないかってくらい、マトモな顔してとんでもないことを口走りますし。
ほら、見ていてください。きっと今にでもおかしな事を口にしますよ?
「なんだ。意外にセクハラ耐性あんだな。もっと何も言えないくらいドン引きすると思ったのに」
……あら? 思ったよりもマトモ……じゃないですね。
人の嫌がる顔みて何が面白いんですか……。というか、この服戻して来てくださいよ。私は絶対に着ませんからね?
そう言うと、ワカバさんはつまらなそうな顔をして唇を尖らせます。ご不満の様です。
「ちぇ、頭イカれた奴だって聞いていたから期待したのに。ノリがわりぃな……」
イカれてません。
私はハッキリと言いました。……っち、誰ですかそんな根も葉もない噂を流したのは。捕まえて滅多刺しにしてあげます。
私のおかしな噂を流したことを、永遠に後悔させてあげましょう……。びょおおおお……。
「おう、噂通りじゃねぇか。殺気抑えろ、殺気。店員さんビビってるから」
え? あ……すいません。
私は物陰でこちらを見ていたNPCの店員さんに、ペコリと頭を下げました。驚かせるつもりは無かったんですよ? ホントに。
「おれが言っても説得力ねぇけど、NPCには優しくな? 店員さん、この洋服、全部ちょーだい。お金ならあるから」
ワカバさんは積み上がった洋服を指差しました。……え? 買うんですか? 誰も着ないのにどうするんです?
不思議に思いそう質問すると、平然とした顔でワカバさんは答えます。
「ん? おれが着るんだけど?」
わぁお。
ネカマの闇を感じました。
着てくれないのなら自分が着れば良い。
それは、理想を追い求めた一つの結果とも言えるでしょう。欲するものが無いのなら、自分で用意するしかないのです。
可愛いは……作れてしまうのです……。
なお、中身はどうしようもないもよう。……そんなに餓えているのですか? 中身男性の癖に、女の子の格好をしたがるとか……貴方、ホモなんです?
「ちげぇよ。おれが可愛い格好してるとよ、クランメンバーが喜ぶんだよな。最高のスクショを撮ろうとして、スッゲェ目でこっち見てくんだよ。クッソ笑える」
や、闇ですね……。
ロリコンの生態には微塵も興味ありませんでしたが、それはそれで面白い話を聞くことができました。
人間というものは……そこまで落ちぶれる事ができるのです……。
ロリコンは……悲しい生き物でした。
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さて、洋服屋さんを後にした私達は街の中を歩いていました。NPCの市民の方々と同じようにゆっくりと進んでいます。
……で、私に何の用ですか。
こう見えて、結構忙しいんですよね。やりたいことが沢山あるのですよ。早めに帰してくれませんか。
本当だったら、今頃は路地裏で犯罪者を死体にして、アイテムとお金を回収しながら修行していたはずなのに……。
こんな無駄な時間を過ごす予定はなかったんですけどねぇ。
「そりゃ悪かった。……実はおれ達も修行しようと思ってたんだ、ここに寄ったのは食料とかの補給の為だよ。で、どうせなら一緒にどうかなと思ってな」
修行?
意外すぎる言葉に、私は思わず聞き返しました。
クランの仕事をサボるような不真面目な方が、修行をするなんて信じられません。
「けけっ、まーな。……おれさ、この間邪神化させられてたろ? そのせいで折角上げたレベルがパーになっちまった。だからちょっと頑張ろうと思ったんだよ」
邪神化の大きなデメリットは……メリットと言う方もいますが……今までのレベルが半分になるというものです。
スキルのレベルは下がらないそうですが、プレイヤーのレベルが下がるとHPやMPが低下します。
それを嫌う人は少なくはありません。
レベルが低いとスキルレベルも上げやすいそうですが、HPが低くなるというのはただのデメリットでしかありませんからね。
それなら、修行しようと思っても不思議ではありませんか……。
「そういうことだ。で、お前を誘った理由なんだが……」
ワカバさんはクルリと振り替えると、私の顔を見上げてニッと笑顔を見せました。そして口を開きます。
「お前……『死神』を殺したいんだって? それならおれ達は仲間だ。協力して、一緒に殺してやろう」
は?
私は驚いて大きく目を見開きました。
『死神』……ツキトさんはソールドアウトの中でも重要な立場にいた方だということは、今まで皆さんの話を聞いてわかっていました。
今では殺された恨みと共に、純粋に戦ってみたい、その実力を味わってみたい、という気持ちが出てくるくらいには、彼の印象は良いものになっていました。
にも関わらず、目の前の方はツキトさんを殺したいと言い切りったのです。
「……そうか、おれの事あんまり知らないんだな」
ワカバさんが腕を高く上げました。
「『紅糸』」
そして、自らの『プレゼント』の名前を口にすると、上げた手から沢山の赤い糸が噴出され、周囲の市民NPCに向かって飛んでいきます。……な、何をしているんです!?
「おれは『ワカバ』。クラン『紳士隊』を作り、ビギニスートを支配した犯罪者。『ペットショップ』の敵だ」
糸が当たったNPCはピタリと動きを止めました。すると、あちこちから叫び声が聞こえてきます。
それはどれも、身体が勝手に動くとか、痛い、苦しい等の聞くに耐えない悲鳴です。
「一時期は『ペットショップ』で世話になったから、大人しくしているが……アイツらへの復讐は忘れた事がない」
貴方……何を言っているのですか!?
あんなに楽しそうに子猫先輩と話していたのに……!?
「それは当然だろ? おれが殺したいのはツキトとヒビキの野郎だ。あの顔を屈辱に染めなきゃ気がすまねぇ。……その為には兵隊がいる」
ワカバさんは上げていた手をスッと下ろしました。
それを合図にしたかの様に、能力の影響を受けたNPC達が綺麗に整列していきます。……NPCの傀儡化ですね。嫌な能力です。
「おれに協力しろ。狐。できないとは言わせねぇぞ?」
その言葉を合図のしたように、NPC達全員が同じ方角に顔を向けました。私の方向感覚が確かなら……。
全員『ノラ』の拠点に首を向けているはずです。
断った瞬間に、NPCを使ってクランを襲撃するつもりなのでしょう。
私の目の前のプレイヤーは、ただの変態とか、ロリコンというわけでは無いようですね。……まったく、関わるんじゃありませんでしたよ。
私はそう後悔しながら、奥歯を強く噛み締めたのでした……。
・コルクテッド
一見平和な街ではあるが、とあるユニークNPCがモンスター召喚の研究をしており、トップクラスの危険度を誇る街だった。モンスターによる幾度の崩壊と滅却を繰り返した市民達は、復活する度に強化され、いつの間にかモンスターを蹂躙するほどの力を手に入れた。今ではモンスターが現れてもすぐに排除される。市民のモンスターハントは初心者プレイヤーにとって感動を覚える光景だと人気。この街のNPCに勝てるのならば、一人前と言っても良いだろう。




